第37話 俺は鬼〇隊じゃない✖てぇてぇ✖同居の申し出。


 張り詰めた空気を俺は肌で感じる。

 こんな緊張感は生まれて初めてかもしれない。ファイナを見れば、その表情は一切の余裕を排除したかのように引き締まっている。それもそうだろう、勝負はここで決まるのだ。どちらかが勝ち、どちらかが負ける。それ以外はない。


 俺は全集中の呼吸っぽいものを繰り返す。

 タイミングを見計らう俺とファイナ。

 図らずも耳にした鹿威しの音が、二人の指を同時に動かした。

 

 ファイナ人形が俺の人形より早く、手に持っているピコピコハンマーを振り下ろす。それは俺の人形の脳天に直撃した。俺の人形の首は後ろに向かってボヨヨヨヨーンと外れた。


「よっしゃあああああっ、私の勝ちっ!」


「ぐおおおおおおおおっ、む、無念っ!」


 これにて、エポッ〇社のポカポンゲームに似た、『ボコスカゲーム だんしん君VSめがみちゃん』の勝者はファイナとなった。


「勝因は呼吸ね、呼吸。私は、大きく増強した心肺により一度に大量の酸素を血中に取り込むことで、血管や筋肉を強化させて瞬発能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸法を使ったの」


「全集中の呼吸かよ。でもずるいだろ。それって天界の女神だからこそできる呼吸法だろ」


「そんなことないわよ。大正時代の鬼〇隊の人間だって習得してるじゃない」


 それ、虚構の世界っ。


「まあ、いいや。負けは負けだ。でも次はその呼吸法はなしだ。だって俺はできなんだからな。フェアじゃない」


「うー、分かったわよ。でも一平も習得すればいいのに」


 かめはめ波と一緒で、できそうでできないからねっ!?


 そのとき、居間に入ってくるウィンウィン。

 嬌嵐の女神は今日は家に泊まっていくので、自慢の五右衛門風呂に入ってもらったのだが――。


 おやっ? おやおやおやっ?


 ウィンウィンもファイナと同様にパジャマ姿なのだが、そのパジャマに俺は見入ってしまった。

 白と水色のツートンカラーで構成された、ダボっとしたペンギンのパジャマ。ウィンウィンの頭はそのペンギンに食べられているかのように、すっぽり収まっていた。


 萌え。否、――尊いてぃてぃ


「ウィンウィン、そのパジャマ、ペンギンみたいだけど、なんていうキャラクターなんだ?」


「――っ!?」


 ピタっと固まったウィンウィンの表情がみるみる強張っていく。すると左目が右往左往しだして、口がわなわなと震えだした。まるで、感情表現を覚えたハムスターのようだ。


 ああ、そうか。ノートがないからか。


 俺は机の上にあったノートとペンをウィンウィンに渡す。すると彼女は落ち着きを取り戻して、開いたノートのページを見せてくれた。


『ペンたこった!っていうキャラクターだよ。なんてこった!って顔してるでしょ? だからペンたこった!』


「へー、ペンたこった!か。ウィンウインに凄い似合ってる。ペンギンの愛嬌がウィンウィンの可愛らしさを更に引き上げているって感じ。うん、いいねっ」


『ほめてくれてありがとう⁺o(⁎˃ᴗ˂⁎)o⁺』


「ふーん。私のパジャマ姿は褒めてくれなかったのに、ウィンウィンのは褒めるんだ」


 ファイナがジト目で俺を見てくる。


「あ、あれ? そうだっけ?」


「そうよ。じろじろ見てきて、それだけ。何も言ってくれなかった。なんか不公平で嫌な感じー」


 その〝じろじろ見た〟に、多分な好印象が含まれているんだが。


 すると、ウィンウィンがファイナのそばにより、アフェクション波を用いた会話を始める。


(――。)


(え? ウィンウィン、何?)


(――。)


(うんうん。それで、それで?)


(――。)


(え……? うそ、やだ恥ずかしい)


(――♪)


(でも、そうだったらすごい嬉しいかも)


 小声で聞こえないが、一体何を話しているのだろうか。


 顔を赤くしたファイナが俺に視線を向ける。


「別に、正直に言ってくれればいいのに」


 ウィンウィン、ファイナに何を言ったっ!?


 ファイナとウィンウィンはそのあと二人の世界に入って、俺は会話の輪からはじき出された。

 そういえば、アイシアはどこだろうと探してみれば、昨日と同じように縁側に座っていた。ビールの缶はない。俺はほっと胸をなでおろす。今日のアイシアは素面しらふのようだ。


「よう、アイシア。まったり中か?」


「あら、一平さん。ええ、ここは本当に落ち着きます」


 そんなアイシアの左となりに聖獣がいることに気づく。アイシアに従っている、えっと確か……。


「シヴァ、だっけか? その聖獣」


「そうです。よく覚えていましたね。さあ、シヴァ、一平さんにごあいさつを」


 シヴァはすらっとしたネコのようだった。

 体の色は青色。特徴的なのはまるで人間のように伸びた髪の毛だった。その髪の毛はアイシアようのに長く艶やかで、一種の神々しさすらあった。


「ニャアアアアアン」


「こんばんは、シヴァ。美人さんだな、お前。まるでアイシアのようだ」


 アイシアの肩がぴくりと動く。


「一平さん。……それはわたくしが美人だということですか?」


 う……。素直に思ったことを普通に口に出してしまった。

 まずいことを言ったわけではないが、余計な例えだったかもしれない。


「そ、そりゃ、そうだろ。別に俺じゃなくても誰もがアイシアのことは美人だって思うんじゃないのか」


「つまり一平さんが、わたくしのことを美人でいい女だと思っているのは間違いないのですね?」


 いい女が追加されてるけど否定はできないっ。

 できる人間の男がいるわけがないっ。


「あ、ああ。間違いない。こ、これでいいかっ?」


「では聞きますが、そんな美人でいい女で料理も上手なわたくしが、?」

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