第6話 ヤブ医者

 私は小学校低学年の頃は、よく男の子に間違われた。


 瘦せていて、ショートカットだったせいもある。


 その頃の女の子ばかりの集合写真を見て、あれ、男の子がひとり混じってるやん、と思ったら、自分だったから、父親似の顔立ちも男の子っぽかったのだ。


 だが私は、間違えられるのがすごく嫌だった。


 母が、家の近くの病院に入院したことがあって、ひとりでお見舞いに行った。


 ちょうど主治医が母の病室にいて、私を見て言った。


「ボク、ひとりでお見舞いに来たんか、えらいなぁ」 


 私はスカートをはいていたのに、こいつは間違いやがった!


 片足を一歩出して、スカートを指でつまみ、ひらひら振って、ほれほれこれぃ、スカートやろが、と無言で主張した。


 すると


「おっ、ボク、ええ靴はいとんなぁ」


 違うっ、そこやないっ。


 おまえ、医者のくせに男と女の区別もつかんのかいっ。


 ヤブ医者やなっ!


 ププププッ、と笑っている母に


「もうかえるわ!!」


 と言って、廊下に出て、エレベーターのボタンを押した。


 エレベータがきて、乗り込もうとすると、ヤブ医者が病室から首を出し、


「ボク、ちょっとそれ、開けといてんか。ワシもすぐ降りるさかい」


 私はもちろん中で、閉、のボタンを押してやった。


 一見、男女の区別のつかない女児とヤブ医者は、クセモノ! である。

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