第13話 俺は天界専用のガチャを引いてみる。
「一平の通っている学校の体育館ね。いいんじゃない。やっぱりバドミントンは床をキュッキュ鳴らしてこそよ。えっと、まずはルール説明ね」
「おう、頼む。実はバドミントンには詳しくない」
「そうなの? だったら都合がいいかも。元々のルールを単純化して、シャトルを相手のコートに落とせば一点。で、先に二〇点取ったほうが勝ちでどう?」
「それでいいぞ。あ、そういえば〝特殊なシステム〟とか言ってなかったか」
あのときは具現化という言葉のほうに興味を惹かれていたが、確かに〝特殊なシステム〟とファイナは言っていた。
はて、なんだろうか。
「うん。その名も〝パートナーガチャシステム〟。ダブルスなんだけど、一平にはそのガチャを引いてパートナーを付けてもらうわ」
ガチャって、天界でもソシャゲが流行ってんのか。
何やら天界への親近感が湧いてくる。本来、湧いちゃいかん聖域のはずだが、それもこれも全部ファイナの所為だろう。なんにせよガチャということは、当然――、
「レアリティに優劣があるんだろ。それがガチャの醍醐味だからな」
「もっちろん。えっと確か、
「大体わかった。要は排出率が低いであろうHRかUR辺りを引けば、俺に頼もしいパートナーが付くってことだな」
「そうね。じゃあさっそく引いてもうわ」
そこでファイナが、指で空中に四角を描く。すると異世界ファンタジーでおなじみの、ステータス画面のようなものが浮かび上がった。
王座のような椅子に座る筋骨隆々な人物が映っている。彫りが深く
「誰だ、そいつは」
「そいつとか言っちゃダメよ。この方は天界エンタメ界の重鎮にしてオリュンポス十二神の一人、アポロン様よ」
「えっ!? あのアポロンなのかよっ?」
「そう、ゼウス様の息子の、あのアポロン様よ」
「天界エンタメ界の重鎮なの?」
「そうだけど、何?」
「いや、別に……」
アポロンが詩歌や音楽などの芸能・芸術の神として名高いのは知っている。
しかし、ソシャゲ的な娯楽までカバーしているとは知らなかった。
「このアポロン様の映像に触れてみて。ガチャ演出が始まって、そのあとカードが画面に出るわ。そのカードにタッチすると、カードがひっくり返ってレアリティが確定。同時にレアリティに沿ったパートナーが決まるから」
「お、おう」
俺はアポロンの映像に触れる。するとアポロンが立ち上がり、画面外へとジャンプする。刹那、五メートルはあろうかとも思われるアポロンが眼前に現れた。
正に神の立ち振る舞い。人間がいくら束になっても叶わないと断言できる、圧倒的な強者のオーラが滲み出ている。そのアポロンの本格的な演出が始まる。
どこからか湧いてくる敵を大剣でバッタバッタと切り伏せていくゼウスの息子。
敵の攻撃を受け始めるものの必殺技的なものを使って切り抜けるアポロン。
やがてラスボス的な巨人を苦戦の末に倒すオリュンポス十二神の一人。
上空に向かって歓喜の雄たけびを上げる天界エンタメ界の重鎮。
そしてそのまま消えた。
その間、五分弱。
真っ白な画面には一枚のカード。タッチするとポンッと地味な効果音。
ひっくり返って、SRと書かれた面がこちらを向いた。
アポロンの演出いらんだろっ。
もう少し、カードに関われよっ。
「待って、一平っ。それSRじゃない。――変わるわ」
ファイナの言った通り、SRのカードにヒビが入ったかと思うと、後ろから別のカードが飛び出してきた。
そこに書かれていたのはG。
「お、おいGって……はっ、まさか――」
「思い出したわっ。でも、うそ……そんな――」
天界のガチャでG。
ファイナの驚愕からも、これはもう疑う余地はない。
俺は引いたのだ。――
「よっしゃあああああっ! 一発目で引いてやったぞ、こんちくしょうっ!! そうだ、そのGRのパートナーはどこにいるっ!?」
「後ろにいるけど……」
ファイナに言われて、背後に振り向く俺。
そこには、頭にバンダナを巻いて、色あせてヨレヨレのネルシャツをジーンズに突っ込んでいるおっさんがいた。自分磨きには全く興味がないのか、そのファッションセンスと肥満体型から想像できてしまう二次元への逃避。あるいは傾倒、執着。
つまりおっさんは、偏見そのもののオタクにしか見えなかった。
ちなみにおっさんの頭の上には〝
「フ、ファイナ。この方は神なんだよな? 俺GR引いたし」
「違うわよ。勝手にRを付けてるけど、一平が引いたのはG」
「ち、違うのかよ。じゃあGってなんだ?」
「ゴミのGだけど」
「ハイ?」
「あ、その人がゴミなんじゃなくてレアリティが最低のゴミクラスってことよ。ちなみに実際にGRもあるのだけど、どっちも排出率が0.09でかなり低いから、GもGRみたいなものね。良かったじゃない」
はあああああああっ!?
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