第29話 早速のフラグ回収で、俺は魔界からやってきた魔神に殺されるらしい。


「カレー食べてから時間経ってるけど、なんか甘いもの食べたいなあ。アイシアはどう思う?」


「そうですね。わたくしはいつも食後にプリンを食べているので、口寂しいと言えば口寂しいかもしれません」


「だって、一平。冷蔵庫には何もなかったけど、どこかにあるかな?」


 と、俺にこの問題を解決しろとばかりに振ってくるファイナ。

 さりげなくアイシアを味方につけているところが小憎たらしい。

 

 でも甘いものか。

 若干、シリアスな話を聞いたこともあり、甘いものを食べてハッピーな気分で一日を終えたいというのもある。


「ないぞ。だからこの、一〇〇〇年に一人のスーパー勇者様が今からコンビニに買いに行ってやる。道中邪魔立てする魔界の魔神や魔族共は、聖剣エクスカリバーで斬り刻んでくれるわっ。ふははははははっ」


「お願い」


「お願いします」


 おい、お前ら、おいっ。

 せめて、聖剣エクスカリバーないしって突っ込めよっ。


 ――五分後。

 俺はコンビニへと一人、とぼとぼと歩いていた。スーパーマーケットやホームセンターは比較的近くにあるのに、コンビニが遠いというのが、家の立地の欠点といえば欠点だ。


 つーか、スーパーマーケットでデザート買えばよかったじゃん。


 と言っても今更だ。あとそこの遊具のない公園を抜けていけば、コンビニへとたどり着く。ここまできて引き返すのも、何かに負けたようで悔しい。

 

 公園に両端に二本ある電灯の光は弱々しく、真ん中を歩く俺はその恩恵に預かれない。

 ふと。眼前に人が見えたような気がした。でもそれは俺の勘違いだったのか、一瞬に暗闇に溶けていき――、


?」


 全身の毛が逆立つ。

 俺の耳元で誰かが囁いたのだ。

 女――っ?


「だ、誰――つっ!?」


 首に、針で刺されたような痛みが走る。


「動くんじゃないよって言ったろ。もう一度聞くよ。あんたが山田一平で合ってるかい?」


「だ、だったら、なんだっていうんだよ?」


 恐怖から声が震える。こいつは絶対、ヤバい奴だ。

 デンジャー、デンジャーと脳内で警報が鳴り響く。


「オッケー。今のであんたが山田一平って確定。別に間違いで別人でもいいけど――さようならgo to hell


「ファイアボールッ!」


「アイスランスッ!」


 刹那、後ろの女が飛びのいたのが分かった。

 すると俺の両サイドの地面に、炎の玉と氷の槍が直撃した。


「一平っ! 大丈夫っ!?」


 この声はファイナかと振り返れば、パジャマ姿の麗炎の女神が息を切らして立っていた。その横には、同じくパジャマ姿のアイシア。二人ともただならない表情を浮かべていた。

 俺は女神達の元へ走り寄る。


「ファイナっ。一体、俺に何が起きてんだよっ! なんか変な女に後ろから話しかけられたと思ったら、首に針みたいなの当てられたんだけどっ?」


「良かった、無事で。首も……うん、ちょっと血が出てるけど、大丈夫」


「あと一足遅かったら、完全にジエンドでしたね。天界ちゅうの耳打ちがあってすぐに来てよかった」


 天界蟲の耳打ち? もしかして、虫の知らせってやつだろうか。

 そんなことより――、


「あの変な女は何者なんだよ? マジもんの殺気漲らせて俺のこと殺そうとしてたような気がするんだけど」


「あの女は――」


「ちょっと待ちな」ファイナの言葉が変な女に遮られる。「自分ことは自分で話すさ。アタシはスーパー勇者である山田一平を殺しにきた、魔界の魔族にして狂忌姫きょうきひの異名を持つベリアラってもんだ」


 本当に来るのかよっ。

 道中邪魔立て云々の話は冗談で言ったんですがっ!?


 そんなベリアラの姿が、車のヘッドライトで浮かび上がる。

 まず目に付いたのが頭の両側から伸びた角だ。それはまるでヒツジのように螺旋を巻いていて、毒々しい赤が禍々しさを強調していた。先端が鋭利に尖っているが、あれが俺の首に当てられていたのかもしれない。


 金色のショートボブの中の顔は、猫のように吊り上がった目と大きな口。面貌はファイナやアイシアのように人間ベースのようだ。服は黒のゴスロリ風で、角との組み合わせによって小悪魔を思わせた。


「やっぱり魔神っ。でもどうして? ダークロードは天界警備隊が厳重に守っていて、なはずなのに――っ!」


「そうです。魔神や魔族が一平さんを殺しに来るのに、なぜ……っ」

 

 だからそのフラグを回収されたんだっつーの。


「ダークロードは無数にある。いくら厳重っても、手薄なところだってあるだろうが。ところでお前ら、天界の女神だろ? ゴッデススーツはどうした? あれを着てないと、お前らは――」


 ベリアラがゆらりと揺れたかと思うと、消えた。

 どこだっ!? と探す俺の横で、ファイナとアイシアが吹っ飛び、地面を転がった。


「きゃぁっ」


「くっ!」

 

 いつのまにか二人の女神の後ろに立っていたベリアラが、両足で蹴ったのだ。

 硬直している俺を気にも留めない魔神が、片方づつの手の中に黒い光の玉を練り上げる。


「――まるで下等な人間のようだ。ま、ただの女神なんかはアタシにとって元々下等生物だけどね。先に死んどきな。暴虐の魔法、ジェノサイドソードッ!!」


 暗い光の玉が刃のように伸びて、ファイナとアイシアに襲い掛かる――っ。

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