第4話
「きゃあああああああああっ!」
俺は春風とジェットコースターに乗っていた。
ふたりで遊園地に遊びにきたのだ。
勉強のお礼は、ハンバーガーショップでよかったのだけど、成り行きでこうなってしまった。
雪紐はアレ以来一緒に、登校も、下校もしてくれなくなった。
不思議なことに、俺の『幻覚』も見なくなっていた。
彼女と付き合えないストレスが、あの生々しい『幻覚』を見せていたのか。
もう付き合えないとわかって、すっきりしてしまったのか。
腹いせのつもりじゃなかったけど、春風の誘いにのってしまった。
「いやあああああああああっ!」
春風が俺のとなりで叫びまくっているけど、雪紐が気になって無感情である。
強烈なジェットコースターに乗っても、心臓の動悸すら激しくならない。
雪紐と一緒にいれなくなったのが、ここまで感情ロボット化するとは思わなかった。
「はっはあ、すごいね。草加部君。心臓強いね」
「ははっ、もうなんでもこいだな」
胸を押さえる春風に、やけくそ気味に答える俺。
「今度は『お化け屋敷』ねっ!」
「春風さんも心臓強くないか?」
パニックにパニックを重ねてくる春風に、俺はツッコむ。
「んぎゃああああああああああっ!」
お化け屋敷に入って叫びまくる春風。
俺の腕を力強く抱きしめてくる。
骨折れそうだなー。
雪紐が気になるので、どんなお化けがきても、美少女が抱きついても、ドキドキしない。
「ああああああっあの『赤いマフラーの女』あああぁ!」
春風が俺の腕に顔を押しつけて、指をぶんぶん振っている。
黒髪の長い、赤いマフラーをつけた、ワンピースの女が、俺たちをお出迎えしていた。どう見ても人形だ。
赤いマフラーの女は、「にやぁ」と笑い、頭がポロリと取れた。お約束だな。
「んにゃあああああああああああっ!」
「はは、春風さん。超痛い」
春風は恐怖をまぎらわすためなのか、俺の腕にヘッドバッドしてくる。
おどろおどろしい文字で、看板に都市伝説『赤いマフラー』と書かれていた。
気になって読んでみる。
『少年が少女に、なぜ赤いマフラーをしているのかたずねた。
彼女は「大きくなったら教えてあげる」と答えた。
中学生になって同じ質問をしても、彼女の回答は同じ。
高校生になっても、大学生になってもだ。
やがてふたりは結婚し、男が彼女にまた同じ質問をしてみた。
「教えてあげる」
彼女がマフラーをとくと、ポロリと彼女の頭が外れた。
後日、夫になった少年は、首に青いマフラーを巻いていた』
俺は文章に釘付けだった。
――マフラー。
頭に浮かんだのは雪紐。
激しい頭痛。
俺は、何かを、忘れてる?
「草加部君? 気分悪いの?」
春風が俺の腕をつかんだまま見上げている。
「えっ、うん。なんでもないよ……」
俺は力なく笑ってごまかそうとした。
頭痛、めまい、吐き気、脱力感……。
ごまかしきれないぐらい、体調が悪化している。
立っていられなくなり、その場に座り込む。
春風が管理人の人を呼んでくれて、俺たちは非常口からお化け屋敷を脱出した。
俺は彼女に肩を運ばれ、ベンチに座る。
背中をさすられると、やっと気分が良くなってきた。
「……ありがとう」
俺は小さな声でお礼。なさけない。
「いいよ! 私のほうこそごめん。調子悪かったのに、付き合わせて……」
春風のまぶしい笑顔。
落ち着いてきた。
春風は少し俺から離れ、
「ねえ――私たち、これからも付き合わない?」
静かな告白。
遊園地で、はしゃぐ人間たちの声すら聞こえなくなるぐらいに。
――俺は……。
雪紐が離れられない。
首を横に振った。
こんな短期間で、俺を好きになってくれたことはありがたい。
だけど――。
「はい。好きな子がいるんでしょ?」
春風の先制攻撃。
俺はうなずくしかなかった。
「やっぱり。あーすっきりした!」
春風は元気な声で空に叫ぶ。
雲一つない青空からの紫外線がまぶしい。
「もしかしてさ。草加部君の好きな子って『ウサギマフラー』をした子?」
「……うん」
春風は知ってるか。
俺と雪紐は、毎日一緒に登校してたしな。
雪紐は授業中でもマフラーを外さないから、目立つに決まってる。
「実はさ。私が草加部君のこと気になったときから、『首絞め女』が夜きてたのよね。ほら。女が夜に縄で首を絞めてきたって言ってたじゃん」
「『生き霊』のことだな」
「そう。草加部君のこと聞いたら教えてくれた。えっと……ちょっと太めの男の子」
「あいつか……」
春風は申し訳なさそうに言ったが、俺はえんりょなくあきれた。
人の秘密をなんでも話すから、『呪いのわら人形』を送られるんだろうな。
「でも『首絞め女』さん、すぐにこなくなったの。だから草加部君に告白のチャンスかなって。私たちのこと認めてくれたのかなって思っちゃって」
明るく笑う春風は普通にかわいい。
雪紐と仲が悪くなってきたときからだろうか。
あいつはもう『生き霊』としても、出てきてくれないのか――。
「でも、びっくりしちゃった。『首絞め女』さん――ウサギマフラーを使って私の首絞めてくるんだもん」
「えっ?」
俺の頭の中で、真っ赤な炎が立ち上がった。
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