21:dUoblE(ダブル)-action

「デュアル。

 いとおかし。

 相手に取って、不足無し」



 右手を掲げ、空中に火の玉をいくつも作るマスルオ。

 続いて、同じく右手をタクトのように下ろし、一斉にデュアルの元へ飛ばして来る。



「エイト!」

「ん!」



 友灯ゆいの号令に答える英翔えいしょう

 持ち前の検索機能を使い、安全圏を探し当てる。

 さらに、二人の意識をつなぐ新機能『Wリンク』により、シームレスで友灯ゆいに共有。

 最速最短で移動、無傷でしのぐ。



「ほう。

 出来できる」

「今度は、こっちの番だ!

 おらぁ!!」


  

 『デュアルダル』を構え、切り込むデュアル。

 が、ほぼノー・モーションで、白刃取りされる。



「……女を甚振いたぶる趣味はいのだがな」

さっき、殺しに掛かってたやつが、く言うよ!」

「だからこそだ。

 せめてもの情けとして、苦しむことく、傷も少ない、綺麗な状態でほふり、とむらってやろうとしたのだ」

「見た目だけじゃなく価値観まで古いな、お前!

 どっかの玄野くろのを思い出す!

 ホンノウンってのは、そんなんばっかかよっ!」

「……なんの話だ?」

「素っとぼけんじゃねぇ、白々しい!!」


  

 プールでターンする時の要領で、マスルオの体を蹴り、距離を取る友灯ゆい

 そのまま『デュアルダル』を突き付け、宣言する。

 


「真相なんて、どーだってい!

 現状お前は、あたしたちの敵でしかない事実は揺るぎねぇ!!

 だから、っ倒す!

 あたしたち『トクセン』にあだなしたことを、心底、後悔させてやんよ!!」

「依然として、話は見えぬが。

 その意気込みや、し。

 だがしかし、覚えておくとい。

 拙者は、武人。

 同じ技は、通用せぬぞ」

「あー、そうかい。

 だってよ、エイト」

「僕の側、えよう」

あたしもだよ!」

  


 互いに、別のナゾトキーを構え。

 くぼみの部分に、拡張アイテム、『メンダル』をセットし。

 そのまま、アクセルに差し、ひねる。



『アレスト・マッチ!!』

『エイユー!!

 ミス・テリアス!!

 エイユー・テリアス!!』

『キョー、エンダー!!』



 サイボーグ染みた体を捨て、義賊風の格好に包まれるデュアル。

 例えるならば、「スマブ◯中に対戦相手に突如、ロックマ◯からジョーカ◯に切り替えられた」、くらいの衝撃である。

 戸惑うのを他所よそに、そのまま光のロープを伸ばし、デュアルはマスルオを捕縛する。


 

「むぅ!?」

「そのロープは、光の結晶体」

「簡単には切れねぇ、ぞぉ!!」



 驚くマスルオを一本釣りし、引き寄せるデュアル。

 そのまま、ミス・テリアスの固有武器『テリアスパーダ』を構え。


 

「「秘技……懐盗爛魔断ちぃ!!」」



 カウンターに近い形で、擦れ違いざまに、初手から得意技を発動。 

 マスルオがフラついてる間に距離を取り、デュアルは再度、新たなナゾトキーとメンダルを構え。



「来やがれ、彩葉いろは!!」

「行くよ、珠蛍みほとさん」

「「デュオーゾラ・ブレイズ!!

  アミー……ゴー!!」」



『トラスト・マッチ!!』

『ケーロハ!!

 ラブトーカ!!

 ケーロハ・ラブトーカ!!』

『キョー、エンダー!!』


 

 左が黄緑、右がオレンジ。 

 珠蛍みほと彩葉いろはのイメージ・カラーに染まりつつ、チャイナ服を模した衣装に着替え、カンフーっぽいポーズを取るデュアル。

 と同時に、珠蛍みほとの能力でナーフを掛け、マスルオのステータスを諸々、一気に大幅ダウン。

 突如として起きた謎の変化に、マスルオはさらに困惑する。



「一体、どういうカラクリだ……!?」

「簡単だ!

 スキルと、ジョブ!

 ナゾトキーと、メンダル!

 二種のメモリーを入れ替え、配合し、臨機応変に戦う!

 それが、デュアルの個性、『ダブル・アクション』だ!」

「こんなふうに、ね」



 手をかざし、アイテムを召喚する英翔えいしょう

 4種のアイテムを一度に装備し、駆け出す。


 

 ずは、『ブンブンナッグル』。

 ブンブン回した分だけ力がチャージされるカイザー・ナックルで、一発お見舞い。

 

 

 続けて、『ギガントレット』。

 感情のビームが出せるガントレットにより、マシンガンナー、ショットガンナー、ビームガンナーの3つの形態に変化させ攻撃し隙を作り。

 そのまま、巨大化した腕で殴打。



 次に『ブットブーツ』、『ラッシューズ』。

 ロケットにした右足で飛行しつつ、連続キックを高速で繰り出す。



「「ネクサス!!

  龍聲拳りゅうせいけん!!」」



 そして、チェンジャーでもある『ドラゴングローブ』。

 ゴングを鳴らし、力をチャージし。

 ドラゴンを模したオーラを、一気に解き放つ。



「今だ、エイト!!」

「ん!」

「「イデアル・オーゾラ・ブレイズ!!

  シンユー、ゴー!!」」



 拳を空に突き立て、変身コマンドを叫ぶデュアル。

 カラーがさらにビビッドになり、キラキラした星マークまで入る。

 同時に、五つの武器が、一つに。

 アリエナイ合体し、『ラバショウセン』を形成する。



「「絆エンドレス、レス・エクスリプ!!」」



 ラブトーカの融合形態の力を宿すデュアル。

 そのままラバショウセンを構え、豪快に仰ぐ。

 突風が巻き起こり、謎の雲が発生、マスルオを取り囲み。

 そこから現れた無数のホビー達が、劇中さながらの威力で、一斉にマスルオを攻撃する。



 続けて二人は、両手をつなぎ、満足に動けないマスルオへと向ける。



「「ラブトーカ!!

  マーベル・クロスクリュー・ラブソリュート!!」」



 竜巻を起こしながら、マスルオ目掛け一直線に放たれる、オレンジと黄緑が混ざった極太ビーム。

 が、追加ダメージを与えるも、致命傷には遠い。



もらうぞ、詩夏しいな!!」

「借りるよ、拓飛たくとくん」



『ゴースト・マッチ!!』

『タクシィ!!

 ヴィート!!

 タクシィ・ヴィート!!』

『キョー、エンダー!!』



 左をピンク、右を金色。

 詩夏しいな拓飛たくと、そして死神ヴィートを宿すデュアル。

 ロックの意匠を施し、ソフト帽を被り、マスルオを指差す。



「ハートのビートが、ヒートにヒット!

 死狩しにがりヴィート!」

「ひと演奏ライヴたぎるぜぇ!!」



 ギターを模した大剣『ギッタンギター』を掻き鳴らし、超音波により、体と耳を刺激するデュアル。

 そのまま『ギッタンギター』に乗り、浮かせ、サーフィンし、突撃し、突き刺す。



「「歌撃かげきざん裏部璃苑リベリオン雷音ライオット!!」」



 切っ先がマスルオを捉えたまま弦を唸らせ、魂エネルギー、炎心エンジンをチャージ。

 隙を見て『ギッタンギター』を引き抜き、拓飛たくと自慢の怪力をもって、豪快に切り付ける。

 


 爆破し、たじろぎ、胸を抑えるマスルオ。

 それでも戦意を損ねていない辺り、敵ながら天晴あっぱれである。



 しからばと、二人も次に打って出る。

 全身を発火させ、炎を帯び、一目で進化体と分かる姿となる。

 


「オーバー・ヒートに、クリティカル・ヒット!

 ビビッド・ヴィート!!」

「そのビート、俺達がビビッドに止めてやらぁ!!」



 爆炎を放射するデュアル。

 それはやがて、ウェディング・ケーキばりのサイズ。

 お菓子の城を模した、超大型の剣『ベイキング』となる。



「「歌撃かげきざん牙黎刃明ガリバー狩悧破荒カリバー!!」」



 切り刻むことすらせず、念力で操り、『ベイキング』を叩き付けるデュアル。

 マスルオは、逃げ場も逃げる体力もいまま、悲鳴すら上げられずに、潰されてしまう。

 といっても、まだ存命らしいが。



「リオ様の、お出ましだ!!」

「同じく、シーくん」



『ツイスト・マッチ!!』

『オリオン!!

 サイクローン!!

 オリオン・サイクローン!!』

『キョー、エンダー!!』



 左が薄紫、右が瑠璃色。

 紫音しおん璃央りおのスキル、サイクローンの能力を司る忍者フォームとなるデュアル。

 双剣『ツウィンド』を逆手持ちし、紫音しおん譲りの脚力に風を纏わせ、一気に近寄り。

 マフラーを靡かせつつ、連続斬りを食らわせる。

 


「ぐおっ!?」

わりぃが手加減、出し惜しみしだ!!」

「一気に、オーバー・キる」

「「電撃、招雷!!」」


 

 雷を纏い、黄色のラインが入り、風神雷神ふうじんらいじんフォームとなるデュアル。

 そのまま、炎のイフリート部隊、水のウンディーネ部隊、風のシルフィー部隊、土のノーム部隊を召喚する。



「ショーガイ、ショーライ、ショー・タイム!!」

「トップに突風、吹きすさぶぜぇ!!」



 エレメント部隊による、地水火風の総攻撃を受けるマスルオ。

 その間に、デュアルは次のフェーズに転ずる。



「「振りかざせ、万感の勝利!!

  大風凛火斬たいふうりんかざん陰雷いんらい!!」」



 竜巻を起こし、浮かせたままマスルオを中に閉じ込め。

 そのまま、自身も高速飛行し、切り刻まんとするデュアル。

 続いて、無数の風分身を作り、全方位から包囲し、風の斬撃を飛ばす。



 さらに着地し、専用武器『ラングエッジ』を取り出し、付いているダイスを回転。

 出た目は、『D』。



「デュエル!!

 ダイアモンド!!

 デイブレイク!!

 ダイナソー!!

 ダークネス!!

 ディメンジョン!!

 デストラクション!!

 ドリーム!!

 デビル!!

 ドラゴン!!

 諸々、行っけぇ!!」



 金剛石の硬さの太陽、闇討ちする恐竜、壊れる空間や地面、悪夢を見せる悪魔、そしてドラゴン。

 そんな、地獄染みたカオスな群れが、容赦無くマスルオを仕留めんと欲す。

 しかも、デュエルの力が発動されたことで身動きが取れず、かわことも逃げることも不可能。

 ほんの数十秒という、あまりに短い制限時間内で、これ程までの荒業が披露出来できたのは、璃央りおの語彙力ってこそである。

 


 それでも、マスルオは倒れない。

 いくなんでも、頑丈過ぎる。

 具体的には、魚人島のホーデ◯、あるいはアクドス・ギ◯のレベルである。



若庭わかば、頼んだ!!」

「オカミさん、頼んます」



『ビースト・マッチ!!』

『スミワカ!!

 ゲニウス!!

 スミワカ・ゲニウス!!』

『キョー、エンダー!!』


 

 左が水色、右が黄色。

 若庭わかば寿海すみ、そしてマッサラリーマンことゲニウスのデータを引き継いだ形態。

 宇宙からの訪問者、ジェントルマンな寄生生命体ゲニウスの力により、伸縮自在の影を無数に出し、袋叩きにする。



「オラオラオラオラァ!!

 このラッシュは、ただの攻撃じゃねぇぞぉ!!」

「当たる度に、記憶が無くなる。

 自分の思い出を差し出して、人知れず戦う。 

 それが、ゲニウスの悲しい宿命」

「劇中なら、ゲニウスも無くすけどよぉ!

 今の、あたし達はちげぇ!!

 あたしたちは、若庭わかばの不幸力で周囲に知られ、その運命さだめから弾かれる!

 もし万が一、記憶を消される対象に含まれたとしても、オカミさんの広量こうりょうで、どうにかなる、またやり直せるって寸法だ!

 よって、無敵!!」

「ふっ……笑止千万!

 かぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁつ!!」



 みずからに活を入れ、影を弾くマスルオ。

 ここに来て、まさかのノーダメである。


 

生憎あいにく、拙者には、友などらぬ。

 失うしがらみなど、一つとして存在せぬ。

 信ずるべきは、我が身、我が誇り。

 ……この拳のみっ!!」



 防戦一方だったマスルオが、地面を叩く。

 刹那せつな、デュアルの足元から火柱が発生。

 急襲されるも、かろうじて避け、態勢を整える。



巫山戯ふざけろよっ!!

 普通ここまでされりゃ、倒れるだろがっ!!

 てか、生きてるうちは、誰かの世話になってしかるべきだろがっ!!

 どんだけ寂しく生きてるってんだ、オメーはよぉ!!

 ムエンジン孤離突こりつかっ!!」

「やっぱり、ラブトーカと設定被ったから、威力が半減した……?」

「違うっ!

 あと今そこツッコむなっ!」



 戦闘中にもかかわらず、コントを始めるデュアル。

 マスルオは、そんな二人を憐れむ。



「手品は終わりか?

 詰まらん。

 所詮、この程度か。

 群れで行動しているのであれば、さもありなん、差もりなん。

 だが、油断こそ最大の敵。

 こちらも、奥の手を出すとしよう」



 腕を十字に組み、全身から炎を吹き出すマスルオ。

 どうやら、これからが本気らしい。


 

いストレッチになった。

 さぁて。そろそろ、決めるとしよう」



 言いざまに、両肩から炎を点火。

 ブースターにして、デュアルに向けて飛んで来る。

 が、オカミさん直伝の臨機応変さにより、冷静さを取り戻し。

 さらに、若庭わかばから授かった不幸さにより、相手の軌道がズれ。

 結果的に、回避に成功した。



「そんなに言うなら、見せてやるよ。

 あたしたちが培った、仲間との力。

 我らが『トクセン』の、底力。

 当店が世界に誇る、最強の守り神さまをなぁ!!」

『キャスト・マッチ!!』



 デュアルは、一際ひときわ大きいナゾトキーに、最後のメンダルをセットする。



『デュアルティメット・フォーム!!

 ステサル・ターボ!!』

『トクセン!!

 オーセーエンジン!!

 トクセンジン!! トクセンジン!!

 トォク・セェン・ジィィィィィン!!』

『サイキョー、エンダー!!

 イェェェェェヤッ!!』



 現在、『トクセン』のスタッフ数は、50人近く。

 そのすべてを一身に凝縮した、最強形態。

 しかし、強大ぎる都合上、人々の声援を力に変換する、似通ったシステムのオーセーエンジンでしか収まり切らない。

 が、これまでの技の連発により、デュアルのボディも長くは保たない。

 よって、一発で決める。



『エビバディ、スタンバディ!!』

『シュー、エンダー!!』

「「トクセンジン!!

  エクストリーム・ストリーム!!」」

『ダイダン、エンダー!!』



 待機音すら飛ばし、畳み掛ける二人。

 虹色に輝きジャンプし、回転し、正面からマスルオを止めに掛かるデュアル。

 みずからをドリルと化し、竜巻を起こしながら、最後の切り札を出す。



 無論むろん、マスルオも迎撃。

 ジェット噴射を最大出力にし、衝突して来る。



 衝撃波を撒き散らし。

 揺らした地面にクレーターを作り。

 木々を根本から吹き飛ばし。

 雲すら打ち消す、青空を導く。

 それ程までの凄まじい勢いで、激しくぶつかる両者。

 


 しかし、鍔迫り合いになっていたのは、ほんの数秒間のみ。

 ガタが来たトクセンジンが、次第に押され始め。

 マスルオが、勝利を確信したその時。



「今だぁ!!

 エイトォ!!」

「ん!!」



 アクセルを操作し、巨大な鎧をパージしするトクセンジン。

 元の姿に戻り、身軽になったデュアルを支えるように、バラバラになったアーマーが巨大なブースターを形成。

 たくましく頼もしい推進力で、その背中を押す。



「な……!?」



 劣勢と踏み、引こうとするマスルオ。

 しかし、地上から伸びていた光、そして影のロープに拘束され、逃走を許さない。

 見下ろせば、いつの間にか地面に、ミス・テリオス、マッサラリーマンのナゾトキーが刺さっていた。

 ここまで、仕込み済みだったのだ。


 

「これが、『ステサル・ターボ』だ!!

 呪われた、忌まわしい過去すら捨て去って!!

 お前の、詰みまで!!」

「降り頻るぜ!!」

「「デュアル・プラズム・ネクスドリーム!!」」



 二色に発光し、炎と雷を纏い、両足でマスルオを捉えるデュアル。

 さらに、ほとばしるコエナジーが実体化し、『トクセン』の従業員、延べ50人を形作り。

 メモリー達が、360°から、マスルオにキックを放つ。



『トクセン!!

 オールスター・フィニッシュート!!』



 傍若無人とも呼ぶべき、圧倒的かつ徹底的な数の暴力。

 まるで春映画か記念作品のごとき鮮烈なインパクトが、マスルオにパノラマで止めを仕掛け。  



 やがて一同が消え、デュアルが地面に着地した頃。  

 視界を埋め尽くさんばかりの大爆発が、上空で起こり、耳をつんざき。

 悲鳴を挙げる余裕すらいまま、黒焦げになった状態で、マスルオは墜落した。



「……あの状態で、あんなにキメワザ連発されて。

 あれ直撃して、生きてるんだ」

「ガタキリバっても駄目ダメとか、お手上げにもほどるだろ、こいつ」


  

 合体を解き、警戒しつつも、様子ようすを見に近付く二人。

 かろうじて肉体は滅んでいないが、今度ばかりは完敗らしい。



「……見事なり。

 拙者の、負けだ」



 頭から刺さっていたマスルオは、地面ごと頭部を引き抜き。

 そのまま胡座あぐらをかきながら、素直に認めた。



「そうだ。

 お前の武勇伝は、ここでマイナスされた」

「うぉっ!?」



 知らぬ間に追い付いていた珠蛍みほとが、二人の横からヌルッと出て来る。

 そのまま自分用のオーセイバーを構え、マスルオに命令する。



「勝負りだ。

 我々は二度に渡って、お前達ホンノウンを下した。

 今度ばかりは、言い逃れも逃走も、断じて不許可。

 大人おとなしく、岸開きしかいの世界をプラスしてもらおう」



 もっともな要求をする珠蛍みほと

 対するマスルオは、しばらく無言を貫き。



 そして。



「……なんの話だ?

 ここが、お主の世界ではないのか?」



 知らぬ存ぜぬを、通し始めた。



「っ……!!

 巫山戯ふざけるなぁっ!!」


  

 激昂げっこうし、剣を喉に当てる珠蛍みほと



「お前は、ホンノウンのサクシャスに呼ばれ、この場に来た!!

 あの男と、そういう話になっていたはずだ!!」

「『サクシャス』?

 聞かぬ名だ。

 第一、ホンノウンは後にも先にも、拙者のみ。

 先程も申したはず。我に、仲間などらぬ。

 しかも、拙者を招いたのが、『男』だと?

 いな

 拙者は、人間の女子おなごに勧められ、強き者と戦うべく、ここへ馳せ参じたのだ」

「なん……。

 だと……」



 現実と予想の、あまりの、食い違いっり。

 驚いた拍子に力が抜け、得物を落とす岸開きしかい



 しかし、マスルオに白を切っている様子ようすく。

 従って、すべて事実。

 つまり、まだ明らかにされていなかった、第三者、女の共犯者がるというのだ。

 いや……ともすれば、敵の真打ちが。



 たちまち、雲行きが怪しくなり始めた。

 マスルオは元より、友灯ゆい英翔えいしょうすら、違和感いわかんを覚え始めた。



「……む?」

 


 そんな中、不意にマスルオが、友灯ゆいの表情をまじまじと見た。

 続けて、顎に手を当て!不思議そうに首を傾げる。 



「……いくさに注力していたゆえ

 先程まで、気付きづかなんだが、お主。

 拙者を誘った女子おなごと、く似ておる。

 あるいは、『家族』という物か?」



「ーーえ」



 ここに来ての飛び火に、絶句する友灯ゆい

 同じく、戦慄が走る英翔えいしょう珠蛍みほと

 


 事態が混迷を極めた、まさにその時。

 白く細長い腕が、不意にマスルオの肩に忍び寄り。

 虫でも払うかのような小さな所作で、岩石の巨体を、あっさりと吹っ飛ばし。



 土埃を上げながら、100m近くに渡って地面をえぐり。

 やがて止まった頃、マスルオは白目を剥いていた。

 あれだけダメージを受けても気絶しなかったマスルオを、たった一撃で悶絶させたのだ。

 すでに疲労困憊、戦闘不能の身とはいえ、恐るべし戦闘力である。



駄目ダメじゃない、ホンノウンくん。

 人の台詞セリフを取って、勝手にネタバレしちゃあ。

 私のお楽しみは、これからなんだから」



 意地悪をした小学生を叱るような口調で穏やか、たおやかに言い放ち。 

 本来なら、この場に似つかしくない、こんな所にはずい彼女は、三人に微笑ほほえんだ。



「ご機嫌よう。

 今期になってからは、お初にお目に掛かるわね。

 こんな殺風景な席でなんだけど、改めて、自己紹介させてもらうわ。

 私こそ、玄野くろので、サクシャスで、一連の騒動の、真の黒幕。

 一時限定とはいえ、あなたたちの元店長にして、想造神『イメージン』の使い『ルクール』にして、これからの地球の主たる『リセイド』。

 そしてなにより、他でもない、友灯ゆい実姉じっし



 髪を掻き分け、風に靡かせ。

 主犯である彼女は、満面の笑みで、締めの言葉を結ぶ。



三八城みやしろ 優生ゆうよ」

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