第7話 残飯処理

 最近の小学校や中学校の給食は、いやな物は食べなくてもいいらしい。


 私の頃は違った。


「お残しは、絶対に許しまへんで」の世界である。


 小学校にも慣れてくると、肉の脂身や固いパンの耳など、自分には食べられそうにないものを巧みに隠すを覚える。


 給食用に持ってきた布巾ふきんに、素早くパパッ、と包んで、給食袋の中にしまい込むのだ。


 ただし牛乳が飲めない場合は、この技は使えない。


 牛乳が飲めない者は、掃除の時間になって、もうもうとほこりの舞う中で、ほこりの浮いたビン牛乳を前にべそをかき続けるしかない。


 さて、布巾ふきんに包んで給食袋にしまっただけでは、残飯処理は完了ではない。


 このまま持って帰れば、親に怒られるからだ。


 そこで下校時、通学路にある犬を飼っている家に寄る。


 その頃の犬は、ほぽすべて外飼いだったから、いつでも残飯処理を喜んで引き受けてくれた。


 残飯処理をお願いしているのは、もちろん私だけではなかったので、小学校の通学路の犬はよく肥えていた。


 ただ、夏休みや冬休みになると、おいしい残飯を持った子供たちは現れなくなる。


 おそらく犬たちは学校の始まるのを、一日千秋いちにちせんしゅうの思いで待っていた。


 休みが終わって、集団登校の小学生の声が聞こえてくると、通学路の犬たちは興奮して一斉に吠えた。


 おかえりなさい! おかえりなさい! ご無事でよかった! また寄ってくださいよー! とファンファーレのごとく、吠えた。


 喜びを全身で表す馴染みの犬たちに手を振りながら、私たちは英雄のように行進してゆく。


 なぁに、宿題が出来てへんでも、ええやん。


 登校するだけで、こんな喜んでくれる奴らがおるんやから、な。


 犬たちと、持ちつ持たれつの間柄の私たちは、クセモノ! であった。

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