第15話 世界が壊れた理由、救う方法

「え……!?」

 自分の名前が表示された。清二はその名前を見た時、息を飲んだ。衝撃的だった、

「僕の……名前?」

 間違いなく、清二の名前だった。それもフルネーム。

「どういうこと?」

 自分はこの世界の住民はない。つい最近この世界に来るようになっただけで、のシェルターの住民ですらないのだ。そうなると、このシェルターの建築にすら関わっていない自分が、この世界を作った本人なわけもないのだ。

「ワールドメイキングを開きます」

 そんなアナウンスが流れた

 表示されたのはシェルターについてだった。

 移住区やプラントに分かれており、最初はどれだけの住民がいたのかや壁や天井などに使われている素材、生活様式、人口、就労、食糧、移住、物資、燃料還元、そられが事細かく。

 それらは清二にとって、見覚えがあるものだった。

「な、なんでこの設定が」

そこには清二がノートに書いていたこの世界の設定が表示されていた。


 今まで来たこともない場所に、自分のフルネームが表記されている。

 この世界に関わったこともないはずなのに、自分の作った設定がここに描かれている。

 ここに来たことすらない自分がコンピューターの最高責任者と照合された理由。

 この世界を作った人物そのものが、まるでこの場にいる「最高責任者」そのものなのかのように。

清二は一つの説に行きあたる。

「もしかして……僕自身が本当にこの世界を作った張本人で間違いないのか?」

 それはまさに清二こそがこの世界の創設者だったということだろうか。

 今まではこれはあくまでも夢の世界で、たまたま清二が昔作ろうとしていた話が夢の中に出てきただけだと思っていた。しかし、こうして世界そのものが完成していた。

 そして、このコンピューターに清二の情報が記載されていたことが証拠だ。

 「僕があのノートでこの世界の話を作ろうとしたから? それを、やめてしまったからなのか? 設定だけを作って肝心のストーリーを作らなかったから」

自分の理想の世界を作ろうとしてした。世界を生み出す際に、崩壊した廃墟の町を作る。清二は荒廃した世界を冒険する話を書こうとしていたからだ。

「それじゃあ、この世界は僕が作った時点でもう荒廃していたのか?」

 地上の建物が崩壊した理由はわからない。清二がそのストーリーを作ろうとしていたものの、それをやめてしまっていたからかと思った。

 つまりこの世界には建物が崩壊する前、つまり荒廃する前の平和だった世界など存在しない。

 この世界は清二によって生み出された。「ウミダサレタジテンデホウカイシテイタ」の言葉通り。

「つまり……この世界を壊したのは……僕自身だったってことなのか」

 清二の「荒廃した世界を作りたい」の理想によりこの世界が生まれた。

 そして、この世界はそのまま放置されて時間が止まり、地上は暗闇の夜ばかりで朝が来ない。

「僕が、この世界を作りかけで放置したから、この世界の時が止まってずっと夜だった」

 この世界が朝にならない理由。清二が世界を創るのを辞めたことにより時が止まった。

 この部屋はこの世界を作った清二自身が来たから反応したのである。

「じゃあ元からこの世界は最初から救いがなかった。崩壊する前の時代なんて存在しないんだから」

 最初から崩壊した世界という設定で生み出したのだから、平和だった頃の世界は存在しない。

「ユミラ達はあの設定で生まれただけなんだ。ユミラ達は僕が作った世界の、つまりゲームでいえばNPCみたいなもの?」

彼らにはそれぞれの人生や過去はあるものの、それはあくまでもこの世界にすでに存在している住民としてであり、清二が作った設定の上で生きていただけで、実際に存在するわけではない。

 世界軸はセカイヲウミダシタカレ、つまり清二がこの世界の創造者で、ここにいる住民はストーリーを作るためだけの背景のような立ち位置でしかない、と

「彼らに過去なんてない。元からこの世界が生まれた時点ですでにいた人物達だから。あの設定によって生まれた人物であって、最初からその設定で動いていただけ。ユミラは昔は綺麗な世界だったって言ってたけど、あれも僕が作った設定で生まれたからこの世界の文献ではそうなってるだけ」

 登場人物とは、作者がストーリーを動かす為だけに存在する、いやばチェスでいうコマのようなものだ。

 作者によって設定、つまり運命を決められ、ストーリーを盛り上げる為に、コマとなる。

 この世界の住民達は「清二の作ろうとしていた小説の登場人物」だったのである。

この世界を作ってしまったのは清二。彼らをこんな境遇にしてしまったのも清二自身だ。

この世界には創造者がいて、彼がこの世界をこうした。

清二自身が自分で「崩壊した世界を冒険したい」の想いで、この世界を崩壊させた。

清二がこの世界を作ろうとして投げ出したから、地上は滅んだまま、朝が来ない夜のままで時間が止まった。この世界そのものが清二によって好きに作られ、放置されたということだ。

「僕自身が、この世界の創造者だったということになるのか?」

 そう思うと、ここでユミラ達と言語の違いもなく会話ができる理由も納得だ。

 ここに表示されている画面も、カタカナだったりと清二が読める文字で表示されるのも、清二が頭の中で創り出した世界だからである。

清二はこの世界のことを知りたくてここへ来ただけだった。この世界がどういう成り行きで崩壊したのか、何があったのかを調べる為に。それがこんな重大な秘密を知ってしまった。

「なんてことだ……」

何かがあったわけではない、ここは最初から清二が創り出した箱庭のような世界だったのだ。

「僕がこの世界を作ったから、ユミラ達があんな生活を強いられているってことなのか」

 彼女達の生活が貧しいのは、清二自身が作った設定によるものだった。

「もっと、もう少しここについて調べられないのか、情報が情報が欲しい。もう少し、もう少しこの世界について知りたい。まだ、情報が」

 キーを操作すると、画面右下にはネクスト、と表示されていた。

「ここを押せばまだ何か続きがあるのか?」

清二はネクストという画面を押した。

そして、文字が大きく表示された。


「コノセカイヲツクリシモノガミライヲツクレバセカイハカワルダロウ」

「この世界を作りし者が、未来を作れば世界は変わるだろう……?」


 未来を作る、とはどういうことだ? と清二は首を傾げた。

未来を作れば世界が変わる、どうやって未来を作るのか、未来とは何か?

「どういう意味だよこれ」

 清二はなんのことか知りたかった。

しかし、その表示を見つめていると、突然文字がかすれて来た。それどころか、ピーっという電子音が鳴り響く。まるで何かの警告かのように。

「わっ、何が起きたんだ」

 清二は驚いた、重要な情報が明かされそうな部分での突然の出来事。

 緑色のラインが通っていた機材が一気に赤い光へと点滅していく。

そのままだんだん文字が消えていきモニターが暗転した。

そして警告のアナウンスが響く。

「本体がオーバーヒートしております。クールダウンの為に、電力をダウンします」

そのままだんだん文字が消えていきモニターが暗転した。

どうやら長く起動されていなかった機材が、久しぶりに電源を入れたことで、残っていた電力を全て使い切ってしまったようだ。

「まって、まってくれ! もう少し情報が欲しいんだ!」

もう少し、何かを知りたかった、という清二の声もむなしく、機材に輝いていたラインの光が次々と消えていく。 

 先ほどまでネオンが輝く街並みのような光景だったコンピューターも、まるで停電したかのようだった。画面も映らない、肝心なところで電力が全て切れてしまったようだ。

「くそ、もっと情報を知りたかったのに! もう一度電源を入れてみよう」

 清二は電源ボタンを押した。

 しかしなんの反応もなく、もう機材に電源が入ることはなかった。この機材は完全に役目を終えたのだ。

「ここで終わり? 最後のやつはどういう意味だったんだ?」

 最後に表示された謎の文章。あれはなんだったのかと考えてみる。

「コノセカイヲツクリシモノガミライヲツクレバセカイハカワルダロウ」

「この世界を作った人、それが僕自身だとすれば、未来を作れば世界は救われる?」

 未来を作れば、という意味がよく理解できなかった。それがこの世界を救う理由になるとはどういうことだろうか?

「このユートアスラントは僕が作ろうとしてたけど、投げ出したから時間が止まった。じゃあ、時間が止まらずに動き出せばいいのか?」

 そこで清二は思いついた。

「僕が、この世界の話を作ろうとして、設定だけを作って投げ出した。だから時が止まった。ならば、その設定を使って、小説の続きを書けば、そうすれば未来が訪れるってこと?」

この世界の未来を作れば、つまりこの世界の先になるストーリーの先を作れば、そのままの意味でこの世界の未来ができるということなのかもしれないと。

 清二が初めて小説を書こうとした世界そのものが、こうやって実現したかのように、一つの世界になっていた。しかし、やはり子供だったあの頃の清二には、この世界を作ることはできても、肝心のストーリー本編の小説を完成させることはできなかった。それにより、この世界はそこから時がとまった 。

なので清二がこの世界のストーリーを完成させれば、この時間より先、つまり未来が作られたことにより時が止まったこの世界が動き出す。

そうすれば、このシェルターで過酷な生活を送っているユミラ達の環境を変えられるのかもしれないと。 

「僕が、僕がこの世界の物語を完成させれば、この環境を変えられる……!?」

清二にとっては、この世界を自分の理想だと、自分勝手な理由で生み出し、彼らの生活環境を作った結果が彼女達に苦しい生活をさせることになった。

この世界の住民にだって一人一人にここまで生きていた記録がある、人生だってあるのだ。先日亡くなった子供も、儚くも人生だってあった。

 物語の登場人物にも一人一人、生きているのだからそれぞれ人生がある。

 清二にとっては創作の中で作った登場人物はゲームのNPCのような存在でも、その物語の登場人物達にも生い立ちやそれまで生きていた人生だってあるのだ。

自分は今まで創作というものに、登場人物の設定は決めても、その人物がどういった過去で人生を歩んできたかなど、考えはする。

こうして実際に夢の中でユミラ達に出あって、みんなそれぞれ想いがあって生きている。

 それだというのに作者という自分勝手な創造神により、人生を決められてしまうのだ。

「ユミラ達にだって、人生があるのに、それをこれで終わらせていいのか?」

 清二は少し考えた、そしてある結論に至った。

「よし、こうしよう」

重要な情報を知ったところで、もうここの機材は動かないことにより、ここにいても意味がないと判断して清二はコンピューター室を後にした。 

 

 コンピューター室を出ると、薄暗いここと違い、やはりシェルター内の照明は少しながらこちらの方が明るかった。

 今はユミラと話したい、少しでも重要なことを知ったのだと。

 本当はユミラ以外のここの住民でもいいのかもしれないが、清二にとって、ここでまともに話せるのはユミラだからだ・

 清二はシェルター内でユミラを探した。


探してみると、移住区でユミラは子供達の相手をしていた。どうやら本の読み聞かせをしていたようだ。

 ユミラは清二の姿を見つけると、駆け寄ってきた。

「セージ、どうだった? あの部屋で何かわかったことあったの?」

「うん、色々と貴重なデータとかも入手できたよ」

 清二はあそこに行ったおかげで、十分有力な情報を得た、と話した。

「あの部屋、どう使うか誰もわからなかったんだけど、セージは使えたのね。やっぱり外から来ただけはあるのね」

 ユミラはそこに感心していた。

「ねえ、ユミラ。もしもこの世界を変えられるとしたら」

「なあに、突然?」

 清二にとってはこの質問は真剣だった。

「あのコンピューター室で地上を復興させる情報を得たんだ。それならこんなシェルター暮らしをせずに済むかもしれない。きっと、みんなが外で幸せに暮らせる。」

 ユミラはきょとん、としていた。いきなり何を言い出すかと思えば、まるで夢のような現実味のない話を持ち出されたのだ。

「僕がこの世界を救ってあげる、っていったらどうする?」

「そんなこと、あなたにできるの?」

「今はわからないけど、もしかしたらこの状況を変えることはできるかも。なんせ貴重なデータを手に入れたんだから」

言いたい。この世界を作ったのは自分なのかもしれないと。

 自分がこの世界においての命運を握っているのかもしれない。


 何かを言いかけようとしたところで、意識が引き戻される感覚がした。

ああ、また起床の時間か、と肝心なところを言えなかったことにもどかしさを感じながら。



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