第10話 俺は丹鳴町の未来を知って驚愕する。
「それでいつ会いに来るんだよ、その友達はさ」
「近いうちに来ると思う。皆仕事は忙しいけどブラックじゃないから有給は取りやすいって言ってたし。もし有給取得できなくても早退とか外出届で会いにくると思うよ」
今更ですけど、天界の話ですよね?
「そ、そうなんだ。会いにくるってファイナみたいに魔法陣を使って瞬間移動でか?」
「うん。正確に言うと、天聖陣で瞬間転移だけどね。ちなみに魔法は魔法の名称で合ってるけど、使っている力は天聖力よ」
天聖力を使う魔法とは矛盾しているように思えるが、天界でも〝魔法〟以上に使い勝手のいい名称がなかったのだろう。
それはさておき、この流れで聞いておくべきかもしれない。
「その天聖陣とやらを使って瞬間転移ができるならさ、わざわざ俺と同居する必要なんてないんじゃないか? 毎日、瞬間転移してきて異世界行きますか? それとも行きませんか? って聞けばいいだけの話だろ」
「簡単にやっているようだけど瞬間転移はけっこうな天聖力を使うのよ。だから往復で一日一回しかやりたくないし、無理しても二回が限界なの」
「一回来れれば充分だろ。俺に聞くだけなんだから」
ファイナがずいっと俺に顔を寄せる。
「同居始める前にちゃんと言ったでしょ。〝あなたの気が変わった瞬間をコンマ一秒も見逃さない〟って。だから一回来て聞いただけじゃダメ。私は、ずっと一平のそばにいたいのっ」
「え?」
「あ」
暖かな陽気の中、鹿威しの音が響き風情を感じさせる。
見つめ合う二人の間で、イフリートがあくびをした。
ファイナの顔がみるみるうちに赤くなる。
「やっぱりお前、俺のこと好――」
「きじゃないからっ!! 言葉の意味を都合のいいように解釈するの止めてもらえるーっ? ずっとそばにいればいつでも異世界に送れるって、これも言ったはずですけどっ!?」
「あ、ああ。そうだったっけな」
ファイナが、ふんっと顔を背けて俺と距離を取る。
(なによ。ド直球で私のタイプだからってつけ上がってなによ。ほんと、むかつく)
小声で何か呟いているファイナ。よく聞こえなかった。
「え? 何?」
「なんでもないわよっ。お茶がうまいって言っただけっ!」
「セリフの長さが全然違ったが」
「お茶がうまいお茶がうまいお茶がうまいお茶がうまいお茶がうまいお茶がうまいっ」
今、言ってどうすんだよ。
「そうだ。もう一つ聞きたかったんだけどさ」
「何よ」
「異世界転移させる勇者の家に訪問するときって、毎回インターホン鳴らして在宅を確認する正攻法なのか。それこそ瞬間転移で家に入ればいいと思うんだが」
「今日、最初の一人目のところには瞬間転移で行ったわよ」
「そ、そうなのか」
「うん。で、その場で異世界に転移させて、そのあとはずっと歩き。さっきも言ったけど、瞬間転移は往復二回が限界だから、天界に戻らずとっておこうと思って。おかげで友達に会えたし荷物も持ってこれてよかった。ちなみに荷物持ってきたとき天聖陣から出ていなかったこと覚えてる? あれは出てしまうと〝行き〟が確定してしまうからなんだ」
そういえば荷物だけを持ってきたとき、ファイナは天聖陣の中に入ったままだった。あれで〝行き〟が確定してしまえば、友達に会っても俺の元には来れなかったわけか。三回目の〝行き〟になってしまうから。
ところで聞き逃せない文言があった。
「そのあとはずっと歩きってなんだ? まるで歩いて勇者候補の家を回ったみたいじゃんか」
「え? そうだけど。この
丹鳴町、北区だけで勇者候補多すぎだろっ。
「俺の家に来る前はどこに寄ったんだ?」
「この家の二軒となりの下平さんち。年齢的にぎりぎりの息子さん(41)を赤ちゃん転生で異世界に送ったよ。なんか知らないけど両親にありがとうありがとうって泣いて感謝された」
ちけーな、おいっ!
……下平さんちの息子ってたしかひきこもりだったっけか。
二度目の人生がどうか充実したものであるようにと、俺は願わずにいられなかった。
「まさか聞き込みの刑事みたいに、靴底すり減らして勇者候補の家を回ってるとは思わなかったわ。もし、俺と同居を始めてなかったら、あと何軒回ってたんだ?」
「512軒」
丹鳴町を限界集落にする気かなっ!?
「いいのかよ。俺のところで打ち止めしちゃって。どうせ暇なんだし、ほかの勇者候補の家、回ってきてもいいぞ」
「それはだめ。私のプライドが許さないから」
「プライドときたか。でもそのプライドに振り回されて仕事放り投げる形になってるが、それはいいのか」
「いいわけはないけど、ここだけの話、ほかの勇者召喚課の女神達の100倍は仕事しているから、ちょっと休憩が長くなっても大丈夫」
ほかの女神達がさぼっているように感じるが、これは錯覚だろう。ファイナが勇者を異世界に送りすぎなのだ。皆が530000の100分の1なら、フリーザではなく初登場時のベジータの戦闘力くらいで良かったのではないか。
「――でも、そうね。暇で体力が有り余っているのは確かね。だから一平」
「なんだ?」
ファイナが立ち上がり、なにやら準備運動を始める。
「天気もいいし、私と一緒にスポーツしよっ?」
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