第三章 第三章だョ! 駄女神全員集合。 ~四女神のほんとにほんとにご苦労さん~

第32話 学校の屋上✖コピーロボット✖柔らかおっぱい。


「そっかアイシアがそんなこと言ったんだ。でもアイシアは、〝ファイナが決めたことなら〟って、最初から応援してくれてる感じだったよ。私の友達の中で一番大人だから、私の事情を理解してくれたんだと思う。あ、おはよー、佐藤君に高橋君、今日はすっごい良い天気だねっ」


 ファイナが同じクラスの佐藤と高橋に挨拶をする。

 満面の笑みの佐藤と高橋は、ちぎれるんじゃないかってくらい、手をぶんぶんと振り返してくる。そして俺に、〝死んじゃえばいいのに〟という文字を乗せた視線を向けた。


 なんなんだよ。


 ところでアイシアだが、朝飯を食べたあとに天界へと戻った。有給は一日しかとっていないからということだったが、状況が状況なだけに仕事の合間に瞬間転移でやってくるらしい。


〝状況〟とは、という、その一点のみだ。アイシアは、ダークロードの守備をもっと強固にするように上に進言すると言っていたが、それでも心配らしい。

 

 魔界の立場に立ってみれば、いくら守備を強固にしようとも、スーパー勇者を殺せるならと突破してくるかもしれない。当の俺でもそう思うのだから、アイシアの危惧は決しておおげさではないだろう。


 ……でもなんだって、俺がスーパー勇者なんだよ?

 取り立てて秀でているところもない、スクールカースト中の下くらいのモブキャラの俺がだ。大体、俺の何が目覚めるってんだ?


 ――なんてことをファイナに聞くと彼女は、


「何の取り柄も面白味もないスクールカースト下の下の雑魚キャラが、実はすごい人でしたってほうが面白いでしょ。目覚める力は、よく分かんないけど」


 俺の自己分析よりもっと低くなってるけどっ!?

 

「目覚めたときのお楽しみってか」


「そうね。一年後のお楽しみ」


「一年とか決まってないだろ」


「た、多分、一年くらいだと思っただけっ。あ、学校着いた」


 俺とファイナは丹鳴西高校の校門を抜ける。

 学校に行ってる場合なのかと思ったが、日常をいつも通りの日常として消化するのは大事なことである。



 ◇



「でも、どうしよー、一平」


 昼休み。

 屋上でコロッケパンをかじったところで、ファイナがおもむろに口を開く。


「主語がなくて答えようがないんだが」


「あ、ごめん。えっとね、友達一〇〇人できたんだけど、その中のすごい気の合う子がいるの。灰家伽羅はいけきゃらさんって子なんだけど、その子に、今度から一緒にお昼ご飯食べようって誘われちゃったんだ」


 二日目の今日でもう、友達一〇〇人できたのかよ。


「そうなのか。だったら一緒に食べればいいんじゃないのか」


「でもそれだと一平と食べれないし、今めっちゃ悩んでる」


 ファイナが、学食で買ったあらびきウインナーパンのあらびきウインナーを火の魔法であぶる。ほどよく熱くなったところで、パンに戻してかじりついた。


「せっかくできた気の合う子なんだろ。仲良くしておいたほうがいいぜ。付き合いの悪い奴って思われたくないだろ」


「そうなんだけど、一平とも一緒に食べたいし……」


「それは嬉しいが、同居していて朝も夜も一緒に食べてるんだから、昼くらいは別にいいんじゃないのか」

「うーん、そうなんだけど……やっぱり一平と食べたいっ」


 あ、そうですか。


「じゃあ、それをちゃんと灰家さんに伝えるんだな。説明が難しいところだが、そこはうまくやるしかないな」


「だからね、私考えたの。〝もう一人私がいればいいんだ〟って」


 いや、意味が分かんないんですがっ!


「どういうことだよ? ファイナはファイナしかいないだろうに。まさかなんらかの道具でファイナにそっくりな複製を作って、そいつに一時的に灰家さんの相手をしてもらうとかか? で、記憶はオリジナルと共有できていて、あとで話が合わない不都合も生じないとか。ははは、そんな都合のいい話が――」


「そうだよ、コピーロボットを使うの」


 あっても不思議ではないなっ。

 なんといっても天界ですからねっ!


「問題解決してよかったじゃん。でもコピーロボットか。そんなの連れて歩いてくわけにもいかないだろ」


「連れて歩くわけないじゃん。私のデータが入ってるこの小さなホイッポイカプセルを投げると、三秒後に現れるんだよ」


 ギリギリセーフなネーミングっ!


 ちょっと出してみるねとファイナが、ホイッポイカプセルを投げる。

 幸い俺達のいる屋上の一角は、屋上への階段が収まる建物があり、ほかの生徒からは死角となっていた。よって誰にも見られずに、投げた三秒後――ファイナそっくりのコピーロボットが眼前に現れた。


「おお、本当にファイナがもう一人現れたっ! よう、もう一人のファイナ。もちろん俺のことは知ってるよな?」


 何もしゃべらないコピー版ファイナ。

 というより、微動だにしない。


「ふふ、まだ動かないし喋らないよ」


「そうなのか。あ、ははぁん、鼻がスイッチになってるんだろ」


「違うけど。でもなんで鼻がスイッチとかドヤ顔で言ったの?」


「いや、別に……。そんなアニメがすげー昔あったような気がしただけだ」


「パーマンだよね?」


 知ってんのかよっ。

 だったらドヤ顔にももうちょっと理解示してくれないっ!?


「あれ? ちょっと待て。このコピーロボットは言ってしまえばファイナそのものなんだよな?」


「そうね、オリジナルに従属するコピーというだけで、外観も記憶もすべて私そのものよ」


「異議あり!」


「な、何よ、急に?」


「今、外観も記憶もすべて私そのものと言ったが、じゃあこれはなんだ?」


「……これって、何よ?」


 俺はコピー版ファイナの胸を指さした。


だろ。これはダメじゃないのか? 正体がばれてはいけないコピーロボットとしては、明らかな欠陥だろ。さては……ははぁん、データをいじったな?」


 図星を突かれたのか、赤くなったファイナの顔が動揺を表す。

 にも拘わらず、麗炎の女神は、


「そ、そんなことしないわよ。もうちょっと大きかったらなっていう願望をコピーロボットで具現化したりなんかしないわよ」


 などと、うそぶく。


「いーや。絶対、データいじってるね。正直に白状して楽になったらどうだ? ん?」


「いじってないって言ってるじゃないっ。うるさいわね、もう、一平のバカっ」


 ファイナが俺を押す。

 俺はその勢いのままコピー版ファイナに当たって、一緒に地面に倒れた。


「いててて。おい、そんなに強く押すやつがあ――」


 俺は右手が異常に柔らかいものを掴んでいることに気づく。


 こ、これはっ!!


 コピー版ファイナの上に重なるように倒れた俺は、


 人生で初めて掴んだおっぱいの感触はこの世の至福だった。

 これを掴まずに生を終えるなどあり得ない。俺はこのまま胸を揉みたい衝動を押させると、ファイナに言った。


「コピー版ファイナの胸の大きさは分かった。あとはファイナの胸を掴めば、俺の言ったことが正しいと証明できる。だから――」


「だから何? その先を言ったら終わりだけど、コピーロボットの私の胸を揉みしだいている時点でジ・エンドね」


 ファイナの顔に、殺意にも似た静かな怒りが浮かんでいる。


「も、揉みしだいてはいないだろっ。ただ、鷲掴みしているだけ――」


起動せよ、私ドペルゲンガー・オン


 俺の体に雷様が落ちる。

 起動したコピー版ファイナにも、スキル神雷の裁きが備わっていたらしい


 ぎゃあああああああぁぁぁぁぁ――……。

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