第44話 一番ダメな女神様✖公務執行妨害✖ご都合主義。
「な、なんで泣いてんだよ、ファイナ?」
「こ、これは……、め、目に砂が入っただけよっ。ほら、さっきまで私とアスリコットでバトってたじゃない? だ、だから砂が舞って、その砂が目に入ったのっ」
「ふぅん、そっか。でもあんまり目をこするなよ」
「バカ、そうじゃなくってっ」
「は? バカとか意味わかんねぇんだけど」
「だから……っ」
ファイナの気勢がトーンダウンする。彼女は右へ左へと視線を揺動させたのち、最終的に地面に着地させた。
「感謝してくれて嬉しい。ありがとう」
「お、おう」
微妙にいたたまれない空気を感じ取ったとき、アスリコットが「はいはいはいはいっ、もういいのですっ! 拙者を差し置いて二人の世界に入るな、なのです」と割り込んでくる。
助かった。アスリコットのおかげでさっきまでの雰囲気が搔き消えた。
「あ、そうだ。そういえばちゃんと自己紹介してなかったよな。知っての通りだが、俺は山田一平。一応、スーパー勇者らしい。よろしくな」
「ふん。拙者はゴーレムを従いし轟石の魔法を操る
面倒くさそうに自己紹介をするアスリコット。
あまり気に入られていないようだが、それはファイナへの愛情ゆえだろう。一応、誤解……というよりアスリコットの思い込みも解消されたのでよしとしよう。
そのとき、パトカーのサイレンが聞こえる。しばらくすると数台のパトカーが視界に入り、物騒だななどと思っていたら学校のほうに向かってきた。目的地は学校のようだ。
なんで?? と思ったのもつかの間、俺はここにきてようやく置かれている状況を思い出した。
大勢の生徒と先生の視線を意識した瞬間、三人だけの世界が瓦解する。
場所が遠いので会話こそ聞かれなかっただろうが、皆が見ていたと思うと急に恥ずかしさがこみ上げてきた。依然、学校内ではモブキャラである俺に注目耐性はない。ガクブル状態の体に鞭を打つ俺は、なんとか声を出した。
「に、逃げよう。あのパトカーは巨大な聖獣を見た生徒か先生の通報を受けてやってきたはずだ。ファイナやアスリコットが魔法で戦ったことも知られているかもしれない。俺達は絶対、事情を聴かれる。だから早く逃げようっ」
そういえば、イフリートとゴーレムはすでに消えている。ファイナとアスリコットが聖獣界に戻したのだろう。警察に目視される心配はなくなったが、大勢の生徒や先生が目撃してしまった時点で後の祭りである。
ああ、くそっ。
俺の学校生活は終わったな。いや、もしかしたらこの丹鳴町からも出ていくはめになるかもしれない。今後のことは、とりあえずここから逃げたあと考えるか。
「逃げる必要なんてないのですっ。きゃつら地上のケーサツが拙者達をタイーホするなどちゃんちゃらおかしいのです。しかしきゃつらがその気なら、こっちも全力で立ち向かうのみなのですっ!」
そしてゴーレムを再び召喚するアスリコット。
え? また? って顔のゴーレムが〝そのものの姿〟で校庭にあらわれた。
お前、何やってんのっ!?
校庭に入ってくるパトカー(1)がびっくりしたように急停止する。そのパトカーにぶつかる後続のパトカー(2)。その後続のパトカー(2)のボンネットに上がり、態勢を崩して横転するパトカー(3)。その横転したパトカー(3)避けてサッカーゴールのポストに衝突するパトカー(4)。
計、四台のパトカーが一瞬にして走行不能となった。
えええええええっ!!?
思い込みからくる考えなしの猪突猛進な駄女神のせいで、大変なことになった。
ファイナローゼ、アイシア、ウィンウィンも各々の理由で駄女神認定しているが、アスリコットは、抜きんでてヤバい駄女神のようだ。
「ばっかっ、何やってんだよっ! こ、これあれだぞ、公務執行妨害だぞ、多分っ」
「だったらこっちは女神タイーホ罪でぶち殺すのですっ。ぬはははははっ!!」
「だーっ、話になんねーっ。――おい、ファイナ、この状況、一体、どうしたらいい!?」
するとファイナは然して焦った様子もなく、こう言い放つのだった。
「大丈夫よ。これ以上、何もしなければ。だからアスリコット。まずはゴーレムを精霊界に返してあげて」
「む? ファイナがそういうなら、そうするのです」
素直に従うアスリコット。
え? なんで召喚したの? って顔のゴーレムが精霊界へ戻された。
しかし、このあとどうする気だろうか。俺はその疑問をそのままファイナにぶつけた。返ってきた答えはこうだった。
「まずは一平の言った通り、ここから逃げるのよ。ていうか、一旦、瞬間転移で天界へ避難するね。私の天聖陣に入っていれば、一平も一緒に行けるから」
天界へ避難?
え? それって――……。
「お、俺も天界に行っていいのかよっ!? え? マジで!?」
「うん。あ、でも天界に行っても天聖陣からは出れないから、外を見ることはできないけれどね。じゃあ、行くよ」
ファイナとアスリコットが同時に天聖陣を出す。
俺は言われた通りファイナの天聖陣に入る。すると水中にいるかのようなゆったりとした浮遊感が全身を包む。驚嘆に声を上げそうになったそのとき、いつもの重力が戻った。
「……着いたのか?」
「うん、着いたよ」
「何も見えないぞ」
筒状の周囲はすりガラスのようにぼやけていて、外は全く伺い知れない。
「だから言ったじゃない。外には出れないし見ることもできないって。ここが天界の神以外の限界到達点。でも人類史上初だよ。すごいことだと思うな」
人類史上初は何事もすごいことだろうが、いまいち感動しないのは天聖陣の中に隔離されている状態だからだろう。ぶっちゃけここが本当に天界さえ分からない。
外に出ることによって、天界であるか否かが確定される――。
えっと、こういうのを〝シュレディンガーの猫〟って言うんだっけ。いや、違うか。
なんてことを考えていると、ファイナが「ちょっと待ってて」と天聖陣から外に出て、体感的に三〇分くらいでようやく戻ってきた。
「遅ーよ。全然、ちょっとじゃなかったぞ」
「ごめんなさい。でも、もう大丈夫。さ、学校に戻りましょ」
天界だったらしい場所から俺は、再び天聖陣を使って学校へ戻るらしい。
当然、俺はファイナに聞いた。何をして、何がどう大丈夫なのだろうかと。そして彼女の説明を聞いた俺は一〇〇パーセント納得したのだった。
異世界部の記憶操作課と地球情報課の力を借りて、あの騒動を目撃した全ての人間の記憶の消去、及びSNSに流れた情報を削除したらしい。なので俺とファイナは普通に授業を受けることができたのだった。
清々しいほどの御都合主義に乾杯っ。
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