第24話 これでよかったのかな
ピリリ……ピリリ……
「はっ」
いつものアラーム音と共に、清二は目が覚めた。
目の前は先ほどの真っ白な視界ではなく、自分の部屋の天井。そこはいつもと変わらぬ清二の部屋だった。
「ユミラは、ユートアスラントは?」
清二はしばらく呆然としていた。
寝ぼけているのか、まだあの世界にいるようで、ふわふわした感じだった。
今見て来たものは、本当にあれが最後だったのかと。
「あの世界は、結局どうなった?」
あの世界は本当に消滅してしまったのだろうか? ここしばらく、毎晩見ていた夢の中の世界が消えてしまったのだろうか。それが、これで最後になるのだろうか、と。
夜明けの太陽より、目の前で世界そのものが光に包み込まれるように消えて行った。
最後には、隣にいたユミラさえも姿を消していった。
人も、空も、大地も、ユートアスラントのすべてが。
かつての清二が創り出そうとしていた世界は、清二によって最後は消滅した。
清二自身が昔書き投げた小説を完成させた為に。
「ユミラ……シェルターのみんなも、あの世界そのものが」
夢の中とはいえ、それは悲しくも寂しくもあった出来事だった。
清二はしばらく、何も考えられなかった。あの光景を思い出して、悲しみが包み込んだ。
ふと、枕元にあるノートを見つめる。
「日記、書かなきゃ」
今までも習慣としてつけてきた夢日記。夢の中を忘れぬようにと残す記録。
清二はもちろん今回のことも残さねばならぬとすぐに夢日記に書き始めた。
夢の中で見た、覚えていることを一つ一つ、書き出していく。
「闇だったユートアスラントの夜が明けようとして、太陽が昇り始めた」
「住民達で多様が昇る瞬間を見ることにした」
「太陽が昇り、光が大地を覆うと、住民達が一人一人光に包み込まれて消滅していった」
「住民達はみんな、最後は幸せそうに消えて行った」
「世界が光に飲み込まれて行った。そして、全て消えた」
書いていて、清二はそのノートの前で泣いた。ノートにぽたぽたと涙が流れ落ちる。
思い出せば思い出すほど、夢の中でとても悲しく、寂しいものを見たと。
今まで毎日行っていた世界が全て消えたのだと。
そして、一番忘れられないことも書き連ねる。
「太陽の光でユミラの顔がはっきりと、見えた。明るい場所で初めて見たユミラの顔、本当に最後のユミラは幸せそうな表情だった」
その最後に見たものを思い出すと、それも再び涙を流してしまう。
ユミラ自身が、かつての清二が創り出そうとしていた理想の人物だった。
自分自身が創り出そうとしていた理想の人物は、最後にそうやって消えて行ったのだと。
清二はきっちりとその最後を見届けたのだった。
清二は夢日記を書き終えて、また悲しみに浸った。
「結局、僕がやっていたことは、最後までただの、自分勝手な妄想だったんだ」
物語を作ると言うことは、全て作者の頭の中で考えたストーリーを文字という形にしていくもの、つまりは全て作者の妄想の世界なのである。
物語を描く、つまり自分が作った世界観と設定で登場人物を考え、ストーリーを動かす為にそれらを文章にしていく。それはやはり、ただの妄想でしかなくて。
清二が自己満足であの小説を完成させた結果、元のユートリアスラントは消滅してしまうことになった。
結局、最後まであの世界の彼女達を救うことはできなかった。
「ユミラは、最後に笑っていた」
ユミラと最後に交わした会話を思い出す。
この世界を作ったのは自分であること、彼女達を不幸にしていたのは自分だったこと。
「それなのに、ユミラはちっとも僕を恨んじゃいなかった。それどころかなんと言っていた?」
清二はそのやりとりを思い出すと、再び涙を流す。
「私達を生み出してくれて、ありがとう」
シェルターの住民達は辛い想いをしながら生きていくだけだったというのに、それでもユミラは自分が生きて、それまでいろんな経験ができたことを幸せだと言っていた。
「あれが自分達の運命と受け入れていた。あの運命を作ったのは僕だったのに」
清二は自分が作りだした世界を、自分で終わらせただけだったのだ。
こうして、ほんの短い間の夢の中の冒険は終わった。
自分が作りだした世界を体験してみるという、不思議な夢が。
清二は寝る前に、何度もあの世界の夢を見れないかと祈りながら見た。
しかし、もう二度と、ユートアスラントの地に足を踏み入れることはなかった。
やはり、あの世界は終わってしまったのだと実感させられた。
毎朝目覚める時だけに必ずつけていた夢日記があの世界の名残だ。
パソコンのテキストフォルダにはあの世界の未来になるはずだった小説が残されている。
太陽が昇って、大地が明るくなり、それによりユートリアスラントが救われて、みんなが幸せになる、ハッピーエンド。こうしてユミラ達を救うつもりだった。
こんなことは人に話しても、誰にも信じてくれないだろう。
所詮は清二が書いていた小説の話であり、夢の中だけでしかない
「こんな話を創っても、結局救われなかったんだ」
むしろ、自分がこの話を完成させてしまったせいで、あの世界は消えてしまった・
この小説の話が完成したとしてももうユミラ達に会うことはできない
あの世界の最後を見届けたのだ。ユミラが最後に見せた微笑みが、脳に残る。
パソコンのフォルダに残されたテキストデータを見つめた。
清二にはユートアスラントの未来を書いた小説が残っている。
昔書きかけだった小説を、最後まで書ききって完成させたものが。
「そういえば、こっちの小説は夢に出てこないのかな?」
清二はふと気になった。
清二が昔、書こうとして投げ出した世界線のユートアスラントは消滅した。
それならば完成させたこちらの小説のユートアスラントはどうなのかと。
そして、ふと思い出す。
「ユミラは最後辺りで何て言ってた?」
消滅の時、別れの際にユミラが言っていたこと。
『きっと、あなたが作った新しい世界で私達は幸せになる」
それはどういう意味だったのだろうか。
新しい世界とは? ユミラ達はあれで終わりじゃない?
清二の手元にはユートアスラントの未来を書いたストーリーを完成させた小説が残っている。
最後まで書き上げた、この小説の世界はどうなのかと。
「そうだ……」
清二はあることを思いつき、すぐに行動を移した。
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