九、ゆうやけこやけ

 沈みゆく太陽と引き換えに数個の星が空に輝きはじめた通学路、わたしは少し遠回りをして、あぜ道に放置されている野良ピアノのところへ寄った。延々続く田んぼのど真ん中で、誰に聴かせるでもなく、指に任せて乱雑に弾いてみる。ピアノの脚は泥まみれ、わたしにはコードが分からない。元々弾けもしないので最悪の演奏である。鍵盤けんばんを叩きながら星を追おうとして思わずのけぞる。勝手に笑いがこぼれてしまう。笑っているうちに天地が逆転して、視界はいつのまにか空で埋め尽くされている。夕暮れ時の、ちょうど爽やかなグラデーションになった空と極端に膨れ上がった太陽を背に、映画か何かの特別大きなロゴが並んでいた。今日の空についたスポンサーは、なかなか気合が入っている。それに今日の太陽は水鳥みたいに地平に浸かったところで粘り続け、たっぷり三〇分は居座ったのち、堂々とした足並みで地球の裏側へと潜っていった。

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笹垂行 倉埜羊 @31min_

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