第31話 絶品味噌汁を作ってくれたアイシスは、同居を応援してくれるらしい。


 俺は目覚まし時計のアラームで目を覚ます。

 時刻は六時一〇分。昨日までは六時三〇分にセットしていたが、ファイナの幼馴染的起こし方を回避するためだった。

 

 あとは朝飯の用意もある。良かれと思ってファイナが朝飯を作り出したら、大惨事になってしまう。その前に俺が作るのが最善だろう。作るといっても食パン焼いて、目玉焼きを用意するくらいだが。


 俺は自室を出て居間へ向かう。そんな俺の鼻が、味噌汁のいい香りを吸引する。

 まさかファイナが俺より早起きして、味噌汁を作っているのだろうか。

 

 いや、それはないだろう。

 あいつが作った味噌汁的なモノが、こんなに食欲を刺激するはずがない。居間へと入り台所を覗くと案の定、そこにはファイナではない女神がいた。


「アイシア、おはよう」


「おはようございます、一平さん」


「味噌汁作ってくれてるのか? 別にいいのに。アイシアはお客様みたいなものなんだから」


「いえ、お気になさらずに。単純に料理が好きで作っているだけですから。お口に会えばいいのですが」


「絶対うまい。匂いで分かる」


「ふふ、ありがとうございます」


 アイシアはゴッデススーツの上にエプロンを付けていた。うちのではないから私物なのだろう。昨日の夕飯もそうだが、最初から作る気でいたのかもしれない。


「すいません。御飯が炊き上がるまであと一〇分ほど待っていただけますか?」


「オッケー。ファイナのやつも待たなきゃだしな。あれ? そういえば一緒に寝てたんだよな? あいつ、まだ寝てる?」


 そう。アイシアはファイナの部屋に泊まった。ほかに開いている部屋があるにはあったのだが、アイシスがファイナの部屋でいいと言ったのだ。

 布団は来客用の布団があったので、それを使ってもらった。もしかしたらファイナが布団を選んだかもしれないが、俺が気にすることでもないだろう。


「ええ。気持ちよさそうに寝ていたので、そっと出てきました」


「昨日は制服着て六時三〇分前には俺の部屋に乗り込んできたから、もうそろそろ起きる頃か」


 俺はアイシアが入れてくれた熱いお茶を口に含む。


「そういえば」アイシスが何か思いだしたようだ。「ファイナ、寝言で〝一平のこと大大大好き〟って言ってました」


「ぶふうううううううっ!」


 俺はアイシアが入れてくれたお茶を口から噴き出した。

 まるで漫画みたいだと自分で思った。


「ごはぁっ、ごへぇっ、……フ、ファイナがそんなことを? い、いやー、でもファイナがねぇ。そんなオーラをひしひしと感じていたけども、そっかそっか、ファイナがなぁ。うんうん、嬉しいねぇ」


「ごめんなさい。嘘です」


「うんうん、嘘だよねぇ――って嘘なの!? なぜに嘘をっ??」


「一平さんのファイナに対する気持ちが知りたかったのです。そして今の一平さんの反応を見て安心しました。わたくしは一平さんとファイナの同居を心の底から応援します」

 

 アイシアのそれを聞いて、ああ、そういえばと、俺は先日のファイナの言葉を脳裏に過らせる。


 ……――実際に会ってみて、一平が私と同居するにふさわしい相手か見極めるって――……。


 そうだ。そのためにアイシアは来たのだ。

 もちろん、友達であるファイナに会いに来たというのもあるだろう。だが主たる目的は、俺がファイナの同居相手に相応しいかの合否判定。そして俺は合格したらしい。


「あ、ありがとう。アイシアがそう言ってくれるなら、俺も後ろめたいものを抱かなくて済む」


「後ろめたいも何も、悪いことをしているわけではないのですから。お互いの気持ちが通じ合っていれば、何者の否定も耳障りな戯言に過ぎないでしょう」


「そういえば、ファイナにはあと二人友達がいるって話だが、その友達もアイシアのように応援してくれるかな」


 名前は確か、アスリコットとウィンウィンだったか。

 

 ん?


 アイシアの表情が明らかに曇っている。

 そして厳雪の女神は、不自然な笑みを浮かべてこう述べるのだった。


「大丈夫ですよ。どっちも絶対二人の同居を応援してくれるはずですよ。ええ、間違いなく」


 絶対、嘘だと思った。


「あー、味噌のすごいいい匂いがするー……って、あれ? 一平、もう起きてんだ。今から布団引っぺがして起こしに行ってあげようとしたのに」

 

 ファイナがパジャマ姿で居間に現れる。

 どうやら味噌汁の匂いに引き付けられてきたようだ。


「それが嫌だから早く起きたんだよ。あと朝飯作ろうともしたんだけどな。でもご覧の通り、アイシアが最高の味噌汁を作ってくれた。ファイナも席につけよ」


「はーい」


 そこで、御飯が炊き上がる音が聞こえる。

 五分後、食卓に並べられる白米と味噌汁にたくあん。

 ザ・日本の食卓といった感じで、見ているだけで涎が口の中に溢れた。


「「「いただきます」」」


 俺は今、二人の女神と同じ食卓を囲んで朝飯を食べている。

 二日前までは、一人寂しく自室でコンビニのパンをかじっていたことを考えると、まるで夢のようだ。


 だがこれは紛れもない現実で――、

 味噌汁の味はどこまでも味噌汁だった。


 ファイナと同居を始めて二日。ちょっとドタバタはしている。

 それでも、こんな非日常を続けていければそれでいいと思っている俺がいた。



 ◇◇ここまでお読みいただきありがとうございます。次からは第一部の最終章となります。残り二人の女神がやってくるのですが、どうやらどっちも駄女神のようで一平は大変なことに! 面白いと思ってくれた方、宜しければ☆での応援をお願いいたします!(^^)!◇◇

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