第46話 庭が聖獣園✖食っちゃ寝女神達✖ボクっ娘の声。
焼肉をやろうと言ったのは俺ですよ。ええ、俺です。
だってそれが最善だと思ったから。でもね、人生何事もイレギュラーってやつが付き物で、うまくいかないときだってあるんです。はい、それが正に今、今日このときでした!
肉とジュースをたんまり買い込んで、倉庫からアウトドアテーブルと使い古した七輪取り出して、さあ、肉焼くか、ではファイナさんお願いしますってなったんです。
広義の意味でぎりぎり肉焼くのも料理じゃないですか。なのでファイナに烈火の魔法で肉を焼いてもらえれば楽だし、彼女の自尊心も満たされて一石二鳥。俺は食ってるだけで済むぜ、いやっほぅぅっ!
――なんて思った時期もありました。
肉。ファイナの魔法で真っ黒になりました。五右衛門風呂を温めるように魔力を調節すればいいものを、こっちのほうが早いからってファイアーボールぶつけやがったんですよ。
でもほら、ファイナは真っ黒な物体でもうまく焼けたとか思ってるから、俺達に食べなよとか普通に言うんですよ。ちょっとそこんところがおかしい駄女神だから。
そんなファイナに正直に「食えるかっ、こんなう〇こみたいなもんっ!!」って言えればいいですけどね。これが言えないんですよ。俺達、みーんな、優しいから。
で、解決方法として俺がひねり出したのが、イフリートも焼肉パーティーに参加させようという妙案でした。あいつならこれをうまそうに食するだろうと。
その目論見はうまくいきました。あいつはあのう〇こみたいなのを、それはまあおいしそうに食ってましたよ。
そこまでは良かったんですけどね、ここでウィンウィンがほかの聖獣も召喚しようよと言っちゃいましてね、四体全ての聖獣が俺の庭に集結。庭はさながら聖獣園状態ですわ。鯉は食うなという言いつけを守っていたのはいいものの、かわりに焼肉食わせろ的な視線を俺は一身に浴びました。
こうして俺は四人+四体分の肉を一人で焼くことになりました。
どうして俺一人で焼くのかだって? ファイナに任せると黒焦げにされるし、だからといってほかの女神は焼肉が初めてで、焼き加減も全く知らないようだったし、そもそも俺が言い出しっぺっっていうのもあり、流れ的に。
それはもう、めちゃくちゃ肉を焼きましたよ。焼いては食われ、焼いては食われ、途中、肉が途切れたら、イフリートやカーバンクルが小動物や昆虫を捕まえてきてこいつを焼けみたいなのを全力で拒否して、肉を焼いて焼いて焼いて焼きまくって――。
食べることに遠慮を知らないのは主にファイナとアスリコットと四聖獣なんですけど、特にアスリコットの大食いぶりには唖然としたね。お前はギャ〇曽根かと。おかげで俺が食う肉がなくなるなんていう危惧もあったんですけどね。そこはアイシアのおかげで助かりました。
ビール三本飲んでできあがっていたアイシアが、俺のとなりに立って肉を食わせてくれたんです。「一平ちゃん、はいどうぞ。あぁら、おいしそうに食べちゃってぇ。可愛いわねぇ」みたいな調子でずっと。酒臭い息を吐きながら。おかげで俺の腹は八分目には達したんですけど、こんなアイシアは見たくないっていうのが本音ですね。
そんな調子で焼き肉パーティーは続き、三時間後には肉はなくなりました。幸いにも皆、腹が満たされていたようで聖獣達は満足そうに精霊界へと帰還。ご主人様達と言えば、アスリコットは大広間で大きくなった腹を出し大の字になって寝ていて、アイシアも居間のソファでスヤスヤと就寝中のようで。
ファイナはどこにいるか分からなくて、ウィンウィンはというと――……。
「ウィンウぃン、別にいいんだぜ。後片付けなんか手伝わなくても。ファイナはともかく、ウィンウィン達はお客様なんだから」
言ってから、しまったと後悔。
ノートとペンがないし、居間に取りにいくにしても少し遠い。やべ、どうしようと焦っていると、ウィンウインが肩をトントンと叩く。振り向くと彼女の顔の下にはノートがあった。
『ひまでやることもないし、だから一緒にかたづけます』
「そっか。それは助かる。ところでそのノートとペンはどうしたんだ?」
斜め掛けのバッグからノートとペンのセットを取り出した。
「あれ? そんなものいつの間に?」
『ざいりょうをいっしょに買いにいったとき、バッグとノートとペンを買ったんです』
「そうなのか。確かに手元にあったほうがいいもんな。っていうか、俺のためだけになんか悪いな」
『だいじょうぶです。ノートとペンのセットで一五八円でしたから(๑•̀ㅂ•́)و』
「いや、値段の話じゃなくて、いちいちノートとペンを出して使わなきゃいけないっていう労力のほうだよ。俺がアフェクション波とやらで会話できればそんなもの必要ないんだよなぁ」
ウィンウィンが、何か考える仕草を見せる。すると若干、顔を赤くしながらノートにこう書いた。
『ためしてみます。いまのボクといっぺーさんなら、すこしくらいはアフェクション波でやりとりできるかもしれません』
確かアフェクション波でやりとりするには、〝お互いの感情が相互で良好〟である必要があったはずだ。
俺はウィンウィンに対していい感情しか持ち合わせていないし、ウィンウィンもそうだとすればやりとりは可能なような気がする。
「よっしゃ。やってみるか。……あれ? でも俺はどうすればいいんだ? なんかこう、念じるように話したりすればいいのか?」
『いっぺーさんはとくにやることはありません。ボクのほうから出すアフェクション波の大きさしだいですから。だから、ためしてみますなんです』
「そっか。じゃあ、話してみ。しっかり聴き取ってやるぜ」
ウィンウィンが緊張を
「聴こえないな。で、でも今のは、大広間で寝ているアスリコットのいびきがうるさかったってのもある。ええいっ、食っちゃ寝してるだけの岩の女神めっ。……ウィンウィン、もう一度試してくれないか?」
嬌嵐の女神がこくりと頷き、再度口を動かす。が、やはり聴こえない。
気落ちしたようなウィンウィンがノートを見せてくる。
『ごめんなさい。アフェクション波があんていしないので大きくなりません。いっぺーさんとしりあったばかりだからかもしれません』
なるほど。しかし俺は諦めたくなかった。たった一日、されど一日。会ったばかりの昨日より関係は良好なはずなのだ。少しくらいは聴けたっていいじゃないか。
俺はボクっ娘女神の声がどうしても聴きたくて、ウィンウィンのそばに寄った。耳のすぐ近くで話してくれれば聴こえるかもしれない。それはウィンウィンも思っていたことなのか、彼女は自分から俺の耳元に口を寄せてくれた。
ウィンウィンは自分の声を俺に聴かせたい。
俺もウィンウィンの声を聴き取りたい。
その思いが強固に結びついたとき――。
微かだが、ウィンウィンの声が俺の耳の奥に伝わった。
ボクと仲良くしてくれてありがとう。
彼女は俺にそう言ったのだ。
「聴こえた……聴こえたよ、ウィンウィンっ! やったーっ」
俺はウィンウィンの手を握り、そして彼女の瞳を見詰める。
「俺のほうこそ仲良くしてくれてありがとな。これからもちょくちょく家に来てくれよな。あと今度、秋葉原も一緒に行こうな」
ウィンウィンの顔に花が咲く。
そんな彼女の口がめちゃくちゃ動いて俺に何かを伝えているが、残念ながらその声は聴こえなかった。だが、何度も会っているうちにいずれは普通に会話できるときが来るだろう。俺はそう、確信できた。
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