第7話 俺は同居人のバッグの中が気になる。
「では、一旦天界に戻りまーす。一平と同居することを友達に伝えて荷物を持ってくるだけだからすぐに帰ってくるからね。あ、それまでイフリートのことよろしく、じゃっ」
と、一方的に述べるファイナが足元に発生した魔法陣の中でかき消えた。
天界に一瞬で行けるのだろうか。
しかし瞬間移動か。
どこにでも行けるなら、俺の家の中に直接瞬間移動すればよかっただろうに。なのになんでファイナは、律儀に玄関扉から来訪などという正攻法を使ったのだろうか。
さらに言えば同居の必要性も感じない。来たいときに来て、そのときそのとき俺を異世界に誘えばいいだけのことだ。一体、なぜ――。
この二つの疑問をイフリートにぶつけると、精獣は首を傾げて「ぐるるうぅ」と鳴くだけだった。
「ファイナに聞けばいいか」
「ただいまっ」
そのファイナが魔法陣から現れた。
「うわっ、はや! え? もう帰ってきたのか」
「とりあえず荷物だけ持ってきた。私の部屋に置いといて。うんしょっ」
ドスンッという音が聞こえそうなほど、大きなバッグだった。
「これ、何入ってるんだよ。がっつり山籠もりでもするかのような感じだぞ」
「ごめん。あとで説明する。友達にまだ会っていないからまた戻るね」
「あ、ああ」
「分かってると思うけど、そのバッグ、開けて中を覗いちゃダメだからね」
そう言い残すと、ファイナは再び天界へと戻っていった。
「せわしない女神だな。それにしても……」
俺の視線がバッグへと注がれる。
――分かってると思うけど、そのバッグ、中を覗いちゃダメだからね――
そう言われると覗きたくなるのが人間の性である。
俺はよろしくと頼まれた聖獣に目を向けた。
「覗いたら怒られるよな? どう思うよ、イフリート」
「ぐるるるぅ」
「それはどう捉えればいいんだ?」
「ぐるるるぅ」
通じてないのだろうか。
やっぱりイフリートは首を傾げるだけだった。
俺はバッグを持ち上げるとファイナの部屋に向かう。
見た目通りの重量だ。なにやら中でガタゴトと音がしているが、固いものも入っているらしい。本当に何が入っているのだろうか――。
俺はファイナの部屋に入る。
そのとき、となりを一緒に歩いていたイフリートが俺のほうに寄りすぎて接触。
「おっと、ととととととっ!?」
その力が思いのほか強くて、俺はたたらを踏んでそのまま部屋の中に倒れた。
「いつつ、イ、イフリート、気を付けろよな。危ないだろ」
「ぐるるるるぅ……」
なんとなく反省を思わせるテンションの低さだが、実際のところは分からない。
ところでバッグはどうなったかと見れば、ドバアアアアッと中身が飛び出していた。バッグ上部のファスナーがちゃんと閉まっていなかったらしい。
見たいと思っていた中身が散乱している。そしてこれは俺の所為ではない。俺に体当たりをしたイフリート、及びファスナーを閉めていなかったファイナの所為である。
「おいおい、イフリートォ、お前がぶつかった所為で俺が転んで、その拍子にバッグの中身も出てきちゃったじゃないか。ったく、しょうがねえな。俺が片づけてやるよ。お前の所為だけどさ」
「ぐるるるるるぅぅぅ……」
しゅんとした感じのイフリート。
どうやら、これは本当に反省しているようだ。
イフリートの不手際を利用するような形で罪悪感が生じる。が、元々見る気のなかったバッグの中身を、視界に入れざるを得ない状況にしたのはイフリートである。
さあ、大手を振ってバッグの中身を確認しようじゃないか。
俺は最初に目に付いた、高さ一〇センチ、縦六〇センチ、横四〇センチほどの大きな箱を手に取る。その箱には大きくこう書いてあった。
『人生ゲーム ~天界の覇者を目指せ~ H.C.244458000000版』
すぐそばにもう一つ、同じくらい大きな箱がある。
その箱にはこう書いてあった。
『サッカー盤 エンジェルストライカー サッカー天界代表Ver』
そのほかには
樽にナイフを刺していく『黒ひげ危機一髪』に似たもの。
ボタンでお互いを叩き合う『ポカポンゲーム』に似たもの。
長方形の小さな木を重ねていく『ジェンガ』に似たもの。
アイスをコーンの上に積んでいく『アイスクリームタワーゲーム』に似たもの。
その他、バラエティゲームがわんさかとあった。
天界にもエポッ〇社があるのか。
それにしてもあいつ――俺と遊ぶ気まんまんじゃねぇか。
俺を異世界に連れていくのが長期戦になると踏んでいるのだろうか。
長期戦も何も、俺は絶対に異世界には行かないが。
しかし、おもちゃだらけである。ほかには何もないのだろうか。この際だからと、まだバッグの中にある物を外に出してみる。
「イフリート、勘違いするなよ。見たいわけじゃなくて、片づけやすいように一回、とりあえず外に全部出すだけだからな」
「ぐるぅぅっ」
了解って感じに聞こえた。
話しかけるにつれ、精獣とのコミュニケーションレベルが上がっているようだ。いずれ、〝さとしとピカチュウ〟のような関係になるかもしれない。
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