Episode.13 新しい始まり
春の短く濃い休みが終わってすぐ。高等部に進学したアイラたち3人は緊張の面持ちで掲示板を覗き込んでいた。
「アイラ、見える?」
「私よりユウカのほうがちゃんと見えるよぉ…」
自分より背の高いユウカにからかうように言われ、思わず幼児のような反応をする。そんなアイラを笑いながら、再び掲示板に目を戻したユウカが声を上げる。
「あ、よかったぁ。アイラ、リオンも、私達みんな同じクラスよ」
「ほんと!?やったー!」
リオンが飛び跳ねて喜び、アイラもほっとしたように微笑む。高等部では選択科目が増える分、3年間固定のクラス構成になる。周囲は仲のいい相手と同じクラスになって喜ぶもの、クラスが離れた友を惜しむもの、嫌い合っている相手と同じクラスになって怒りの声をあげるものなど、混沌ともいえる状況になっている。
アイラたちは運良く3人同じクラスで残りの学園生活を過ごせることが決まったが、当然都合のいいことばかりでは終わらない。自分たちの名前を確かめるように名簿を見返したアイラの目が、とある名前を見つけて止まる。
「…あーー…………」
クライン・ドリクネス。ぼんやりと同じクラスにならないことを祈っていたが、どうやら女神には届かなかったようだ。
「アイラ?どうしたの?」
「え?…あー、えっと……」
言い淀んでいる間に、後ろから嫌な影が差す。
「よろしくねぇ、アイラさん?」
「……後ろから来ないでよ。気持ち悪い…」
目をそらしてつぶやくアイラに、クラインが肩をすくめる。つれないなぁとでも言いたげな態度に、どうしたのと問いかけたリオンも納得顔だ。
「ま、同じクラスなのは確かだし?どうせなら仲良くしようじゃないか」
「……ね、ふたりともお昼食べに行こ」
「…いいのかい?僕はこれでも国境伯の一人息子で……」
歩き去ろうとしたところを嫌味な言葉で呼び止められ、なかば蔑むような視線をぶつけながら振り返る。
「家柄で友達を選んでるわけじゃない。それに…将来の役職で優位を取れるなら、私はあなたを見下したって許される」
先を行っていた友人たちに呼ばれ、話は終わりだと切り上げて背を向けたアイラに、クラインは尚も吐き捨てる。
「未来の七空サマが下民と懇ろだなんて、全く世も末だよ……ふふ、ああいや、そうか。君も下民だったね、アイラ・グランティア」
もはや振り返ることすらせず遠ざかるアイラの背中に反響した台詞は虚しく、一部始終を見ていた周りの生徒たちの中には笑いを零す者もいた。
―♦――♦――♦――♦――♦―
食堂の出入り口に着いた時、目についたのは見慣れない小さな子どもたちだった。
「帝都組は、もう入学式やったの?」
アイラの問いかけにうなずき、リオンが答える。
「やったよー。今年は200人くらい」
リオレンタの入学式は同じ地域から入学する学園生が全員入寮してから地域ごとに行われる。アイラたちの故郷であるテオレインの入学式はまだ行われていないが、直に案内が来るだろう。
「帝都、今年は多いんだね…っとと、大丈夫?」
同じように友人と話しながら食堂に入っていく、恐らく初等部であろう少女とぶつかりかけ、転びそうになった相手の手をとっさに掴んで引き止める。
「あっ…すみません、大丈夫……です…」
オドオドとした様子の少女に大丈夫だよと微笑みかけると、少女はアイラに見とれたかのように動きを止めた。
「…どう、したの?」
問いかけると、ハッとした様子で少女が答える。
「ぁっ…えっと、その…優しいひと、だと…思って…これから気をつけます…その、転ばないようにしてくれてありがとうございました…!」
ぺこりと頭を下げて歩いて行く少女を目で追い、アイラたちも食堂へと歩を進めた。
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