25:帰ってきた特撮日和(グレート・デイズ)

 20XX年、3月31日。

 この日、世界規模の不可思議現象が観測された。



 粗製乱造しかしなかった映画監督が、みずからの非を侘び謝罪会見し、足を洗ったり。

 加工、トレパク頼りだった一部のクリエイター、アーティストたちが突如、引退を表明したり。

 サしゅうでも周年でもないのに、セルラン上位のソシャゲが一斉に、強キャラだらけの無限、無料ガチャを展開したり。

 そういった情報で賑わい、世間はたちまちパニックとなった。



 当然、イメージンの施した、『clEARTHionクリエーション』の影響である。

 自己承認欲求を始めとした我欲を銘々めいめい、セーブされたのである。



 もっとも、そんな真実を明かした所で、信憑性のさにより、定着などしない。

 付け足せば、その制限さえ無視して、性懲りもく暴走する手合いも、遅かれ早かれ現れるだろう。

 悲しいかな、それが人間のさがである。



 しかし、そこで立ち塞がるのが『トクセン』、そして『京映きょうえい』である。 

 友灯ゆい率いる『トクセン』が、技術力とコスパ、サービスの充実っりで。

 優生ゆうがトップに君臨する『京映きょうえい』が、行き届いた監視と、クオリティで。

 そういった、二重の意味で悪質な連中を相手取り、滅ぼし、必要と有らば検挙する。

 イメージンに誓った通り、正しく楽しい方向へと、世界を整えて行くために。



 余談だが。

 あれからマスルオは、まだ見ぬ強敵を求め、宇宙へと旅立った。

 去り際に、「名実共に最強となり、再戦する」などと息巻いていたが。

 次に相見あいまえる時は、太陽から帰還したフェニックスばりに手強てごわくなっているに違いない。

 というか、今度の今度こそ、本当ほんとうに倒せないのではなかろうか。

 その前に、やられるか、改心するか、気が変わってくれることを願う。

 念のため珠蛍みほとに、宇宙でも追えるレーダーを開発してもらい、定期的に観察、監視しているが。



 なにはともあれ、紆余曲折を経て。

 ようやく、真の日常が帰って来た。



 そして今、友灯ゆい英翔えいしょうは、映画館に来ていた。

 平和と休日を精一杯、満喫するために。





「やっとだ……!

 本当ホントに、ようやっと……!

 キタキタキタキターッ!!」

「ねー」



 備えに備えていた最終決戦を終え。

 明日から新たな『トクセン』を作り上げるだけの英気を養うため

 上映最終日に見収めるべく、英翔えいしょうを引き連れ、友灯ゆいは出陣したのだ。

 最後にして最大の楽しみを、大スクリーンと大音響、そして大量の絶品フード、ドリンクで、骨の髄まで味わうべく。

 ちなみに車は、今日のため珠蛍みほとが作ってくれた、バイスケボーよろしく空を走れる、ほぼ自動運転の特注品である。



「いやー、待ちくたびれたぜ!!

 TDGと、TDG!!

 新旧トリプル巨人、合わせて6人の、ノンストップ豪華共演!!

 しかも、オリキャス揃い踏み!!

 おまけに対するは、ゴッデスモネラを始めとした、ラスボス軍団!!

 極めつけに、バトル・パート鬼マシの180分!!

 く〜!! たまんねぇぇぇぇぇ!!」

「この日のためにユーさん、配信さえ我慢してたもんね。

 あねぇとの決戦にリソース割いてたからってのもるけど」

「ったりめぇだ!!

 こういうのは、映画館で観てなんぼじゃろがい!!

 それが、醍醐味ってもんよ!!」

「粗大ゴミにはならなさそうだから、安心して。

 ネタバレ無しで感想記事、漁ってたから」

「そりゃあい!!

 相変わらず、気が利くな!!

 サンキュー、相棒!!」



 感謝の意を表したいのか、英翔えいしょうの背中を叩き腰に手を当て、ガハハと笑う友灯ゆい。 

 振る舞いからも分かる通り、相変わらず、女性としての魅力は薄い。

 が、これくらいの方が、英翔えいしょうにとっては気楽だった。



「にしても。

 随分ずいぶん、変わったね、ユーさん」

「そりゃあ、お前にすっかり、特撮好きにされたからな!」

「それもだけど。

 前までは、ファスト系。

 感想記事とかハイライトだけで、満足してたのに」

「あー……」



 それまでの勢いを失い、少し気不味きまずそうに頭の後ろを掻き。

 友灯ゆいは答える。



「確かに、そうだけどさ。

 英翔えいしょうみんなに頼るようになって、時間や体力の調整が出来できようになったし。

 出会ったばっかの時も言ってたけど、仕事あれこれ含めずとも、特撮に興味自体はったし。

 それに、ほら、なんてーかさ。

 こういう、『エアプ勢』っての?

 そういうのだって、娯楽を損なわせるかもって、痛感したからさ。

 今回の一見で。

 まぁそもそも、そんな粗悪品、偽装品だらけになってたエンタメ業界にも、大なり小なり問題、欠陥はったんだろうけど。

 それでも、やっぱ、好きな物は好きだし、気になるし、追い掛けたいし、コレクションしたいし、享受したいわけよ。

 たとえ、どんなに爆弾、虚偽だらけの、金食い虫でもさ。

 だからさ」



 英翔えいしょうの手を取り、気恥ずかしそうに頬を掻き。

 ややあって向き合って友灯ゆいげる。



「エイトさえ、良ければさ。

 これからも、あたしを助けてくれよ。

 あたしは、ほら。

 こんな感じで、ちゃらんぽらんだから。

 良し悪しの分別とか付かんし、リサーチしようものなら、ネタバレに爆撃されるのが関の山だから。

 未見のまま、新鮮に楽しむことを、なかあきらめてたけどさ。

 その点、エイトなら、そこら辺も掻い潜って、最速かつ最短で、あたしの望む情報を、望んでる分だけ調べられるじゃん。

 そうやって、これからもサポートしてしいなって。

 それを参考にした上で、観るかどうか決めたいなって。

 ……駄目ダメかな?」

「……ううん。

 駄目ダメじゃない。

 俺も、うれしいし。

 俺も、それを本心で望んでる」

本当ホントに?

 嘘いてない、無理してない、気ぃ遣ってない?」

「……と、思う」



 まだ英翔えいしょうは、ちゃんと心を宿し、養い初めて、日が浅い。

 そもそも、この世に産まれたのだって、ほんの1年ちょっと前。

 そんな状態で、真面まともな判断など、容易には出来できない。



 それでも英翔えいしょうは、きちんと考えた。

 逃げずに、卑下せずに、ぐに。



 であれば、友灯ゆいが取るべき行動は一つ。

 彼の気持ち、決意を尊重するのみ。



「そっか。

 偉いなぁ、エイト!!

 流石さすがあたしの自慢の息子だ!」

「……そうだっけ?」

「似たようなもんだ!!

 お前なんか、こうしてやる!

 ほれほれー!

 大人おとなしく、あたしのされるがままにボコられろー!」

「痛い……。

 痛いよ、ユーさん……。

 具体的には、お腹が……」



 軽くヘッドロックを掛け、じゃれる友灯ゆい

 わざと痛がり、巫山戯ふざけ英翔えいしょう

 程なくして車内は、二人の笑い声で埋もれるのだった。



 数分後。

 飽きた二人は、本来の目的を果たすべく着陸し、車から降り、映画館へと向かう。



 新たなる創作神たる優生ゆうを負かし。

 地球や人類さえ生み出した想造神すら退しりぞけ。

 公表されてこそいないものの、仲間と共に、文字通り世界を守った二人。

 戦いも終わり、救世主と言っても差し支えない二人には、もう恐れる物などなにい。



『機材トラブルにより本日、映画館を臨時休業とさせて頂きます』



 でもなかった。



「うぉう……」



 神も仏もあったもんじゃない、あまりに無慈悲な急展開に、その場に崩れ落ちる友灯ゆい

 ここに来て、まさかのトラップ。

 不測の事態に、友灯ゆいはすっかり傷心である。


 

本当ホントだ。

 ホーム・ページにも、そう書いてる。

 めっちゃ小さいし、一番下に」

「トリガ◯……!!

 あたしの、トリ◯ァァァァァ!!」



 英翔えいしょうの言葉も耳に入らぬまま、落ち込む一方の友灯ゆい

 そんな彼女を見てられず、こっそり英翔えいしょうは、姿を眩ませた。



「えー!?

 きょう、デッカ◯、いないのー!?

 やだ、やだ、やだぁ!!

 パパとママときたのにー!!」



 ふと、自分と似た趣旨の抗議をする子供の声。



 危うく、ドラク◯を買ってもらずダダをこねる山田◯之みたいになりかけたが。

 気持ち程度に残っていた、大人としてのプライドが発動し、正気に帰り、立ち上がり。

 友灯ゆいは、声のする方を見遣る。 



 思った通り。

 お目当てのTDGが観られず涙目の少女と、縋り付かれ困り顔の両親がた。

 


 職業柄、そういった状況に、友灯ゆいは幾度と無く遭遇して来た。

 ゆえに、放ってはおけない。

 ここが『トクセン』ではない、三人が自分のお客様ではないと重々、承知していても、見過ごせない。

 それが人間、人情という物である。



 が、策もく声を掛けたりはしない。

 この一年で、友灯ゆいは大人として成長した。

 こういったケースでなくとも、アイデアのい提案など、なんの意味も持たない。

 単なる時間の無駄なのだ。



「お」



 自分が求める条件に適してそうなスポットを見付け、指パッチンをする友灯ゆい

 そうと決まればと、親子に接触する。



「あのぉ」



 アピアランスを整え、にこやかかつ軽やかに近付き。

 アクセルを提示しつつ、友灯ゆいげる。



かったら、ご覧になります?

 あたし、アプリ加入者なんで、無料で観られますよ?

 丁度、そこにカフェがりますし、お茶しながらでも」



「……ええっとぉ……。」

「どちらさまでしたでしょうか……?」

  


 怪しい誘いに身構え、子供を匿う両親。

 キャッチ・セールスかマルチ商法とでも受け取られたらしい。

 無理もいが、ややショックである。



「あ〜!!

 おねーさん、『トクセン』だぁ!!

 すご〜い!!」


 

 友灯ゆいを指差し、嬉々として叫ぶ少女。

 そのまま二人の手を振り払い、少女は友灯ゆいの前まで駆け出し、ホイップ・ステップ・ジャ〜ンプする。

 


 しめた。

 これは、効果的。

 空かさず、友灯ゆいは屈み、少女とクロスタッチする。


 

「こんにちは。

 初めまして。

 く分かったねぇ、すごいねぇ」

「うん!

 トモ、いっぱいみたもん!!」

「トモちゃんっていうんだ。

 あたしと、そっくりだね。

 そっかぁ。

 偉いねぇ、ありがとねぇ」



 お礼に頭を撫で撫でする友灯ゆい

 トモという少女は、くすぐったそうにしつつ、笑顔を返す。



「『トクセン』、って……。

 いつも、トモが言ってる、あの?」

「うん!!

 おねーちゃん、そこの『オヤダマ』なの!

 すっごくつよくて、カッコイイんだぁ!」



 横に立ち、広げた手をしきりに裏返し、友灯ゆいを紹介するトモ。

 ややオーバーな手厚い歓迎と、あながち間違ってもない、『親玉』という表現に苦笑いしつつ。

 友灯ゆいは、両親に自己紹介する。



「初めまして兼、改めまして。

 ご紹介に預かりました、三八城みやしろ 友灯ゆいと申します。

 今、トモちゃんが言ってくれた通り。

 特撮グッズ、家電量販店『トクセン』にて、店長をさせて頂いております。

 仕事柄、そして同じ不運に見舞われた立場上、どうしても見逃せなくって。

 なので、皆さんさえよろしければと、申し出させて頂いた次第です」

「なるほど。

 ご厚意、痛み入ります」

「そういうことでしたか。

 私、てっきり……。

 すみませんでした」

滅相めっそうもないことです。

 私の方こそ、すみません。

 どうも、お節介みたいで」 



 誤解、警戒が解かれ、和やかなムードになる4人。

 お詫び代わりに、友灯ゆいは二人とも握手する。



「でも、大丈夫なんですか?

 法令違反とかに当たるんじゃあ。

 それも、見ず知らず、初対面の相手になんて」

「確かに、グレーかもですけど。

 お金さえ発生しなければ、セーフじゃないでしょうか。

 それに、状況も状況ですし。

 確かに、人もまばらですけど。

 最終日に観られないだなんて、あんまりじゃないですか。

 しかも折角せっかく、多忙な合間を縫って取れた、親子水入らずの、記念すべき、大切な日に」

「それは、そうですが……」



 友灯ゆいの立場を憂いてか、首を縦に振らない二人。

 そこで友灯ゆいは、ダメ押しの一手に打って出る。



「では、こうしましょう。

 今から皆さんは、『私の友達』。

 これから私は、『友達と、サブスクで鑑賞会をする』だけ。

 だったら、そこまで変でも怪しくズルくもない。

 休日の過ごし方として、至って普通ですよね?」

「え?

 ええ、まぁ……」

「そして、『もし映画が面白かったら改めて、まだ上映中のシアターや、レンタルや配信でご鑑賞頂く』。

 値段やタイミングの差はれど、これならお布施出来できるし。

 申し分ないし、申し訳なくいんじゃないでしょうか?

 そっちのが、休憩も挟みやすいですし。

 なんせ今回は、大人もターゲットにした、大長編ですから」

「た、確かに……」



 即興で思い付いたにしては、中々の計画。



 こういう時、改めて実感する。

 自分は、落ち着いてさえいれば、そこそこ上手く立ち回れるタイプなのだと。

 すっかり英翔ラヂエル頼りになりつつあるが。

 単独でも、まぁまぁ動けるのだと。



「ドヤってる所、悪いけど。

 その必要はいよ。

 ユーさん」

「うぉう!?」



 いつの間にか戻っていた英翔えいしょうが、友灯ゆいの横に立ち。

 トモたち会釈えしゃくしてから、友灯ゆいに説明する。



「機材なら、たった今、俺が直して来た」

「……は?

 どうやって?」

「ん」



 トントンッと、みずからの頭を人差し指で突く英翔えいしょう

 どうやら、またしても英翔ラヂエルの世話になったらしい。

 今日も今日とて、平常運転でチートである。



 ……待てよ?


 

「……だったら、最初から予知して、電話で手立て打っとけば事足りたんじゃね?」

「……あ」



 思わぬ落とし穴に、素っ頓狂な顔になる英翔えいしょう

 無双は出来できても、無敵ではないらしい。

 楽しみにしぎるあまり、事前のチェックが入念ではなかった様子ようすだ。



「やれやれ。

 お互い、ジリツには程遠いな」

「……だね」



 互いに苦笑いしてから、英翔えいしょうはトモたちと向き合う。

 


「直した謝礼として一ヶ所、イベント用のシアターを貸し切りさせてもらえるようになりました。

 丁度、丸一日、空いてたらしくて。

 俺の動画アプリとペアリングさせれば、大スクリーンで、ダブルTDGが観られます。

 持ち込み可で、ドリンクとポップ・コーンのサービス付きで、適度に休憩も取れますし、思いっ切り叫べますし、悪びれる必要もりません。

 それに、TDGへの還元は俺が担当してますし、お金ならカフェには支払っているので、お咎め無し。

 現状、最適解だと思いますが、どうですか?」

「後出しで上位互換叩き出して見せ場と手柄総嘗めすんの止めーや、お前。

 でも、出来でかした。

 それなら、カフェでテイク・アウトして、心行くまでTDGを堪能出来できる。

 災い転じて福となす」

「左様」

「てわけで、どう?

 トモちゃん」

「やった〜!!」



 二人ではなくトモに聞くことで、一気に攻め落とす。

 将を射んと欲すればず馬を射よ、みたいなニュアンスである。

 もっとも、トモを馬扱いするのは失礼に値するので、口には出さない。

 あくまでも、それに近い形というだけだが。



 二人の魅力的な提案と、期待に満ちたキラキラしたトモの眼差し。

 これに抗うすべを、夫妻は持ち合わせておらず、互いに顔を見合い。

 やがて、ついに。



「……でしたら、はい」

「お言葉に甘えさせて頂きます」



 ここに来て、素直に折れる夫婦。

 友灯ゆい英翔えいしょうが屈み、三人でハイタッチをする。


 

「そうと決まれば、ずは兵糧ひょうろうの調達だ〜!

 行くぞ、トモちゃん!

 あたしに、続けぇ!」

「お〜!」



 友灯ゆいまで子供っぽくなり、英翔えいしょうや夫妻を置いて、カフェへと直行する。

 取り残された三人は、少し沈黙に包まれるも、しばらくして英翔えいしょうがお辞儀する。



森円もりつぶ 英翔えいしょうです。

 ユーさんの、相棒です。

 お世話になります」

「こ、こちらこそ」

「娘共々、よろしくお願い致します」

「りょ」



 割と早く砕け、打ち解けた三人。

 友灯ゆいとトモに呼ばれ、苦笑しながら合流した。



 そして、数分後。

 5人で仲良く、堂々と、ダブルTDGを味わい尽くし。

 そして時間の許す限り、他の特撮やアニメも鑑賞し。

 大興奮、大満足の休日にするのだった。





 楽しい一時は、あっと言う間に過ぎ去り。

 即席の鑑賞会連合は、解散となる。

  


「やだー!

 ユーちゃんと、いっしょいるー!」



 ひざをスリスリされ、困り顔の友灯ゆい

 彼女は、トモに頭ポンポンをして注意を引き、宥める。

  


「安心しなって。

 あたしは、トモちゃんと一緒だ」

「……ほんと?

 また、いっしょ、できる?」

「どうせ地球は丸いんだ。

 いつでも、また会えるさ。

 それにあたしには、自動運転機能付きの、空飛ぶ車だって有るんだぜ?

 トモちゃんの家まで、ひとっ飛びさ。

 だから、泣かないの。

 かならず、また鑑賞会しよう。

 今度は、トモちゃんと同じくらいの、新しいお友達も呼んでさ。

 みんなでパーッと、盛り上がろー!

 ね?」

「……うん」



 言われた通り、泣き止むトモ。

 


「良い子だ」



 最後に、トモの髪をグシャグシャにし、撫でる友灯ゆい

 そのまま姿勢を直し、友灯ゆいは夫妻にげる。



「ところで。

 これから、どうやって帰る予定で?」

「電車です」

「てことは、車で来たわけではないんですね。

 でしたら、送って行きます。

 その方が早く着けるし、長く一緒にられるし、タダですし。

 な? エイト」

「ん」



 気が早いことに、アクセルからマテリアライズした車を着地させる英翔えいしょう

 半信半疑だったらしく、友灯ゆいの誇る科学力に夫妻は、あんぐりと口を開けた。

 次いで、近くにた人々が、目をこすったり頬をつねったりした。



「んー?

 なぁ、エイト。

 これじゃ、ちっこくない?」

「ん。

 リサイズ」

「次いでに、色も変えるか。

 なに色がい? トモちゃん」

「オレンジ!!」

うちの子猫と一緒だ。

 ほれ、エイト。

 姫様がご所望しょもうだ。

 とっとと染め上げて差し上げろ」

「ん」 


 

 アクセルを操作し、後部座席を追加。

 さらに、デザインを変更。

 二人乗りから一転、オレンジ色のファミリー・カーに早変わりする。

 おかげで再び、ギャラリーが沸き立つ。

 なにかの撮影かと勘違いしたのか、辺りを見回す人も確認された。



「あ、あ、あのっ!」

流石さすがに、悪いですって!

 我々のような、車すら真面まともに買えない一般人に!

 タダでさえ色々、サービスしてもらってるのに!」



 我先にとトモが乗ったタイミングで、罪悪感を覚える夫妻。

 友灯ゆいは、そんな二人に、あっけらかんとげる。



「お二人は、トモちゃんを立派に育てられてるじゃないですか。

 結婚する気のあたしと比べたら余程よほど、普段から社会貢献してますよ」



 とは言うものの。

 これで納得する二人ではないと、友灯ゆいは知っている。

 鑑賞会の時でさえ、オッケーをもらうまで時間を要したし。



 かくなる上は。

 と、友灯ゆいはトモを見た。



「じゃあ、交換条件ってことで。

 トモちゃん。

 この車に、名前を付けてくれるかな?」

「おなまえ?」

「そ。

 どんな名前がい?」

「うーん……。

 ……『プカプカー』!!」

「えと、トモちゃん?

 もっとこう、他になんい?

 例えば、ほら、『パトカー』みたいなの!」

「ん〜?」

「じゃあ、『鳥さん』を『英語』で言うと?」

「『バード』!

 トモこのまえ、ならった!」

「正解!

 じゃあ、それを『車』と合わせて、パトカーみたいに言えば?」

「『バドカー』!!」

「はい、決まった、い名前だ!

 今日から、これは『バドカー』だ!

 というわけで、これで交渉成立です!

 さあ、乗った乗った!

 そろそろ、愛するトモちゃんも、おねむですし!

 トモちゃーん! そのまま寝てもいんだよー!」

「ん……そうする……」



 途中からクイズめいた誘導尋問の上、出会ったばかりの女児への相乗り強要。

 先程まで共に遊んだ間柄でなければ、ほぼ間違いく拉致、犯罪行為に該当するだろう。

 


 流石さすが不味まずいと感じ。

 友灯ゆいめずらしく、真顔になった。



「……すみません。

 年端も行かない子、人質に取って、脅迫紛いとか。

 こんな、雑な、最低なやり方しか出来できなくて。

 でもあたし、今日、すっげー楽しかったんです。

 トモちゃんや、お二人のおかげで。

 勿論もちろん、エイトのおかげでもありますけど。

 先程、ああ仰ってましたけど。

 てか、サービスしてもらえてたのは、あたしの方なんです。

 だからってんじゃないし、恩着せがましいのは百も承知ですけど。

 せめて、これくらい、させてしいなって。

 ここまで無理を押して付き合わせた以上、帰りの時間くらい、ショート・カットしたいな、って。

 本当ホント。ただ、それだけなんです。

 説得力、ペラッペラですし。

 すっかり、注目の的ですけど」



 頭を下げ、語彙力も乏しいままに、非礼を詫びる友灯ゆい

 片棒を担いだ罪悪感からか、英翔えいしょうも無言で頭を下げる。



 二人の気持ちが通じたのか。

 夫妻は、やがてうなずき合い、笑顔を向けた。



「分かりました。

 お邪魔させてください」

「今度、『トクセン』にも。

 私も、パパも、トモも、すっかりファンになってしまったので」



 暖かい言葉と共に、手を差し伸べる夫妻。

 友灯ゆい英翔えいしょうは、その手を夢中で掴み、負けない笑顔で答える。



「……はいっ!!

 是非っ!!」

「お待ちしてます。

 その暁には、最大級におもてなしさせて頂きますので」

「今日以上の!?」

「普通で!

 なるべく、普通目で!

 平に、ご容赦ください!」



 と、こんな調子で、すったもんだったが。

 数分後、5人は和やかに、トモの家へと向かうのだった。





 バドカーでトモたちを送り届け、自宅へ帰った後。

 友灯ゆいは、鼻歌を歌いながら、RAINレインの画面を見ていた。

 


うれしそうだね。

 ユーさん」

「まぁね。

 なんたって、新しい友達が出来できたからさ。

 それも一度に、三人も」

「内一人は、趣味友」

「それな。

 今もさぁ、トモちゃんとRAINレインしてるんだけど、可愛かわいくってさぁ。

 っても、返信来なくなった辺り、寝落ちしたっぽいけど」

「楽しそうでなにより」



 友灯ゆいにレモン・ティーを手渡し、隣に座り、アップル・ティーを飲む英翔えいしょう

 友灯ゆいは、なんだか不思議な感覚となった。

  


 目の前にる、なんでもりな相棒。

 彼のおかげで、自分の人生は激変した。

 悪い方、そして飛び切りい方に。



なんてーかさ。

 やっぱ、すごいよな、エンタメって。

 好き同士ってだけで、垣根も年齢差も越えて、あっという間に仲良くなれる。

 あたしたちは、そんなすごい物を、これから広めてく。

 そういう使命を、神様から受けたんだ」

「不安?」

「そらそうだよ。

 ディスられたり、悪用されたり。

 あるいは、浸透してなかったり、面白がられたりするんだからさ」



 どれだけ熱心にアピール、アプローチしても、届いてなかったりする。



 トモのご両親には、『トクセン』についてほとんど伝わってなかった。

 1年間、ひたすら宣伝しても、喧伝には至らなかった。

 丁度、それが発覚した、今日みたいに。



 未だに根強く残る、古習めいた、凝り固まった、特撮への風当たり、偏見。 

 そこから来る、「口にするのも躊躇ためらわれる」という、謎の後ろめたさ。

 噛み砕くのが困難な、突飛過ぎる、未来由来の技術力。

 活字離れが嘆かれるまでに、懸念されている語彙力。

 スマホが発達し過ぎた、身近になり過ぎたばっかりに、煽りを受けた結果の、日々の会話不足。

 作品数が膨大過ぎるあまり、飽和しつつあるメディア業界。

 事実無根だろうと冤罪だろうと風の噂だろうと、隙あらば、ここぞとばかりに炎上させたがり、違っていたら行方を眩ませる、SNSの悪習。

 現代の日本をストレス社会たらしめる、主に労働絡みのアレコレ。

 未だにデフレ脱却が後回しにされ続けているがゆえの、懐具合。

 といった具合に、その要因は、枚挙に暇がい(的外れな意見もるかもしれないが)。



 特撮に限らず、とどのつまりすべからく、そういう物だ。

 趣味とは、自分自身その物。

 大多数の人間を構成し、命や魂、人生と直結する、生きて行く上で必要、重要なな栄養素。

 自分の趣味を他者に明かすのは、おびただしい勇気と、悶え苦しまんばかりの羞恥心をともなうのである。

 初対面、公衆の面前などで晒すなど自殺行為、一種のプレイに他ならないのだ。



 そういう意味では、今の時代に創作で一旗挙げようというのは、単なる無謀な大冒険なのではなかろうか。

 我ながら友灯ゆいも、そんな疑念を抱いてしまう。


 

 けれど。



「……ん」



 不意に、友灯ゆいの肩に、英翔えいしょうが頭を乗せ、目を閉じた。

 突拍子もい行動に、友灯ゆいはポカンとした。


 

「……どした?」

「……駄目ダメ?」

「答えになってない。

 別に、不許可ってんじゃない。

 あと、その聞き方はめろ。

 お前、最近、自分の可愛かわいさ自覚して、味を占めて来てないか?」

「こうすれば、ユーさん、喜ぶから」

「……そうだよな。

 お前は、そういうやつだよな。

 あと、大正解」

「やたー」



 依然として、緊張感のいフリーダムっり。

 ああだこうだと悩んでいることすら、馬鹿らしく思えてならなくなる。



 でも、そうだ。

 自分には、相棒が。

 仕事でもプライベートでも生活面でも支えてくれる、英翔えいしょうる。



 他にも、同じ未来を目指してくれる仲間が、わんさかる。

 自分達の店を気に入り、興味を持ち、足繁く、あるいは遠路遥々来てくれる、お客様がる。

 今はまだ敵わずとも、いずれは世界を席巻せっけん出来できると自負している、特撮と自社製品がる。

 


 自分の心は、まだまだくすぶってなんかいない。

 特撮も、『トクセン』も、自分の人生も、もっと強く、大きく、面白くなれる。

 もっとも、再び増員するのは、流石さすがに現実的ではないが。



「……充電、出来できた?」

「おう。

 ありがとな、エイト」

「ん」

  


 自分も英翔えいしょうも、明日からは再び、『トクセン』の一員。

 やることも、やらなきゃならないことも、盛り沢山だくさん

 もっと、もっと、気張って行かなくては。



 と。

 その前に。



「エイト。

 そろそろ、いつものアレ、頼むわ」

「ん」



 友灯ゆいの肩から離れ、頭を起こす英翔えいしょう

 しばらく、なにるでもなく正面を見詰めた後、友灯ゆいげる。



「明日は、イタ電が来そう。

 今、敵の住所と電話番号を警察に送ったから、今日中には逮捕出来できると思う」

「性懲りないなぁ。

 これで何人目だよ。

 どうせまた、いつもの、タダ飯、獄中生活に憧れてるだけの不適合者だろうけど」

「あと、本とかを切り裂く常習犯が現れそう。

 通称、切り裂きジャック。

 こっちも、例によって例のごとく、警察に情報、送っとく」

「名前、無駄にカッケーな。

 由来、最悪だけど。

 でも、これで安心だわ」

「あと、痴漢が出そう。

 こっちも、常習犯」

「オッケー。

 いつも通り、紫音しおんに女装頼んで、ジオンに徹底的に、色んな意味で潰してもらおう。

 そういう下衆は、徹底的に痛めつけないと。

 で、ことが片付いたら、後は警察に任せよう」 

「他にも、獣電鬼みたいな厄介クレーマーも出没しそう。

 そこまで実害はいけど、放ってはおけないかな」

「なら、オカミさんの出番だな。

 あの人なら、嬉々として引き受けてくれるだろう。

 なんなら、自分も介さないまま警察に突き出したら、それについて文句言われそうだ」

「あと、トモちゃん一家が、開店直後に来てくれる」

「2連休だったのか。

 にしても、ようや真面まともってか吉報だ。

 最高だな。

 グゥレートですよ、こいつは。

 朝礼で共有して、盛大に歓迎しよう。

 あと、新凪にいなちゃんと結愛ゆめちゃんも誘うか。

 そう、トモちゃんと確約したからな」

「とまぁ、『トクセン』絡みだと、そんな感じ。

 他は、いつも通り、もう少ししたら、それぞれの県の刑事さんたちにお願いする」

「……すっかり板についたな。

 深夜の預言者『ハチ』」

「ユーさんのおかげだよ。

 ユーさんの感受性の豊かさ、誰に対しても親身になれるフレンドリーさ、EQのおかげ

 俺だけなら、ここまでは成し遂げられなかった」


 

 上述の通り。

 英翔えいしょうは今、深夜の預言者『ハチ』として、ひそかに警察に情報提供している。

 睡眠がほとんど必要のい機械の体と、友灯ゆい絡みなら秒でヒット出来できる超検索『ラヂエル』。

 この二つの特性により、未曾有の大事件から軽犯罪、虐めや各種ハラスメント、果ては迷子の子猫や落とし物に至るまで予知。

 日夜、各地の警察署に連絡し、解決と防犯に貢献しているのだ。

 それも、無償で。

 そんな日々を一年間も送っている内に、『ハチ』と名乗ればぐに全国どこでも即時対応してくれる、顔パスみたいなパートナー・シップを築き上げているのだ。


 

 友灯ゆいの分身。

 彼女の相棒。

 特撮の先生。

 我が家の使用人、管理人。

 友灯ゆいと同じく、『トクセン』の従業員。

 超人気サブスク『特トーク』の発案、管理者。

 世界的ゲーム『appri-phoseアプリフォーゼ』開発者、経営者、責任者。

 そして、深夜の預言者『ハチ』。

 実に8つもの顔を使い分けている、紛れもない大天才なのである。



「冷静に立ち返るとさ。

 いや、そうじゃなくてもさ。

 とんでもないな、お前……。

 普段こんな調子だから、イメージと有能さが結び付かんけど……」

「割と、余裕るよ。

 今だって、隙間時間に、オリジナル新作ゲーム作ってるし」

いよ?

 隙間、いよ?

 普通は合間、縫えないよ?

 本来なら今お前、新妻◯イジより激務だよ?

 贔屓目しに、日本でも断トツで多忙だよ?

 ちな、なんてゲーム?」

「『クマ娘』。

 いでしょ?」

「……そっか。

 怒られないようにな」

「御意」



 普段の英翔えいしょうらしい、ゆるふわなタイトルに、ほっこりする友灯ゆい

 この調子なら、杞憂だろう。

 現に今は、心から楽しそうに告げていることだし。

 著作権も、まぁ……彼の人柄と優秀さをもってすれば、最終的にクリア出来できるだろう。

 多分。恐らく。メイビー。



「さて、と」



 友灯ゆいは立ち上がり、伸びをし、肩や首を軽く回した。



「そろそろ、寝るか。

 エイトも、あんま無理すんなよ」

「ん。

 おやすみ」

「おやすみ。

 また明日な」

「ん」



 挨拶を済ませ、別行動を開始する二人。



 これから各都道府県の警察と話し合うというのに、どこかうれしそう、誇らしそう。

 どうやら、自分の世話焼き気質は、彼にも伝染したらしい。



 そんな相棒を見て、やれやれと思いつつ、友灯ゆいも自室へと戻ったのだった。





 これは、とある片田舎に位置する、ちょっと変てこぎる、お店の話。

 るかもしれない、実際に起こったかもしれない、不思議なお話。

 


 この物語を最後まで観てくれた君達は、もしかしたら興味を持つかもしれない。

 行きたい、見たい、ヒーローに会いたい、と。 

 そんな君達の前には今、多くの壁が立っていることだろう。



 行くためのお金。

 辿り着くまでの手段。

 パパとママの説得。

 知らない場所への恐怖。

 そして、ほんの少しの恥ずかしさ。

 悩みも理由も、人それぞれ。



 けれど、安心してしい。

 なんせ、そのお店は、実に変てこ。

 君達の呼び声に導かれ、特別に、出張して来てくれるかもしれない。

 ひょっとしたら、最後まで諦めなかった君達には、ご褒美が待っているかもしれない。

 希望を、情熱を、好奇心を持った、君達のために、『トクセンジャーズ』が駆け付けてくれるかもしれない。



 さぁ、勇気る少年少女諸君。

 大冒険へと旅立つ準備は、出来ているか? 



 知りもしない誰かの書いた地図なんて、らない。

 胸のど真ん中、羅心盤を目印に、駆け出そう。

 今こそ、声高らかに叫べ。

 君達自身を、呼び覚ませ。


 

 合言葉は、ただ一つ。



 得しかせん、『トクセン』!!

 ◯◯県とオンラインで、君達を待っている!!





「というわけで。

 ご新規様開拓のために、CM作ってみましたー。

 脚本のリオ様、主演の彩葉いろは、カメラマンの明夢あむに、拍手ー」



 翌日の朝礼にて、初っ端から物凄い事後報告を済ませる友灯ゆい

 元気な彼女とは正反対に、璃央りお彩葉いろはは、不満と疲労を隠さないでいた。

 思い付き、無茶振りした直後、本人達そっちのけで、友灯ゆいだけ清々すがすがしい気分で爆睡していたからである。



「勘弁してよ、ボス……。

 次からは、もっと事前にアポ取って頂戴ちょうだい……。

 数分の尺とはいえ、欠陥工事なんて出来できない主義なんだから……。

 一人だけ快適とか、無能上司のすることだし……」

「あれれー?

 もしかしてリオ様、紫音しおんとお楽しみの真っ最中だったー?

 いやー、ごめんねー、邪魔してー」

「……まるで反省してないわね、あんた。

 むしろ、煽り散らしてるわね。

 結婚願望いけれど、それはそれとして、不愉快ってことね」

璃央りおさんだって否定してないじゃないですか」



 璃央りおの隣に立つ彩葉いろはが、惜しげも臆面もく、友灯ゆいに文句を言う。



「てか。

 被害者ってんなら、私の方ですよ。

 困るんですよ、司令、こういうの。

 確かに、『トクセン』随一の被写体、うら若さの持ち主なのは、否定しません。

 けど、だからといって、便利に消費されっ放しってのは、性に合いません。

 大体、カメラ担当の明夢あむさん、スパルタぎます。

 こっちはド深夜に、サイッキューちゃんたちとの密会を阻害されてまで撮影させられたんですよ?

 しかも、自室にカチコミされ、退路を断たれ、要求も不鮮明でリテイクの嵐、メイクに次ぐメイク、1に着せ替え2に着せ替え、3、4がくて5に着せ替え。

 誰が、海◯まり◯ちゃんですか。

 一体、人をなんだと思って」

あたしガチ勢。

 ほれより、ほい、今回の報酬。

 あたしの小学校時代のアルバムのコピー。

 ちゃんと、あたしが映ってるのだけズームして纏めといた」

仕方しかたいですね。

 そういうことなら、やぶさかではありません。

 この保美ほび 彩葉いろは

 引き続き、『トクセン伝大使』として、引き続き、こき使われて、ペット扱いされて差し上げましょう。

 ただし次は、中高同時で、お願いしますよ」

「今日も今日とて、見事にチグハグ、てのひらドリルね、あんた。

 神に棒付きキャンディでも恵まれて、ありがたく受け取ったのかしら」

「俺からも一言、いかな。

 お客様が、間もく、目的地周辺です」

「いや、『営業時間です』って普通に言えや」

「面白味に欠けるかな、って」

「ここで今、お前に足りない物、それは正確さ真面目まじめさ普通さ平静さ器用さ優しさ賢さ。

 そして、なによりもぉ、速さが足りない」

「ギリ平成だよ?」

「違う、そうじゃない」



 安定の天然っりに、友灯ゆいは苦笑いしつつ、英翔えいしょうの頭を撫でた。

 横で、彩葉いろはが物凄い形相のままフリーズしてるのが、実に痛快だった。



「あぁ、あぁ……。

 新凪にいな、大丈夫でしょうか……?

 店長さんのお友達に、粗相など致してないでしょうか……?」

「あんたが、お腹を痛めてまで産んだ子だろう。

 母親が信じなくて、どうするんだい」

「そうだし、ワカミっち!

 うち結愛ゆめも付いてる!

 信じて仕事あるのみだし!」

「平気ぃ、平気ぃ。

 シィナのお菓子でぇ、魔法に掛けてぇ。

 絆バリカタにぃ、しちゃうからぁ」

「そ、そうですよね、お義母様、明夢あむさん、詩夏しいなさん!!

 よーっし! 張り切って、行きましょー!!」



 いつも通り怯えている若庭わかばを、オカミさん、明夢あむ詩夏しいなが落ち着かせ、激励する。



「はーっはっはっはぁっ!!

 今こそ、我等われらキント連合、つえぇ出陣の時ぃ!!

 つえきますぞ、キンニクイーン殿どのぉ!」

勿論もちろんだとも。

 今日も期待、信頼しているぞ、キンニグ氏、フッキング氏。

 貴君きくん達の、ハッソマッソに、な」

「あ、あのぉ……。

 そろそろ、色々、改名すべきかと……。

 あうぅ……。

 は、恥ずかしぎる……」



 スーツを着用し、気合十分の拓飛たくと栞鳴かんな

 その後ろで、肩をすぼめる紫音しおん



「ワクテカですねぇ!

 今日は一体、どんなトッキューちゃんたちに出逢えるのか!

 保美ほびすでに、好奇心がブルンブルンで、テンションがフォルテッシシモですよぉ!

 あー改造したい改造したい改造したい改造したい改造したい改造したい」

「想像だけで一気に回復したわね、あんた。

 どんな相手だろうと、構やしないわ。

 あたしの当代無双伝説は揺るがない。

 ひびの一つすら入らないんだもの」



 噛み合ってるような合ってないようなやり取りで、士気を高め合う彩葉いろは璃央りお


 

英翔えいしょうくん。

 珠蛍みほとさん。

 最終チェック。

 今日の我々のミッションは?」

「与えられたタスクのクリア。

 及び、スタッフに対するブレーキ、リード、チェック、サポート、ツッコミを、プラス。

 次いで、阻害因子のマイナス」

「以下同文」

「エグザクトリー。

 いつも通り、ミッションを遂行する。

 手伝って。

 あなたたちの索敵や予知で、私のストレスと負担を、少しでもオミットして」

「りょ」

「心得た」



 一同が騒ぐ中、拳を突き合わせる、後方監督面の留依るい英翔えいしょう珠蛍みほと



 こんな、連携なんて満足に取れそうにない面々。

 だが一度、玄関が開き、お客様がご来店されれば、話は別。

 危なくはないが、なんだかんだで、大事にはならずに済むのである。

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