第4話 カチューシャ

 小さい頃、私の家の隣には、同い年のNちゃんがいた。


 ふわっとした天然パーマの髪に、カチューシャをしているカワイイ子だった。


 私とNちゃんは、たいてい仲良く遊んでいたが、喧嘩をする事もあった。


 口喧嘩だけでなく、つかみ合いの喧嘩もした。


 このNちゃん、カワイイ見かけに反して、つかみ合いの喧嘩が物凄く強かった。


 彼女には弟が二人いて、年子としごだったから、常に家で鍛えられ喧嘩慣れしていたのだ。


 私にも弟がいるが、十歳近くも年が離れていて、この頃はまだ生まれていない。


 だからNちゃんとつかみ合いの喧嘩をすると、必ず私は負けた。


 Nちゃんが私の髪の毛を握って、泣いている私を引っぱっていく光景は、近所でも有名だった。


 そう、問題は、髪の毛だった。


 髪の毛を先につかんだ方が、勝つのだ。


 私は必死で、Nちゃんのふわふわの髪を狙うのだが、彼女はその手を易々やすやすとブロックし、反対側の手で素早く、ガッ、と私の髪をつかみ、思い切り引っ張るのだ。


 そんなある日、Nちゃんは片手にケガをした。


 そして私たちは、喧嘩になった。


 私はNちゃんの手の包帯を見て、今日なら勝てるかもしれない、と思った。


 私の心を読んだかのように、彼女は、ニヤリ、と笑った。

 

 Nちゃんはカチューシャを後ろに、くるり、とうなじまで回転させた。


 すると、彼女のふわふわの髪は、カチューシャでオールバックにぺたりと押さえられ、いかにもつかみにくそうな戦闘バトルモードに変化したのだ。


 カチューシャにこんな能力ちからがあるなんて!


 と驚いているうちに、電光石火で彼女は髪を、ガッ、とつかんできた。


 私は、いつものように敗北した。


 ♪~ 飾りじゃないのよ、カチューシャ、ハ・ハン ~♬ とばかりに、泣く私を引っぱっていったNちゃんは、クセモノ! であった。

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