第1話 創作に明け暮れる日常

ピピピ……ピピピ……


目覚ましのアラームが鳴る。

「もう朝か…」

男子高校生の山峰清二はけだるそうに布団から腕を伸ばし、アラームを止めた

「眠いな、昨日張り切りすぎたもんな」

 清二の言うそれは、自身の趣味である。

「ふあーあ、筆がのったあまり、ついついやり過ぎたか」

 あくびをしつつ、まだ眠い目を無理やり覚ます

「まあ、でもちゃんときりのいいところまではできたからいいか」

 清二は昨晩、新しい小説を書いていた。

彼の将来の夢は小説家。いつか自分の本を出版できたらいいな、という夢を持っている

 小学生の頃から本を読むのが好きで好きでたまらない清二はいつしか自分自身で物語を作るのが好きになった

 昔ははまだ自分用のパソコンを与えられていなかった為に、ノートに鉛筆で小説を書き、それを家族や友人に見せていた。

 中学校では文芸部に所属し、ますます文章を書くことが好きになった

 

 その為に、彼にとっては毎日の日課が小説を書くことがある。

 昨晩も使っていた小説を執筆するためのパソコンを眺める。

 その隣には魔法・歴史。事典など、小説を書くために必要な資料を収納できる本棚があった。

 昨晩はその資料を読む為に本棚から出したまましまわなかった為に、パソコンの横に出しっぱなしだった。

「帰ったら今日こそ完成させるか」

 そう言って、朝の身支度をするために部屋を出た。


 キッチンへ出ると、そこには母親が朝食の支度をしていた。

 母親は清二の顔を見ると、昨晩のことを察した。

「あなたまた遅くまで起きてたでしょ」

 やや顔がやつれ、まだ眠そうな顔をしていたからだ。

「ちょっといいところまでいって」

「趣味も大事なのはわかるけど、ちゃんと規則正しい生活しなさいよ。学業だって大事なんだから」

「わかってるよ」

両親が買った一軒家で慎ましく暮らしている。

ごく普通の一軒家だが、清二は中学生に上がってから、元々は父の書斎だった広い部屋を与えられた

 その為に、清二は小説を執筆するためのスペースや大量の資料を入れる本棚の置き場所を確保できる広い部屋を与えられていた


 兄は大学進学を機に家を出た。

 父親はサラリーマン、母はパートタイマーとして働いている。

 清二の家族は趣味に関して寛容だ。

 もちろん学業や生活面については時折口をはさむことはあるが、それでも清二本人が頑張ってやりたいことならばと認めてくれている。

 清二の創作への熱意は昔からよく知っていたからだ。

「清二、物書きに夢中になるのはわかるが、きちんと今の学校生活を大事にするんだぞ。友達と過ごすことや、いろんなことをしてみるのもきっと将来、学生時代の経験として創作の役に立つのかもしれないからな。学生時代はまさに人生の勉強そのものなんだぞ」

 父親がそう言った

「わかってるよ父さん。僕もちゃんと今を大事にしてるよ。色々経験しておいた方が小説を作るのにも刺激になりそうだし」

 こういった会話も日常的だ。


 学校に着くと、朝のホームルーム前の時間で教室が賑わっていた。

「よう清二、おはよう。やけに眠そうだな」

 小学生時代からの友人・武村博人があいさつをしてくる。

「また例のあれか?」

「そうだよ」

「やっぱ本当に好きだなー、小説書くの」

 彼は子供のから清二のことをよく知っており、清二の趣味も理解している。

 なんといっても中学時代は彼も清二と同じ文芸部だったからだ。

 同じ部活で意気投合した二人は、中学時代に毎日物語を作ることにはまっていた。

 しかし、最初は楽しかったはずの文芸部も、博人は部活動を続けているうちに、だんだんと気が変わり、やはり自分に物書きは向いていない、と部活引退の際にそう言っていた。

そうして彼は高校に進学すると、文化系の部活ではなく運動部であるバスケ部に入部したのだ。

彼は彼でまた、中学時代とは違うことに挑戦してみたかったということからだ。

小説を書くという清二と共通の趣味からは離れてしまったものの、高校に入ってもずっと小説を書き続けている清二のことは応援していた。

きっと清二なら将来プロの作家になれると。

「また新作が完成したら見せてもらうぜ」

「ああ、今度こそきっと自信作にしてみせるさ」

 友人と話し、こうしていつもの学校生活が始まる。




 放課後になり、授業が終わる。

 校内は部活動が始まる時間で、吹奏楽部の演奏する楽器の音や、運動部の掛け声などが響く中、清二は学校を出た。

 高校では創作の時間を取るために部活には入らなかった為に、その分小説を書くことに熱中していた。

 秋の過ごしやすい気温で、外を歩いているだけで実に気持ちいい。

「そうだ」

 下校中、清二はあることを思いついた。

「今日も、あそこ行くか」

 清二のあそことはどこか決まっていた


 清二は市の図書館に来ていた。

 学校の帰りには図書館へ寄る

 図書館の自動ドアを入ると、真っ先に目に映るのは、新しく貸し出しになった新刊一覧だ。

「今日はどの本にするかな」

 清二は新刊図書に目を通した。

 創作に役立つ資料になる本を借りる為だ

家にそこそこの資料になる本はあるとしても、やはり物書きとは時代によって最新の情報を仕入れねばならない。

その為にはあらゆるジャンルの知識を身に着けなければならないからだ

「お、ニュースでやってた本も貸し出しになってるじゃん

そしてなおかつ話題の新刊の小説にも手を出す。

こうして話題作を読むことがまた、創作の刺激になるのである。

商業として出版されている本だからこそ、その中身はやはりプロの作家が作ったものだ。

こうして小説を読めば読むほど、清二にとっては勉強になる

「これと、何を借りて行こうかな」

 静かな図書館の中、本棚に並べられている本を一段ずつ見て、気になった背表紙の本を手に取り、中身をパラパラと見てみる。

「この本は中世ヨーロッパの食卓について書かれてるな、異世界ものの役に立つかもしれない」

 清二はこうして気に入った本を見つける。

「よし、今日はこの本にするか」

 そして他の分野の本棚も見て周る。

「心理学、これはキャラクターの心情を描くのに使えそうだな」

「世界の絵画、これも中世の世界観の描写を文字で表すのにいいかも」

 そうやっていくつもの本棚を吟味して、今日も六冊の本を借りていった。

 新刊の小説二冊に、歴史や心理学といった色々な分野の本田。

あらゆる知識を頭に入れる為に、借りる本は毎回ジャンルもバラバラだ。

今回もいい本が借りられた、とウキウキしながら清二は図書館を出る。

「やっぱり図書館は最高だな。たくさんの本が無料で借りれて、しかも幅広い分野を知ることができる。こんな最高の施設はないな」

 こうして清二は自宅へ帰る



帰宅すれば夕食や、入浴、宿題や明日の準備といった日々のルーティンを済ませる。

ここまでは普通の学生と同じだが、清二の日常はここからが本番だ。

「よーし、今日もやるか」

夜の寝る前の時間にパソコンに向かって小説を執筆する。これが彼の日課だ。

 あらかじめ作っておいたプロットという新しい話のアイディアを書き込み、キャラクター設定や世界観を作り上げ、ストーリーを作成し、大体の流れができたら、いよいよ執筆だ

「今日は第4章まで完成させるか」

 どこまで書くかを最初に決めて、ようやく取り掛かる。

 そしてここからが真剣モードだ。

ブラインドタッチでパソコンのキーボードを叩き、文字を打ち込んでいくことで、画面にはどんどん文字が増えていく。

 頭の中で考えたストーリー、描写、台詞を並べていき、執筆は進む

最低でも一日二千文字は書くことを目標として、毎日地道に続ける・

こうして今日も、清二にとっては一時間ほど、集中してパソコンに向かっていた。

とにかく文字を打ち込むのだ。

しばらく経ち、清二は「ふー」と息を吐いた。

「よし、今日の分は完成!」

 完成すればそれを小説投稿サイトにアップロードするのが目的だ。


 プロットを立てている時も、登場人物を考えている時も、世界観の設定を作っている時も、いよいよ執筆に入った時も、自分が脳の中で描いたストーリーが形になっていくのがたまらないのだ。

 しかし完成させた原稿をそのままアップロードするわけではない。

「さてと、今日はもう寝よう」

 清二が原稿を完成させた後に必ずするのは「眠る」「休息をとる」ということだ

 原稿を書き上げたばかりでは、体力が疲労している。

 そんな状態では、細かい誤字などをチェックできない。

 一度書き上げたものを寝かすことで、体力が回復した状態で読むことで、なお表現や文法、誤字のチェックができるのである。

「おやすみ」

 清二は眠りについた


 翌日、またもや夜に清二はパソコンに向かう

 しかし、原稿は完成しているので今日は執筆ではない

 清二はまず、パソコンソフトを開き、原稿をプリントアウトするのだ。

 こうやってパソコンの画面上だけではなく、紙にすることで、より誤字や文法、表現のチェックができるのだ。

 清二は今の時代らしく、小説を執筆する際は全てパソコンだ。

 外でネタやアイディアが思いついた時は瞬時にスマートフォンのメモ機能に書き残し、それらを家ではパソコンに書き写すのだ。

 そうして今日もパソコンという電子機材とプリンターという今の時代らしい、ハイテクな道具を使う。

 昨晩書き上げた原稿をチェックする。

 やはり完成直後よりも、一度休ませた上で見る文章は書いてる時にはわからない部分も発見できるのである。

「ここ、誤字があるな」

 プリントアウトした原稿を見ながら、赤ペンで誤字を修正したり、気になった部分に印をつける

「こっちはこういう表現の方がいかも」

 そしてそれをパソコン画面に修正として打ち込んでいく

 

「明日こそアップロードできるといいな」

 清二はこうして今日も眠りについた


 そして翌日の夜。

「できた……!」

 連載を続けていて、ようやく一つの物語を完成させる

それは一カ月かけてようやく完成したのであった。

「さあて、今日こそはアップだな」


 パソコンソフトで書いた原稿を、小説投稿サイトにアップした

「よし、ミッション終了っと」

 完成した時の達成感はなんとも気分がいい。

 自分が考えた話を最後まで書ききった達成感と、物語を完成させた満足感と、アップロードした時の解放感、それらがたまらなく心地いいのだ。

 そしてインターネットに公開した作品が日々日々閲覧数を伸ばしていくのも、お気に入りのブックマークをつけられることも、感想コメントをもらえることも、何もかもが楽しくてたまらない

 まさに清二にとっては物語を作り、小説を書くと言うことは人生においての生き甲斐だ。




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