第40話 丹鳴西高校の生徒A✖学校一の美少女✖巨人??


 俺は自他ともに認めるモブ系男子である。

〝自〟はともかく、〝他〟はなぜなのだと問われば、今正に置かれている状況がそれを物語っている。


 場所は体育館。体育の授業で俺は今バスケットボールをしている。いや、しているのは俺のチームメイトと対戦している奴らであり、俺は半ば障害物と化していた。

 スポーツがあまり得意でないのも自他ともに認めるところであり、よって俺にはほとんどパスがこない。


 そう、〝ほとんど〟であり〝半ば障害物〟というところがポイントだ。完全に空気ではなく、一応のところ存在を認められているのが、俺をモブたらしめるゆえんだろう。


 イケメン。勉強ができる。スポーツが得意。面白い。オシャレ――。

 スクールカーストの上位であれば、どれかしら持っているであろうステータスだ。それらを所有していない俺は、逆にスクールカースト最底辺で悪目立ちすることもない、丹鳴西高校の生徒Aだったのだが――。


「「「「おおおおおおっ」」」」」


 と待機中の男子達から歓声が沸き起こる。

 俺のチームメイトがスリーポイントシュートを決めたから。ではない。体育館の向こうでバレーボールをしている女子に対してである。ではその女子は誰かというと、豪快なサーブを相手コートにぶち込んだ榛名ロゼこと、ファイナであった。


「榛名さん、ナイスサーブっ」


「さすが、俺達の榛名ちゃんっ」


「いいよ、いいよ、すごい、いいッ」


「ロ、ロゼ、あー……イッ……ううっ、ウッ……ぁ」


 最後の奴っ!?


 勉強もできてスポーツも堪能。女子にも男子にも人気があり、何よりも〝学校一の美少女の称号〟を得たらしいファイナには、すでにファンクラブができたとか。つまりファイナは本来、俺とは住む世界が違う見ることさえ叶わない高嶺の花である。――天界に住む女神だけに。


 そんなファイナと俺が、というのは学校内で周知の事実になっていて、だからこそ俺の立ち位置は極めて微妙と言えた。


 俺に四回目のパスがくる。

 まさかパスがくるとは思わなかった俺は、なんてことはないボールを取りこぼして相手に奪われた。

 

 あってはならないイージーミス。ファイナ編入以前の俺の立場だったら、罵倒ものだろう。しかしファイナ編入以後の今は違った。


「チッ……どんまい」


「ころ……ま、そういうこともあるさ」


「あ゛あ゛ッ!?? ……次からしまっていこうぜ、山田っ」


 お分かりいただけただろうか。

 ファイナと仲がよくて一緒に通学している俺に対する、スクールカースト上位勢の遠慮を。


 おそらく彼らの心中にある劣等感が、そうさせているのだろう。

 イケメン。勉強ができる。スポーツが得意。面白い。オシャレ――。これらは〝学校一の美少女ファイナと仲がよくて一緒に通学している〟というステータスの前では、大した価値もないようだ。


 こうして俺は、スクールカースト中の下モブキャラでありながら、上の連中に対等に並ぶという特殊な立場を得ていたのだった。


「一平っ。今の見てくれた? すごかったでしょ、今の私のサーブ」


 その他男子の声をかき分けるように、遠くの俺に話しかけてくるファイナ。

 彼女のようにここから大きな声で応えるのも気が引けるので、俺はサムズアップで答えた。見てないけどな、ファイナのサーブ。


 全ての男子の視線が俺に集まる。

 それらに含まれた感情を理解する俺。そして想像してしまう。もしも〝ファイナと同居している〟ことが学校内に知れたらどうなってしまうのだろうかと。


 抹殺されるかもしれない。


 俺は本気でそう思い、身を震わせた。



 ◇



「――というわけでさ、せめて帰るときは少し距離を離したほうがいいと思うんだけど、どう思う?」


 学校の屋上。

 学校の屋上といえば昼飯であり、俺とファイナは相変わらず学食のパンをかじっていた。

 

 ちなみに今日は大人気のメガトンカレーパンを買うことができた。一つだけだったが、大きいのでファイナと半分づつにしている。もちろん、ファイナの魔法でほっかほか。絶対に魔法の使い方を間違っているが、そこは指摘しない。


「えー、意味分かんない。ほかの人がどう思おうと関係ないじゃん。私は一平のとなりを歩いて一緒に帰りたい」


「そ、そっか」

 

 はっとした顔のファイナ。


「べ、別に好きとかじゃなくって、一平がオッパニアを救いたいから異世界に行くっていう可能性だって兆が一あるかもしれないし、エース女神としてその瞬間を見逃すわけにはいかないじゃないっ?」


 兆が一って、それ、可能性は〇っていうんだよ。


「それに、お昼ごはんだって灰家さんと食べてるし、大丈夫だよ。いつも一平と一緒にいるわけじゃない」


 コピーロボットおっぱいのでかいほう絶賛、稼働中っ!


「でもなぁ。うーん。どうしよっかなぁ……」


 なんてメガトンカレーパンをぱくつきながら葛藤していると、


「もー、なんで悩んでるのよっ。私が学校一の美少女じゃなかったら良かったわけ!? でもしょうがないじゃない、私が学校一の美少女なんだからっ。……私が決めたんじゃないもん。学校の男子が投票で、私を学校一の美少女だって決めたんだもん。私は学校二でも良かったのに」


 それ、学校一の美少女の逆鱗に触れるやつっ。


 悲しそうな表情のファイナ。

 そもそも彼女は女神である。地上の学校で一番の美少女に選ばれるなど、ある意味当たり前だ。そう考えると、学校一の美少女であることに罪悪感を覚えさせている俺に非があるとも言える。

 

 そもそも、同居を解消しようとはこれっぽっちも思っていない俺だ。帰るときに距離をあけたところでお茶を濁せるとも思えない。ただ、ほかの男子達の俺に対する羨望やら嫉妬やら憎しみ、あるいは殺意めいた感情のごった煮に晒されるのが精神的に疲れるわけで――。


 どうにか解決策はないかと思索をはじめたところで、誰かの叫び声が聞こえた。それは数珠繋ぎのように拡散していき、またたくまに学校中が叫喚の渦に包まれた。


 なんだっ? 何があったんだっ!!?


 すると俺は叫び声の元凶を目にする。

 校庭にはキングコングくらいの大きさの巨人がいた。

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