第2話 いちご
私は、いちごも好物だ。
食後のデザートに、いちごが出た。
5歳くらいの私は好物のいちごを、楽しみながらゆっくりと食べていた。
父と母はもう食べ終えていたが、食卓の椅子にまだ座っていた。
少しよそ見をして、それから自分の皿を見ると、なんだかいちごが減っている気がする。
あれっ、と思って、自分の両側に向い合わせに座っている父母を見る。
ふたりとも真面目な顔をしているが、なんだか母の口もとが、変だ。
「お母さん、私のいちご、取ってへんか?」
母は、そんなことあるかいな、という顔をして首を振った。
気のせいかと思って、母から視線を
気のせいとは、とても思えない減り方だ。
あわてて父を見ると、あきらかに父の口もとはふくらんでいる。
「お父さん、私のいちご、食べたやろっ!」
半泣きになって私が叫ぶと、両親はふたりとも、中でいちごをつぶした真っ赤な口を開け、悪魔のように大笑いした。
私のいちごを飲み込んでから、母が言った。
「おまえはいつも、ボケーっとしとるからな。
競争心をつけるために、ちょっと鍛えてやったんや」
以来、いちごをはじめ好物が出ると、小さい私は目つきが鋭くなった。
好物が目の前にあると目つきが悪くなるので、他の人に誤解された。
「えっ これ、きらいやった?」
いえいえ、大好物です。
両親と好物は、クセモノ! である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます