22:イッソーサク

 突如として現れた、三八城みやしろ 優生ゆうかたる何者。  

 彼女が完結に語った秘密は、その場を掌握するに足る効力を誇っていた。



 静まる空気。

 張り詰めた緊張。

 困惑する一同。



 そんな状況で、真っ先に飛び出したのは。



「……あねぇを……」

 落ちていたオーセイバーを拾い上げ、構えを取る友灯ゆい

あねぇを、どこにやりやがったぁぁぁぁぁ!?」



 怒り狂い、叫びながら切り込む妹。

 対する姉は、どこ吹く風と言わんばかりに大人びた笑みを浮かべ、手をかざし。

 それだけで、友灯ゆいは動きを止め、得物を落としてしまう。

 しかも、言葉すら発せられなくなる。



「『リセート』。

 私の能力の一つよ。

 文字通り、対象の『理性』を、私好みに『リセット』する。

 この力で、今まで歴史、記憶を意のままに改変していたのよ。

 如何いかに獰猛な存在も、私の前では冷静、無力になるわ。

 なんて……妹に『獰猛』だなんて、失礼ね。

 ごめんなさいね、友灯ゆい

 あなたはただ、私を案じてくれただけなのにね」



 続けざま英翔えいしょう珠蛍みほと見遣みや優生ゆう

 瞬間、二人も武力を手放し、しゃべれなくなってしまう。


 

「いきなり不躾な真似マネをして、ごめんなさい。

 でも、仕方しかたいのよ。

 今から話す内容は、長いし難解なんだもの。

 戦闘と口喧嘩を続行しながら進めていては、お腹が空いちゃうわ。

 あなたは特に、食いしん坊だし」



 文字通り、空間を支配する能力。

 これだけの力を披露しながら、平時と変わらぬ調子の優生ゆう

 彼女は、物言えぬ三人に向けて、説明を開始する。



「うーん……どこから話そうかしら。

 そうねぇ……ええ。

 やっぱり、ここよね」


 

 大人可愛かわいく口元に人差し指を当て、悩む素振りを見せ、華やかに笑う優生ゆう

 そのさまさながら、夕飯の献立こんだてでも考えているふう

 間違っても、妹をだましていたと発覚した、この場には似つかわしくない振る舞いだった。



ず、友灯ゆい

 あなたの誤解から解いておきたいのだけど。

 私はなにも、あなたのお姉さんを奪ったわけじゃないのよ。

 何故なぜなら、私は生まれながら……ううん。

 

 それも、英翔えいしょうくんみたいにロボットだったとか、玄野くろのさんみたいに取り憑かれたとかでもない。

 もっとも、その玄野くろのさんも、私の用意した影武者、私の偽装なんだけどね。

 私は最初から、あなたの姉の三八城みやしろ 優生ゆうであり、創作の選定者、ルクールだったのよ。

 そうそう。その、『ルクール』っていうのはね?

 名前の通り、『ルール』を司る『クール』な存在のこと

 この場においては、私のことね。

 順を追って説明しましょう。

 次は何故なぜ、私がルクールとして生み出されたかについてだけど」



 優生ゆうが手を合わせた途端とたん友灯ゆいたちの周囲の景色が様変わりする。

 VRチックに展開されるそれは、まるでプラネタリウムのようだった。



「遥か昔、人間は言葉とクリエイティブを持たず、平坦かつ、連携の取れない日々を送っていた。

 存続の危機に立たされた人間を憂いた、すべての創作を司る想造神『イメージン』。

 宇宙の深奥しんおうに眠る、すべての記憶を有したアカシック・レコードから生み出され、人類は勿論もちろん、この地球さえも作った、神秘の存在。

 彼女は、人間を救う手立てとして『創作ファンタジー』の『ファントム』、『ファンタム』を生み出した。

 ほん一欠片ひとかけらばかりの、曖昧な創作力を、ファンタムは進化、拡張させること出来できる。

 言葉を司るファンタムが言語を与えたことで、原初の人間はそれぞれに才能、楽しさを追求した結果、次々にファンタムを生み出す。

 言うなれば、言語や想像力とは本来、魔法の類いだったのよ。

 それぞれのポテンシャルを開花させ、ファンタムを呼び出すゲートたる娯楽『エンター』を生み出し、理想のパートナーを得る。

 ファンタムは幸運も司るから、より良いファンタムの召喚は、創作の活性化にも繋がった。

 人間はファンタムを介して精神的、種族的に生き長らえ。

 ファンタムもまた、人間の創作に込められた精魂『テナジー』により生き長らえ、パワー・アップする。

 人間とファンタムは、作家と編集、原作者とイラスト担当。

 対等な協力関係にあったのよ。

 丁度、友灯ゆい英翔えいしょうくんみたいに」



 握手を交わしたり、背中を叩き合ったり、笑い合ったり、時に口論したり。

 人間とファンタムの、そんなシーンの数々が展開される。

 三人にとってそれは、少し奇妙ではあったが、不思議と恐怖は覚えなかった。


 

 が。

 どこか微笑ほほえましい状況は、一変する。

 

 

「ある日、とある人間が暴走した。

 自分の創作を認められない、上を行かれたエゴ、邪念により、相棒のファンタムが暴走。

 あらゆる人間から文字、言葉、あらゆる才能、創作物、ファンタムを奪い、肥大化。

 ようやく見付けた生き甲斐を同族に奪われ、人間は再び、滅びの危機に瀕した」



 平穏をおびやかすがごとく現れた、ドス黒く巨大なモンスター。

 悲哀に満ちた咆哮を轟かせ、凶暴な分身を作り、縦横無尽に影を伸ばし、世界を暗黒で侵食、覆い尽くし。

 全人類を無差別に絶望、絶滅させんとする。



 一連の場面を見せられ、リセート中であるのも忘れ、絶句する一同。 

 戦意喪失中の三人には、それを無言で眺める他かった。

 

 

「危機感を覚えたイメージンは、センスや言語だけを人間に返し、くだんのファンタムの記憶を奪い、元に戻す。

 そしてイメージンは、人間界から切り離された空創銀河『キャラクシー』を生み出し、全てのファンタムはそこで人知れず生息する運びとなる。

 こうして人間は、次第にファンタムを忘れて行った。

 人間とのやり取りを代償に、ファンタムは平和を手にしたのよ。

 もっとも、それも束の間、長くは保たなかったのだけど」



 場面が移り変わり、今度はキャラクシーでの混乱、戦乱が映し出された。


「時代が巡り、バランス調整を施していたファンタムを失った人類は、自力でクリエティブを磨き出した。

 その果てに、指針を失い道を違え、人間は強欲、醜悪になった。

 見た目や体、権力ばかりで無能が持て囃され、金に目のくらんだ卑劣な連中によって、様々な分野で、創作が粗製乱造された。

 おまけに、『多様性』だの『自主性』だの『自分らしさ』だの『ニーズ』だの『斬新』だの『新感覚』だの『近代的』だのと綺麗事をのたまい、盾にして。

 ゾーニングという言葉も素知らぬ顔で、我欲にまみれた魑魅魍魎ちみもうりょうが、人目を憚らずに跳梁跋扈ちょうりょうばっこ

 口にするのもおぞましい、不気味で無秩序なポルノ、衆道を作り出し。

 押し出し、押し付け、押し退け、あろうことか、厚顔無恥にも時代を牽引し始めた。

 特撮だって、例外じゃないわよ。

 話もデザインも名前も滅茶苦茶だし、インフレに次ぐインフレ、玩具おもちゃに次ぐ玩具おもちゃ、レジェンド商法に次ぐレジェンド商法。

 馬鹿の一つ覚えも大概にしてしいわ。

 そうした要因、他にも様々なエラーが生じた結果、悪しきファンタム、『クリーチャー』が誕生。

 二番煎じの『パクリーチャー』や、原作破壊の『バクリーチャー』、倫理観が崩壊した『バグリーチャー』。

 それらのクリーチャーにより、ファンタムはまたしても、滅びの時を迎えんとした」



 それまで物腰が柔和だった優生ゆう

 彼女が、ここに来て初めて、その胎土を崩し、冷たい憎悪、拒絶感を示した。



「……あなた達に、ただの一片でも理解出来できる?

 特に思い入れ、称賛も勝算もいまま、名前や設定、知名度だけ強奪し、イメージも実力もそぐわないゴリ押し棒読みキャストを宛がい、大した謝礼もしない、犯罪者紛いの連中に生み出された、粗悪なアニメや実写。

 それから生まれた怪物が、オリジナルのファンタムを消去。

 あるいは乗っ取り、正しき心を宿したファンタム、同胞をあやめて行く。

 この、虚しさが、やるせなさが、憤りが、悲痛が、理不尽が。

 あなたたちに、ほんの一抹でも汲み取れる?

 そもそも、キャラクシーに追いやられた原因さえ、人間だというのに」 



 目に涙を浮かべ、優生ゆうはクールに訴える。

 静かな憤怒が余計、友灯ゆいたちに辛く、重く伸し掛かった。



「種を復活、存続、繁栄させるべく、ファンタムの女王イメージンは、行動に出た。

 目には目を精神で、人間と創作を正す存在を、人間から選出することにしたの。

 人と人から生み出されるがゆえに、人間もまた、イメージンにとっては『創作』の一つだった。

 彼女は20年以上も未来を先読みし、のちに誕生する、『最も清らかな心を持つ存在』が、『特に際立って優しい状態』を探し当てた。

 求めた末に彼女が辿り着いたのは、俗世ぞくせけがれに触れる前……まだ母体にる状態での、『赤子』。

 そうして、イメージンに認められたのが、三八城みやしろ 優生ゆう

 誰を隠そう、この私だったのよ」



 パノラマを消し、再び自分に注目を浴びせる優生ゆう

 笑顔が戻っているが、状況は依然として笑えないままだった。



「次に彼女が提示したのが、『あらゆる創作の才能』。

 そこでイメージンは、残っていたファンタムに協力を仰ぎ、持てるだけの才能の欠片かけらを、まだ産まれる前の母に授けた。

 そんな使命を帯びてるとは露知らず、溢れる好奇心、創作欲が命ずるままに、マルチな才能を、母は培い、発揮した。

 やがて育ち切った頃、生来の優しさを永遠に維持した子供に、天賦の多彩を添付することにした。

 そうして意図的に築かれたのが、『マルチャー』。

 ごく一部だけの、選ばれた人間。

 非凡なる才能と、地平線き創作意欲、決して折れない超合金なメンタル、人の良さを兼ね備えている救世主。

 野心にまみれた有象無象達から断片的、あるいは枯渇した才能を奪い、人間界とキャラクシー、2つの世界に平等と平和をもたらすべく創作された存在。

 これらの大前提を満たし、引けを取らないマルチャーだけが、真のクリエイターとして生き残る資格を有した。

 ルクールが全人類を束ね、忌まわしい造反者が創作されないように防犯、調整された、善人たちだけの聖域、『Holy−Zoneホライズン』の誕生。

 それこそが、イメージン、いてはルクールたる私の悲願だった」



 胸に手を当て、心から安堵、満足した表情を浮かべ、涙する優生ゆう。 

 まるで、それこそが史上の幸福とでも言いたそうに。



「母の中にいた私は、それを了承。

 喜んで、私のすべてをイメージンに捧げたわ。

 私は、生まれた頃から完璧だった。

 なんでも出来できたし、なんでも知ってた。

 けど、だからこそ、この世に生を受けたと同時に理解した。

 マルチャーとして活躍出来なくなり、田舎に帰り、心理学をゼロから勉強し、精神科医になった。

 そこまで母を陥れ、追い詰めた原因が、結果的に母を欺き、弄び、すべてを奪った、私にると。

 そしてなにより、友灯ゆい

 あなたが私に遠く及ばない、無才で生まれたのだって。

 あなたが宿る前に根こそぎ刈り取った結果、母の持つすべての才能を、ほんの一部さえ遺伝されなくしてしまったからだと」



 悲しみで落涙しながら、優生ゆうは続ける。



「理知的な世界にすべく、この世から全ての娯楽を一旦、抹消する計画。

 それが、全世界同時、強制、一斉リセート、『イッソーサク』。

 イメージンが名付けた、『創作』『捜索』『操作』『捜査』『一掃』を掛けた造語。

 イメージンにより、常に全ての分野でシード権を獲得出来できる、あらゆる才能を開花させる種『エク・シード』を母が植え付けられ、私は作られた。

 エク・シードを用いて、私はあらゆる角度から、この世の全ての創作を監視し、格付けし、必要とあらば記憶、記録から抹消し、未来で断捨離しようとしていた。

 しかし、時代が進むにつれ創作の数が膨大になり、リセートだけではぎょせなくなっしまった

 だから、この世界にひそかにうごめく巨大なる本能、つまりホンノウンの力を求めた。

 そのために、ホンノウンの設定を拝借、改竄かいざん

 玄野くろのになり済まし、時にエンジンを私の代役として立て。

 未来予知により、何百年も先取りした技術で生み出した珠蛍みほとちゃんに、偽の設定と記憶、スキルを植え付け。

 他のキャストたちも選出、調整し。

 一度、えて徹底的に失敗、屈辱、無力さを味わわせ。

 二度目に、互角に張り合えるレベルまで仕上げさせた友灯|達、マスルオを誘導。

 そして今、マスルオの不意を突いて、その力を手に入れた。

 以上が、あらましよ。

 つまり、ホンノウン云々うんぬんも、そこまで虚偽ではなかったってわけ

 この戦況を作り上げたのは、私に違いない。

 ただ、私の隠れみのにしていただけなのよ。

 大きく異なるのは、『別に友灯ゆいは転生者ではなかった』、ってことくらいね。

 この町を牛耳る私が、あたかもリセットされたかのように歴史を改変したに過ぎないのよ。

 ご理解、ご了承頂けたかしら?

 ちょっと駆け足、情報量が多かったかもだけど、悪しからず」


 

 お茶目に告げ、優生ゆうぐに真顔となった。



「母の胎内で会話して以来、イメージンとは一切、一度もコンタクトが取れていない。

 暴走し、人間を絶望させてもなお、人間にとっては最早、なんのメリットも筋合いも無いファンタム達を残すなど、イメージンは元々、慈悲深い存在。

 けど、そもそもファンタムが暴走した原因が人間にあり、ファンタムが死んでも人間に直接的な被害は及ばない現状に不平等を禁じ得ず。あまつさえシステムを悪用、流用しクリーチャーまで生み出し始めた。

 そんな人間に、イメージンはすでに見切りを付けつつある。

 彼女は私に、実りる人生を歩ませてくれた。

 反面、その代償として私は、母と娘を、不必要かつ過度に苦しめ、傷付けた。

 私にとってイメージンは、大恩人であり、因縁の仇敵でもある。

 本来なら豊穣に生を全うした二人からQOLを騙し取った私には、あなたたちを元通りにする責任が伴う。

 イメージンの求めた『Holy−Zoneホライズン』を完成させ、イメージンを召喚し、手遅れなのは百も承知で彼女に頼み込み、二人に才能を返還する。

 その上で、自分の力だけで、クリエイターとして、『Holy−Zoneホライズン』で生き残る。

 本物たちと、しのぎを削る。 

 それが、使命を越えた先にる、私の本命。

 そのために、あらゆる罵詈雑言を耐え凌ぎ、苦節三十年以上で、この状況を演出した。

 艱難辛苦がんなんしんくなんじたまにす。

 そのテーマの下に、あなたたちを翻弄した。

 どんな言葉、方法をもってしても、今は謝り足りない。

 私の謝意を、伝え切れない。

 もう何度も試したけど、私の才能で微調整は施せても、あなたと母に才能を返すことかなわない。 

 私に出来できるのは、生来から備わったエク・シードを開花させることのみ。

 その、肝心の種がい以上、私にはなに出来できない。

 本当ほんとうに、ごめんなさい。

 もう少しだけ、待っていて。

 今、イッソーサクを達成し、『Holy−Zoneホライズン』を。

 あなたたち全員に、きちんとお詫びする場を、設けてみせるから」



 最後まで一方的に進め、話を終わらせた優生ゆうは、気絶中のマスルオに左手を向ける。

 刹那せつな、マスルオの肉体が粒子となり、優生ゆうてのひらに吸い込まれ。

 彼女の左腕は、炎に似た赤い光を帯びた。



「『理性』と『本能イド』。

 その二つを配合した、『リセイド』。

 私は、これで完全無欠となった。

 今こそ、大願成就の時」



 青く輝く右手と、赤く煌めく左手。

 その両手を天高く掲げ、上空に向け光線を放つ優生ゆう

 交差し、絡み合い、やがて一筋の閃光となった光は、花火のように閃いて消失。


 

 たった、これだけ。

 この数秒、小規模なイベントで、大掛かりな作戦は幕を閉じ。

 世界から、すべての創作は消滅した。



 一口で創作と言っても、その種類は多種多様。

 フィクション絡みは勿論もちろん、建物や料理、衣服。

 有ろうことか、恐るべきことに、イメージンにとっては『人間』すら、創作の範疇に収まった。

 実際、この星と人類を作った彼女にとっては、命と創作、現実と夢に大差、境界線などいのだろう。



 否応く下される、神の裁き。 

 善人、悪人の線引もされぬまま、無慈悲に猛威を振るう天誅。

 ニュースは勿論もちろん、動画アプリなどですら取り上げられないまま、人類創始以来の未曾有の大事件は粛々と起こり。 

 さも最初から存在してなどなかったかのごとく、ほとんど跡形もく、世界の終わりは完遂かんついされた。



 それでも友灯ゆい英翔えいしょう珠蛍みほと、他のスタッフや彼女の家族、友人、知人。

 およそ50人ぽっちの人間だけが、引き続き、この世に存在した。

 あくまでも、リセイドである優生ゆうの、せめてもの温情により。

 ただし念のためわずかでも脅威になり得る武具などは、すべて消してある。



「ふぅ。

 一仕事終えたわね。

 ちょっと疲れちゃったわ。

 さてと」



 部屋の掃除を済ませたみたいな雰囲気で、事も無げに、呑気に告げる優生ゆう



 彼女は、友灯ゆいたちを見下ろし。

 そして、違和感を覚えた。



 なにか。

 なにかが、おかしい。

 確かに自分は、彼女に連なる人物、服、生活必需品だけは残した。

 リセートだって解除している以上、友灯ゆいたちはもう、自由の身であるはず

 なのに、何故なぜ微動だにせず、一向に動こうとしないのか。



 いや。

 それだけじゃない。



 イッソーサクは成されたのに。

 夢にまで見た『Holy−Zoneホライズン』は完成したのに。

 この世から、友灯ゆいたち以外は消滅したのに。

 友灯ゆいたちの才能を奪う件はさておき、生存権については、50年以上も前から、イメージンに了承は得た。

 きちんと折り合い、織り込み済みのはず

 すべての条件、ノルマは達成した。

 だのに、何故なぜ



 何故なぜ、イメージンが現れない?



「能書きと気は済んだか?

 この、おお馬鹿バカあねぇ」



 聞き覚えのる声、口調。

 そして、消し覚えのる武器。



「っ!?」



 初めて焦りを見せながらも、反応せんとする優生ゆう

 しかし、それより早くふところに剣が入り。



「こっちの話も……!!

 ちったぁ、聞きやがれぇっ!!」


 

 ホームランでも狙っているかのごとくフル・スイング。

 派手に吹き飛ばされた優生ゆうは、回避もままならず、辛うじて受け身を取るので、やっとだった。



友灯ゆい……!!

 あなた……!!」

「おー、おー。

 ようやく化けの仮面が取れ始めたか、優等生。

 だが、もう遅い。

 あんたは完全に、このあたしを、あたしたちたぎらせた。

 ファンタムの気持ち? 知ったこっちゃねぇよ。

 そんなん、一部の人間だけで、あたしにはなんの関係も義理もんだよ。

 てか、そっちだって、さらに規模を拡大して、命を剥奪してんだろうがよ。

 しかも今度は、なんの事情も素性も明かさないまま無差別、問答無用で」



 続けて英翔えいしょう珠蛍みほとが、友灯ゆいの隣に並び立つ。

 それぞれに武器、戦意をたずさえて。



「覚悟はいな?

 三八城みやしろ 優生ゆう

 今からあたしは、人間として、実妹として、この世界と被害者の代表として。

 あたしの仲間と一緒に。

 あんたを、ぶちのめす」



 巨大な剣を金棒のように構え、何度か肩を軽く叩いたあと

 おの実姉じっしに、友灯ゆいは刃を向けた。



「ボンノウンの権限において予告、実力を行使する。

 今の『トクセン』は、キラメキぎ注意、ケボーン全開だ」



 かくして、反撃の火蓋が切られ。

 正真正銘、最後の大決戦が始まった。

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