第5話 ペット・セメタリ―

 近所に住んでいたK君は、虫が大好きだった。


 私より2つくらい年上だった彼は、小学生のとき、部屋でたくさん虫を飼っていた。


 部屋を見せてもらったことがあるが、カブトムシやクワガタをはじめ、色々な虫が、ずらりと並べられた飼育ケースに飼われていた。


 彼は虫たちに名前までつけて、とても可愛がっていた。


 そんな彼がある日、泣きながら私の家にやって来て、私の母に言った。


「おばちゃん、かまぼこ板、ちょうだい」


 なんでも、コバエがK君の部屋にわいたので、彼が学校に行っている間に、母親が殺虫剤をまいたらしい。


 コバエは退治できたが、飼っていた虫も弱って、たくさん死んでしまったそうだ。


 そら、殺虫剤、やもんね。


 小さなペットが死んだときは、かまぼこ板に「〇〇のおはか」と書いて、死骸を埋めた場所に墓碑として立ててやるのが、定番だ。


 彼は、近所の家を一軒一軒訪ねて、死んでしまった可愛いペットたちのために、かまぼこ板を集めて回った。


 おとむらいの儀式には、私を含め、近所の子たちが集まった。


 かまぼこ板の並んだ、ペット・セメタリーで、喪主のK君は、うっかり殺虫剤をまいた母親のことを怒っていた。


 ペット・セメタリーの真ん中あたりでは、仏壇用の線香がもらえなかったので、かわりに、蚊取り線香が煙を立ち昇らせていた。


 K君、お母さんのこと怒っとるけど、蚊取り線香も殺虫剤やなかったっけ。 


 と、私は思ったが、喪中の人に指摘は遠慮した。


 うっかり殺虫剤を使う親子は、クセモノ! であった。  

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