第4話 あの夢はなんだったんだろう



ピリリ……ピリリ……

「はっ」

 目覚まし時計の音により、清二は一瞬で目が覚めた。

 目に入ったのは、自室の天井だった。いつも寝起きする度に、目に入る同じ場所。 清二にとっては慣れ親しんだ部屋。

ここが自分の部屋だと気づいて、清二は今、自分のあるべき場所へと戻ってきたのだと実感する。

「夢か」

 今さっきまで見ていた映像は夢だったということに気が付く。

 ただの寝ている間に見ていただけの夢の中。あれらは現実には存在しない。

 清二が眠っている間に見ただけの、空想だ。

 やはり自分の世界はこうして普通にある、と思えばあんな不安な場所ではないと安心できた。

「不思議な夢だったな」

 さっきまで見ていた夢は本当に幻想的な夢だったように思える。廃墟の町なんてこの世界ではない。

 もちろんこの世界にも災害や文明の衰退である意味全てが崩壊した場所は実際にあるだろう。

 しかしあの世界とあの少女の組み合わせは、まるでSF作品やファンタジー世界でありそうなものだった。

「でもこれ、創作の役に立つかもな」

 清二はすぐさまいつも枕元に完備しているノートと筆記用具に手をつけた。

 清二は「夢日記」をつけるという習慣があった。

 夢の中で見た経験や場所は、そういった世界を見たとして、話しを作るのに役に立つのだ。

 自分の頭の中だけの、自分だけが見た世界。

「よし、書いておこう」

清二は夢を見た時は、忘れないうちにメモ帳やノートに夢の内容を書き込む。

 こうして不思議な夢を見た時はその見たものをもとに、面白い話が作れるのかもしれないのだ。

 例えば「宇宙空間を泳いでいる夢」を見ればそれはSFものとして役に立ちそうで、「空を飛んでる夢」ならばファンタジーものに生かせる。

 夢の中で見た人物も、「大柄な男」「美しい妖精」「絶世の美女」「異形の動物」などもそんなキャラクターを作るのに役に立つのだ。

そうやって今後作る小説のストーリーやアイディアになったり、役に立つかもしれないということだ。

「荒廃した、真っ暗な世界で、少女と出会う夢。何もかもが瓦礫になった広い世界で出会ったその少女は銀髪で綺麗な顔だった。貧しそうな衣服を身にまとっていた」

 夢日記のノートにそう書き込んだ。

「よし、これでいい。こういうのが次回作のヒントになればいいんだけど」

 清二はスランプに陥ってから今までに書いてきた夢日記を何度も読み返したが、それでも新作を作る意欲にはなかなかたどり着けなかった。

 夢日記も書き終わり、今日も一日が始まる。清二は学校へ行く支度をした。



 学校に着いて、ホームルームが始まるまでの時間に、清二は自分の机でノートを広げていた。

 こうして外にいる時でもアイディアを書くノートを持ち歩いていれば、頭の中で思いついたことを紙に書くことで整理ができるからだ。

 このノートは夢日記をつけているノートと同じもので、常に持ち歩くことで何度も読み返しては構想を得たりする。

 もちろん、もしもこのノートを紛失してしまえば、そのアイディアは全て消えてしまうので、これらはパソコンのテキストファイルに書き込み、USBメモリで保存しておくのだ。

「しっかし変わった夢だったなあ。でもあの女の子、綺麗だった。できればまた夢に出てきてくれないかなあ」

 清二はその少女の外見を事細かく書き込んだ。

 銀髪の髪をなびかせ、身に着けていた服は綺麗な衣装という感じではなかったが、それでも神秘的な印象を与える。

 あんな美少女ならば、できればまた夢の中で見たいものだと。それは清二がひそかに抱いた願望だった。


「清二おはよう。相変わらず御熱心なことで」

 清二が夢中になっている間に、博人が登校して教室に入ってきたらしく、清二に声をかけた。

「あ、おはよう。今日は早かったんだね」

 清二はノートを広げたまま、朝の挨拶をした。

「ん? なんだよこれ」

 清二の机に広げてあったノートの内容が目に入ったらしく、博人は聞いた。

「崩壊した真っ暗な世界で少女と出会う? なんじゃこりゃ?」

 清二のノートは常人には理解できない内容だ。

 これまでも博人にこのノートの内容を見れば「魚が空を飛ぶ」「森の木が躍る」「天空に浮かぶ町」などといった意味不明の内容に頭を傾げた。

 清二にとっては夢の中で見た者は、他人から見れば意味不明でしかない。

「こんな夢見ちゃってさ。その内容を書き込んでるんだ」

「また例の夢日記ってやつか」

 清二は学校でもよくこのノートを机に広げているので、友人には何を書いているのかはすでに知られていた。

「で、どんな夢だったんだよ」

 博人はノートの内容に興味津々だった。

「瓦礫だらけの町で、まるで崩壊した世界みたいな感じで、その場所を探索していたら女の子に出会うんだ」

 清二のこの発言だけだと、それは実にファンタジーのような内容だ。

「また変わった夢を見たなあ。それに女の子か、俺も気になるな。美人だったのか?」

 やはり年頃の男子らしくそういった女性の話は気になるものだった。

「お世辞にも身なりがいいってわけじゃなかったけど、綺麗だったなあ。まるでアニメとかによく出てくる銀髪の女の子でさ。可愛かった」

「ふーん。そういう意味では清二にとっての理想の子かな」

 清二の話を聞いていると博人もまた気になった。

「どんな服を着てたんだ? やっぱそういう子ってお嬢様らしい身なりか? あ、でも崩壊した世界でそれは違和感か。周りが瓦礫だらけの場所だもんな」

 博人の言う通り、そんな場所でそんな服装は場違いである。

「うん。お世辞にも綺麗な服って感じじゃなかったな。それで、首に赤いストールを巻いてて、特徴的なアクセサリーをつけてた」

 博人は清二の言う外見を想像した。

 しかしあの少女は衣服こそ貧しそうだが、顔や髪は綺麗だった。やはり美少女だろう。

「まあ、夢の中の話だしなあ」

 しかしあれは清二の夢の中の話なのである。現実的な外見とは違って当たり前だ。

「やっぱ清二ってそういうシチュエーションが理想なのか? 夢の中って理想なシチュエーションが出てくるっていうし。不思議な場所で綺麗な女の子と出会うって」

 博人の言う通り、あれは清二の願望なのかもしれない

「願望が小説に出るっていうし、あれもきっと何かの役に立つよ」

 夢の中でも理想の女の子に会いたい、思春期の男子ならば誰もが憧れることである。



 清二は家に帰って、寝る前もその夢の中についてばかり色々と考えた。

 ノートにその世界のイメージを文章で書いてみたり、そこからどんな話が作れるかを考えたり、どういうストーリーにもっていけるのか、とにかく妄想するのがたまらなかった。

「またあの夢、見られないかなあ。あの女の子の姿をもう一度見たい。どんな子かお話してみたい」

 やはり清二も思春期の少年らしく、そういった願望はあるのだ。

 自分好みの女性を見つければ、どんな相手なのかを知りたい、話をしてみたい、と思えてくる。

「まあ、しょせん夢の中の話だし、そううまくいくわけないか」

 夢というものは、あくまでも人間が眠る間に見るだけのものであり、毎日が同じ夢を見るわけではない。

「そんな都合のいい話なんてないよな」

 半分は諦めたつもりだった。しかし少しだけ希望を抱いたので、清二はさっそく先ほど、夢の内容を自宅のパソコンに、ノートに書いた内容を打ち込んで保存しておいた。

「さ、寝よう」

 布団に入り、そのまま清二は眠りについた。


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