第8話 また君に会った
そして、やはりまたあの町で目が覚める。
「やっぱり来れた」
すでに何度もここに来ている経験から、清二は真っ先にあの少女がいる場所へと向かった。
そして、少女は瓦礫の山にいた。
「今日も来たのね」
「やあ」
清二は軽く挨拶をし、少女の外見を凝視する。
やはりその少女の外見は、あのノートの通りだ。
自分が創り出そうとしていた人物の姿が目で見れるというのも、なんとも感動的なものだ。
「何、してたの? 今日も空を見てたの?」
清二はまたこの少女と話をしたいと思い、話題を出す。
「今日は空が濁ってて星は見えないの」
清二は空を見上げた。少女の言う通り、月は浮かんでいてもその周囲は曇り空で星は見えなかった。
「ユートアスラントはいつもこう。地上はどこを見ても廃墟ばっかりで綺麗な場所なんてないし、唯一見れる空も、たまにこうして濁ってしまう」
『ユートアスラント』に少女の外見、やはりここは過去の清二が書こうとしていた小説の世界、という線が濃厚だ。
もしもここが本当に自分が創った世界なのであれば、この夢はライトノベルの挿絵以上に目で見える。
「ここってさ、元はどんなところだったの?」
まずはこの場所が元々はどういった世界なのかを知りたかった。
「私は文献でしか読んだことなかったけど、元は綺麗な町だったんだって。私が生まれる前は」
少女はこの町がゴーストタウンになる前のことは知らないのだ。
「今は植物も育たないし、人はいない、この廃墟の片づけをする人もいない、明かりもない、常に暗いから外に出ることもできない。ずっと外はこうなの」
やはりこの少女のいるこの世界はあの設定通りに、寂しい世界なのだ。
「でも、今はこんな有様だから、そんな世界は夢のまた夢よ」
やはり少女にとっては清二にとっての当たり前の地球のように平和な世界というのは幻想なんだ。
「それでも、私はこうして地上にたまに出てくるんだけど」
少女は地上に出てくる、と言った。
清二はふと思い出した。
あのノートには「生き残りの人々は地下シェルターで生活している」という設定が作られていた。
この世界で少女以外は他にどんな住民がいるのかが気になった。
「ねえ、よかったら君の住んでる場所に案内してくれない?」
清二はこの世界をよりよく知ろうと、もう少しこの世界について情報を得ようとした。
それならば現地住民であるこの少女にこの世界を案内されるのがいいだろう。
「僕、ここに来たばかりでこの辺がどんなところなのか知りたいんだ」
いきなりこんなことを言いだして警戒されるかもしれない、という不安はあった。
出会ってまだ間もない者が、いきなりお前の家に連れていけ、と言っているようなものだ。
しかし、少女はすんなりと許容してくれた。
「そうね、せっかく見つけられた地上の人だもの。みんなに紹介しなくちゃ」
『みんな』という発言に、やはりここにはユミラ以外の住民がいるのが見受けられる。
こういった世界ならば、他所の人間など怪しいと疑うものではないかと清二は思っていたが、少女は全く逆で、受け入れてくれる。
「いいわ、こっちに来て。案内する」
少女はあっさりと承諾した。
少女はランプを片手に山から下りて、歩き出した。
少女の持つランプの明かりを頼りに、清二はついていく。
ただついていくだけの間、何もしゃべらないのも気まずいと思い、清二は気になっていたことぉ聞いてみることにした。
「そうだ、名前聞いてなかったね。僕は清二っていうんだけど、君は?」
「あなた、セージっていうのね。私はユミラよ」
清二は初めて少女の名前を知った。いい響きだ、と思った。
「でも、いいの? 僕みたいなよそ者を君の住んでる場所に入れちゃって」
どこの誰ともわからない者をそう易々と自分の住んでいる場所に案内するのは相当リスクがあるのでは、と思った。
「私達は普段、地下のシェルターで暮らしてるの」
地下のシェルター、それはやはり清二のあのノートに書かれていた設定通りだった。
「へえ、そうなんだ」
清二はそのことを知りながらも、全く知らないかのようにふるまった。
もしそこでよからぬことをして住処を支配しようとたくらむ悪人かとも思われる可能性もある。
例えば悪人ならシェルターを占拠したり、壊す可能性や住民を殺す可能性もあるのだ。
「大丈夫、あなたはそんな悪い人じゃないって気がするわ」
ユミラは清二に対して不信感を持つような様子ではなかった。
「それに、もしも悪い人だとしても、どうせ私達はもうこの先、いつまでいれるか……」
ユミラは何かを言いかけた。
「ん? 何?」
「……なんでもないわ」
二人はそのまま歩き続ける。
清二の服装は夢の中だからなのか、清二の普段の服装が反映されているかなのか、学生服姿である。しかも清二は靴も通学用のシューズしか履いていない。
長旅に適した身なりではないのだ。
しかし不思議と寒さも暑さも感じないのは、やはりここは清二にとっては夢の中でしかないからなのだろうか。
ユミラの姿を見失えば、この広い廃墟の中に取り残される不安がする。
なので必死でユミラのランプの光を頼りに彼女の後を追った。
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