Episode.10 強襲

 卒業式の後、リオレンタには2週間ほどの休みが存在する。寮生の多くはこの期間にそれぞれの故郷へ帰省する。

 無論、アイラとバーナードも5泊6日の帰省予定を立てていた。


 夏にあった祭りのときには使えなかった生徒会特権を活用して他の学園生より一足先に翔馬車に乗り込み、帝都へ降り立つ。


「まだ朝早いからかな…遠くに家がある学園生以外はあんまり見当たらないね」


 遠くに家がある、とは言っても、彼らの並んでいる翔馬車の乗り場が示す目的地を見ると片道半日以上かかる場所ばかり。それより近くに家がある者は昼から出ても十分故郷での夕食の時間に間に合うと判断したのだろう。


「あ、あっちじゃない?」


「テオレイン」と書かれた看板の前には、一台の翔馬車が停まっていた。その御者台に乗っていたのはどことなく馴染みのある顔。


「……あれ、デニー?」


「なんでオレのなま……アイラ!?バーニーも…」


 訝しげな顔で振り返った御者は、2人を見て目を丸くした。


「あんたら学校じゃねえのかよ」


「春休みなの。こういう機会でもないと帰省できないから」


 なるほどなー、と呟いたデニーを横目に翔馬車に乗り込む。


「乗ったか、つかまっとけよ。こいつら気性が荒いから結構揺れるんだ」


 空へ駆け出した翔馬車の中は、故郷の村に着くまでの間あたたかな思い出話で満ちていた。


 ―♦――♦――♦――♦――♦―


「お客様方、到着ですよーっと……」


 おどけた調子の声につられて辺りを見渡せば、そこには見慣れた故郷の町並みがあった。


「ありがとな。代金はうちのお袋にツケといてくれ」


「バーニー、よくない」


 2人のやりとりにデニーが大笑いし、再会を祝して自分のおごりにしてやろうと告げる。それではだめだとアイラが食い下がり、結局半額を支払うことで双方が合意した。


 ―♦――♦――♦――♦――♦―


 2人が帰ってきたことで、グランティア家とレイニア家は一気に大きな盛り上がりを見せた。アイラの父が木のテーブルを庭に出し、バーナードの母がそのテーブルにこれでもかというほどの手料理を並べる。揃って席について食事を楽しんでいると、夜はあっという間に更けた。


「おばさま、もしかして腕を上げた?」


「おや、気づいたの?2人がいなくなってから料理くらいしかすることがなくってね」


 おばあちゃんみたい、とアイラが笑えば、皆がつられて笑う。そんな穏やかな時間を過ごしていた。


 ――平和を脅かす存在が、すぐ近くに迫っているとも知らずに。


 ―♦――♦――♦――♦――♦―


 次の朝、アイラを起こしたのは小鳥のさえずりでもバーナードやその母の声でも、ましてやあたたかい日差しでもなかった。


「ダリリクだ――!」


 けたたましい鐘の音とともに聞こえてきたのはそんな叫び声で。寝間着に上着をひっかけて慌てながら外に出ると、幼い頃に見た「おそろしいもの」が自分の家のすぐ近くまでやってきていた。

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