四、休日

 買い物日和と思い立って駅ビルへ来たはいいが、なんだか目尻が痛む。コンタクトが原因かとまばたきしてみる。視線をあちらこちらにやってみる。それでもまだ不愉快なのである。それどころか、コンタクト下の眼球そのものがしっかりとわっていないような感覚がある。

 化粧室にでも寄って状態を確認しなければ。赤い末広がりのピクトグラムを探して駅ビル中を巡る。眼球は自分自身で制御できているのが不思議なくらい、何か体内の圧にあらがっているようだった。買い物は今度に回してもう帰ってしまおうかと思った時、そもそも自分が義眼だったことに気づいた。それからはもう、取り外さなきゃ外さなきゃと悶々もんもんしながら用事を済ませた。

 自宅の鏡の前に立ち義眼を取り外すと、忘れていた眼窩がんかがぽっかり現れる。いびつな半円型をした義眼は右手の中で黒々としたり青々としたり忙しく、眠る暇もないようだった。こんなものの上にコンタクトなんかして、と思ったらおかしかった。

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