第21話 本能寺の変で織田信長が自害したのは、明智光秀の虚言だったらしい。
「こんにちは。今日からこのクラスでお世話になります、
ファイナが挨拶をする。
すると水を打ったような静けさだったクラスに、大きな拍手と咆哮(男子)が響く。
「よろしくね、榛名さん。俺と友達になってくださいっ」
愛の告白みたいだな。
「お、おれも友達になりたいっ。握手とかいいですかっ?」
下心出すなよ? 痺れるぞ。
「勉強教えますっ。ぼくのとなり空いてますので座ってくださいっ!」
となりの女子の殺意に気づけ。
「座右の銘ですが、一体何をどこへを送るのでしょうか。わたし、気になります!」
多分、勇者を異世界に送るんだと思うよ。
『その少女はとても可憐で気高かった。
腰まで伸びた亜麻色の髪は宝石のように輝き、まるで彼女の精神の美しさを表しているようだった。
目を奪われる。
この言葉の意味が分かったような気がする。
ふと。
榛名と名乗った少女のつぶらな瞳が僕に向けられる。
この世界には僕と彼女しか存在しないかのような、そんな不思議な感覚。
でもそれは、都合のいい錯覚と断じることができないほどに長く心地よくて――。
僕の心は一瞬にして榛名ロゼに囚われたんだ』
そんなモノローグ入れても主人公にはなれないぞ。
「では榛名さんの席は窓際のあそこ、山田君の後ろね。榛名さんは確か山田君とは知り合いなのよね? 何か分からないことがあったら山田君に聞けるわね」
「はい。ただ一つ訂正があります。一平とは知り合いではなくて仲のいい友達です」
「そ、そう」
刹那、クラス中に渦巻く嫉妬の嵐を俺は肌で感じる。
しかし、〝仲のいい友達〟という設定できたか。せめて友達にしておけばとも思ったが、これから毎日通学が一緒だと考えれば、今の段階で仲のいい友達にしておいたほうがいいとも言える。ただの友達の場合、一緒に通学しないほうが多いだろうから。
「よろしくね、一平」
俺の横に来て、片目をウィンクさせる榛名ロゼ――元いファイナローゼ。
「ああ」
クラスが一緒で席も俺の後ろか。
これも異世界部の力ってやつだろうな。
◇
休憩中、席に寄ってくる生徒と分け隔てなく話すファイナ。天界住まいだったファイナが地上の学生と一体何を話しているのかと聞き耳をたてれば、普通に天界の話をしている。
大丈夫かと思ったが、天界を本物の天界だと思っていないクラスの連中は、そういった設定だと勘違いしているようだった。これによって、ファイナは面白い人という属性も手に入れたようで、友達一〇〇人という目標もすぐに達成できるのではと思えた。
授業のほうはといえば、真面目に受けているようだ。
驚いたのはその理解力で、複素数と方程式など俺は頭から煙が出るレベルだが、ファイナは分かっていたのだ。その他の教科でも大体のところは理解しているようで、結局昼までファイナが机に突っ伏していびきを掻くことはなかった。
◇
「あー、それは天界ですでに勉強済みだったからだよ」
昼休みの屋上。
学食で買った焼きそばパンをかじりながら、俺が〝どうして地上の学習内容を理解しているのか?〟とファイナに聞いて帰ってきた答えがそれだった。
「勉強済み? 天界で地上の数学や英語を学ぶのか?」
「うん。だって私、ほとんどの時間を地上での活動にあてる勇者召喚課だから。地球のことはほかのどの課よりも知っておかなくちゃいけなくて、特に勉強に関してはけっこう頭に叩き込んだかも」
冷めてるカレーパンを烈火の魔法(弱火)で、程よく温めている麗炎の女神。
普通に器用だなと思った。
「そっか。そりゃまた勤勉なことで。じゃあ、日本の歴史とかも勉強したんだよな?」
「もちろんよ。日本の歴史は一番の得意分野ね」
「お、マジか。じゃあ問題出すから答えてみてくれ」
「いいわよ」
「えっと――織田信長を本能寺で襲撃したのは誰だ?」
答えは家臣の明智光秀。高校生なら知らない人のほうが少ないであろう、有名な歴史上の事件だ。日本の歴史が得意だと胸を張るファイナには簡単すぎたかもしれない。
「そんなの余裕よ。信長を本能寺で襲撃したのは商人の井上八兵衛よ」
「へ?」
イノウエハチベエ??
誰それ?
「でも襲撃というか暗殺ね。信長が行った政策で楽市楽座ってあるでしょ? この政策によって、領主と特定の商人が関係を結んで御用商人化して、その御用商人が領主の命令を受けて座に代わって市場の支配権を得ることが多々あったの。これに反発したのが御用商人以外の商人で、井上八兵衛もその一人だった。織田信長に相当な恨みがあったんでしょうね。単身、本能寺に向かって織田信長を暗殺しちゃうくらいなんだから」
色々と突っ込みたいっ。
「あの、明智光秀は……?」
「彼は井上八兵衛のあとに襲撃した人ね。すでに殺されていた信長を見てびっくりしたみたいだけど、誰かに手柄を取られるのが嫌で、〝自分が追い詰めたことによって自害した〟ってことにしたみたいね」
「それ、本当の話?」
「もちろん。当時の状況を地球情報課の人間が見て確認したみたいだから。ほかにも問題ある? 私が知ってる真実を話してあげる」
「……いや。もういい」
怖くなった俺は、歴史の問題は今後一切出さないと決めた。
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