第19話 格上【side.ファブリス】
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二人の構えを見た時、僕は驚愕のあまり目を見張った。なんというレベルの高さだろう。この張り詰めた空気……騎士同士の決闘と、まるで遜色ないではないか。
「二人とも動かないな」
「馬鹿、動けないんだ。軽々と動ける訳がないだろ」
「……お前なら胸のでかい方にどう切り込む」
「俺に聞くな!……くそっ、あれはやばいな」
「ああ、同感だ。俺なら絶対に近付かない……この距離でも近過ぎる」
流石に剣の経験を持つ男子は、彼女たちのレベルにすぐ気付いたようだ。
まずセーレの構えは流石と言っていい。魔法が使えない分、それ以外の部分に力を注いできたと公言しているだけあって、実に実戦的な構え方をしている。野盗がすれば下品にしか映らない構えも、彼女が取ると洗練された機能美すら感じられた。まるで彼女がいつも書いている魔法陣のように。
だがもっと素晴らしいのはカロリーヌ嬢だ。いや、圧倒していると言って良い。
隙が無さ過ぎるのだ。軸がブレず、切っ先もピンとして一切揺れていない。そして何よりも、普段とは比較にならない眼力の強さ。真正面から対峙すれば、並のご令嬢であればそれだけで失神させられるだろう。
「……僕では無理だ。どの角度から切り込んでも、間違いなく反撃を喰らう」
唐竹一閃か、それとも横一文字による二つ胴か、あるいは首打ちによる断頭か。その予感があまりにも現実味を帯び過ぎて、喉奥が我慢出来ないほどの渇きを訴えている。
たとえ背中から切り込んだとしても結果は同じだろう。そう思わせる程、彼女がまとっている空気は異常だった。
……強い。あまりにも強すぎる。魔法抜きでやるならば、間違いなく僕の遥か高みにいる。まさかあのカロリーヌ嬢が、こんな実力を隠し持っていたとは……!!
「つ、強い……!?何なのよ、あの
やはりドロテ嬢も気付いたか。恐らく同じ獲物を持つセーレに、自分の姿を重ねていることだろう。
カロリーヌ嬢は特別身体能力に恵まれている訳ではない。持久力も並の貴族よりはマシと言った程度だし、今も身体強化の魔法を使っていない。だがあの構えと隙の無さは、繰り返しの修練が為せるものに間違いない。
恐らくこれまでの彼女は、自らの基礎体力や魔法技術が他人よりも劣っていると自覚して、入学までは剣に活路を見出していたのだろう。今はセーレに倣って魔法陣の習得に専念しているようだが、積み重ねた修練は絶対に裏切らない。
……まずいな。セーレの勝ち筋が、見えない。
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