第14話 俺はガチャで最高の運を引き寄せる。


「良くねーよっ。ゴ、ゴミってなんだよっ! ……うそだろ。いやまあ、運動得意そうには見えないけれど……」俺は四戸志子郎に目をやる。「あの、バドミントン、大丈夫そうですか?」

「……ぇっ?」


 なんかびっくりされた。


「ファイナ、もう一回ガチャは引けないのか?」

「無償なのは初回だけよ。そのあとは試合で両者合わせて5点取ったところで強制ガチャ」

「そういうシステムか。……そういえば、ファイナのパートナーは? ファイナもガチャを引くのか?」


 ラケットとネットを具現化したファイナが首を振る。


「私は引かないわ。私にはイフリートっていうパートナーがいるから」


 ファイナがおいでと呼ぶと、走り回っていたイフリートが麗炎の女神のところへやってくる。するとラケットを口で咥えてぴょんぴょんと跳ねる。

 

 なるほど。そうやってシャトルを打つわけか。

 ――って。


「ちょっと待て。イフリートのレアリティはなんだ?」

「SRね」

「それはちょっとずるくないか。だって俺はガチャ引いてGゴミだぞ」

「GRを引く可能性だってあったわ。SRはレアリティの中間。ずっとイフリートのままの私は、URやHRのパートナーを付けることだってできないの」


 そう言われると、俺のほうが有利にも聞こえてくる。

 要するに、俺の引きがいいか悪いかに掛かってるということか。


「よし、分かった。それでいいぞ」

「じゃあ、試合開始ね。サーブは特別に一平からでいいわ」

「サンキュー。志子郎さん、一緒にがんばりましょうっ」

「……ぇっ?」


 だから何、驚いてんだよっ。


 こうして試合が始まった。

 さっそく、ファイナとイフリートが息の合ったコンビネーションを見せてくる。

 彼女達の前に、俺と四戸志子郎はなすすべもなく連続で5点取られた。

 

 ちなみに四戸志子郎は一歩も動いていない。シャトルがコートに落ちるたびに「……ぇっ?」とびっくりするだけだった。ラケットでぶんなぐってやろうかと思ったが、すんでのところで踏みとどまった。


「おーし、ガチャだ、ガチャっ! 次こそはHR以上を引いてやるぜ」


 そして始まるアポロンの武勇伝的演出。

 またこれ見るのかよとうんざりしたところで、ファイナが無言で画面をタッチ。するとアポロンの演出がカットされ、カードをタッチする場面になった。

 

 何も言うまい。

 俺はカードをタッチする。するとどうだ。出たのはHR。よしっ。


 パートナーは空中に浮遊するちっこいドラゴン風生物、名前はワイバル。

 SRであるイフリートより上のレアリティということもあり、俺は3点を返すことに成功。しかし2点取られて3対7でガチャタイムへ突入。


 HR以上でお願いしますっ、とアポロンに祈る俺はそのアポロンに触れる。

 天界エンタメ界の重鎮ほど、祈るに相応しい神はいない。しかし、祈っておいて早々に演出をカットしたのがいけなかったのか、引いたカードはRだった。


「くっそぉっ、ここでRとかマジでやばいだろ」


 どんなパートナーかと後ろを見れば、スライムみたいなやつがいた。

 名前はスラえもん。ラケットのグリップを頭に突き刺した状態で待機しているが、一見してシャトルをまともに打ち返せるとは思えない。


 案の定、飛んでくるシャトルにまともに対応できないスラえもん。

 打ち返そうと努力するだけ、四戸志子郎よりも少しはマシだが、所詮RはRである。俺が奇跡的に1点入れたのはいいものの、こちらはその1点のみで、ファイナチームが4点入れて四度目のガチャタイムがやってくる。

 

 点数は4対11。

 次でHR以上のカードを出さなければ、これはもうやばやばのやばだろう。


「おーい、一平。もっと強いパートナー出しなさいよー」


 余裕の表情のファイナが心底ウザい。


「くっ、頼む、次こそは――頼むッ!」


 アポロンに触れ演出をコンマ三秒でカットして、カードをタッチ。

 もうどんな神にも祈らない。俺は俺の引きを信じて、結果を受け入れるのみ。


 果たしてカードは――UR。


「きたああああああああッ! ウルトラレアっ!!」


 どんな強者だと見れば、バドミントン日本代表の小椋おぐら玲子れいこが立っていた。


 うっそっ、マジかよっ!


 こんなに心強いパートナーはいない。これはもはや、連続で5点取るのは確定だろう。その慢心の隙を衝かれるかと思ったが、あまりにも小椋玲子が強力すぎて、その懸念は杞憂に終わった。

 

 点数は9対11。互角の勝負。勢いは俺のほうにある。 

 だったのだが、その後三回ガチャを引いて出たのは全てSRだった。

 互角の勝負のまま試合は進み、点数は17対18――。


「いい勝負してるわね、一平。ここまで白熱するとは思わなかったわ」

「ああ、そうだな。そして次のガチャで最後。ここでの俺の引きで全てが決まる」


 俺は震える手でアポロンをタッチ&演出カット&カード確定。

 レアレティは――GRゴッドレア


「う、う、う、うおおおおおおおおっ!!」


 一七年の歳月でここまで歓喜したことがあっただろうか。

 たかがゲーム。勝っても何かもらえるわけでもない。だが、この白熱した真剣勝負の末の勝利は、間違いなく俺の成長の糧となる。それほどの経験であり体験でもあった。


「あれ? そのカード変わるみたい」


 ファイナが言う。

 

「え?」


 俺はカードを見る。

 するとGRのカードが割れた。

 中からGのカードがポンっと飛び出てくる。

 後ろを振り返れば四〇分くらい前に見たおっさんがいた。

 

 「……ぇっ?」


 17対20で俺は負けた。

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