第28話 マジで信じ難い話だが、俺は一〇〇〇年に一人のスーパー勇者らしい。


「……うそでしょ。一平が最凶難易度むげんの異世界カ・オスを攻略できる一〇〇〇年に一人の逸材って。ねえ、その一平って本当にこの一平? 本当の本当に、とりたてて特徴もなくて個性のとぼしい背景キャラみたいな、この一平なの?」


 さらっとひどいこと言ってますけどっ。

 合ってるから歯噛みするしかない悔しさたるや。


「ファイナも知っているでしょう。超神は全ての事象において間違うということはありません。だから本当です。この山田一平さんなのです」


「それってじゃあ、一平が救うのはオッパニアではなかったってこと?」


「いえ、元々はオッパニアでよかったのです。一平さんが一〇〇〇年に一人の逸材――スーパー勇者であることが分かったのは、あとになってからですから」


 俺はスーパーサイヤ人か。


 驚きの表情を浮かべていたファイナの顔が、みるみる深刻なものへと変わっていく。やがてしぼりだすように声を出した。


「……じゃあ、すぐにでも、一平をカ・オスに転移させないといけないって、こと?」


「力が目覚めていれば。しかし、今の一平さんはまだ目覚めてはいません。それがいつになるか分かりませんが、オッパニアで経験を積むことによって、目覚めが促進させる可能性はありますね」


「そうなんだ……良かった」


 ほっと胸をなでおろすようなファイナ。

 その綻んだ表情は、さきほどまでの深刻さもあってか、苦しみから解放されたかのようだ。


「良かったというのは、オッパニアで経験を積めば、一平さんの力の目覚めが促進されるからですか」


 ファイナが胸に手を当てる。

 まるで、これから嘘偽りのない言葉を吐露するかのように。


「ううん。目覚めていないなら行かせなくていいんだって。学校にも通い始めて、これからバイトだってやるんだってときに、そんなのってないよ、嫌だよ、もっと一平との同居生活続けたいよって思ったから、だから――……」


「え?」


「え?」


「え……えええええええっ!? ア、アイシア、私、今なんて言ったっ!?」

 

 慌てふためくファイナ。

 自分で言ったことを忘れているらしい。


「ううん。目覚めていないなら行かせなくていいんだって。学校にも通い始めて、これからバイトだってやるんだってときに、そんなのってないよ、嫌だよ、もっと一平との同居生活続けたいよって思ったから、だから――……って、言ってましたが」


 ちー-----ん。


 と仏壇のお鈴のような音が、真っ白になったファイナの頭上で鳴り響く。


「いやー、そうかそうか。ん? ファイナはそんなに俺と一緒にいたいのかあっつぅぅぅぅぅぅっ!!?」


 俺の鼻先が火であぶられる。

 ファイナが人差し指から炎の魔法を出していた。


「あらあら、かわいそうに。氷で冷やしましょうね」

 

 アイシアの魔法で鼻の熱さが冷めてくる。

 氷のバンドエイドでも貼られたのだろうか。


 ナイスクールだぜ、アイシア。

 じゃなくって――っ。


「おい、ファイナっ。鼻をあぶるやつがあるか。マジで熱かったぞ」


「一平がちゃかすようなこと言うからじゃない。女神に対する態度がなってないからいけないの、ふんっ」


 地上の学校通ってアルバイトも始める女神って、それ女神なの?


「ふふ、ファイナにとっては、一平さんの力が目覚めていないほうがいいのかもしれませんね」


「ちょっと、アイシアまで……」


「但し」アイシアの表情から笑みが消える。「それは魔界の魔神達にとっても同じことなのです。悪と闇の発生源でもあるカ・オスが一平さんに攻略される前に、その一平さんを殺すことができるのですから」

「カ・オスが悪と闇の発生源。つまり、異世界が総じて魔の者に支配されているのは、カ・オスなどのむげんクラスの異世界のせい。そのカ・オスを攻略できる勇者がまだ力に目覚めていないなら、その前に殺すってのは魔界にとっては当然よね」


 くそ。こんなのってありか?

 異世界行きをつっぱねて安息を守ったってのに、つっぱねたせいで魔界の魔神とやらに命を狙われるなんてさ。


「じゃあ、俺はどうしたらいいんだよ? さっさと力を目覚めさせてしまえばいいのか?」


「なーにが、さっさと、よ。そんな簡単に力が目覚めるわけないじゃない。そうねぇ、多分、一年くらいはかかるんじゃない」


「ん? ファイナが俺との同居の期限と考えているのも一年だったような」


「ぐ、偶然の符合ねっ」


「実際のところ、いつ目覚めるかは分かりません。明日かもしれませんし、一〇年後かもしれません。それと、魔界の魔神達が一平さんを殺しに来るとの話ですが、そんなに悲観的に考えなくてもいいかと思います」


 アイシアが俺の不安を取り除くようなことを言ってくれる。

 その理由はと聞くと、厳雪の女神が続けた。


「魔界から地上へのアクセス経路であるダークロードの全てを、天界警備隊が厳重に守っているからです。だから魔神や魔獣が地上に来るのはでしょう。なので安心してください」


「なぁんだ。来るかもしれないなんて言ってたけど、んだ。良かったね、一平」


 不穏なフラグが立ったような気がしたのは俺だけだろうか。

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