二、老婦人の家

 ほの暗く寒々としたその家は主人の帰りを待ち続けていた。開け放たれたガラス窓、風を受けて膨らんだりしぼんだりを繰り返す生白いレースカーテン、湿った畳の匂い。窓からは斜面の下の方まで長く続く石の階段が見えた。ふと気配を感じて振り返る。その正体は等速でこちらに向かってくる老婦人だった。前方だけを見つめ、滑るようにわたしの側を通り過ぎる。レースカーテンをするりとくぐって窓際に座ると、無機質な早口でカラカラパタパタと喋りだした。レースカーテン越しの横顔は一切の無表情、夜風の冷たさも手伝って、その様子はからくり人形そのものだ。思わずため息が漏れる。ああ、彼女も人間ではなかった……。

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