第19話 俺は美少女女神の行動力に驚愕する。
「え? 学校に行くの? 行く必要なくない? だっていずれ異世界行くんだし、学んだことのコンマ数パーセントもオッパニアじゃ役に立たないよ。今からそのオッパニアのことを勉強しておいたほうがいいと思うけどなぁ」
風呂上り。
「寝るには早いし、やろーよ」とお願いされて、『サッカー盤 エンジェルストライカー サッカー天界代表Ver』をプレイして俺が辛くも勝利した直後。明日は学校あるからもう寝ると言った俺に対する、ファイナの返しがそれだった。
「行く必要があるないじゃないんだよ。丹鳴西高校に在籍している以上、その本分は通うことにある。ぶっちゃけ勉強なんてどうでもよくて、行く気なんてサラサラないオッパニアの勉強なんてそれ以下だ」
「学びもせずに通うのが本分って、無駄な時間を過ごしているって思わない? だったら、今からオッパニアのことを勉強しておいたほうがいいと思うけどなぁ」
その、聞いてないふりなんなのっ?
「と・に・か・くっ。俺は明日学校に行くから、もう寝る」
「寝るのはいいけど……。えー、学校かぁ」
「俺がいない間、家にいるもよし、天界に戻ってもよし。なんならアルバイトでも探して働いたらどうだ? 衣食住の対価を払えとは言わないが、地上で何か欲しいってなっても俺はお金を出すつもりはないからな」
「お金なら大丈夫だよ。だって日本円持ってるし」
そうか。こいつは日本円を持っていたか。
その貨幣が、国立印刷局や造幣局で作られた本物かは不明だが。
「ま、何をするも自由ってこった。ファイナに任せるよ」
「だよね。だったら私も一平と一緒に丹鳴西高校に行きまーす」
「ああ、自由だからな――って、いや、行ってどうするんだよ? 校門のところで別れてそれで終わりだぞ」
「違う違う。ただ行くだけじゃなくって、私も丹鳴西高校の生徒として学校に通うってこと」
はああああぁっ?
「じ、自分で何を言っているのか分かっているのかよっ? 女神が地上の高校に通うとか意味不明だぞ。女神枠なんて存在しないし、仮に人間として編入するにしても、いきなりは無理だろ」
「私だって、学業は天界ハイスクールだけで勘弁だけど、一平が学校に行くってなったら付いていくしかないじゃない? だって、〝いつでも一平を異世界に送れるようにそばにいる〟って言ったんだから」
確かに言った。
だが、まさかそんな大それたことを実行しようとするとは思わなかった。
「どうやって編入するんだよ? 色々な手続きだってあるだろうし、やっぱり無理だって」
チッチッチっと、人差し指をメトロノームのように動かすファイナ。
「ちょっと一平。私を誰だと思ってるの? 天界の女神よ。人類ベースの手続きなんてするわけないじゃない」
「じゃあ、どうやって編入するんだよ」
「私が所属する異世界部の力を使うのよ」
でた、異世界部。
異世界転移全般に関わる部だとの認識だが、どんな力を使う気だろうか。
「その異世界部が、具体的には何をどうしてファイナを俺の高校に通わせることができるんだ?」
「うん。異世界部にある二つの課の協力が必要なのだけど――」
とファイナが二つの課の名前を上げて、各々の課の役割を教えてくれた。
『記憶操作課』
生物の記憶を、その生物に極力影響のないように改ざんや消去などして、地上で活動する女神がスムーズに仕事を進めらるようにサポートする課。編入に関しては、丹鳴西高校内の編入業務に携わる全ての人間の記憶を操作する。それによって、ファイナの編入が明日からになるようにする。
『地球情報課』
地球に関するあらゆる情報を収集、あるいは場合によっては細工を行う課。勇者候補の捜索もこの課が行っている。編入に関しては、丹鳴西高校の編入業務に携わる全て人間の特定、及び、校風や授業内容など丹鳴西高校の仔細な情報を得るために動く。
「なるほど。確かにその二つの課のサポートがあれば、編入は可能だな。でも記憶操作課か。俺の記憶を異世界行く気マンマンモードに改ざんすればいいんじゃね? 俺が言っちゃアカンと思うけど」
「勇者の記憶の改ざんは違法と天界法で定められているからできないの」
「ほう。それはなぜだ?」
「地球でしか効力を発揮できないからよ。〝異世界に行きたい〟に改ざんした記憶で異世界に行ってその後、〝異世界に行きたくない〟記憶が戻ったとき、置かれている状況が受け入れがたくて、精神の崩壊を招く恐れがあるから」
だろうな。騙して連れていくよりも質の悪い荒業だ。仮に俺がそのようなことをされたら、ファイナに対する印象は一八〇度変ってしまうかもしれない。
「なるほどね。なら安心だ」
「学業はもう勘弁って言ったけど、ちょっと楽しみになってきた。天界ハイスクールは勉強が全てだったけど、地上の学校はそうじゃないでしょ? 文化祭に体育祭に修学旅行に合唱コンクールにマラソン大会とかもあるしね」
がっつりイベント出る気かよ。
「マラソン大会は真冬の寒さに負けないために行うから来年だぞ。今すぐ俺を異世界に転移させたいとか言いつつ、やけに悠長だな」
「い、一平の心変わりを一年以内と想定したとき、今言った全てのイベントに参加できる可能性もあるから言っただけよ」
「なあ、その〝一年以内〟という想定自体がやっぱり長いと思うんだが。一年も職場放棄しちゃって大丈夫なのかよ」
「職場は放棄しても仕事は放棄してないからいいのよ。はい、この話はもう終わりっ。明日は学校早いしもう寝ーよおっと」
ルンルン気分を隠さずに自室へと向かうファイナ。
しかしファイナが丹鳴西高校の生徒になるとは想像もしていなかった。取り立てて話すこともないモノクロな学校生活に、多少の色がつくだろうか。
――その程度にしか俺は思っていなかった。
しかし俺の日常はすでにこのとき、多少ではすまないほどに変容を迫られていた。後ほど知ることになるが、俺は、勇者としての素質が千年に一人の逸材レベルだったらしい。
その事実が天界、ひいては地上や魔界をも巻き込む事態に発展するなんて、このときは知る由もなかった。
◇◇ここまでお読みいただきありがとうございます。次からは二章となります。新な女神が登場しドタバタコメディは更にパワーアップ! 面白いと思ってくれた方、宜しければ☆での応援をお願いいたします!(^^)!◇◇
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