第26話 ラッキースケベの後に、地獄が待ってるラッキースケベもあるらしい。


「なぁに、一平ちゃん? お風呂にでも、ヒック、入るのぉ? へえぇぇ、そうなんだぁ。ヒック」


 酔っぱらって人格が変わる人がいるのは知っているが、目の前の光景は一体なんだ?

 

 絵に描いたような女神。

 誰もが抱く女神像を体現したような女神。

 

 そんな、ザ・パーフェクト・ゴッデスであるアイシアの、この正常でない姿は現実なのか? よく見れば、青いゴッデスーツの上のボタンが二つ外されていて、みだらそのものだ。

 

 ビールを飲んで血行がよくなり、体が熱くなったのだろうか。にしたって目の保養、じゃなくって目の毒だ。胸の谷間の破壊力が、ファイナの比ではないのだから。今アイシスに触れたら、俺は間違いなく神雷の裁きを食らうことになるだろう。


 にわかには信じがたい酔っ払いアイシアに、俺はしぶしぶ付き合うことにする。


「そうだよ。風呂に入るんだ。なあ、アイシア。飲みすぎなんじゃないのか」


「やっぱりお風呂に入るんだぁ。じゃぁあ、。ヒック」


 今、なんとおっしゃいました!?


「もう一度お願いっ」


「だからぁ、あたちとぉ、一緒にぃ、お風呂にぃ、ヒック、入りましょうって言ったのよぉ」


「じ、自分で何を言ってるのか分かっているのかよっ? だ、大体、酔った状態で風呂なんか入ったら、心臓発作とか起こしかねないぞ」


「大丈夫よぉ、だってあたちぃ…………女神だもんっ」


〝だもんっ〟が可愛くて、ちょっと胸キュン。

 ――してる場合じゃない。


「大丈夫でも風呂に一緒に入るのはなしだ。一考の余地もないって。そのまま縁側にいて酔いを覚ましたほうがいい」


「あたちはぁ」アイシアが頬を膨らまして腕を組む。「酔っぱらってましぇぇんっ」


「いや、酔っぱらってるから。じゃ」


「アイスバンドォ。ちゃらら、らっちゃら~ん♪」


 アイシアがそう口にした瞬間、俺の体を長細い氷がグルグル巻きにする。

 彼女が魔法を使ったのだとすぐに分かった。首から下が全く動かなくて、おまけに凍えるほどに冷たい。


「な、何ずんだよ、アイジアっ。づづづ、づめだいがら、ごれ、やめでぐれれれれっ」


「だぁめ。お風呂まで連れて行ったらぁ、はずして、ヒック、あげるわぁ」


 アイシアが氷の縄の端っこを持って、俺を風呂場に引きずっていく。

 その途中、居間でテレビを見ているファイナの背中に声を掛けた。助けてくれと。でも俺の声は届かなかった。ファイナは、ヘッドフォンをしてテレビを見ていた。


 脱衣場に一緒に入る俺とアイシア。すると氷の縄が消える。が、寒さは収まらない。今すぐにでも五右衛門風呂に入って温まりたいが、アイシアをこのままにしておくわけにはいかない。絶対、一緒に入ってくるだろうから。


「さぁ、一緒にお風呂に入りましょぉ。一平ちゃんってぇ、よく見るとすっごい可愛い顔してる。あたちのミラクルタイプかもぉ。だからぁ、お洋服、ぬぎぬぎさせてあげるわねぇ」


 と、俺の服を脱がしにかかるアイシア。

 酒臭い息が鼻をかすめ、深い胸の谷間が俺の視線を釘付けにする。元々の神聖性もあって、合わせ技で卑猥そのものだ。つーかこの状況で肌が少しでも触れ合おうものなら、俺の体に雷が落ちてしまう。


「待て待てっ。自分で脱ぐからっ。一緒に入るから、脱ぐのは俺にやらせてくれ」


「はぁい。じゃぁ、あたちは自分の服を脱いじゃうわねぇ」


「え?」


「本当はぁ、可愛い一平ちゃんに脱がしてほしかったけど、ヒック、自分で脱いじゃうんだからぁ。脱ぐとぉ、すっごいんだからぁ、あ・た・ち」


 と言いながら、本当にゴッデススーツを脱ぎだすアイシア。

 ゴッデススーツの仕様上、上から脱いでいくのか、アイシアの上半身はすぐにブラジャーだけとなった。


 零れ落ちそうな胸を全力で支えている水色の薄絹。

 果実が大きすぎてキャパオーバーと言った感じだ。

 つまり、本当にすごい。


 更にゴッデススーツが下へと落ちていく。これ以上は見てはだめだと俺はアイシアに背を向けると、ワイシャツが脱ぎ掛けの状態で風呂場に転がり込んで、急いでドアを閉める。


「ア、アイシア、ちょっとそこで待ってもらえるっ? 風呂場の中、散らかってるから少し片づけるからさ」


「はぁい。一〇秒、待つねぇ。じゅぅうぅ、きゅぅうぅ……」


 カウントダウンを始めるアイシア。

 俺は急いで風呂場の窓を開けると、体をねじ込む。


 そう。俺には策があったのだ。風呂場の窓から逃げたのち、縁側から家の中に入り、ファイナに助けを求めるという策が。

 幸いにも窓に柵はない。細身ということもあり、窓枠に引っかかることもなく外に出れそうだ。


「さぁあん、にぃ…………」


 そこで声が途切れたかと思うと、ドタンッという大きな音が聞こえた。

 直観的に俺は、アイシアがドアの向こうで倒れたと思った。


「アイシア? おい、アイシア、大丈夫か?」


 返事がない。これはいよいよもって、心配になってくる。

 俺は恐る恐るドアを開ける。すると、下着姿で倒れているアイシアがいた。見た感じでは、どうやら気絶しているらしい。

 

 裸じゃなくてよかったと、ほっとする俺は、アイシアの足にゴッデススーツが絡まっているを確認する。どうやらこれが原因で倒れて、しかも頭の打ちどころが悪かったのか気絶したらしい。


 それってまずくないか?


 俺は慌ててアイシアを頭を下から支えると、「アイシアッ、大丈夫かっ」と声を掛けた。何度か声を掛けると、アイシアは目を開けた。――良かった。


「一平さん……? はっ? わ、わたくしは一体……?」


「その口調、どうやら酔いも覚めたようだな」


 そのとき、脱衣所のドアが開く。


「ねえ、大きな音がしたけど、何か――」


 ファイナが瞳を見開いて、停止ボタン押したようにピタっと固まる。

 これはまずい。完全に誤解されるパターンだ。これはアイシアにしっかり説明してもらわなければならない。


「こ、これは違うんだ、ファイナ。アイシア、説明してくれっ。俺とアイシアが脱衣所にいて、しかもアイシアが下着姿でいるこの状況のことをさ」


「状況も何も、姿としか言いようがありません。だってわたくしが、一平さんと一緒にお風呂に入る理由など微塵もありませんから」


 ぜーんぶ、忘れてらっしゃるっ!?

 

「だって、一平」


 厳雪の女神でもないのに、とてつもなく冷たい微笑を浮かべるファイナ。その手の平の上には、火が揺らめいている。


「い、いや、待てファイナ、早まるなっ。よし、俺から説明する。えーと――」


 そこでアイシアが上体を上げようと身じろぎをする。

 おっぱいが揺れた。

 アイシアの頭を支えていた俺は、因果律に定められた次の事象が容易に想像できた。


 ぎゃああああああああああああああぁぁぁ………。 

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