24:宇宙全体よりも

 友灯ゆいに連なる人物達の思いが込められた剣での、最後の一太刀。 

 それを、ノー・ガードで受ける優生ゆう



 その結果。

 リセイド、ルクールとしての化けの皮が剥がれ、感情が切り離され。

 人間としての、三八城みやしろ 優生ゆうだけが、その場に残った。



 これもまた、友灯ゆいの算段。

 初めから、姉を手に掛けるもりなど毛頭、かった。

 


 この戦いの目的は、『友灯ゆいにとっての大切を取り戻すこと』にる。

 優生ゆうもまた、その一人。  

 色々とったが、実の姉であり、憧れである以上、切ることなどかなわない。

 アレな部分の目立つものの、なんだかんだで人の友灯ゆいであれば、なおこと

 そんなバッド・エンドを、嬉々として選ぶはずい。

 


 これが、大切おおぎり。

 全員が納得する、理想的なハッピー・エンドである。



優生ゆう!!」



 分断され、倒れる優生ゆうを、本物の結貴ゆきが慌てて受け止める。

 そのまま座り、寝かせた優生ゆうに膝枕をする母。

 優生ゆうには、それがにわかには信じがたかった。



「……なん、で……?」

 


 ただの人間になった体の違和感いわかん

 未だ色濃く蓄積しているダメージ。

 複数の意味で、みっともない姿を晒してしまった後ろめたさ。

 だというのに、すべてが露呈し、手間をかけてなお、介護みたいな状態になっている罪悪感。



 様々な要因により、満足に動けないまま、優生ゆうは答えを求める。



なんで……そんなに、優しくしてくれるのよ……。

 私……母さんからも、すべてを奪った……。

 私が産まれた所為せいで、母さんの人生、滅茶苦茶に……。

 一度は……母さんだって消した……。

 誰にも認識されないように、記憶と理性を調整したのに……」



「まぁ……それについては確かに、いくつか主張はりますけど。

 愛娘が疲労困憊の時くらいは、流石さすがに自重します。

 事情をなに一つ知らされていなかったとはいえ散々さんざん、甘い蜜を楽に吸わせてもらった手前、あまり言えた義理でも無し。

 えず、今掛けるべき言葉は」


 

 優生ゆうの頭に、手を近付ける結貴ゆき

 心当たりが多過ぎるため、ビクッとして目を閉じる優生ゆう



 次の瞬間、母に頭を撫でられ。

 思わず、瞼を開いてしまった。


 

「……『立派』だなんて、とても言えませんけど。

 く頑張りましたね、優生ゆう

 あなたは、私なんかとは比較にならないくらいに、与えられた力を正しく活用していました。

 まぁ少々、目的はズレていましたけど。

 いくあざむためとはいえ、たゆまぬ努力を維持しなくては、トップなんて務まりません。 

 あなただって充分、頑張ってはいた。

 友灯ゆいさっききわどい発言をしていましたけど。

 それに関しては、後で個人的にお説教するとして」

「うげぇっ!?」



 武器を捨て、留依るい彩葉いろはに支えられていた友灯ゆいが、素っ頓狂な声を上げる。

 ここに来て、まさか飛び火するとは思わなかった。

 


「な、なんあたしぃ!?

 関係いじゃん!!」

「人がすべてを犠牲に、命懸けで、激痛に耐えながら、やっとの思いで産んだ、大切な愛娘を。

 言うにこと欠いて、『生き損ない』ですってぇ……?」

「その前にあねぇ、『死に損ない』って言ってた!!

 あたしこと!!」

「売り言葉に買い言葉で接してどうするんですか。

 あの時の優生ゆうは、あなたにいくつも策をろうされ、混乱していたんですもの。

 ちょっとした、弾みですよね?

 分かるわぁ。

 私も、英翔えいしょうくんを介して、あなたに散々さんざんひどことを言われたもの。

 どうしても、優生ゆうに肩入れしちゃうのよねぇ」

「それ、ただの私怨からの同情じゃん!!

 てか、そうじゃなくてもお母さん、いっつもあねぇの味方してる!!」

「だって、優生ゆうは常に堅実、健気なんですもの。

 サボりがち、ショート・カットしがち、反抗的、先延ばし後回しにしがちなあなたと違って。

 どっちを応援すべきかなんて、考えるまでもないありません」

「依怙贔屓!!

 エゴ贔屓!!」

「好きにおっしゃい。

 さて、友灯ゆい

 そろそろ、あなたへの折檻せっかんですが」

「今ぁ!?

 ねぇそれ今すべきことぉ!?

 てか、『後で』って言ってたよね!?」

「別に、『後日』だなんて申していません」

「お母さんのが、あたしより余程よほど、エイトに似てると思う!

 特に今の、言い訳とか!」

「そうですか。

 いから、そこに直りなさい。

 さぁ、早く。

 あ。今度は、英翔えいしょうくんの参加は認めませんので」

いやだぁぁぁぁぁ!!

 問い詰め、とっちめられるぅぅぅぅぅ!!

 こっちの戦いのが応えるよぉぉぉぉぉ!!

 あたしなんの用意もしてないし、エイト禁止令って予防線張られてるし、今ろくすっぽ頭回らないのにぃぃぃぃぃ!!」

「だからこそ、効果覿面てきめんなんじゃないですか」

「悪魔!!

 アネコン!!

 氷のクイズ女王!!」

「親に向かって、中々の口の聞き方。

 これは、マイナスから鍛え直さないといけませんねぇ」

彩葉いろはぁ!!

 留依るいぃ!!

 皆の衆!!

 助けてよぉ!!」

「ごめん、ユヒ。

 今回に関しては、少し言い過ぎ。

 大丈夫。私のでければ、膝枕に使っても構わない」

「じゃあ保美ほびは、後ろから抱き着いてますねぇ!!

 うぉぉぉぉぉ!!

 熱いなこれ、燃えて来たぁぁぁぁぁ」

「ケー!!

 彩葉いろは、持ってって! 

 絶対ぜったい、アレなことになる!!

 責任は取らない!!」

「望む所」



 世界を賭けての一大決戦の直後だというに、緊張感、達成感の欠片かけらく騒がしい面々。

 いつの間にか勢揃いしていた面々は、一様に呆れ顔だった。

 家族も、同僚も、友人も。



「ねー。

 そろそろ、ハナしてもイイかなー」



 宙にプカプカと浮いている、謎の女の子も。



「!?」



 見知らぬキャストの登場に、即座に構えを取る面々。

 


「いっ……イメージンさまぁっ!?」



 一方、顔見知りだった優生ゆうは、母の膝から離れ、慌てて体を起こす。



「あー、イイ、イイ。

 そのままでカマわないから、ユウ」



 漢字とか使えなさそうな幼気いたいけさをかもしながら、冷静に振る舞うイメージン。



 人類は勿論もちろん、果ては地球まで創作したという、伝説の想造神ことイメージン。

 が、実際に現れたのは、小柄でか弱そうな少女。

 そのギャップに、一同が困惑する。



「やっぱり現れたか。

 そんなこったろうと思った」

「ね」



 そんな中、事情通の優生ゆう宜しく、大して驚いた素振りを見せない友灯ゆい英翔えいしょう

 その落ち着きっりに、優生ゆうさえ慌ててしまう。


 

「ボス、知ってたの!?」

「『予知してた』のが正解かな。

 エイトが、教えてくれてたから」

「正確には、『俺のラヂエル』が」

「同じだよ。

 結局、お前の力なんだから」

「今となっては、友灯ゆいさんの力でもあるけどね。

 覚醒したのだって、そもそも」

「分かった、後で聞く」

「ん」



 話が長引きそうだったので、やや雑に終わらせ。

 友灯ゆいは、全員に向けて語る。



「考えてもみてよ。

 相手は、50年もさかのぼって計画を進める、用意周到さだよ?

 だってのに、最初の時以来、一度もあねぇと接触しないってのは、不用心だと思わない?

 その理由は簡単。そもそも、コンタクトを取る必要がいからだよ。

 だって、世界や創作と一緒に、一体化してるあねぇを、ずーっと監視してたんだから。

 まるで、フェアリーテイ◯のイグニー◯みたいに。

 っても、あねぇの睡眠中とかは、キャラクシーに戻ったりしてたんだけろうけど。

 んでさっき、ようやっと分離出来できたってわけ

 大方おおかたそんな所だろうなぁと思ったから、前もってエイトに調べてもらったの」

いよいよもってチート無双染みて来たわね、その能力……」

「えー?

 っても、あたし絡みのことしか把握出来できないんだよー?」

「逆に言えば、『ボスがほんの少しでも興味を持ったり、必要になったら、すべてを知れる』ってことよ……?

 しかも、『リアタイな上に、範囲が限定されぎてるから、ほぼシームレス』で……」

「あー。

 言われてみれば、そだね。

 うーわ、超便利ー」

友灯ゆいさんの役に立てて、俺もうれしい」

「ユーちゃん、すごーい」

「エーくんもー」

「……」



 ……やっぱり、色々とおかしいよ、このバディ。

 璃央りお以外も思ったが、えて黙っておいた。

 新凪にいな結愛ゆめに至っては、何故なぜかワクワクしてるし。



「ふーん」



 ワイヤー・アクションのような滑らかさで浮遊し、まじまじと友灯ゆいを見詰めるイメージン。

 かと思えば、ニッとほころんだ。



「キミ、やっぱりオモシロいねー。

 ボクにタメグチなニンゲンなんて、ハジめてだよー」

「その気になればいつでも始末出来できたのに、しなかった。

 すなわち、あたしなんらかの興味、期待を寄せていたという裏返し。

 であれば、特に飾る必要もい。

 むしろ、ゴマスリした結果、かえって大惨事になる可能性までる」

「オオアタリー。

 ソコまでブンセキしてるのなら、ボクのモクテキもハアクずみかな?」



 炎と氷を彷彿とさせる、二色の光。

 イメージンの広げたてのひらの上の輝きに、一同は見覚えがった。



「ホンノウンをツクり、ソダててからダイブたったけど。

 リセイドのチカラは、ボクがモラった。

 これをリヨウすれば、もうフモウなギセイはヒツヨウない。

 セイジョウなるチキュウのサイセイ、『clEARTHionクリエーション』。

 サイショから、これがシンのモクテキだったのさ」



 理性と本能を司る、リセイドの力。

 その力による創作、いては人、キャラクシーの秩序の軌道修整。

 それこそが、イメージンの真の狙いだった。



「いわゆる、ブレーキさ。

 コレからは、もうニンゲンをキケンシしなくてすむ。

 あるテイドまでなら、リセイドのタネで、ヨクボウやジャネンをヨクセイできるからね。

 ただもし、そのイッセンをこえたのであれば、そのトキは」

「……その時は?」



 胸騒ぎを覚えながらも、おずおずと尋ねる友灯ゆい

 すでに答えなど知っていたが、それでも確認は怠れなかった。



「コンドこそ、イッセンまじえるか。

 アルいは、モンドウムヨウで、ゼンイン、シマツするけどねー。

 ボクとて、いつまでもシッパイサクをノコしたくないしー」



 あっけらかんと、人類の殲滅予告をする少女。

 雰囲気、口調が変わったわけでもなく。

 先程までとなにも変わらないからこそ、底知れない恐怖を味わわされる。

 


 全員が、肌で実感した。

 この少女……神は未だ、人類とは相容れぬ、分かり合えぬ、危険極まりない存在だと。

 まだ幼い新凪にいな結愛ゆめでさえ、感覚的に、そう判断した。

 その結果、さきに震え出したので、それぞれの母親に抱っこされる。



「……させっかよ」



 ビクビクしながらも、踏み込む友灯ゆい

 続けて英翔えいしょうも、彼女の横に並び、イメージンに面と向かう。



「そんな愚行、二度と繰り返さないし、繰り返させない。

 かならず、あたしが。

 ……いいや。

 が、不正を防いでみせる。

 あたしたちが『トクセン』で働いてるのは、そのためでもある。

 時代を先導し、次代を牽引する。

 それだって、今では内の、大事な存在意義、企業理念だから」


 

 ニ年目の友灯ゆいは、『トクセン』のオリジナル商品が未来製であるのを、最初の時点で公にしてある。

 もっとも、経緯はボカしてあるし、色々と意味不明だし、ほとんどの人間はかたくなに、設定だと思い込んでいるか、はなから相手にしていない。

 が、同業者、商売敵は、そうは行かない。



 無論むろん、100年近く先取りした科学、技術力に、現代の文明が勝るすべい。

 頭脳は勿論もちろん、原料も揃っていないし、コスパだって馬鹿にならない。

 しかし、そんな絶望的、圧倒的ハンデさえ跳ね返し、バネにし、ジャイキリせんと欲する、熱き若武者たちる。



 例えば、きちんと背面まで塗られ、サイズやクオリティ、可動性のアップしたソフビだったり。

 あるいは、より高品質で安価になった、様々な家電だったり。

 関係各所が挙ってネット販売に積極的になり、転売ヤーや違法ダウンロードを根絶やさんと動いたり。

 間接的ではあるものの、日常の様々な場面で、『トクセン』の影響力が垣間見える実例が確認済み。


 

 そんな風に、生活の地盤がしっかり根付けば精神面、健康面も自ずと安定。

 フェチズムはともかく、粗悪なパチモンの抑制にはつながるというわけだ。



 無論むろん、この目論見とて、中々にっ飛んでいる。  

 どれだけ自分達が先取りしようとしても、嘲笑う人種も少なからず存在する。

 あるいは、珠蛍みほとの発明を悪用、改造し、漁夫の利を図らんとしたり。

 そういった、頂けない転売ヤーもる。

 といっても大抵は、リーズナブルかつ豊富かつスピーディーな本家のネット・ショップに負け早々に撤退。

 あるいは垢バン、アク禁、目に余るさいには特定なり逮捕なりされるのだが。

 


 そもそも、こういった認識からして間違っているかもしれない 

 自分達にオーソリティなどく、単なるたちの悪い驕り高ぶりかもしれない。

 


 仮にったとしても、微々たる物という可能性もる。

 映画業界と同じだ。

 一本のアニメ映画が歴史的な記録を樹立しても、他の作品が後を終えるとは限らない。

 同じ路線を狙った結果、二番煎じ、二匹目のドジョウ扱いされ、軽視されるのを懸念する人間だって多かれ少なかれるに違いない。

 もしくは、他所よそ他所よそ的な思考により、依然として、それなりにマイペースな仕上がりにしかしない層だってるだろう。



 自分に関することならなんでも知れる友灯ゆい

 そんな彼女でも未だ、この世は分からない、知らないことだらけ。

 目まぐるしい時代だから、仕方しかたいのかもしれない。

 周囲を逐一チェックするには、この世は物でごった返しているし、人間には時間も寿命も費用も足りない。

 


 逆に申せば、まだ自分達の底力を、友灯ゆいは完全には把握出来できていない。

 この一年、あねに一泡吹かせるべく、行動して来た。

 その最大ノルマを達成した以上、今期からは、『トクセン』にだけ尽力出来できる。

 珠蛍みほとの力を借りて、未来人の科学力を、特撮の素晴らしさを、エンタメの必要性を、更にアピール出来できる。

 もっと多くを学び培い、友灯ゆい自身、今よりも強くなれる。  

 他にも、自分達がまだ預かり知らない、どこかの誰かの役に立てていると、胸を張って実感出来できる機会が訪れるかもしれない。


 

「キミタチが?

 そんなキセキみたいなコトが、ホントウにカノウなのかい?」

「可能です」



 母に支えられながら、優生ゆう友灯ゆいの左に立つ。

 心機一転した様子ようすで、優生ゆうは告白する。



ようやく、自分のしたいことが分かりました。

 私は、特撮もアニメも、映画もドラマも全部、等しく、こよなく好きです。

 だから、選り好みなんてしない。

 すべて、叶えてみせます。

 私の大好きを、イメージと本心に忠実に実現、再現してみせます。

 無論むろん、『京映きょうえい』の社長も。

 形式上、騙していたとはいえ、一度引き受けた以上、皆の信頼に答えなくてはならないので。

 無論むろん、全社員に、これまでの経緯いきさつを説明し、承諾を頂ければ、の話ですが」



 優生ゆうは元々、作り手側の人間である。

 だからこそ一時は、珠蛍みほと彩葉いろはあざむけるまでに、設定を作り込めた。

 事実、友灯ゆい英翔えいしょうと仲直りし、リンクを解除しラヂエルを会得していなければ、彼女の作戦は成功していただろう。

 それだけの力を、彼女とて持っていたのだ。



「なるほど。

 それが、キミのホンシンか」



 少し考えたあと、イメージンは友灯ゆいを見た。


 

「でも、ユウ。

 それをタッセイするには、キミのサイノウがヒツヨウ。

 つまり、またしてもキミは、ジツのカゾクをギセイにすると?

 それも、コンドはマギレもなく、ジブンのイシで?

 モクテキをはたしたイマのボクなら、フタリにサイノウをヘンカンするコトも、カノウなのに?」

「……っ」



 痛い所を突かれ、渋面になる優生ゆう


 

 彼女は元々、結貴ゆき友灯ゆいの多才を奪って産まれた存在。

 それを二人に返したいからこそ、今日まで邁進して来た。 

 

  

 であれば、今の決意表明は矛盾している。  

 これだけのタスクをマルチにこなすには、今の状態の維持が不可欠。

 人外の力イメージンは失ったが、まだかろうじて怪しまれない、超人的なセンスは宿しているのだ。



 では、もしそれを、二人に明け渡したら?

 優生ゆうにはもう、なにも残らない。

 結果、ゼロから信頼を勝ち取らなきゃならない『京映きょうえい』の社長の座は追われ、クリエイターとしても終わる。

 イチから出直していたら、彼女が手懸ける前に、敬愛する作品がメディア化されてしまう。

 それも、ともすれば今度こそ、イメージンの逆鱗に触れてしまうかもしれない、お世辞にも褒められないチープな形で。



 そんな葛藤を、まだ幼い新凪にいな結愛ゆめ以外の皆が読んだ。

 ゆえに、なにも言えなかった。

 巻き込まれた側ではあっても、当事者としては弱い立場にる以上、口出しすることなど不可能だったのだ。



 今、この場で、彼女に物申せる人物。

 そんなの、彼女の関係者。

 母と妹を置いて、他にない。

 


「あ。

 あたし、別にいから。

 別に、今のままで」

「私もです」



 中々に重要な場面だというのに、この二人は、実にあっさりと拒否した。

 優生ゆうは、思わず目を丸くした。

 が、彼女が異を唱えるより先に、友灯ゆいが彼女の口を塞ぐ。



さっきも言ったでしょ?

 あたしはもう、あねぇに、沢山たくさんのギフトをもらった。

 才能なんて大それた物、あたしにはく分からんし。

 そんな適正、あたしには備わってないかもしれない。

 でも、一向に構わない。

 あたしには、磨き抜いたメンタルがる。

 それに、おおいなるプレゼントを授かった、頼もしくて楽しくて正しい、仲間がる。

 てか、どこぞのトウサクも言ってたじゃん。

 才能は自分の手で磨き、育てる物で、誰かから奪う物じゃないって。

 ってもあたし、産まれる前からあねぇに持ってかれてるんだけどさ。

 それは、まあ、いとして

 この先も、数え切れない困難が待ち構えているとは思う。

 でも多分、なんだかんだで、やって行けるんじゃないかな?

 今回みたいに、みんなとなら。

 予習、復習を欠かさずにれば」



 そんな、適当な……と、誰もが思った。

 と同時に、理解した。

 こういうボジティブさこそが、彼女の力の源。

 それこそ、『才能』なのかもしれない、と。



「私も同様です。

 すでに隠居し、夫と共に、悠々自適に暮らしているので」

「去年、派手にボコってたじゃん」

「あの場限りです。

 普段は、あんな、礼節を弁えない、淑女にあるまじきミスはしません」

「してたら、もう死んでるもんね、お父さん」

「そもそも、あれだって、元を正せば、あなたの所為せいじゃないですか」

あたしじゃないです、エイトですー。

 あとは、鷺島さぎしまとか楠目くずめですー」

「この子は、また、妙なトンチを。

 一体、誰に教わったのかしら」

「お母さん」

「です」

えず英翔えいしょうくん、お黙り」

ひどい。

 ウケる」

「無敵か、お前は!」

「あ。

 またバグった」



 性懲りもく、即興コントを始める三八城みやしろ家。

 この家族は根本的に、シリアスとは無縁なのかもしれない。



「ハナシはオワった?」


 

 放置され退屈していたらしいイメージンは、欠伸をしてから、顔を引き締めた。


 

「それじゃあ、そろそろシツレイしようかな。

 また、おめにかからないコトを」


 

 確かに、と全員が思った。

 出来れば、二度と会いたくないし、敵に回したくないと。



 イメージンが頭上に魔法陣を描き、それをゲートにする。

 そこに飛び立つ……かと思いきや、何故なぜか止まり、友灯ゆいを眺める。



「コタビのイクサ。

 ボクは、ジンルイにカチメなどナイとカクシンしていた。

 なのに、ナゼだい?

 どうして、キミは、ショウリしたんだい?」


  

 一部だけとはいえ、未来すら先読み出来できるらしきイメージン。

 その想造神の予想、下馬評げばひょうすら、友灯ゆいは覆してみせた。

 勿論もちろん、難易度は異常だったし、余裕ではなく、代償もでかかったが。



 友灯ゆいは、少し考えた。

 が、曖昧な答えしか出せなかった。



「『心』……じゃ、ないかな?」



「ココロ?」



 首をかしげるイメージンに、友灯ゆいは続ける。



「ほら。

 キャラクシーには、アレな精神、趣味で生み出された魔物が、わんさかるんでしょ?

 それに、そもそもキャラクシーが生まれたのだって、悪人が原因。

 さっきは、『自分達には関係無い』とか、言っちゃったけどさ。

 ……正直、あんまりだとは思う。

 けど、だからって、一括ひとくくりにされちゃたまらない。

 人間だって強く、優しくなれる。

 支え合う仲間の笑顔が、力を、勇気を、元気を、明日を、可能性をくれる。

 自分の本音、エイトさえ真面まともにコントロール出来できなかった。

 こんな、クズあたしだって、やり直せた。

 あたし駄目ダメとこ、ちゃんと理解した上でみんな、協力してくれた。

 暗闇の中にこそ、光は輝くんだ。

 光しかい環境に身を置いたって、当たり前になりぎて、その大切さに気付けない。

 酸いも甘いも噛み分け、清濁併せ呑んだからこそ。

 悪い一面をラーニングせずにやって来たあねぇに、勝てた。

 ただ、それだけの話」



 後ろと隣に立つ仲間達を眺め、腰に手を当て胸を張り、友灯ゆいは語る。



「一人の人間の心は、宇宙全体よりも広くて深い。

 そんな歌詞ことばだって、この世界にはる。

 過去の人間界やキャラクシーでしか、人間の心に触れていなかった。

 一人で、なんでも出来できると思っていた。

 ようは、勉強、準備不足。

 それが、あなたたちの最大、唯一の敗因だよ」

「……頭脳おれ頼りにしてる人が、なんか言ってる」

「動くのは任せろ!!

 頼りにしてるぜ、兄弟!!」

「おーとも、兄弟」

「いや、違和感いわかんいなっ!?

 あたし、女だけど!!」

友灯ゆいさん、格好かっこいいからセーフ」

「照れるぜ!

 もっと褒め称えろ、崇め奉れ!!」

  


 ともすれば無責任、丸投げな発言。

 でも、だからこそ、人間らしい。

 


 思ってもみない回答に、イメージンは吹き出してしまった。



「なるほど。

 どうやら、このボクでさえ、ソウサクについて、まだまだベンキョウがたらないらしいね。

 これは、イッポンとられたな。

 ホントウに、オモシロいコだ。

 このセカイが、キミのヨウなニンゲンばかりであるコトをネガうよ」

破綻はたん、破滅するわ!!」

「自分で言う?」

「だって、そうじゃん!!」

「そうだけど」

「否定しろや!!

 ビシッ!!」

「理不尽。

 めんどい。

 小キック、めて。

 俺、マナカレ」

「ワシもじゃい!!」

「当然。

 同一人物」

「……ねぇ、そろそろ、カエってイい?

 もう、ツカれた。

 ゲートも、ずっとヒラいてるし」



 まさかの、神からの敗北宣言。 

 ガングニー◯すら恐れる、とんでもない功績である。



 なにはともあれ。

 こうして、話は一旦、纏まった。



「じゃあね、ニンゲン。

 ジンルイに、エイコウ……いや。

 エイゴウ、あれ」



 降ろしたゲートを操り、潜るイメージン。  

 やがて光が収まった頃、その場から神は姿を消していた。



 これで、本当に終戦。

 今度という今度は、贔屓目も異論もし。

 満場一致の、大団円である。



「疲れたぁ〜……」

「ね」

「腹ペコった〜……」

「ご注文は?」

りったけ

「りょ」



 特にやり取りもせずに、互いに背中を預け、ヘニャヘニャと座る友灯ゆい英翔えいしょう

 どこまでも息の合った二人に、一同は笑った。



「皆さん」



 母から離れ、自分の足で立つ優生ゆうが、みんなの眼前で、頭を下げた。



「今回の件。

 本当に、ごめんなさい。

 あなたたちには、本当ほんとうに申し訳ことをしてしまいました。

 糾弾きゅうだんされても、しかるべきです。

 ご不満であれば、私を好きにしてください。

 50年以上も前から、覚悟は決めていたので」



 精一杯、謝罪する優生ゆう

 その姿に、周囲がザワつく。

   


 思い返してみれば、実に微妙な相手だった。

 こうしてリテイク出来できたとはいえ、一度は自分達を徹底的に分裂させた真犯人であり。

 それぞれに人生を棒に振り掛けた自分達に、再起のチャンスをくれた恩人であり。

 しかも、悪事を重ねていた理由が、エンタメの修整、自分の夢、家族への償いと、憎み切れない。

 


 そういった部分が、どこか友灯ゆいをフラッシュ・バックさせるため、余計、強くは当たれない。

 けど、だからといって、文句の一つもこぼせないほど、人間として出来できていない。

 ゆえの、沈黙、躊躇ちゅうちょ



「……社長」


 

 全員が踏み出せずにる中。

 さきに一歩、前に出たのは、『トクセン』が誇る切り込み隊長であり。

 身バレ前の、万人受けする優生ゆうの前に現れた、最初で最後の敵。

 我らが『トクセン』の誇るイケビジョオー、信本しなもと 璃央りお

 


 彼女の一挙手一投足を周囲が見守る中、璃央りおが口火を切る。



「でしたらあたしに、『絶対ぜったいにショボショボしない、ショボくない最強の体』をください」



 罵倒でも提案でもなく、単なるリクエスト。

 それも、サンタさんへのお願いよりも大人気おとなげない内容。

 


「……はい?」



 まさかの流れに、戸惑う優生ゆう

 璃央りおは、更に詰め寄る。

 


「どんだけ寝ずとも、ブルー・ライト浴びても、絶対ぜったいに五感を損なわない、最強の体です。

 出来できますか?

 イエスか、ヤーでお答えください」

「同じじゃない。

 まあ……出来できなくはない、けど……」

「っしゃあぁぁぁぁぁ!!

 これで、徹夜で特撮マラソン三昧っ!!

 なにより、紫音しおんを常に最高画質、音質で、あたしの体とメモリと脳内ディスプレイに焼き付けられるっふっふぅっ!!

 紫音しおん、浴び放題っ!!

 これで、明日も勝つるぅ!!

 イェェェェェアッ!!

 ワイルド、フォォォォォッ!!」



 ガンギマリになった結果、唐突にバク転し始めたりと、なにやら奇行を披露する璃央りお



 黙ってさえいればキマってるのに、残念ぎるイケビジョオー。

 一周回って惚れ惚れする、突き抜けた格好かっこさ。



 なんというか。

 やはり璃央りおは、リオ様だった。

 

 

「ボクは、『空中ジャンプとワープが出来できる、絶対ぜったいに折れない、リオねぇの刃、盾となる両足』を……」

「私は、『丈夫な腰と肩』だねぇ」

「せ、僭越ながら、『運』をっ!

 厄介事に巻き込まれない強運を、どうかお与えください!

 平に、何卒っ!!」

「はーっはっはっはぁっ!!

 自分は、つえぇございませぬ!!

 何故なぜなら自分は、すでつえぇからです!!

 はーっはっはっはぁっ!!」

「シィナわぁ、『いくらでも食べられるぅ、太らない体』かなぁ。

 マシマシ、バリカタでぇ、デリシャ目に美味おいしく、よろぉ」

「『本物の、K世界』。

 まやかしだと分かってはいても、マイナスされたままじゃ後味が悪い。

 あなたでは無理なら、イメージンに土下座でもして頼み込んで、意地でもプラスして」

「素適なお義姉様!!

 是非とも、『友灯ゆいハーレム』を保美ほびにください!!

 観賞用、保存用、お触り用、囁かれ用、膝枕用、ロング・ピロー用、照明用、衣装用、掛け布団用、敷布団用を!!

 カラバリは、蛍光色多めで!!

 気分によって、色や髪型や服装を変えられる仕様で!!」



 ここぞとばかりに、おのが欲望を解放する面々。

 あの友灯ゆいと付き合え、渡り合えている辺り。

 ネガティブな若庭わかばも含め、なんやかんやで全員、猛者もさである。

 余談だが、拓飛たくともっと真面まともな発言をしているのは、これが最初で最後なのではなかろうか。



 ひょっとしたら、イメージンと再会する日は、近いのかもしれない。

 もっとも、それまで世界と人類が現存出来できていれば、の話だが。



「え、え、え〜!?

 も、ももももしかして、モテキ!?

 もしかして、モテキ到来!?

 どうしましょう!?

 ねぇ、友灯ゆいぃ!」

「知らんし。

 てかあねぇ、年中無休でモテてたじゃん。

 高嶺の花扱いされてたから、友達はなかったけど。

 あと、彩葉いろはは無視して」

むしろこれ、モテキ通り越してムテキじゃない!?

 ねぇ、そうよね、絶対ぜったいそうよね!?

 ねっ、ねっ、ねぇっ!?」

「聞けよ。

 てか、サマーウォー◯とかぐ◯様のコラボ止めぇや。

 んまー、そーなんじゃない?

 あと、揺らすな。

 そして、彩葉いろははスルーしろ」

なによ、素気すげ無いわね!

 ケチ!」

「だから、揺らすなってんだろ!!

 憧れてた上に色々イベった姉に、いきなりこんな残念はっちゃけ具合見せ付けられた、妹の気持ちも考えれや!!

 答えただけでも、表彰状レベルだろが!!

 あと、くどいようだけど、彩葉いろはのは忘れろよ!?」

「わーい、ナカーマ」

「エイト、貴様ぁ!!

 この状況下で、ビム太郎たろう出すなぁ!!

 なんっでまだ持ってたんだ、お前ぇぇぇ!?

 んで、二人同時に使うなぁ!!

 お前もう関係いだろ、友達なってんだろ、エイトォ!!

 ほいで音声がもう、うぅるぅせぇっ、バァァァァァカ!!

 謝ったんだから、もういじゃろがいぃっ!!

 なに引きずっとんねんっ!!

 てか、彩葉いろはぁ!!

 ざっけんな、馬鹿野郎!!!」

「は、初めて、友灯ゆいに雑に叱られた……。

 うれしいぃぃぃぃぃっ!!」

「でゅあむぁるぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇっ!!

 夢なんぞ叶えてんじゃぬぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!

 命とあたしを何だと思ってんだ、てめぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!」

「友達!!」

「ライン飛び越えまくっとるわ!!

 ハードル高跳びレベルだわ!!

 だが、く踏み止まった!!

 そのまま、キープしろよ!!

 言っとくがあたしは、結婚願望のいノンだからな!!」

「あー、ちょっとぉ!!

 まだID交換済んでないのに、逃げないでよぉ!!

 待ってよ、私のモテムテキィッ!!」



 お祭り騒ぎをしながら、何故なぜか鬼ごっこを始めるスタッフ達。



「ゲームだ〜!」

「ニーナもやる〜!」



 なにやら勘違いし、混ざる新凪にいな結愛ゆめ



 一連の騒動を見つつも、置いてけぼりを食らう面々。

 そんな中、連中を指差しながら、結貴ゆき英翔えいしょうに尋ねる。



「いつも、ああなの……?」

「大抵」

「そう……。

 大変そうね……」

「楽しい」

「あなたも、まぁまぁね……」

「ありがと」

「褒めてないわ……」



 案の定というか、やはりというか。

 やはり締まらない、『トクセン』一行。

  


 ラストはさておき。

 実に50年もの長きに渡る戦いは、こうして終わりを告げたのだった。

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