第16話 あの世界、救えないのか?




ピリリ……ピリリ……

 いつも通り、目覚ましのアラーム音が鳴る。

 清二は起き上がり、すぐに夢日記を書き始めた。

今回得た有力な情報、自分があの世界を作ったのだと、自分があの小説を完成させれば、ユートアスラントの未来が変わるかもしれないと。

 清二は今回見た夢のこと、あのコンピューター室で得た情報のことを事細かに夢日記に書き込んでいった。

清二は机に置いてある、かつて子供の自分が書いた、全ての根源のあのノートを見つめた。

「決めた。」

 そして一つの決心をした。

「僕はこの小説を完成させるぞ」

ノートには「主人公が世界を救う」そうかいてあった。それならば、今の清二がその役目をまっとうさせるまでだ。かつて自分が書こうとしていた物語を。

「僕があの小説を完成させて、ユートアスラントを、あの世界とユミラ達を救ってみせる!」

 


清二は学校でアイディアノートを広げていた。

 なんとか少しでもあの世界を救う方法を思いつかないかと考えていたのだ。

「ユミラ達を救う為にあの小説を完成させる」という目標を掲げたものの、やはり早々すぐに思いつくものではない。 

 今回のテーマは重すぎるのだ。あの世界の命運がかかっているということになる。しかも、自分自身が創り出した世界ということの複雑さ。

 もしもこの小説の話がいい未来にならなくては、ユミラの世界を救うことはできない。

 変な話を作ってしまえば、あの世界もおかしくなってしまうのだろうか、と。

ノートには「荒廃した世界を救う」→「どうやって」→「他のシェルターから人がやってくる?」→「世界を救う勇者的な人物がやってくる」「奇跡の力で地上が復興する」「あの世界を崩壊させたラスボス的な人物を倒す」など色々考えていた。

 しかしなかなか清二の納得する案も思い浮かんでこないのだ。

 ただでさえスランプ状態になっている清二には、今小説を書くということもまた、負担になっていた。

「清二、また考え事か」

 清二がノートを見つめながらぼんやりしていると、博人が話しかけて来た。

「新しい話でも作ってんの?」

 博人から見れば、清二がノートを広げてこうしている光景は大抵小説のアイディアを考えているという風に見える。

「そんなところかな」

「次に作ろうとしているのはどんな話なんだ?」

「崩壊した世界を救う話かな。その世界の人々を助けるっていう」

 清二のその言い分は、間違ってはいなかった。

「随分とスケールのでかい話を書こうとしてるんだな」

「これが今の僕にできることだから」

「まあ、そうだな。お前にできることは小説を書くことだしな」

博人にとっては清二が言ってることは、またいつものように、「小説を書く」ということが「できること」と受け取ったようだ。

「そういやさ、今度生物の先生、別の人に代わるんだってな。岬先生が産休入るからって、別の先生になるみたいだぜ」

 それは、生物の授業の教師が違う人になるという話題だった。

「へえ、そうなんだ。どんな先生になるのかな」

「男みたいだぜ。あーあ、岬先生がよかったなー」

 こういった、平穏な日常もまた現実世界だと感じる。

 清二達がこうして平和な日常を送ってる中、ユミラ達はあの環境にいるのだ。



 清二は一日中あの小説を完成させるためのアイディアを考えた。

 ユートアスラントを救う話を為に、と図書館で資料になりそうな本を探し、家でもインターネットで検索し、なんとかストーリーを書こうとしていた。

荒廃した世界を救うということは、一度滅びた場所を復活させるということで 「災害に遭った地域をどう復興させるのか」といったものから「世界を救うには何が必要か」という政治や人手、経済についての資料、「過去に起きた難題を人類はどう乗り越えていったのか」という歴史などだ。

 少しでもあの世界の状況に似た事例を探し、そこからの解決法を考える。

 とはいえあのノートに書かれている設定でどう話を作るか、という部分は実際に夢の中であの世界を歩いたことで多少のリアリティは持てた。

 地上の廃墟な町のリアルさ、あの住民達がどういった生活を送っているのか、住民の一人であるユミラと会話をしてみて、多少世界観を掴むことはできた。

 あとはそれをしてどう形にするかだ。

 あの世界観に合った内容にしなくては、矛盾が生じてしまう。

清二はアイディアノートに色々書き始めた。

『被災地を復興させるには各地からの人手が必要』という資料を見ると

「でもあのシェルターから出て行った人達は他の住民を探すって言って戻ってこなかったみたいだしなあ」

『被災した地域は、そこから経験として、次はそういった状況を繰り返さないよう学びとする』

「経験としてっていったって、もうユートアスラントはもう二度とああならないように、って考える大勢の人もいなさそうだしな。まず崩壊する前の世界を知らないって人ばっかりなんだから、二度と起きないようにってのも変だし」

 あの住民達は清二によって最初から荒廃した世界の登場人物として作られたのであり、住民達はああなるより前の世界を知らない。復興するにしても、昔のことを知らないのだ。


色々アイディアを考えながらも、ぱっとしたものも思いつかず。一日が終わろうとしていた。

「次にユミラ達と会ったら、何か新しいアイディアでも浮かばないかな」

 そう思いながら眠りについた。





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