七、隕石・後

 紅茶のカップと受け皿が小刻みにぶつかり合う音で目が覚めた。ちょっと冷まそうと置いておいた間に居眠りしてしまったのだ。辺りはすっかり暗い。というより、黒い。木製の小船の上。浅瀬に停泊している。一面の闇の中に波だけが赤く光っている。一五メートルほど先にある橋脚のアーチの間から、れた石のように真っ赤な太陽が見えた。夕暮れではなくて、闇の中に焼けた鉄が一滴らされたような、ちょうど教科書に載っている宇宙のような光景だった。

 なかなか格好はつくが妙だなあ、などと呑気のんきに捉えていた景色を正しく解釈するのに、多分三秒はかかった。大変だ。災厄だ。まさに、隕石がじりじりと海に飛び込んでいくところなのだ。なんてことだ。わけもなく振り向く。

 ところが終末を迎える前に、視線の先に停まっていた船が爆発、炎上した。あっけにとられている一瞬のうちに、わたしの船も爆発した。海水に希釈きしゃくされたような赤が視界を占領する。油断した! 

 後悔する意味はもはやない。でも悔しいものは悔しい。「そっちかい!」とせめて言ったか言わぬかのうちに、爆風で後ろに吹っ飛んだ。海に落ち、やがて視界が暗くなった。

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