第41話 ゴーレム✖童貞丸出しオタク野郎✖暗黒魔術師。


「な、なななななな、なんだよ、あの巨人っ!? え、夢? 幻?」


 俺は驚愕から、持っていたコーヒー(魔法であつあつ)を手の甲にこぼす。めちゃくちゃ熱かった。うん、現実である。


「あれはゴーレムよ。でもなんで学校の校庭に……っ!?」


 ファイナがゴーレムの名を出す。

 言われてみれば、あの岩のようにごつごつした体はゴーレムそのものだろう。ただ、あの岩の体を覆うようなオーラみたいなのはなんだろうか。見たことがあるんだが、どこでだっただろうか……。って、ファイナに聞いたほうが早いか。


「あのゴーレムを知ってるような口ぶりだな。知ってるのか?」


「知ってるも何も、あれは精霊界の聖獣よ。イフリートやシヴァ、カーバンクルと同じ聖獣なの。ただ、デフォルメモードじゃなくて〝そのものの姿〟っていうのが違うだけ」


「! そうか。思い出した。最初イフリートが出てくるとき、あんな感じのオーラをまとっていた。ん? ちょっと待てよ。あれが聖獣ってことは、ゴーレムを従えている女神が近くにいるってことじゃないのか?」


「ええ、そうよ。ゴーレムを従えている女神は私の友達の……」


「山田一平とやらはどこにいるのですっ? 出てこないと学校をぶち壊してやるのですっ! 出てきたらお前をぶち殺してやるのですっ!」


 聞いたことのある声。口調。

 間違いない、昨日の夜に俺の妄想に入り込んできた奴だ。


「ファイナの友達って、残りはあと一人だったよな?」


「うん。名前はアスリコット。今日の一平の話を聞いてもしかしてって思って……。でも一平をぶち殺すって――本気なの? あの子」


「山田一平くーんっ! 早くでてこないと本気の本気で学校を破壊しちゃうのでーすっ!! ……出てこんかいっ、この童貞野郎が、ですっ!!」


 大声で童貞ゆーなっ! 童貞だけれどもっ!!


 行かなきゃとファイナが屋上のフェンスへと走り出す。

 何をするのかと思ったらフェンスを飛び越えた。


「おいっ、ファイナっ!」


 フェンスに走り寄る俺は眼下を見る。

 普通に着地しているファイナがいた。女神は万有引力の影響は受けないようだ。だが、人間に成りすましている榛名ロゼがやってはいけない行動である。それほどの緊急事態なのかもしれない。


「一平も来てっ。二人で説明したほうがいいから」


「お、おうっ」


 俺は階下への階段へと走ると、そのまま校庭まで全力疾走。そして学校の正面玄関で待っていたファイナと合流した。

 

 教室の窓から大勢の生徒が顔を覗かせている。まさかこんな形で注目されるとは思わなかった。もう普通に学校生活を送れないかもしれない。童貞ってこともばれてしまったし。


 巨大なゴーレムの下で腕を組んで仁王立ちしているアスリコット。

 妄想の中でみたシルエットでは、やけに頭がとんがっていたが、その理由が分かった。アスリコットは魔法使いみたいな黒いとんがり帽子をかぶっていた。

 

 着衣はフード付きの黄色いジャンパースカート。間違いなくゴッデススーツだろう。スカートの部分がフレア状になっていて、女神というよりかはやはり魔法使いみたいだ。


 俺とファイナはアスリコットへと近づく。

 そのアスリコットが口火を切る。


「よぉし、来たのですね。山田一平。ふむふむ、確かに『地球情報課』に聞いた情報通りなのです。〝童貞まるだしの冴えない最底辺オタク野郎〟そのものなのです」


 ひどっ!

 でも合ってるっちゃ合ってて、地団太踏みたい気分っ。


「そんなひどいこと言っちゃだめだよ。アスリコット。――来てたんだ」


「さっきからいるが、お前は誰だっ……って、あれ? え、うそっ!? ファイナ、なのですかっ?」


「うん、私だよ。つい最近会ったのに、なんか久しぶりって感じだね」


「なんで、そんな恰好をしているのです?? ……はっ!? そういうことかっ。ぬぐぐぐぐっ」


 鬼の形相のアスリコットが俺を睨みつける。

 可憐な顔立ちだから、尚更そこに含まれる殺意をひしひしと感じてしまう。


とは、ずえったいに許せないのですッ!! 今すぐ、ぶち殺してやるのですッ!!」


 なんかものすごい誤解してるっ!?


 アスリコットが左手に持っていた杖を頭上に掲げる。これまた魔法使いみたいな小道具だなと思ったのもつかの間。「ゴーレムっ、山田一平を踏みつぶすのですっ! ファイナはそこから離れるのですッ」との声と同時に、ゴーレムの足が頭上に落ちてくる。


「……ぁ……」


 足がすくんで動けない俺は人生終了のお知らせを聞いた。


 ――のだが、「や、止めるのですっ、ゴーレム」の声で生き長らえた。

 ゴーレムの足が頭上一メートルくらいのところで止まっている。俺のとなりには毅然とした表情で立ったままのファイナ。彼女がいたままだから止めざるをえなかったのだろう。


「なんで離れないのですっ!? ファイナ。ファイナなら烈火の魔法でブーストしてそこから離れられたはずなのですッ!」

「離れたくないからよ。離れたら一平が死んじゃう。それだけのこと」


「フ、ファイナ……? はっ!? もしかして洗脳されているっ!? ぐぬぬぬぬっ、暗黒魔術師山田一平めっ、絶対に許さないのですッ! 拙者のファイナを返すのですッ!! ロックマシンガンッ!!」


 女神なのに呼び方、拙者!??

 暗黒魔術師の件に突っ込もうとしたけど、そっちにびっくりしたわっ!

 って、ロックマシンガンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! じゃなくてきたーッ!!


 正に石のマシンガンともいうべき魔法に、今度こそあの世行きかと思いきや、


「ファイアウェイブッ!」


 ファイナの烈火の魔法でロックマシンガンが消失した。

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