第二章 千年に一人の逸材だった俺だけどできればラブコメに専念したい。

第20話 燃やして灰にしたあと、蘇生の魔法で生き返らせるから大丈夫らしい。 


「一平、いつまで寝てるの? もう六時半だよ。ねえ、一平ったら聞いてるの? 

おーい一平君。もう、朝の六時半ですよーっ。早く起きないと遅刻しちゃうぞ。

――あーもうっ。一平、早く起きなさーいっ!」


 俺の布団をはがしにくる誰か。

 女? 女子高生? 俺を呼び捨てにして、一体お前は誰だよ。両親が海外出張で家には俺しかいないはずなのに、なぜ、見知らぬ女子高生が幼馴染かのごとく俺を強引に起こしに来るんだ? なんていう美少女ゲームだよ。


 いや、違う。思い出した。俺は昨日から女神と同居を始めたんだ。

 だからこいつは、制服を着たこの女子高生は――。

 

 刹那、力任せに掛布団を引っぺがすファイナ。

 俺の体を覆う暖かな寝具がなくなった。


「ファイナ、お前なぁ。起こし方がオワコンなんだよ。大体、六時三〇分に目覚ましセットしてあるから大丈夫なんだって」ピピピピピッ「ほら、鳴った」


 俺は目覚まし時計のアラームボタンを押して止める。

 そこでファイナを見る俺。


 制服は丹鳴西高校のものだった。確かに昨日、俺と一緒に高校に行くと言っていた。しかし、その制服はいつどこで手にいれたものなのだろうか。


「ちょっと、また上服着てないしっ。落ち着かないから早くシャツ着てもらえる?」


 それはともかく――。

 俺の感情が何やら騒がしい。昨日のパジャマのときと同じようで非なる、ある種のときめき。

 

 ああ、これは。

 男たるもの、多かれ少なかれ誰もが抱いている願望。JKという魅惑のシチュエーションの顕現だからなのだ。


(違うぞ俺)ぶつぶつ(ファイナは人間のJKじゃなくてただの女神。ただの女神なんだっ)ぶつぶつ。


「なに、ぶつぶつ言ってんのよ。いいから早くシャツを着て」


「え? ああ、ごめん。と、ところでさ」


「何?」


「結構似合ってんじゃん、丹鳴西高校の制服」


「でしょー。だって私、人間年齢でセブンティーンだから。似合わないわけないよね」


 いえいえ、ほかのセブンティーンよりもまぶしいですよ。


 

「でも昨日の今日でどこで手に入れたんだよ、その制服」


 俺はシャツを着ながら聞く。


「朝よ。天界に一回戻って取ってきたの。昨日のうちに遠隔通信で、地球情報課に私が丹鳴西高校に編入することを伝えたのだけど、その彼女達が制服の情報を仕入れてくれたの。で、その情報を元に天聖力で物質化したんだ。本物そっくりでしょ」


「そんなことまでできるのかよ。もはやなんでもありだな。天界が神の領域だってまざまざと見せつけられたような感じだ」


「なんでもありっていうのは言い過ぎだけどね。あ、そういえば……」


 なにかを思い出したように人差し指をあごに当てるファイナ。

 そんな仕草もいちいち可愛く思えるのは、美少女JKのなせる業だろうか。


「どうかしたか?」


「話は変わるのだけど、天界に戻ったときにね、一度、勇者召喚課にも顔を出したの。友達には同居するっていう話はしたけど、課のみんなには伝えてなかったから」

 

 今頃かよ。

 友達よりも絶対そっちが先だろ。


「それで?」


「伝えて同居のことを了承してもらったあと課の上司に、一平が〝超神会議の対象事案〟みたいなことを言われた」


「超神会議の対象事案?」


「うん。超神が唯一神の次に崇高な神っていう話はしたと思うけど、その超神の会議――つまり、とても重要な会議の対象に一平がいるらしいの。数多くいる勇者候補の一人にすぎない一平なのに……どうしてなんだろ」


 社長の下にいる重役達による会議――。

 それはめちゃくちゃ重要な会議だろうが、その対象が俺? 俺の何が会議の俎上に上がるというのだろうか。ファイナ自身も分かっていないようで、俺は「さあ」と呟くほかなかった。



 ◇



 食パンを食べて、学校の準備をして、いざ通学へ。いつもなら一人のところが今日は二人。しかも一緒に登校する相手が、天界の女神が扮する美少女JKである。


 同居しているとはいえ、まだ二十四時間も経っていない。夢か幻だと言われれば、ああ、やっぱりねと信じてしまうほどの現実の希薄さがあるにはある。

 

 だがしかし、現実は現実。俺は天界の女神と同居をして、且つセブンティーンの美少女JKと共に通学している。それは紛れもない現実。

 結論――やっぱりこれは夢か幻かもしれない。

 

「……ねえ、一平」


「ん?」


 俺は、一メートル程離れたところを歩くファイナに顔を向ける。

 

「地上では、男子学生と女子学生が一緒に歩くのは恋人同士だけっていうのは本当? 地球情報課の人に聞いたのだけど」


「うーん。そのパターンが多いのは確かだけど、普通に仲がいい男女でもあり得ると思うぞ。あとは親しくなくても成り行き上、一緒に歩くほかない状況もあるが、まあでも――」


「なーんだ。だったらとなりにいても良かったんだ」


「え?」


 ぴょんっと跳ねて傍にくるファイナ。


 まあでも、圧倒的に恋人のパターンが多いけどな。と言おうとしたのだが、言いそびれてしまった。


「勝手に一平の隣を歩いて、一平が、〝こいつ俺のこと好きだから俺と恋人になりたくてとなりに来たんだな。へへへ〟とか勘違いされても困るから、離れてたんだ。だけど、そうでない男女でもあり得るなら問題ないよね」


 過去の行動から反省し、俺を勘違いさせないように警戒しているらしい。

 

 ――ただなぁ。


「ああ、問題はない」


「嘘だったら燃やすから」


「どうせ燃やさないんだろ。俺は勇者だぜ」


「燃やして灰にしたあと、蘇生の魔法で生き返らせるから大丈夫」


「やっぱりあったか蘇生の魔法。だが俺は蘇生に失敗してゾンビとなり、ファイナのせいで救いたかったオッパニアに行けなかった」


「もう、一平のバカ。全然行く気もないくせに。ふふふ」


 麗炎の女神が相好を崩す。


 ――俺は勘違いされても大いに構わないんだけどな。

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