第2話 いちご

 私は、いちごも好物だ。


 食後のデザートに、いちごが出た。


 5歳くらいの私は好物のいちごを、楽しみながらゆっくりと食べていた。


 父と母はもう食べ終えていたが、食卓の椅子にまだ座っていた。


 少しよそ見をして、それから自分の皿を見ると、なんだかいちごが減っている気がする。


 あれっ、と思って、自分の両側に向い合わせに座っている父母を見る。


 ふたりとも真面目な顔をしているが、なんだか母の口もとが、変だ。


「お母さん、私のいちご、取ってへんか?」


 母は、そんなことあるかいな、という顔をして首を振った。


 気のせいかと思って、母から視線をはずし、自分の皿をみると、またいちごが減っている。


 気のせいとは、とても思えない減り方だ。


 あわてて父を見ると、あきらかに父の口もとはふくらんでいる。


「お父さん、私のいちご、食べたやろっ!」


 半泣きになって私が叫ぶと、両親はふたりとも、中でいちごをつぶした真っ赤な口を開け、悪魔のように大笑いした。


 を飲み込んでから、母が言った。


「おまえはいつも、ボケーっとしとるからな。


 競争心をつけるために、ちょっと鍛えてやったんや」


 以来、いちごをはじめ好物が出ると、小さい私は目つきが鋭くなった。


 好物が目の前にあると目つきが悪くなるので、他の人に誤解された。


「えっ これ、きらいやった?」


 いえいえ、大好物です。


 両親と好物は、クセモノ! である。

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