第14話 コンピュータールーム
ピリリ……ピリリ……。
目覚ましの音で今日も清二は起床する。今回はなんとも後味の悪い夢だったと思った。
誰かが死ぬということは、こんなにも悲しいものだというのに、あの住民達のすぐ受け止めている態度も気になった。
仕方ないこと、とわかっているのも、あの世界ではきっと当たり前なのだろう。
ユミラも言っていた。両親が生きていた頃は幸せだったと。もしも地上が平和ならばやりたいこともあったと。彼女達は、一生あんな生活なのだろうか。
「僕にも何かできることないかなあ」
やるとすれば何をするというのだろうか?
彼らを励ますことだろうか? 少なくともあそこの地上を復興させる力は清二にはない。
できることというと、せいぜい自分のような現実ではただの高校生でしかない、自分に何ができるというのか。なんともやるせないことだった。
そして今日も一日が始まる。
清二は学校から帰った後も、夢日記のノートを開いて空想に浸る。
この世界の住民達はこんな生活をして当たり前なのだと。あの世界にはああいった日常生活を送るしかないのだと。せめてあの世界について、もう少し知りたい。
どういった理由で地上が崩壊したのかという歴史や、元はどんな世界だったのか
清二はふと思いついた。
「そういえば、あのシェルターに初めて行った時、まだ入ってない部屋があったような」
コンピューター、ユミラはそう言っていた。
しかし彼女達はそれが何をする部屋なのかがわからず、使っていないといった。
現代日本に住む文明が進んだ世界の自分なら、そのコンピュータールームという場所で、あの世界の資料などがデータで残っていないかなどがわかるかもしれないと。
「次にシェルターに行ったら、コンピューターを調べさせてもらえないかな」
と、そう思った。
清二は今日も一日が終わり、、就寝する。
そして、いつもの場所にいる。
いつも通りユミラに会いに行く。
「あら、清二」
前回の葬儀のこともあってか、ユミラは少々元気がなかった。
しかし、清二は言いたいことがあった。
「あのさ、ちょっと今日は行ってみたい場所があるんだけど」
早速その話題を持ち出す。
「前にシェルターの中で、コンピューターがあるって言わなかった?」
「ああ、そういえばそんなこと言ったわね。でもあそこはよくわからない物体があるだけよ」
この世界ではコンピューターというものもよくわからないものと認知されていないらしい。
地上が廃墟でも。シェルターにも照明など最低限の機械はあり、コンピューターがあるということは、おそらくそのシェルターが作られた頃にはそういった物も使用していたのかもしれない、
「でも、あそこは私が生まれるよりもずっと前から使われていないわ」
ユミラは自分が生まれる前にどういった使用目的で作られたのか知らないようだ。
そうなると、あそこは長い時間放置されていたということだ。
「今日はそこに入れてくれないかな?」
ユミラはきょとん、とした表情になった。
「あんな部屋に行きたいの? 何に使うかもわからない場所なのに?」
「あの部屋には入れないの?」
「所長に聞けば、入れてくれると思う。どうせここに入っても、どう使うかわからないものばっかりだし」
「じゃあ、そこに行きたいんだ。所長に話をつけてくれない?」
これはあのシェルターの住民であるユミラにしか頼めないことだ。
「いいわよ。所長も、使い方はわからないみたいだし。何もないとは思うけど」
シェルターに行き、そう話をつけてもらった。
すんなりと話は進み、清二はコンピュータールームの鍵をもらった。
「ここがコンピュータールームか」
扉には錆がついており、長く開けられていないことが伝わる。
他の住民はここをどう使うかもわからないので、清二は一人でここに来ることになった。
清二は一人で中へ入ることにし、鍵を開けて中に入ろうとした。
ギギギ、と重い扉が引き戸になっていて、開けた途端、錆ついた金属の匂いがした。
まるで何年も放置されていたかのように、埃っぽさもある。
部屋の照明らしきスイッチを押すと、ぼんやりとした照明が付いた。
中は実にここだけが違う世界のような場所が広がっていた。
ぐるりと一見すると、部屋の中央には大画面のモニターが壁に設置されていた。
周囲にパソコンのような機材があり、それぞれ、キーボードらしきボタンが揃っていた。
学校のパソコン室よりも、それをハイスペックにしたような内装だ。
この設備を見ると、元々は、このシェルターも昔、そういった知識があるものが作ったのだろう。
「ここだけ、まるで近代世界だ」
最初はコンピュータールームも使用していたが、そういった知識を持っていた者達が寿命を迎えてこの世を去っていき、子孫たちはそれを受け継ぐということがなかったのだ。
それで恐らく、ここの住民達はこの使い方がわからず放置していたのだろう。
シェルター内で照明がついているということは、最低限の電気もここに来ているはずである。
使用目的がわからないので誰も使っていないというだけで。
「元はきっとこの世界も近代的な文明があったのかもな」
地上の廃墟からして、この世界は現代の先進国ほどの文明はなかったのかもしれない。
地上が失われて、地下での生活を余儀なくされ、その結果が文明が衰退して、昔のような暮らしになってしまっていたのだ。
それでも、シェルターという大きなものを制作できていた辺り、そこそこの文明はあったと思われる。
「もしもここが動くなら、もしかして何かデータが残っているかも。どこかに電源ボタンががるはずだ」
清二は薄暗い照明の中、それらしきものを探した。
パソコンらしき機材の周辺を見ると、ON/OFFというスイッチが付いていた。
「もしもこれが動くなら、多分ここを押せば」
清二はスイッチボタンを押した。
キュイーン……
このシェルターでは似つかわしい電子音が鳴り響いた。パソコンのような起動音だ
壁は完全防音になっているのか、この部屋の音は外には聞こえないようだ。もしも外にも音が響くのであれば、驚いた住民がやってくるはずである。
次第に、薄っすらとした点灯が機材のラインに付き、モニターには白い画面が映った。
電子音が鳴り響き、モニターが付き、あちこちのラインが点灯して、オールグリーンのライトだった。現代のパソコンを基準にするなら異常があるならば、赤いライトになるはずだ。
コンピュータールームの機材が起動した。
「ビンゴ。やっぱりここは動いた。ちゃんとこの機材も使える」
シェルター内の明かりがつくのならば。やはり最低限のエネルギーは通ってると思った。
そして、音声が鳴り響いた。
「ようこそ、コンピュータールームへ」
女性のアナウンスのような電子音が鳴り響いた。
「わっと、しゃべるのか、これ」
清二は突然の声に驚いた。ここはこういった部分は現代のようにハイテクなのだと思った。恐らくナビゲーションだろう。
「このコンピューターは、このシェルターを管理しているものだけが使用できます」
「やっぱりこういうのがあるかあ」
当然ながらこういった重要機材は誰でもが使えるものではないだろう、という予測はあった。
外部の者に機密情報を漏らすわけにもいなないとすれば適切な処置である。
「僕はこのシェルターの住民でもなんでもないし、無理かな」
ダメ元とはいえやはり無理だったか、とも思えた。
「でも、何か見れるものはあるかもしれない」
清二は諦めずに、コンピューターに続けて触れてみることにした。適当にキーボードをいじる。どうやらキーボードの矢印キーで画面で選択のカーソルを当てられるようだ。それらを適当に操作してみる。
すると、次はこういったアナウンスが流れた。
「こちらの情報は、最高責任者のみが閲覧できます。あなたは最高責任者ですか?」
という質問だった。
「パスワードのようなものがあるのかな? そうだよな。こんな重要なデータを誰にでも見せられるわけないよな。僕がここの責任者なわけないじゃないか」
清二にとってここはあくまでも自分の夢の中の世界を冒険しているようなものだ。
それだとここではただの人間であり、この世界においての権力者でもなければ特別な地位といったものも持っていない。
「やっぱり、こういうのはそうそう簡単に見られるようなもんじゃないよな。極秘データを外部の人間に見せるわけにもいかないし」
SF映画であれば、こういう時はパスワード入力があり、そこへ正式なパスワードを入力すれば進めるのだろう。そういったシステムがなければ情報を抜き取られ、悪用させる可能性があるからだ。
当然ながら清二はパスワードといった。そんなものを知るはずもない。
「やっぱダメだ、諦めよう」
清二が踵を返そうとした時だった。
コンピューターが突然光り出した。
「わっ、なんだこれ」
何か変なものを触ってしまったことにより、バグなどが起きてしまったのかと焦った。
もしかしてこの貴重な機材を壊してしまったのかと焦りが走る。
すると、清二の身体を、突然緑色な光の膜が包みこんだ。
「最高責任者と照合する為にデータをスキャンしています」
というアナウンスが流れた。
「え、何? 何か始まるの? 僕の身体のデータを調べてるってこと?」
「照合の為のスキャンを開始します」
清二の身体を緑色の光が包み込み、全身を覆った。
「な、なんだこれ? やっぱり僕、やばいことしたの!?」
清二はしかして自分を悪意の者と診断されたのかもしれない、という恐怖が走った。
清二のことを危険だと、このコンピュータールームからシェルター住民に通知するのか、それともここで侵入者として殺されてしまうのかと焦りすらも出た。
やはりこのシェルターの住民でもない自分がこんなものをいじったことで、何かよくないことが起きるのではないかと。とにかく恐怖だった。
しかし、次の音声は予想外のものだった。
「あなたのデータが最高責任者のものと照合されました。」
「え?」
清二は驚きの声を挙げた。今、何と言ったのか。
突然モニターは次々と文字が表示され、新しい画面に変わった。
「これでお使いいただけます」
これはつまり、清二のデータがこの場所の最高責任者と一致したということだろうか。
「どういうこと? なんで僕のデータがここで照合されるんだ!?」
自分はまだこの世界を歩いてそんなに経過していない。このシェルターの者でなければ、この世界の住民でもなんでもないのだ。この世界にとってはわけのわからない存在である自分がなぜここで照合されたというんか。
「ここに初めて来た僕のデータなんてこんなところにあるわけないのに。なんなんだ?」
なぜ自分が責任者だと判定されたのか。その理由がわからない。
「もしかして、長く使ってなかったコンピューターだったから、バグでもあったのかも」
長期間放置されていた機材だからこそ、正しい判断ができず、誤作動をする可能性もある。
その誤りが、清二を最高責任者だと判断してしまったのではないかと思った。
「まあいいや、これで見れるわけだし」
モニターには緑色の文字が次々と表示されていた。すべて英文である。
これは最高責任者にしか閲覧できない重要データだろう。
「でも、これどうやって入力すればいいんだろう?」
高校生であれば中学校で基礎英語は習っている。そのうえ清二は創作の役に立つからと進んで英単語や英文を読めるように学習していた。そのおかげで英語を読むことはできた。
キーボードを打つと、どうやらローマ字入力で文字が打ち込めるようだ。すると、何やらカタカナのような表記が表示された。
「なんで日本語?」
こういった空間ならば、この世界での言語になるのではないのだろうか、と思ったが、この世界は人々と話す時に日本語が通じている。その時点ですでにファンタジーなのだ。まあ政治の夢の中だから当然か、と思った。
「まあいいや、これでこの世界についてのデータがわかるかも。これで、いよいよこの世界の歴史が」
ドキドキした、この世界がどういった世界なのかがようやく知れると。
この世界で何が起きて、地上が荒廃したのか、なぜ人々はシェルター暮らしを余儀なくされているのか、そういったものを知れるのだ。
「ゴクヒファイル ユートアスラントノレキシ」
清二はそこにカーソルを合わせる。次に、文章が表示された。
「コノセカイガウマレタ。スベテハアノヒカラ」
いよいよこの世界が生まれた理由や、地上が崩壊した理由が知れる、と清二は息を飲んだ。
「ユートアスラント、コノセカイノナリタチ」
いよいよこの世界の秘密が明かされる、と鼓動が高まる。
「コノセカイハシメンによりツクラレタセカイダ」
「この世界はシメンにより 作られた世界? どういう意味だ?」
清二はその理由がわからなかった。シメンとは何を指しているのかと。
しかし、次の文章で、何やら核心のような情報を得た。
「コノセカイツクリシモノ、カレガセカイヲコワシタ」
「この世界を創りし者、彼がこの世界を壊した?」
世界を創りし者、どういうことだろうか? この世界を作った神、天地創造の何者かがいて、その者が自分で自分の作った世界を壊したということだろうか? なんともファンタジーな話である。
清二の中ではその者の姿を異形のものを想像した。
「こんな絵本みたいな御伽噺みたいなことあるのかよ」
元々、世界が崩壊している現実の地球ではありえないことが起きているのだから、半分はファンタジー世界も同然なのだが。
「カレハジブンノリソウのセカイヲツクロウトシテイタ。ソレガコノセカイ」
「彼は自分の理想の世界を作ろうとしていた。それがこの世界。つまり、この世界を作った神様かなにかがいて、その理想の為にこんなことにしたってことか?」
自分で作った世界を自分で崩壊させる、なぜそんなことをしたのだろうか。
「ユートアスラントハ、ウミダサレタジテンデホウカイヲムカエテイタ」
「ユートアスラントは、生み出された時点ですでに崩壊を迎えていた……? どういうことだ? すでに最初からこうだったってことか?」
「スベテコノセカイをツクッタモノノリソウダッタ」
「全てこの世界を作った者の理想だった? 勝手にこんな世界を作っておいて、住民を巻き込んで不幸にしたなど、とんだ神がいたものだな」
「スベテ、カレガウミダシタ。カレガスベテノゲンキョウダ」
「カレハセカイヲヲウミダソウトシテヤメタ。ソレユエニ、セカイのジカンハトマリ、アサガコナイ」
「元凶……、世界を生み出そうとしてやめた?」
「カミノナハ『ヤマミネセイジ』」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます