ウチのクセモノ! 2

本城 冴月(ほんじょう さつき)

第1話 チーズ

 私は、小さな頃からチーズが好物である。


 その日、4歳くらいの私は、母がおやつにチーズを切ってくれるのを嬉しそうに見ていた。


 当時の一般的なチーズは、バターのように四角いごろんとした大きなかたまりだったのだ。


 母は機嫌が良く、私がここ、と指さした場所に包丁を入れ、大きくチーズを切ってくれた。


 私は大きなチーズを持ち、外に出た。


 外で大好きなチーズをほおばるのは、ピクニックのようで格別においしいかったからだ。


 一口かじり、ああおいしい、と思い、もう一口かじろうとした時だった。 


 急に、私の手からチーズがひったくられた。


 ひったくったのは、私と同い年のS君の母親である、近所のおばさん。


 血相を変えたおばさんは、私のチーズをにぎりしめ、私の家の玄関を開け、中に向かって叫んだ。


「奥さん、大変やっ。娘さんが石鹸せっけん食べたはるで!!」


 母が驚いて出てきて……誤解はすぐに解けた。


 だが、私の石鹸大せっけんだいのチーズは、おばさんの手形と手汗で、もはや食べられる物ではなかった。


 おばさんは私にあやまった。


「ごめんなぁ。


 こないだウチのSが、石鹸箱せっけんばこのフタで、ドブの水すくうて飲んどったもんやから、おんなじようなことしとる! と勘違いしたんや。


 堪忍かんにんやで」


 母はそれから、石鹸せっけんに見えるほど、チーズを大きく切ってくれなくなった。


 近所のおばさんと、ドブの水を飲むSは、クセモノ! であった。

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