第27話 ナクドマルドの笑顔が〇円の話のあとに、ヘビーなお話があるらしい。


「そうそう。アイシアは酔っぱらうと人格が変わるの。本音もさらっと口にしたりして。でね、酔いが冷めると酔っていたときの記憶がきれいさっぱりなくなるんだ。私もそれで困るときがあるんだけど、アルコールが生きがいのアイシアに、飲むの止めてなんて言えないしね。でも、地上に来ても飲むとは思わなかったかも」


 やはり、アイシアはアルコールを摂取すると人格が変わるようだ。

 にしたって、ちょっと変わりすぎだろう。アルコールは行動を大胆にさせるというが、まさかあのアイシアが俺の前で脱ぎだすとは思わなかった。そういった意味では、アイシアも駄女神なのかもしれない。


 それにしても、あのおっぱい――、


「柔らかそうだったな」


「何が柔らかそうだったの?」


「へ? あ、あれだあれっ、エイトイレブンってコンビニあるんだけど、あそこのもちもち肉まんが、すごい柔らかそうでさ」


「へぇ。でもなんで今それを言うのかよくわかんないんだけど」


「人間っていうのはな。急にわけわかんないことを言うときがあるんだよ。そ、そんなことよりアルバイト探しはどうした? 俺も今思い出したけども」


 ナクドマルドかフォーティワンアイスクリームをおススメしておいたが、そこに決めたのだろうか。

 風呂上り後のファイナに、少しドギマギしながら俺は答えを待つ。


「アルバイトならナクドマルドに電話して、明日、学校終わったあとに面接するよ」


「お、ナクドに決めたのかっ。あそこはな、〝笑顔〇円〟っていうのを付加価値にしてるんだ」


「笑顔が〇円……当たり前じゃん」


「ま、まあそうなんだけどね。要はおもてなしの心が大事だってことだ。よし、面接の前に俺がファイナの接客時の笑顔をチェックしてやる」


「えー、恥ずかしいからいいよ」


「俺を相手に恥ずかしがっていて、お客様に最高の笑顔を提供できるのか? セリフはなんとなくでいいから俺を相手に接客をしてみろ」


 えーでもーと言いつつ、最終的にはやる気を出すファイナ。

 俺は客を演じることもあり、一旦椅子から離れて待機。

 机をカウンターに見立てて、ファイナが向こう側に立っている。

 そのファイナが頷く。俺は客としてカウンターの前に立った。


「いらっしゃいませ、こんにちは! 漲る炎で笑顔をHOTに! あなたのハートはほっかほか? それともぽっかぽか? それではご注文をどうぞっ♪」


「ぽっかぽかーっ!!」


 はっ。

 あまりのかわいらしさ&溌溂さ&セリフの妙に、ファイナの世界に取り込まれてしまった。こいつの接客、マジでやばいかもしれない(いい意味で)。


「ちょっと一平。ぽっかぽかなのはいいけど、どうだったのよ? 私の接客」


「べりーぐ~だよ、べりーぐ~っ! 接客も笑顔も完璧すぎてびっくりしたわ。なに? 天界でも接客業とかに従事してんの?」


「してるわけないじゃない。私の仕事は勇者を異世界に送ることよ」


「悪い。そうだった」


 天界でも接客業についたほうがいいのではと思ったが、余計なお世話なので止めておく。


「でも、一平に褒めてもらえて嬉しい。なんかすごい自信が出てきた。私、がんばるねっ、ナクドマルドの面接」


「おうっ。もしも面接で落ちたら面接した奴ぶっとばしてやる」


「えー、私の魔法で燃やしたほうが早くない?」


 いや、殺すつもりないからっ!


「はぁ、五右衛門風呂最高でしたわ。……ところでなんのお話? 面接とか聞こえましたが」


 そこへお風呂上りのアイシアが戻ってくる。その恰好は、ファイナ同様にパジャマである。

 色は青。ワンピースっぽい感じで、大人なアイシアにはぴったりだ。羽のような髪留めはなくなり、艶やかな黒髪が腰の下まで流れていた。


 元々、今日は泊まる気でいたらしく、最低限のお泊りグッズだけは持ってきていたようだ。それにしても、ファイナと同様にアイシアのパジャマ姿は、俺の理性をかき乱す。下着姿よりかはマシだが、常時この姿でうろつかれては俺の心の安寧は寝るときまで訪れないだろう。


「あ、アイシア。明日アルバイトの面接あるから、一平を前にして接客の練習してたんだ」


「そうなのですか。接客であれば問題ないでしょう。ファイナほど人と向き合う仕事に向いている女神はいませんから」


「だよね。だって私、五三〇〇〇〇人の勇者候補と会って、異世界に送ってるんだから」


「ふふふ。五三〇〇〇一人目には苦戦しているようですが」


 アイシアが俺を見る。

 その目を見る限り、俺に異世界行きを促す気は全くないようである。


「行く行かないで争ってもいないけどな。俺は異世界に行かないで徹底しているし、ファイナはそんな俺の心変わりを気長に待つみたいだぞ。学校にも通ってアルバイトも始めるし」


「ち、ちょっと一平。なんか今の話を聞くと重点が同居のほうにあるみたいじゃない。アイシアに誤解を与えるのやめてくれるーっ?」


「大丈夫ですよ、ファイナ。わたくしはから」


「そう? なら良かった」


 再びアイシアと目が合えば、彼女は何か言いたげに微笑んでいた。

 俺はどう反応していいのか分からず、首を傾げるのみだった。


「ところで、ファイナ。〝あのこと〟は一平さんには伝えてあるのですか?」


「あのこと? あ、〝超神会議の対象事案〟になってるってことだったら、話したよ。ね? 一平」


「ああ、聞いたぞ。要はすげー大事な会議の議題に俺が上がってるとか。それが何でなのかは知らないけどな」


「私も詳しいことは知らないんだけど……アイシアは知ってるの?」


 ファイナの問いにアイシアが「ええ」とゆっくりと頷く。

 そして続けた。


「それをじかに伝えたくて二人には会いに来たという側面もあるのですが……。実は一平さんは、


 ――え゛??

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