第3話 ゆずと通信高
F高のキャンパスはそこが学校だとあまり感じさせない。
入口はガラス張りとなっており、F高の制服が飾ってあったりするのだが、それでもなんともおしゃれな雰囲気が学校だと感じさせない。壁にはレンガの壁紙が貼られており、床には青めのフローリングタイルが敷かれている。細々としたインテリアが壁に飾られており、その一つ一つにひしひしとセンスを感じる。
「おう、秋次。そんなところで突っ立ってどうした」
「今日から2年生なんだな〜と感慨に耽ってた」
話しかけてきたのは池上 解(いけがみ かい)。変わった名前だが、本人曰く、どんなことにも自分なりに解を出せるようになって欲しいという親の思いがつまった名前らしい。解はどちらかというとイケメン、というかイケメン、悔しいことに圧倒的にイケメン顔のいい奴である。
「分かるわ〜進路決めねないといけないとな〜って感じ」
「はは」
乾いた笑みがもれる。進路か〜昔は他人事みたいなぞんざいな扱いをしていたけど決めなきゃいけないんだよな。
そんな感じのことを考えてると解がホットレモンを渡してくる。ほんと、学校の前に自販機あるのも珍しいよな。でか学校内に普通に2台自販機あるけど。
「サンキュ。悪いな」
「いいってことよ。とりあえず中入ろうぜ」
「そうだな」
受付の人に学生手帳を見せ、中にパスしてもらう。
「そえば、ゆずトレンド入りしてたな。そこんとこRightさんとしてはどう思う?」
「ああ、ゆず、あれマジで俺の妹になったんだよね」
俺はホットレモン片手に小声でつぶやく。
「…………ん?」
「ほら、前々から父さんが結婚するかも〜って。で、その人の娘がゆずだったって話」
「はああああぁぁ!?」
「声が大きいって」
解は父さんの次に信頼している人物だ。別に言っても構わないし、ホットレモンを奢られた者たるものネタの提供の一つでもするべきだろう。解も広めるような真似もしないはずだ。
「おま、えぇぇ?ゲームで超絶美少女と出会った挙句にその美少女とリアルでも偶然会うか?どんな天文学的確率だよそれ!」
「こっちとしては願い下げなんだけどな」
そう言って苦笑する。それと、これは後から聞いたことなのだが、柚葉のことを事前に知らされていなかったのはサプライズらしいかった。
「なら貰っていいか?」
「パスなら繋いでやらなくもない」
「マジかよ、でも俺にはめいいるからいらん」
「そだと思った」
めいちゃんとはこいつの彼女である。金髪短髪。チミっこいけど元気系。普段からゆずを見ている俺からしても普通に美少女だなと思う。
ついでにいうと解はロリコンである、そのついでにいうとF高男子の5割以上ロリコンなんじゃないかと思ってる。理由は明白で、単純にF高の生徒の趣味が9割以上アニメ&ゲームだからである。アニメにハマってる男子はロリコンだとはよく言うし、たぶんそうなのだと俺も思う。F高男子に出会ったら五分五分でロリコンだと思っておくことだ。
と、教室に到着。
「めいちゃんおらんな」
するとピロンと解のスマホが鳴る。
「めいリートしてるわ」
「噂をすればってやつか」
ラム『遅刻確定のラムです。おはようございます(泣)』
「今起きたって、リートしてる」
「終わったな。彼氏なんだし、迎え行けよ」
「俺まで遅刻するんですけど!?」
「アニメでよくある彼女と一緒に遅刻するってシチュいいと思わないか?あーめいちゃん可哀想だな〜一人で寂しく登校するんだ〜」
「……俺ちょい今から行ってくるわ」
「おう、いってら」
そう言って走る解の背中を俺は見守るのであった。
その後、駆けて教室内に入ってきた解とめいちゃんは息を荒くしながらもどこか嬉しそうだった。
◇◆◇◆◇◆◇
今日が入学式ということもあって、今日の内容は軽〜いレクリエーションだった。なので俺は早めに帰宅できた。
Right『帰宅〜』
A『二度と帰ってくんなって言わなかったっけ?』
B『Rightさん、顔晒してくれないと轢けないんですけど?』
ゆず『お兄ちゃんもさっき帰ってきたんだけど?』
もちろんだが、このリートをしたのは帰宅した時間と少しずらしてる。
ゆず『今ヤレる?』
Right『ゲームな、ゲーム。準備するわ』
ゆずと出会ったのは『SPS』
名前の通り、FPSの剣戟版みたいなゲームだ。FPSの世界で銃が落ちてるみたいに、SPSの世界では剣が落ちている。
当初、ゆずはそこの古参プレイヤーで、俺は新規のプレイヤーだった。新規プレイヤーといっても、格ゲーもFPSもよくやってたために、操作にはすぐ慣れた。
ゆずは『1からアリーナやったら無敗でどこまで行けるのか』という企画をやってたらしく、そしたら偶然俺に出くわし、俺の前に敗北したというわけだ。そしたらフレンド申請が来たのでフレンドになり、いまに至る。
ゆずは性格上、とても負けん気が強く、アリーナレベル3にいるような初心者に負けてとても悔しい思いをしたそう。ちなみにだが、ゆずはめちゃめちゃ強い。そしてそのゆずに勝てる俺も強い。
「あーあーあーマイクテストーー」
「ゆずの方が何倍も可愛くできるね☆あっ//ああっ!!」
「今からゆずで抜くからいいって言うまで続けて?」
「キ・モ☆」
「あそ、アリーナで?」
「それでいいよ〜」
このようにボイチャで声を交わしあう俺とゆず。ゆずは下ネタマジで振りまくるから、こっちから逆に振ったほうが下ネタが長引かなかったりする。俺はゆずの声よりゲーム、三度の飯よりゲームなんですまん(思ってない)
それと、もちろん声は変えてある。というかゲームをするときは声を変えるのが俺のモットー。少しだけ機械音声っぽくしている。
「そういえばね〜」
「見てないで早よ助けてくれない?」
「ゆず、学校行くんだー」
「へぇ…………ええええ!?」
危なかった。戦闘に夢中で反応を誤るところだった。ゆずが引きこもりなことは周知の事実である。
本人曰く、『ゆずが学校に行ったら〜ゆず惚れられすぎて困っちゃうもん』
とのことらしい。まぁ、客観的にもみてあり得なくないことだとは思う。ただ絶対それが理由ではないことくらいは分かる。
「ちょ、驚きすぎだよぉ♡鼓膜破れてたら責任とってよね!」
「黙れ役立たず」
「ひど」
そうこうしている間に俺は
「で、学校に行くって?」
「その通り!Rightと同じ、F高だよ♡」
「ストーカー?」
「そうだって言ったら付き合ってくれる?」
「警察署まで付き合ってやるよ」
「や・め・て」
即座に否定してくるゆず。
「まぁ?ゆずほどの美少女でも一応高卒認定は欲しいし?けど学校には行きたくないし?なら通信行くしかないかなぁ〜なんて考えてて、そういえばRight通信だったな〜って思って調べてみたら想像以上に凄かったんだよね〜入試も必要ないし、動画授業だから巻き返しもできるから急いでノート取ることもないし、いつでも気軽に授業が受けられるって点も高い。おまけにスクーリング(学校に直接登校すること)がたったの4日しかなかったから、まさにゆずのため!ここに行こうってなった感じかなぁ」
いつもふざけているゆずと言えど、たまには真面目になる。
「ならいいんじゃね」
「それにしてもRight自意識過剰すぎだよねww 」
「………………」
「あっ!敵来ちゃ、敵!Right助けて♡え? Rightどこ行くの?助けてーー」
俺はゆずを助けなかった。当然だ。といってもゆずとて弱くないのでかろうじて勝っていた。
そしてゲーム終了後にlitterを開くとご覧のありさまである。つか撮ってたのかよ。
ゆず『Rightごときがゆずのことを見捨てた動画がこちら』
A『ゆず様になんてことを!!』
B『ゆず様!私ならば、忠実なる下僕としていつまでもゆず様の盾になることを誓えます』
C『ゆず様が叫んでる姿は叫んでる姿もお可愛い……それに比べてRightときたら』
Right『言っとくけどぜんぶこいつが悪いからな?』
何を言ってもゆず信者には通じないと分かっていながらもそうリートせずにはいられなかった。
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