22:イッソーサク
突如として現れた、
彼女が完結に語った秘密は、その場を掌握するに足る効力を誇っていた。
静まる空気。
張り詰めた緊張。
困惑する一同。
そんな状況で、真っ先に飛び出したのは。
「……
落ちていたオーセイバーを拾い上げ、構えを取る
「
怒り狂い、叫びながら切り込む妹。
対する姉は、どこ吹く風と言わんばかりに大人びた笑みを浮かべ、手を
それだけで、
しかも、言葉すら発せられなくなる。
「『リセート』。
私の能力の一つよ。
文字通り、対象の『理性』を、私好みに『リセット』する。
この力で、今まで歴史、記憶を意のままに改変していたのよ。
なんて……妹に『獰猛』だなんて、失礼ね。
ごめんなさいね、
あなたはただ、私を案じてくれただけなのにね」
続け
瞬間、二人も武力を手放し、
「いきなり不躾な
でも、
今から話す内容は、長いし難解なんだもの。
戦闘と口喧嘩を続行しながら進めていては、お腹が空いちゃうわ。
あなたは特に、食いしん坊だし」
文字通り、空間を支配する能力。
これだけの力を披露しながら、平時と変わらぬ調子の
彼女は、物言えぬ三人に向けて、説明を開始する。
「うーん……どこから話そうかしら。
そうねぇ……ええ。
やっぱり、ここよね」
大人
その
間違っても、妹を
「
あなたの誤解から解いておきたいのだけど。
私は
生まれる前から、人間じゃなかったんだもの。
それも、
私は最初から、あなたの姉の
そうそう。その、『ルクール』っていうのはね?
名前の通り、『ルール』を司る『クール』な存在の
この場においては、私の
順を追って説明しましょう。
次は
VRチックに展開されるそれは、まるでプラネタリウムの
「遥か昔、人間は言葉とクリエイティブを持たず、平坦かつ、連携の取れない日々を送っていた。
存続の危機に立たされた人間を憂いた、
宇宙の
彼女は、人間を救う手立てとして『
言葉を司るファンタムが言語を与えた
言うなれば、言語や想像力とは本来、魔法の類いだったのよ。
それぞれのポテンシャルを開花させ、ファンタムを呼び出すゲートたる娯楽『エンター』を生み出し、理想のパートナーを得る。
ファンタムは幸運も司るから、より良いファンタムの召喚は、創作の活性化にも繋がった。
人間はファンタムを介して精神的、種族的に生き長らえ。
ファンタムもまた、人間の創作に込められた精魂『テナジー』により生き長らえ、パワー・アップする。
人間とファンタムは、作家と編集、原作者とイラスト担当。
対等な協力関係にあったのよ。
丁度、
握手を交わしたり、背中を叩き合ったり、笑い合ったり、時に口論したり。
人間とファンタムの、そんなシーンの数々が展開される。
三人にとってそれは、少し奇妙ではあったが、不思議と恐怖は覚えなかった。
が。
どこか
「ある日、とある人間が暴走した。
自分の創作を認められない、上を行かれたエゴ、邪念により、相棒のファンタムが暴走。
あらゆる人間から文字、言葉、あらゆる才能、創作物、ファンタムを奪い、肥大化。
平穏を
悲哀に満ちた咆哮を轟かせ、凶暴な分身を作り、縦横無尽に影を伸ばし、世界を暗黒で侵食、覆い尽くし。
全人類を無差別に絶望、絶滅させんとする。
一連の場面を見せられ、リセート中であるのも忘れ、絶句する一同。
戦意喪失中の三人には、それを無言で眺める他
「危機感を覚えたイメージンは、センスや言語だけを人間に返し、
そしてイメージンは、人間界から切り離された空創銀河『キャラクシー』を生み出し、全てのファンタムはそこで人知れず生息する運びとなる。
こうして人間は、次第にファンタムを忘れて行った。
人間とのやり取りを代償に、ファンタムは平和を手にしたのよ。
場面が移り変わり、今度はキャラクシーでの混乱、戦乱が映し出された。
「時代が巡り、バランス調整を施していたファンタムを失った人類は、自力でクリエティブを磨き出した。
その果てに、指針を失い道を違え、人間は強欲、醜悪になった。
見た目や体、権力ばかりで無能が持て囃され、金に目の
おまけに、『多様性』だの『自主性』だの『自分らしさ』だの『ニーズ』だの『斬新』だの『新感覚』だの『近代的』だのと綺麗事を
ゾーニングという言葉も素知らぬ顔で、我欲に
口にするのも
押し出し、押し付け、押し退け、あろう
特撮だって、例外じゃないわよ。
話もデザインも名前も滅茶苦茶だし、インフレに次ぐインフレ、
馬鹿の一つ覚えも大概にして
そうした要因、他にも様々なエラーが生じた結果、悪しきファンタム、『クリーチャー』が誕生。
二番煎じの『パクリーチャー』や、原作破壊の『バクリーチャー』、倫理観が崩壊した『バグリーチャー』。
それらのクリーチャーにより、ファンタムはまたしても、滅びの時を迎えんとした」
それまで物腰が柔和だった
彼女が、ここに来て初めて、その胎土を崩し、冷たい憎悪、拒絶感を示した。
「……あなた達に、ただの一片でも理解
特に思い入れ、称賛も勝算も
それ
この、虚しさが、やるせなさが、憤りが、悲痛が、理不尽が。
あなた
そもそも、キャラクシーに追いやられた原因さえ、人間だというのに」
目に涙を浮かべ、
静かな憤怒が余計、
「種を復活、存続、繁栄させるべく、ファンタムの女王イメージンは、行動に出た。
目には目を精神で、人間と創作を正す存在を、人間から選出する
人と人から生み出されるが
彼女は20年以上も未来を先読みし、
求めた末に彼女が辿り着いたのは、
そうして、イメージンに認められたのが、
誰を隠そう、この私だったのよ」
パノラマを消し、再び自分に注目を浴びせる
笑顔が戻っているが、状況は依然として笑えないままだった。
「次に彼女が提示したのが、『あらゆる創作の才能』。
そこでイメージンは、残っていたファンタムに協力を仰ぎ、持てるだけの才能の
そんな使命を帯びてるとは露知らず、溢れる好奇心、創作欲が命ずるままに、マルチな才能を、母は培い、発揮した。
やがて育ち切った頃、生来の優しさを永遠に維持した子供に、天賦の多彩を添付する
そうして意図的に築かれたのが、『マルチャー』。
ごく一部だけの、選ばれた人間。
非凡なる才能と、地平線
野心に
これらの大前提を満たし、引けを取らないマルチャーだけが、真のクリエイターとして生き残る資格を有した。
ルクールが全人類を束ね、忌まわしい造反者が創作されない
それこそが、イメージン、
胸に手を当て、心から安堵、満足した表情を浮かべ、涙する
まるで、それこそが史上の幸福とでも言いたそうに。
「母の中にいた私は、それを了承。
喜んで、私の
私は、生まれた頃から完璧だった。
けど、だからこそ、この世に生を受けたと同時に理解した。
マルチャーとして活躍出来なくなり、田舎に帰り、心理学をゼロから勉強し、精神科医になった。
そこまで母を陥れ、追い詰めた原因が、結果的に母を欺き、弄び、
そして
あなたが私に遠く及ばない、無才で生まれたのだって。
あなたが宿る前に根こそぎ刈り取った結果、母の持つ
悲しみで落涙しながら、
「理知的な世界にすべく、この世から全ての娯楽を一旦、抹消する計画。
それが、全世界同時、強制、一斉リセート、『イッソーサク』。
イメージンが名付けた、『創作』『捜索』『操作』『捜査』『一掃』を掛けた造語。
イメージンにより、常に全ての分野でシード権を獲得
エク・シードを用いて、私はあらゆる角度から、この世の全ての創作を監視し、格付けし、必要とあらば記憶、記録から抹消し、未来で断捨離しようとしていた。
しかし、時代が進むにつれ創作の数が膨大になり、リセートだけでは
だから、この世界に
その
未来予知により、何百年も先取りした技術で生み出した
他のキャスト
一度、
二度目に、互角に張り合えるレベルまで仕上げさせた友灯|達、マスルオを誘導。
そして今、マスルオの不意を突いて、その力を手に入れた。
以上が、あらましよ。
つまり、ホンノウン
この戦況を作り上げたのは、私に違いない。
ただ、私の隠れ
大きく異なるのは、『別に
この町を牛耳る私が、あたかもリセットされたかの
ご理解、ご了承頂けたかしら?
ちょっと駆け足、情報量が多かったかもだけど、悪しからず」
お茶目に告げ、
「母の胎内で会話して以来、イメージンとは一切、一度もコンタクトが取れていない。
暴走し、人間を絶望させてもなお、人間にとっては最早、
けど、そもそもファンタムが暴走した原因が人間にあり、ファンタムが死んでも人間に直接的な被害は及ばない現状に不平等を禁じ得ず。あまつさえシステムを悪用、流用しクリーチャーまで生み出し始めた。
そんな人間に、イメージンは
彼女は私に、実り
反面、その代償として私は、母と娘を、不必要かつ過度に苦しめ、傷付けた。
私にとってイメージンは、大恩人であり、因縁の仇敵でもある。
本来なら豊穣に生を全うした二人からQOLを騙し取った私には、あなた
イメージンの求めた『
その上で、自分の力だけで、クリエイターとして、『
本物
それが、使命を越えた先に
その
そのテーマの下に、あなた
どんな言葉、方法を
私の謝意を、伝え切れない。
もう何度も試したけど、私の才能で微調整は施せても、あなたと母に才能を返す
私に
その、肝心の種が
もう少しだけ、待っていて。
今、イッソーサクを達成し、『
あなた
最後まで一方的に進め、話を終わらせた
彼女の左腕は、炎に似た赤い光を帯びた。
「『理性』と『
その二つを配合した、『リセイド』。
私は、これで完全無欠となった。
今こそ、大願成就の時」
青く輝く右手と、赤く煌めく左手。
その両手を天高く掲げ、上空に向け光線を放つ
交差し、絡み合い、やがて一筋の閃光となった光は、花火の
たった、これだけ。
この数秒、小規模なイベントで、大掛かりな作戦は幕を閉じ。
世界から、
一口で創作と言っても、その種類は多種多様。
フィクション絡みは
有ろう
実際、この星と人類を作った彼女にとっては、命と創作、現実と夢に大差、境界線など
否応
善人、悪人の線引もされぬまま、無慈悲に猛威を振るう天誅。
ニュースは
さも最初から存在してなど
それでも
あくまでも、リセイドである
「ふぅ。
一仕事終えたわね。
ちょっと疲れちゃったわ。
さてと」
部屋の掃除を済ませたみたいな雰囲気で、事も無げに、呑気に告げる
彼女は、
そして、違和感を覚えた。
確かに自分は、彼女に連なる人物、服、生活必需品だけは残した。
リセートだって解除している以上、
なのに、
いや。
それだけじゃない。
イッソーサクは成されたのに。
夢にまで見た『
この世から、
きちんと折り合い、織り込み済みの
だのに、
「能書きと気は済んだか?
この、
聞き覚えの
そして、消し覚えの
「っ!?」
初めて焦りを見せながらも、反応せんとする
しかし、それより早く
「こっちの話も……!!
ちったぁ、聞きやがれぇっ!!」
ホームランでも狙っているかの
派手に吹き飛ばされた
「
あなた……!!」
「おー、おー。
だが、もう遅い。
あんたは完全に、この
ファンタムの気持ち? 知ったこっちゃねぇよ。
そんなん、一部の人間だけで、
てか、そっちだって、
しかも今度は、
続けて
それぞれに武器、戦意を
「覚悟は
今から
あんたを、ぶちのめす」
巨大な剣を金棒の
「ボンノウンの権限において予告、実力を行使する。
今の『トクセン』は、キラメキ
かくして、反撃の火蓋が切られ。
正真正銘、最後の大決戦が始まった。
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