第35話 五〇〇〇円✖アフェクション波✖コミュ障です。


 肉まんだけというのもアレなので、俺は自炊用の材料も一緒に買うことにした。

 

 とりあえず肉じゃがにでも挑戦しようかと、俺は酒とみりんをカゴに入れる。じゃがいもやにんじん、豚肉にたまねぎは、カレーを作ってもらったときの残りがあるのでそれを使うことにする。というより、その材料を生かすための肉じゃがなのだ。


 ほかに買うものはないので俺はレジに並ぶ。

 銀髪の少女はちゃんと俺の後ろにいるようだ。スーパーマーケットに来たからには、何かほかのものも欲しがると思ったが、そんなこともない。とにかく井々村屋の肉まんが食べれればそれでいいようだ。


 と、脇腹をつんつんする銀髪の少女。

 かゆいから止めて。


「どうした?」


『肉まん、ここでたべていっていい?』


「ここで? まあ、イートインコーナーに電子レンジもあるし、別に構わないぞ」


『ありがとう(*ˊᵕˋ*)』


「お、おう」


 そのイートインコーナーの横にナクドマルドがあるのだが、さて、ファイナのやつはまだ事務所のほうで面接中だろうか。カウンターに立っている女性がファイナに似ているが、あのレベルの美少女がすでにこのナクドにはいたか。


「いらっしゃいませ、こんにちは! 漲る炎で笑顔をHOTに! あなたのハートはほっかほか? それともぽっかぽか? それではご注文をどうぞーっ♪」


 って、ファイナじゃんっ!!

 なんでもう働いとるのっ!?


 俺はカウンターに駆け寄る。


「お、おい、ファイナ、お前なんで……」


「いらっしゃいませ、こんにちは! 漲る炎で笑顔をHOTに! あなたのハートはほっかほか? それともぽっかぽか? それではご注文をどうぞーっ♪」


「ぽっかぽかーっ! ――じゃなくって! 俺だよ、俺っ」


 って、客一人づつにそれ言ってんのかよ。


「あれ? 一平じゃん。どうかしたの?」


「どうかしたのはこっちのセリフだよ。なんで働いてるんだよ?」


「受かったからでーす。いぇい、いぇいっ。ねえ、ユニフォーム似合ってる?」


 カウンターの外にでてきて、ナクドのユニフォームを見せつけるファイナ。

 センターにブラックラインの入った白シャツと、赤いスリムなパンツがファイナのスタイルのよさをことさらに主張する。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるメリハリボディ。俺の喉がごくりとなる。


 それにしてもパジャマに学校の制服にナクドのユニフォームと、同棲三日目にして三変化か。メイン衣装であるゴッデススーツの影が薄くなっていくのはどうなんだ?


「に、似合ってるんじゃないか。それはそうと受かったからといって、いきなり今日から働くやつがあるかよ」


「例の挨拶を店長に見せたら、めっちゃ感動されちゃってさ。特別手当五〇〇〇円払うから、六時半までカウンターで挨拶だけでもしてくれって懇願されて、それで働いてる」


 店長、ルールを逸脱したあんたの気持ちは分かる。


「六時半までで五〇〇〇円か。それは嬉しいな。ムンバで一番高い八二〇円のフルーツメドレーティーラテ・チーノフラッペを六杯飲めるな――」


「え? ウィンウィンじゃんっ! 来てくれたんだ!」

 

 俺の横を通り過ぎて、後ろの銀髪の少女へ駆け寄るファイナ。


 今、と言ったか。確か、ファイナの友達の一人がそんな名前だったはずだ。女神だろうとは思っていたが、そうかそうか。


「――?」


「うん、元気にやってるよ。でも、こんな格好で驚いたよね。普段はゴッデススーツなんだけど、今日はアルバイトだからこのユニフォーム」


「――♪」


「え? 似合ってるって? うれしー、ありがとっ。あと学校の制服とかも着てるんだけど、そっちもウィンウィンに見てほしいな」


「――?」


「そう、学校も通ってるんだ。丹鳴西高校ってところなんだけど、天界ハイスクールと違って自由な校風だからけっこう楽しいかも」


「――。」


「あ、家にきてくれたんだ。そこで一平と会って、肉まんを買いにきたところなんだ。なんでここにいるんだろうと思ったけど、そういうことだったんだね」


 おかしい。

 ファイナがさきからウィンウィンと普通に会話をしている。しかしウィンウィンの口は動いているが声は全く聞こえない。どうなっているんだ?

 

 という疑問を俺がファイナにぶつけてみると、


「ウィンウィンの声は特殊で、感情の揺らぎを表すアフェクション波によって声音や声質が変わってくるの。このアフェクション波による声を普通に聞き取るには、お互いの感情が相互で良好でないとだめなんだ。だから今こうして私が会話できているのは、ウィンウィンと私がすっごい仲良しだから。ねー、ウィンウィン」


「――っ♪」


「そうだったのか。だから俺には聞こえない。だから俺とのやりとりはペンとノートってわけか」


 と、脇腹をつんつんする銀髪の少女。

 だから、かゆいから止めて。


『アフェクション波で会話できないとき、ノートとペンがないとさくらんします。コミュ障でごめんなさい』


 ぺこりと頭を下げるウィンウィン。

 ――錯乱。確かに最初、俺に話しかけられたとき異常な慌てぶりだったが、そういうことだったのか。確かに女神でコミュ障となると、それはそれで〝駄〟がつく女神なのかもしれない。

 

 だが――。


「気にするなって。ノートとペンさえあれば俺とのやりとりだってできるんだから。それに、書くもの早いし絵文字もうまくてマジで尊敬レベルだよ」


『どっちも、たくさんれんしゅうしたから(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄)』


「そっか。あ、もう知ってると思うけど一応、自己紹介しておくな。俺は山田一平。一応、スーパー勇者だ。よろしくな」


 ウィンウィンが頷き、そしてノートを見せる。


『ボクは、カーバンクルを従いし疾風はやての魔法を操る嬌嵐きょうらんの女神ウィンウィン。よろしくね(*>▽<*)』


 ボクっ娘、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

 しかし声の聴けない悲しさよ。

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