第20話 希望を持てば、変わるよ



 ピリリ……ピリリ……

 清二はいつものアラーム音で目が覚めた。

 現実世界に帰って来ると、夢の中とはいえ自分は重大なことをしようとしている、実に責任の重い使命を抱いたのだと。

 ああ言ってしまった以上引き返すことはできない。清二は絶対にやり遂げなければならない、と決心をした。

「待っててみんな、僕は絶対にあの小説を完成させるから!」


 そうして、清二はあの小説を完成させる為の日々が始まった。

 清二はいろんなものからアイディアの着想を得ようとしていた。

「被災地の瓦礫を片付ける為に大勢のボランティアが集まった」

「歴史上、都市の復興とは他国からの支援を受けて実現する」

「政治と経済をまわし、人々へと次世代に繋がる教育をしていく」

授業で聞いたこと、テレビでみた話題、図書館で借りた本、ありとあらゆる日常生活から得たものからあの世界観に合った物語を作っていく。


 図書館やインターネットによって得られた資料により、あの世界観に合いそうなストーリーを組み込むのだ。

 ストーリーのコンセプトはこうだ。

「荒廃した世界で少年がシェルターで人々と過ごし、世界を救う話」

 その少年とは主人公のことだ。もちろん、これは清二自身の経験も入る。

 元はその主人公が世界を救う話を書きたかったのだから、そういう流れにする。

 

そして、この世界に合った展開を色々と考えた。

・「電波を飛ばして、他のシェルターへと電波が届いたことで通信が繫がり、連絡が取り合えた。そこからこのシェルターへ救援が来る」

・「外に出て行った者達が帰ってきて、大勢の移民と共に、シェルターを作り直す人材を得る」

・「シェルターにまだ使ってない燃料が見つかり、これからもまた当分長生きできる」

・「地上を覆っていたオゾン層が晴れ、世界に太陽の光がさす」

・「地上に、まだ使ったことのない機材があった。それがシェルター内で使える道具であり、みんなで運んだ」

・「ユートリアスラントに隠された兵器がクリーナーのように起動し大地が浄化された」

・「この世界を見ていた創造神の力が世界に降り注ぎ、みるみる崩壊した地上の建物が再生されていく」

・「廃墟の中を探索していると、政府が隠していたエネルギー発電装置を見つけた。それを起動させる為には人力が必要だった。住民のみんなで力を合わせて地上に出てそれを動かした」


そういったアイディアをひたすら出していき、それらをどうストーリーに組み込んでいくかを考えた・そして一本のストーリーを作り上げていく。

「どんな展開をストーリーに盛り込もうかな。きっと、こうやってあの世界を救う解決法を出して作れば、きっと未来は生まれるはず」

 ここしばらくスランプに陥っていた為に、こうして新しい物語を作ることが実に楽しい。

 しかも、今回はその世界の中を実際に見た上でストーリーを作っている。世界を目で見ることで実にリアリティのある話が作れる。

「こうやって色々考えるの楽しいや。やっぱり小説を書くって面白いなあ」

清二は生き生きしていた。

 こうやって自分自身が創り出した世界観や設定が実際に物語として形になっていくというのが快感でたまらなかった。小説を書いていて楽しい、ということを思い出した。

しばらくの間がスランプに陥り、小説を書くことに戸惑っていた為に、再びこうして創作意欲が沸くのが楽しい。

しかもそうすることでかつての自分が作ろうとして未完成のままになっていた物語も完成に向かっていくのだ。初心に帰ったようで、楽しくてたまらない。

こんなにも小説を書く、物語を描くとは楽しいことだと思い出せた。

 こうして一日が終わり、眠りについた。


 そして、清二はまたいつも通りユートアスラントへと来た。

 ユミラもまた、いつもの場所にいた。しかし、様子が違った。

「セージ! あなたが昨日言ってたこと、皆に伝えたのよ! そしたらシェルターの中の活気が変わってきたの!」

 それを話す彼女もまた、実に希望を抱いた明るい声だった。


 シェルターに行くと、すぐに声をかけられた。

「セージさん、話は聞いたよ! あんたに希望をかけるよ!」

セージの昨日の発言は、あの場にいなかった者達にも伝わった。

中にはやはり信じない者もおり、期待をかけて損だったという気持ちになるのも嫌だと耳を傾けない者もいた。期待を裏切られた絶望を味わうのが辛いという理由だからだ。

 しかし、やはり信じた者もいる。

「セージさん、本当にここは変わるのかい?」

 住民のうち一人は、状況が変わるかもしれないという希望に目を輝かせて言った。

「ええ、今データを解析してるんです、もしかしたら、このシェルターの互換装置が動くかもしれない。新しい燃料が掘り出せる場所をターゲットしてるんです」

 清二はあえて、この世界観に合った発言をした。

 実際は清二が今、小説でそのストーリーを書いているからだ。しかしそれを実際にその物語の中の登場人物に話すわけにもいかない。

それでも清二はシェルターの人々を元気づけさせる為に、それらしいことは言う。

「外はやがて太陽が出て暖かくなるはずです。そうすれば外に出られる」

「外で木が育てば、植物が二酸化炭素から酸素を作るので、多少の酸素が作れる」

「地下水は、ターニングポイントを地上で掘れば出るかもしれない。今はそれを解析中です。」

「地下水がみなぎれば、プラントにもっと食物が実ります」

「循環装置は故障を直せば。それを直す人手もそのうち来るかも」

 そうやって、この世界観に合った希望の未来の言葉を説明することで、住民はそれを信じる。

v清二はここにくるまでに、創作について幅広い知識を身に着けていたので色々なことを教えられるのだ。それがこういった台詞を言うのに役に立った。

 なにせこのシェルターのコンピュータールームを使えた唯一の人物なので、そこから得た知識ならば本当だと。

 清二だけが、あのコンピュータールームを使えた。誰も使うことのできなかったあの機材を使えたということで、皆清二の言うことは信じた。

「セージさんはなんでもよく知ってるねえ。俺達の知らないことばっかりだ」

「俺達は生まれてからせいぜいここの書物で勉強での知識しかねえからな。さすがはこんぴゅーたーでデータを調べられただけはあるぜ」

「俺達セージさんに期待してるからな! 頑張ってくれよ!」

 こうして現地住民にも応援の言葉をもらうことで、清二のモチベーションにも繋がる。

 ますます早くこの世界の物語を完成させたいという気持ちになる。


 大人だけではなく、子供達にも希望を与えた。

「外が明るくなれば、外で遊ぶことだってできるし、植物も育てられる。今よりもずっと自由で楽しい世界になるんだよ」

 清二はそうやって子供達へも前向きになるようなことを言う。

「外に出られたら、みんな、何をしたい?」

 清二はあえてそう聞いた。子供達の願望を聞いておくこともやる気に繋がるからだ。

 子供達は少し考えて、元気な声で言った。

「外で思いっきり遊びたい! こんな狭い場所じゃなくて広い場所で」

「みんなで、野菜やお花を育てたい」

「いっぱい素材を集めて、物を作りたい!」

 子供達は目を輝かせて、はきはきとそう言った。

 子供達について、以前ユミラが言っていたことを思い出す。

「子供達はまだ辛い状況を受け入れられる年ではない」と

 子供達はやはり自分達の置かれた状況に絶望を抱いていた。

 しかし、その子供達も今は清二の言葉によって、前向きになりかけてきた。

「地上で暮らせればきっとみんな楽しいことだらけだよ、みんな希望を持とう」

 清二は子供達にそう伝え、とにかく希望を持たせた。

子供達とはしゃぐ。その様子を見ていたユミラが、清二に話しかけた。

「ありがとうセージ。あなたがああ言ってくれたことでここの雰囲気が変わったわ。みんな、希望を持って前向きになってきた。今はあなたに期待を寄せてるわ」

「うん、絶対に僕がなんとかしてみせる」

 清二がここへ来てからも、病死や事故死といった住民が亡くなる場面を見て来た。

 それらを見て来たからこそ、清二は自分がしっかりやらなくては、と本気になった。

それだけ暗いことが続いていたからこそ、清二の発言で住民達は絶望から希望へとなっていった。

まさに今住民達は清二のことを本当の意味での神かのようにたたえた。

 清二の言うことを信じれば、希望が持てると。

「ユミラ、待っててね。もうすぐここは変わるから」

シェルターの建築も年数経過の劣化によりろくなっており、いつまたあの天井崩落のように事故が起きるかわからない。タイムリミットもありそうだ。早くこの世界を救わねば、と清二は思った。

「セージ、本当にありがとう。私は、セージがここに来てくれたことが、本当に嬉しい」

 ユミラのその言葉は本音だった。

「うん、僕がみんなを助ける為に、きっとここに来たんだよ」

 清二は自信満々に言った。

すると、清二の言葉はユミラの心に突き刺さった。その言葉が頼もしい。

「私ね、セージとだったら……」

「え?」

 ユミラが何かを言いかけたところで、またいつものように意識が浮上していく。

また目覚めだ。

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