20:特戦(トクセン)大一番

 英翔えいしょうが、オリジナルかつ特撮絡みの神ゲーを量産。

 また、『特トーク』の発展は勿論もちろん、ソフビや料理も作りつつ、CGも担当し、お子様のチェックまで率先して務め。



 珠蛍みほとが、主戦力たる家電、グッズ開発に勤しみながら、諸々のメンテナンスや分析。

 時には、岸開きしかいのお姉さんとしても機能し、次第にキッズ達に好かれるようになり。



 彩葉いろはが、リペに追われながらも、スタッフ一同のフォローをこなすバイプレーヤー、リベロとして奮闘。

 明夢あむの動画でもレギュラーとして、積極的にインタビューを引き受け。



 璃央りおが、脚本や設定を用意しながら日夜、キャスト陣と方向性などについて熱く議論し時折、ゲスト参戦しアドリブを入れ。

 同時に、クイズ女王の牙城も崩さず。



 紫音しおんが、スーアクやアトラクションで大活躍。

 一方で、全員をねぎらうオアシスの役目も果たし、璃央りおに叱られ嫉妬され。



 拓飛たくとが、クーポンの守護神を担いつつ、脅威の再現度の高さにより、ミトヒでの指名率トップを独占。

 旺盛なファンサ精神とキャラにより、素面の時ですら、子供人気を不動の物とし。



 詩夏しいなが、念願の「作り放題、食べ放題」を解禁され、大興奮。

 ひたすらスイーツ作りに明け暮れ、バイキングだけが目当ての固定ファンまで大量に付け。



 若庭わかばが、パティシエ一辺倒の詩夏しいなに困らされながらも、他のシェフ達と連携。

 対人に慣れて来た頃には、豊富な経験と知識を発揮し、気付けば料理長に大抜擢され。



 寿海すみが連日、大勢の来賓を丁重に歓迎し、徹底したホスピタリティと卓越した対応力をフル活用。

 いざこざやクレーマー、サイレント・コンプレーナーなども生み出さず。



 他の従業員達も、そんな9人と共に、それぞれの持ち味を活かして『トクセン』に貢献し。



 そして、店長たる友灯ゆいが、店全体の監督を進めつつ、必要に応じてサポートに入り。

 アパレル以外にも、エゴサやオンライン販売など、本来のテリトリーであるネット方面でも尽力する。



 そうしてる間に、月日は流れ。

 いよいよ、その時が訪れた。



 再び敵のアジト、異世界の社長室へと殴り込む友灯ゆい

 1年前と異なり、たった一人で攻め込んで来た友灯ゆいを称賛し、玄野くろのは拍手を送る。



「大したガッツだ。

 まさか、オメガも岸開きしかいくんも護衛に付けず単身、乗り込んで来るとは。

 ゴッジョブと言う他、るまい」

「『オメガ』じゃねぇ。

 『森円もりつぶ 英翔えいしょう』だ。

 内の相棒の名を、二度と間違えんな」

「うむ。

 精々せいぜい、記憶しておくとしよう。

 それにしても随分ずいぶん、入れ込んだ物だ。

 前回は、彼が出来損なった所為せいで失敗した節も多分にるというに」



 性懲りも英翔えいしょうの侮辱する玄野くろのに、友灯ゆいは持参した刃を突き立てる。

 有事の際に備え、岸開きしかいから預って来たアイテム。

 セーエンジン届炉機とどろきと、その仲間オーエンジン躍炉機おどろきが合体した形態、オーセーエンジンの専用武器『オーセイバー』。

 をモチーフに開発された、実戦用の武装である。



「……これは失礼。

 どうやら、君のたらし込んだ失敗作は、2体たらしい」

「『2体』じゃねぇ。

 『2人』だ。

 どっちも、あたしなんかには勿体くらいに有能な、大切な仲間だ。

 たらし込んだのは、否めねぇけどな」

「覚えておこう。

 何秒持つかは保証し兼ねるがな。

 ところで、他の仲間はどうした?」

「振り切った。

 みんなは充分、役目を果たしてくれた。

 こっから先は、お前と、あたし喧嘩けんかだ」

出来できたものだ。

 保美ほびくん辺りは、意地でも付いて来ようとしたのではないか?」

「そうだよ。

 だから、釘刺した。

『あんまり分からないようなら、やつに頼んで、設定なり出番なり変えてもらうぞ?』ってな」

「……馬鹿バカなのか?

 君は」



 それまで一方的だった玄野くろのが、ここに来てようやく、疑問形で話し始めた。

 友灯ゆいは、ひそかに喜んだ。



「つまり、なにか?

 現状、君達にとっての宿敵に当たる私に、一度消した君の仲間を再び、消させんとっしたと?

 それも、他でもない、この私と面会するために?」

「背に腹は替えられねぇだろ。

 あたしかて勿論もちろん、気は進まんし、良心の呵責かしゃくったけどよ。

 そうまで言わねぇと、頑として譲らないんだよ。

 あいつも、他の連中も、こぞってな。

 設計者のお前なら、熟知してんだろ」

「それは、まぁ、違いないが……」

「そんな話は、どうでもい。

 い加減、本題に入ろうか」


  

 剣を戻し、代わりに両目をナイフのように尖らせ、友灯ゆいは開口する。



去年まえにも言ったはずだ。

 シナリオや設定の改変はさておき。

 お前に、戦闘絡みのスキルがいのは割れている。

 あたしとしても、下手ヘタに一戦、構えたくはない。

 あたしたちはあくまでも、『小売業』という観点からのみ、競り合ってたはずだからな」

「それについてだが。

 うに、決着は付いている。

 先刻、君にも伝えたはずだが。

 君達にとってはバッジョブな戦果をな」

「そうだな」

「どうやら、きちんと伝わっていなかったと見た。

 良かろう。では、この場で改めて、ゴッジョブに確認させて進ぜよう」



 K世界から盗んだと思しき、アクセルに似たデバイスを操作する玄野くろの

 刹那せつな、一年分の奮闘の成果が、ポップ・アップとして、友灯ゆいを取り囲んだ。

 ご丁寧に、真っ赤に染められた状態で。

  


「年間売上、『約9億円』。

 私が提示した条件は、『10億円』。

 君達『トクセン』は、これを達成出来できなかった。

 よって、君達、君達の特撮の負け。

 私と、私の信じた特撮の勝利というわけだ」



 満足そうに膝を組み、玄野くろのは続ける。


 

「君は、バッジョブなまでに、学習能力がいちじるしく欠けている。

 去年の、残りの1ヶ月と、それについての私への発言を、もう忘れたのか?

 君の発想力と推進力、気力と蛮勇、インパクトと斬新さはゴッジョブに評価するが。

 あれだけの商法で、あれだけの商材で、あれだけの規模で、あれだけの人数で、あんな小さな辺境のど田舎で、オール・オア・ナッシングで1年も経営し続けるなど、愚の骨頂。

 収支のバランスが終始、バッジョブだ。

 いくら売り上げようと、手取りが少なければ虚しいだけだ。

 君は、商売のもりで丸一年、ギャンブルに溺れて、自分に酔いれていたに過ぎん。

 顧客満足度は高かろうが、マーケティングとしては落第レベル。

 スタッフ達にとっては、コスパもタイパも、った物ではない。

 そもそも、手痛い停滞、しっぺ返しを食らうのが目に見えていたからこそ、先人達は、今回のような無謀な大冒険に出なかったのであって」

「はいはい、分かった、御託ごたくい」



 玄野くろのの長ったらしい論説を、雑に一蹴する友灯ゆい

 それまで余裕そうだった彼が、めずらしく額に怒りマークを宿す。


 

御託ごたくだと?」

「だって、そうだろ?

 お前は、大事なことを見落とし続けてるんだ。

 あたしが仕掛けたトラップに気付かず、まんまと術中に嵌められたってのに、哀れなやつだ。

 それも、この11ヶ月間もな」

「ほう。

 随分ずいぶん、面白いことを言ってくれる。

 つまり、こういうことだ。

 私には考えも付かない秘策により、ここから逆転サヨナラでも決めようというのか」

「そうだ。

 あたしが新たに身に着けた、特殊スキルによってな。

 百聞は一見にかず。

 とりま、これを見ろよ。

 そして精々せいぜい、吠え面かきやがれ、社長さんよ」



 玄野くろのに対抗するように、自身のアクセルを操作する友灯ゆい

 すると、新たなポップが一つ増え。

 さらに、赤字を彷彿とさせる他のポップたちが、真っ黒に塗り替える。

 景気回復、黒字をイメージさせる色に。



「ま、まさか……!?」


  

 慌ててデバイスを操作し、最後に現れたポップを引き寄せる玄野くろの

 めつすがめつ睨むも結果は変わらず。  

 怒りと疑念の促すままに、椅子から離れ、友灯ゆいに詰め寄る。



「『ネット業績』だと!?

 一体、なんだ!? これは!」

なんだはいだろ。

 お前が行ったK世界なんて、ほとんど通販頼りだったって、ケーから聞いたぞ?

 機械が発展してるのをことに、大半の業種がロボット任せになって、人と人との触れ合いが希薄きはくになってたってな」

「そういう話ではない!!

 なんで、こんなこと出来できた!?

 私の用意したスタッフの中に、ネットに明るい人材などなかったはず!!」

「そうとも。

 だから、新たにオンライン要員も作った。

 誰を隠そう、このあたしだ」

ごとを抜かすな!!

 私が連れ去るまで、お前の前職は、単なるしがないOLだったはず!!

 ネット通販など、ゴッジョブに出来る道理がい!!

 無論むろん、私の世界に誘い込む際、去年も今年も、そんなゴッジョブなボーナスを付けた覚えはい!!

 一体、いつ、どうやって仕込んだ!?」

「大方、お前だって観てたんだろ?

 こっちで『トクセン』が始まる前日の、『トクバン』でだ。

 公衆の面前で、確かにあたしは明言したはずだぜ?

『私の前職、ホーム・グラウンドは、オンラインなので』、ってな」

「分かるかぁ!!

 まったく最近の探偵みたいな真似マネしおってからにぃ!!

 そもそも、あの特番、情報過多な上に特濃なんだよぉ!!」

「お褒めに預かり、光栄です。

 あと、それは明夢あむよろしく、お前がネタバレきらってたのが悪い。

 なにはさておき、だ。

 あたしは、そう断言した。

 それも、全世界に向けて、記録と媒体にに残る形でな。

 結果、あたしは意図的にストレスを抱えた。

 嘘をきたくない、炎上したくないと、自分で自分を追い込んだ。

 それにより、あたしの運が、新たなるスキルを呼び起こした。

 丁度、エイトを招いた時のように、な」

「ば、馬鹿バカな……!?」


 

 玄野くろのは、見誤っていた自分を叱責した。

 どうやら三八城みやしろ 友灯ゆいという人間は、桁外れの博打打ちだったらしい。



「狂っている……!!

 明らかに、常軌を逸脱し過ぎている!!

 何故なぜ、そんなことが叶った、行動に出られた!?

 下手ヘタをせずとも、そのまま終わっていたかもしれんのだぞ!?

 それ以前に何故なぜ、閃いた!?」

「決まってんだろ。

 どうしても、お前にリベンジしたかった。

 そこまで自分を犠牲、律してでも、お前をブチのめしたかった。

 叩きのめす、まだのめす、さらにのめす。

 お前にとっても最後のプレイヤーになった記念に、そういうふうに、お前に仕返ししたかったんだよ」



 玄野くろのの胸を押し、倒す友灯ゆい

 情けなく悲鳴を上げ、座りながら後退る玄野くろの

 友灯ゆいは、そんな彼を見下ろし、見下しながら、締めに入る。



「特撮の存亡を賭けた、この決戦大一番。

 制したのは、お前じゃない。

 あたし達、『トクセン』だ。

 お前は、フィクションを、あるべき形で楽しまなさ過ぎた。

 倍速、スキップばかりする現代人ばりにな。

 ファスト系として、それを頭ごなしに否定するもりはぇが。

 今回おまえに限っては失策、裏目に出たな。

 お前は、もっと真正面から、全力で、あたし達と向き合うべきだった。

 あんな法外、規格外、論外な要求を通した手前、胡座あぐらをかき過ぎた。

 だから、ナメてた連中に寝首を掻かれんだよ。

 悔しければ、あたし同様にファスト系だった、自分を恨むこったな」

「ぐっ……!!」



 図星をつかれ、なにも言えなくなる玄野くろの

 彼に付いているサクシャスは、もっぱらのゲーマー。

 ここまで完敗を喫した以上、スポーツ・マン・シップにのっとり、いさぎよく健闘を称える他い。



 呼吸を整え、立ち上がり、居直る玄野くろの

 こいつあたしと同じくらいタフだなぁと、友灯ゆいは図らずも感心した。



「……いだろう。

 これで、君達は晴れて自由の身だ。

 そして、契約に従い。

 君の望みを、私の出来る範囲で叶えようではないか。

 確か、『岸開きしかいくんの世界の復興』」

「あー、それなんだけどさ。

 気が変わったから、止めたわ」



 あっけらかんと、とんでもないクズ発言をする友灯ゆい。  

 おかげ玄野くろの折角せっかく、取り戻した調子を、再び崩された。



「……なんだと?

 どういう了見だ?」

「お前への新たな要求は、こうだ。

あたしのオーダーを、無制限に叶える』。

 その方が、なにかと便利なんでな。

 K世界の復活は、その一つとして叶えてもらやぁい」

「……はぁぁぁぁぁ!?」



 想像を絶するクズ発言に、玄野くろのは再び、友灯ゆいに詰め寄った。



「つまり、なにか!?

 君は私を、シェンロ◯かバ◯キングかジーニ◯かオーディ◯かグレートア◯などと同一視でもしてるのか!?

 物理的にも勝負的にも倒されたからと言って、使い倒される、踏み倒されるのまでは御免被る!!

 何故なぜそこまでバッジョブに私が従わされなければならない!?

 生憎あいにく、そんな義理も義務もい!!

 そもそも、これでも、仮にも複数の世界を滅ぼした人類の敵、れっきとした脅威だぞ!?

 その気になれば今ぐ、この場で、君を消滅させることだって!!」

出来できねんだろ?」

「ああ、そうともさ!!

 そんなバッジョブなやり方は、私の美学に反する!!

 少なくとも私には、悪役だろうと、それなりの矜持がる!!

 あ〜!

 だからといって、こんな隠し玉でバッジョブに反故ほごにされるのも、あ〜!」

反故ほごなにも、ただ口約してただけだろ。

 契約書の一つもいわい」

「この、悪魔めがぁ!!

 私に言われるとか、余程よほどだぞ!?」

「それじゃあ、最初の命令だ。

『この世界でも、別の世界でも、二度と悪事を働くな』」

「『死ね』と!?

 貴様、私にバッジョブに『死ね』と申すのか!?

 それでは、単なるバッジョブな拷問ではないか!!」

いだろ、別に。

 お前、死にたがりだろ?」

「『カタル死する』のがゴッジョブな本願だぁ!!

 なにも、『死にたい』わけではない!!」

面倒めんどい」

面倒めんどくてしてるのは徹頭徹尾、バッジョブな貴様だぁぁぁぁぁ!!」

「素直に認めろよ。

 とっとと降参した方が、楽になれるぞ?」

「貴様、それでもヒーロー・ショップの店長かぁ!?」

「あーそうとも。

 お前に任命された、な」



 最早どっちが悪者なのか分からない状況。

 かといって、ここでかしずようなら、生き地獄は必至。



 かくなる上は。



「……認めん……!!

 その条件だけは、断じて認めんぞぉ!!

 とぉ!!」



 なにやら叫びつつ、格好付けて窓を割り飛び降り、どこかへ逃げる玄野くろの

 咄嗟に屈み込み、彼のデスクを盾にして、どうにか硝子がらすの破片から身を守る友灯ゆい



 やがて落ち着き、窓から周囲を一望するも、玄野くろのの姿は視認出来できない。

 


「やれやれ。

 手間ぁ取らせやがって」



 みずからの発言を棚上げしアレな発言をしつつ、友灯ゆいはアクセルを操作。

 ぐ様、珠蛍みほとに連絡を取る。



「ケー。

 状況、把握してる?」

無論むろん

 すでに、やつの反応を追っている」

流石さすが

 出来る部下を持って、あたしも鼻が高いよ」

「そこまでではない。

 肝心な時にそばからマイナスされた、無能だ。

 契約をたがえられても、責められはしない」

「あー、もぉ、拗ねんなって、悪かったってばぁ。

 さら稚児ややこしくなんだろぉ」

「……一纏めにされている上に喧嘩腰な辺り、誠意も謝意も、悲しい程にプラスされぬが」

「お前が、言うな」

「お互い様だ。

 それより、マスター。

 亜空間ではなく地球にて、怪しい反応をプラスした」

「『怪しい反応?』

 ケーにしては随分ずいぶん、フワッとしてるな」

「そうとしか表現の仕様がいのだ。

 岸開きしかいの開発したセンサーは、『人間を始めとした、地球上の生物以外』を探知する物。

 つまり、これで拾われた存在は、『宇宙産』、あるいは『人外に取り憑かれた動物』の2択だ。

 ここまで範囲が狭まれば、自ずとターゲットは絞られる。

 にもかかわらず、先程までとは、マーカーの様子ようすが異なるのだ」

「具体的には?」

「微動だにしない」

「いや、おかしぎるだろ、それ」



 さっき、尻尾を巻いていた相手が、逃げおおせたとはいえ、その場に留まっているとは考えにくい。

 珠蛍みほとの読みは、どうやら的中しているようだ。



「つまり、『また玄野くろのなにか仕出かすかもだから、要注意しろ』と?」

「そういうことだ。

 どうせ言っても聞かない、引かないだろうが、忠告だけプラスしておく。

 今、位置情報を、そちらにプラスする」

「オッケー。

 ガイド、よろしく」

「プラスされずもがな」



 通話を終えた友灯ゆいは、続けてアクセルからバイスケボーをマテリアライズ。

 玄野くろのおぼしき反応を目的地に設定し、空間転移し、高速飛行するのだった。





 岩に覆われた、黒い巨躯。

 全身から吹き出すマグマ。

 超サイ◯人3や侍を彷彿とさせる、オレンジ色の長髪。

 辺り一面に広がる、モワッとした熱波。

 精神統一でもしていそうな割りに、座禅しながらも発せられる、物々しい雰囲気。



 結論から言うと。

 ゴール、森の奥に潜んでいたのは、そんな、玄野くろのとは似ても似つかない。

 さながらWの第1話にでも出てそうな、新手のゴーレムだった。

 


「……む?」



 木に隠れて観察していたら、バレたらしい。

 体表から溢れるマグマに触れ、大剣へと変換、回転斬り。

 周囲一体の木々を一刀両断してしまう。



 すんでで避けられたものの。

 友灯ゆいは姿を見せてしまう。



「不意打ち、失礼致した。

 こうでもしないと、拝めそうにかったのでな。

 にしても力み過ぎるあまり少々、やりぎてしまったが」



 大剣を消し、非礼を詫びる大男。

 岩男は立ち上がり、友灯ゆいぐ捉えた。



「拙者はホンノウン、名はマスルオ。

 問おう。

 そなたが、三八城みやしろ 友灯ゆいか?」

「え。

 あ、はい」



 名を聞かれ、迂闊にも素直に答える友灯ゆい

 こういう所に、彼女の人の良さは垣間見える。



 一方、ホンノウン違いではあるものの、ホンノウンではあったらしい、マスルオとやら。

 大方おおかた、『アストロシアス』とやらから派遣された、援軍か。

 彼は、鋭い眼光で友灯ゆいを見詰め、腕組みをしながら質問を続ける。



「『人間でありながら、無刀流の使い手にして、8万人の部下を持ち、そなたの命令、気分次第でいつでも、軍艦100隻を動かし、集中砲火で一国を数秒で潰せる』という。

 噂に名高い、あの三八城みやしろ 友灯ゆいか?」

「それ全部、ワンピー◯の派生系じゃねぇか!!

 誰がデマ流した、玄野あいつだな、さては!

 まぁ確かに、割と近いこと出来できっけど!

 その気にさえなれば!

 うちのメカニックにロボ軍団とか造らせられっけど!!」

「あい、分かった。

 なれば、話は簡単。

 ここで相見あいまみえたのも、合縁奇縁。

 拙者と戦え、我が好敵手よ」

なんでだよっ!?

 話、聞けや!

 出会い頭にダーゴ◯さんみたいなこと、言ってんなや!!」

「いざ、尋常に、勝負なり」

「やだねーーっ!!」

「むぅぅぅぅぅ!!」



 気合と、共にパンチを繰り出すマスルオ。

 その拳圧だけで突風が巻き起こる。



 ボサボサに跳ねた髪が、レーダーのごとく、友灯ゆいに信号を送る。

 直撃イコール死、だと。



「くっ!」



 ドッジ◯ールの要領で、どうにか躱す友灯ゆい

 が、逃げた先には、すでにマスルオが待ち構えていた。



「掴まされたか。

 詰まらん。

 今この場で、介錯かいしゃくしてくれる!」



 再び、今度はじかに、マスルオの拳が友灯ゆいに迫る。

 


 万事休す。

 恐怖のあまり、反射的に目を閉じる友灯ゆい



 だからこそ、気付かなかった。

 自分の体を押し、助けてくれた、命の恩人の正体に。



「むぅ!?」



 空振りに終わり、驚くマスルオ。

 拳圧により砂埃が派手に巻き上げられ、新たなる参戦者の姿が隠される。

 


「け、ケー?」



 せた後、声を掛ける友灯ゆい



 が、やがて写り混んだシルエットは、珠蛍みほとではなく。


 

ひどいよ、ユーさん。

 呼ばない上に、呼び間違えるなんて」



 彼女の相棒であり、「来んな!!」と拒絶され不機嫌中の英翔えいしょうだった。

 未だに不満たらたららしく、友灯ゆいの元に移動しつつ、文句を付ける。



「だから言ったでしょ。

『せめて、俺だけでも』って。

 なのにユーさん、無視するから。

 結果、本来の想定とは違えど、ピンチじゃん。

 なに? そんなに、信用ならない?」

「そ、そういうんじゃねぇよ!

 ただ、そのっ……!!

 ……もう、いやだったんだよっ!!

 あたしの前で、あたし所為せいで、誰かが死ぬのはっ!!

 去年のセール辺りの、みんなみたいにっ!!

 最終日の、エイトみたいにっ!!」


  

 一同がなんとなく察していた。

 けれど、えて黙っていた。

 特に英翔えいしょうには言いたくなかった。

 そんな理由を、友灯ゆいは明かした。



 彼女の申し開きを聞きつつも、英翔えいしょうは近付く。

 呆れと切なさが入り混じった表情で。



「……ユーさん。

 ユーさんが、俺達のことおもんぱかってくれるのは、うれしい。

 けどさ……俺達だって、同じ。

 ユーさんには、死んでしくないんだよ。

 なんで、それが分からないの?」

「うっ……」



 めずらしく、少し強気な英翔えいしょう

 ここまで指摘されないと梃子てこでも動かないことを、学習されたらしい。


 

「い、いやっ……でもさっ!!」

「『でも』じゃないーの」



 あやすような口調で友灯ゆいに近寄り、屈み込み、両頬をつね英翔えいしょう

 ほどなくして離し、起き上がり、英翔えいしょうげる。



「別に、いよ。

 ユーさんが、なるべく自分だけで戦いたいってんなら。

 俺は、それを尊重する。

 けど、忘れないで。

 俺は、ユーさんの心の翻訳者。

 ユーさんの願望が生み出し、呼び覚ました、ユーさんのトコシエ。

 ユーさんの理想、最高の相棒。

 早い話、ユーさんの一部、半身、分身ってこと

 それなら俺だけは、その範疇から、外れるよね?」

「い、いやー……。

 ……どーかなぁ……」

「外れるよ」

「いや、決め付けんなやっ!

 ほんで、圧下げろっ!

 分ぁったよ、あたしが悪かったよぉ!」

「遅ぎ。

 でも、分かればよろしい。

 てなわけで、仲直りの儀式。

 ん」



 笑顔を浮かべ、右手を差し伸べる英翔えいしょう

 吹き出しつつ、友灯ゆいも右手で掴み。

 二人は、並び立つ。



「こうなりゃ仕方しかたぇ。

 こんなことろうかと練習してたアレ、やってみっか」

「ゾクゾクするねぇ」

「相変わらず、察しがいな」

「ユーさんが分かりやすいだけ定期」

「オマエ、アトデ、ボコル」

「優しくしてね?」

「すっか!

 あとめぇや、そういうの、誤解されんだろっ!!」

「痛い……。

『優しく』って、言った……」

「そんなに力込めてねぇわ!

 今そういうネタ要らんから!」

「ユーさん、ノリ悪い」

あたしは、悪くねぇぇぇぇぇ!!」



 バンッと、英翔えいしょうの腕を軽く引っぱた友灯ゆい

 わざと大ダメージを装う英翔えいしょう



 そんな小芝居を挟んだあと、二人は気を引き締め。

 律儀に黙って待機、座禅していたマスルオと対面する。



「……余興は終わったか?」

「いんや。

 終わったのは、お前の命だ」

「俺、本気出す。

 むんっ」

めろ、可愛かわいいだろ」



 頑張るぞいとポーズを決める英翔えいしょうに、即座にツッコむ友灯ゆい

 そして再び、二人は真顔になる。



「半分、力貸せよ。

 相棒」

「全部、あげる」

「ちったぁ貯金しとけや!!

 でも、あんがとよっ!!」

 


 軽く怒りつつ、アクセルを操作する友灯ゆい

 そして、なにやらアドリブめいた変身ポーズみたいなのを披露し。

 ナゾトキーをセットしたアクセル、互いの腕をクロスさせ。



合心がっしん!!』



 掛け声めいた叫びと共に突如、二人が閃光に包まれ、突風が発生。

 まぶしさと強風に煽られ、思わず閉じた目を手で覆い隠すマスルオ。



『バディ・オン・ボディ!!』

『ユイ!!

 エイト!!

 ユイト・クロス!!』

『リョー、エンダー!!』



 続けざまに、謎の音声が響き渡る。



 やがて、光と風が収まった頃。

 光源として現れ出たのは、右半身が機械に覆われ、胸に大きな十字の刻まれた、宙に浮く、一人のニュー戦士。

 右が緑、左が赤の、ツートンのボディを輝かせ、マスルオの前に降り立つ。

 


「そういや名前、まだ決めてなかったな。

 そうだなぁ……。

 命名、『デュアル』!!

 そんで、この姿は、『ユイト・クロス』だ!」

「名前は、ユーさんの好きにしていよ。

 センス悪くないし」

「はい、決定ー!

 改めて頼むわ、エイト!」

「ん」



 一人の体で、握手をする二人。  

 異様な光景に困惑しつつ、マスルオはうれしそうな顔色を覗かせる。



「どうやら、見誤っていたのは拙者の方らしい。

 すまなんだ」

「謝罪なんざらねぇ。

 どうせぐ、あたしたちが倒しちまうからな」

「『デュアルに、デュエるぜ、デュオろうかっ!!』」

「今の、決め台詞ゼリフ!?

 勝手に決めんな、しかも言うな!

 あと、安直、重複ちょうふく

 んで、男女あたしたちの場合は、『デュオ』じゃなくて『デュエット』だぁ!

 てか、そっちの名付けは担当するんかよぉ!?」

「来い、『デュアルダル』」

「おいぃぃぃ!

 今度は勝手に動くな、ネーミングすんな、剣呼び出して持つなぁ!?

 てか結局、命名権、委ねてねぇ!!

 ほいで、あたしより上手いしカッケー!!」

「ユーさん、うるさい」

「お前の行動のがな!?」



 デビュー戦にもかかわらず早々に、残念ムード漂うデュアル。

 


 依然として緊張感は皆無だが。

 かくして、ホンノウンのマスルオとの、決闘が始まるのであった。 

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