第22話 あと少し

ピリリ……ピリリ……

 今日も起床の時間になる。

 目が覚めて現実世界へ戻れば、学校へ行き、日常生活をこなしながらもひたすら小説のストーリーを考える。

「少年はシェルターの人々への自分の知識を与える。それにより、人々は希望を持ち、少年によって変わり始める」

 その少年とは主人公のことだ。もちろん、これは清二自身のシェルターの中で見た。経験も入る。元はその主人公が世界を救う話を書きたかったのだから、そういう流れにする。

「ストーリーは『地上にて発見した装置により、それを起動させることに成功した住民達は、街の復興を始めるだけの動力源を得る。人々はそのエネルギーにて新たな復興手段を得る。シェルターの外から地上の生き残り達がやってくる。彼らは絶大な力を持つ援助となった」とかにするか?」

「でも、まずは地上で活動できるようになるには、夜が明けないとな。光がないと何もできない。となれば大事なのはやはり外が明るくなることか」

 清二はそこを重要視した。

 やはりあの世界で活動の幅を広げるには、まずは地上の闇が明るくなり、外に出られるようにすること。つまり夜のまま時が止まった状態から、朝が来て、時を進めることだ。

 そこから新たな展開を考え。ストーリー作り上げ、小説という形にしていく。

 それは順調に進み、まさにあの世界の未来を創り出そうとしていた。


ここ数年小説を書く時は、パソコンのキーボード打ちでばかりだった。

もちろん、長時間椅子に座ったままパソコンに向かって来れば肩こりや目の疲れなど、身体にも色々くるものはある。

しかし、清二にとってはこんなもの、たやすいことだった。

自分の手によって救われる世界があるのなら、身体の疲労などかまわない。

一本の小説が完成すれば、あの世界の未来が出来上がるのだ。あの時が止まったままの世界が動き出す。あの世界の未来が生み出されるであろう。

少しずつ、少しずつ、テキストファイルの文字は増えて行った。


毎日のように、現実世界では物語を考え、夢の中ではシェルターへ行き来する。こんな繰り返しでも、清二のやろうとしていることは着々と進んでいった。



「大体のストーリーの流れは考えた。あらすじにして、まとめてみよう」

 小説を執筆中には、流れをまとめるために「あらすじ」を書いてみるということが清二にとっての方法だった。

 展開に迷っても、あらすじを作れば、大体そのあらすじ通りの展開に沿って、描写台詞などを考えられる。

『闇夜の世界にはシェルターがあった。シェルターの中の生活はあまりいいものではなかった。

そこで人々は自分の死を待つだけの絶望的な生活を送っていた。それを知った。主人公はそこを救う為にと、コンピュータールームである情報を知る。この世界を救う方法を見つけた主人公は住民達に希望を与える」

「ここまでが僕が経験したことを主人公のストーリーにするっと」

 このストーリーの前半は主人公というのは清二、自分自身のことをモデルにして主人公のやろうとしていることを展開にする。

 

 そして次はいよいよあの世界の新たな歴史を始める為に時が止まったままの世界に時間が動き出すストーリーを練り込む。

 つまり、ここから続きを作ることがあの世界の未来に繋がるのだ。

「まずは地上が明るくないと始まらないよな」

 と、以前考えたことから、それをあらすじに書き上げる。

 

『あの世界は地上が夜のまま時が動かず、真っ暗な状態だった為にユミラのようにランプを出して、足元を照らして歩く程度にしか活動できない。だからこそ、まずは夜が明けて、光により地上で活動できることが前提だ。地上を覆っていた闇晴れ、夜が明けて世界に太陽の光がさす。夜が明けて、朝日が世界を照らし始めた。闇夜世界に、朝が来た。日光を浴びたことにより、空が澄んで、大きな青空が広がった。気温も暖かくなり、大地を活性化させたことで。地上に芽吹き始めた。大地が息を吹き返した。地上が明るくなったことにより、シェルターの人々は外に出られるようになり、活動を始めた。それで大地に光が降り注ぎ地上を出歩けるようになった住民達は地上で活動を始める』


これが、清二がここまでのストーリーである。まずは地上に光が照らされるところだ。


「そしてここからが本番だ」

 次に、あの世界の夜が明けて、地上が明るくなった後のストーリーを作った。

『主人公はシェルター民に指揮を執り、コンピュータールームで得た情報に沿って、シェルター民に指揮を執り、シェルター内でできることを指示する。主人公だけが使えるコンピューターでシェルターに残る僅かな電力で電波を飛ばして、他のシェルターへと電波が届いたことで通信が繫がり、連絡が取り合えた。通信により外に出て行った者達が帰ってきて、大勢の移民と共に、シェルターを作り直す人材を得る。主人公がコンピューターで得た場所を探索すると、シェルターにまだ使ってない燃料が見つかり、これからもまた当分長生きできる。主人公が住民を引き連れて地上に出たことにより、住民は廃墟を探索した。廃墟の中を探索していると、政府が隠していたエネルギー発電装置を見つけた。それを起動させる為には人力が必要だった。住民のみんなで力を合わせて地上に出てそれを動かした。まだ使ったことのない機材があった。それがシェルター内で使える道具であり、みんなで運んだ。ユートアスラントに隠された兵器がクリーナーのように起動し大地が浄化された。地上にて発見した装置により、それを起動させることに成功した住民達は、街の復興を始めるだけの動力源を得る。人々はそのエネルギーにて新たな復興手段を得る。シェルターの外から地上の生き残り達がやってくる。彼らは絶大な力を持つ援助となった。主人公はみんなで地上を復興させる計画を立てた。次第に環境が変わっていき、人々は希望を持ち、世界は良好になっていく』

 これが大体のストーリーの筋である。


「そして、最後はやっぱりこれだろう」

 清二はずっと考えていたラストシーンを書き出した。

「世界が生まれ変わったことにより、平和になった世界。世界を救った主人公は、最初に出会った少女と想いを伝えあう。そして少年は少女と共になることを誓う」

 それがラストシーンで、この物語の結末だった。

「これはあくまでもこの物語の中の主人公の話だからな」

 主人公と少女とは、自分とユミラのことを指しているのか、とちょっと恥ずかしくなった。

 しかしこれは作中の登場人物の話だと自分に言い聞かす。

「ちょっと恥ずかしい設定だけど、主人公が世界を救う話なら、ここはこうだろう」

 それはきっと、この物語を作ろうとしたかつての自分が書きたかった理想のラストなのだろう。

 子供だった清二は小説を完成させることはできなかったが、今の清二は完成させることができた。それだけ小説を書く腕も成長していたということだろう。


 そして、清二はとにかくそのあらすじに沿ってそれに合った台詞や描写を書き進めていき、ストーリーにしていく。

 それには膨大な時間がかかるがストーリーがほぼ決まっているとなれば、あとは現行を執筆していくだけ。ここまで来ればラストスパートだった。


 現実世界で、毎日のように物語を書き上げて行った。夢では住民を励ます日々。


 そうやって、時間は流れていった。

 現在は9割ほどのストーリーが完成した。

 あと少しである。クライマックスを書き上げればこの小説は完成だ。

 清二は本当に最後の最後のラストスパートにと、あらすじの通り、本文を書いていく。



 清二は最後の追い込みにと、金曜日から日曜日まで徹夜で書き、一晩中書いた。二日連続の徹夜で実に二十四時間以上の執筆時間をかけてでも、その小説を最後まで書き上げてしまうことにした。。今回はもう大詰めだ。今回ばかりはこのことに時間を費やそうと決めた。

どうしても一日でも早くユートアスラントの歴史を作り上げたい、ユミラ達の未来を作りたい、と。とにかく清二は執筆を渾身の力でキーボードを叩き、今までにないほどの速筆で書き上げていく。

最低限の食事と栄養補給でとにかく集中した。眠らないように常にコーヒーもドリンク剤もたくさん飲んだ。そうしてでも、一刻も早く完成させたかった。自身の体力や疲労などあの世界を救うくらいならどんなに疲れてもいい、と


金曜日の夜からかけて、日曜日の深夜まで二日の徹夜で三日間かけて小説は完成した。

「できた……!」

 二日連続の徹夜により、もはや頭はふらふらだった。

目も霞む、もはや原稿を見ても文字に何が書いてあるのかも読めないくらいに視界がぼやけ、頭もふらふらだ。目の下のくまも酷い。肩がこり、座りっぱなしの腰が痛い。そのくらい身体が限界になるまで執筆に集中した。

 清二には眠ってあの世界に行く時以外、家にいる時はとにかく書いてはいたが、それでも、毎日少しずつ、少しずつ書いて来たおかげで、なんとかゴールは見えてはきていた。だからこそ、今回はラストスパートで全力で書き上げたのだ。

「これであの小説は完成したんだ。もしかしたら今から見る夢で、あの世界が変わる光景が見れるかもしれない」

 一日中の重労働から解放され、ようやくベッドに横になると、疲労により、すぐに眠気がやってきた。

 二日連続の徹夜により、眠ってないので夢の中のユートアスラントには物語を完成させるまで行くことはできなかった。

 しかし、これでついにあの世界に時が動き出す未来が完成したのだ。

 どんな夢になるのかと、ワクワクしながら寝床に入った。

「これで……できたんだ…、ついに……みんなが」

 二日間の徹夜と三日間の疲労により、驚くほどにあっさりと眠りについた。




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