19:始動!『UR(ユー・レア)計画』!!

「画面の前の皆様。

 初めまして、こんにちは。

 私は、三八城みやしろ 友灯ゆい

 本日の司会、及び4月から開設予定の『トクセン』にて、店長に着任致しました者です。

 本日は、「『トクセン』宣伝番組」こと『トクバン』をご覧頂き、誠にありがとうございます。

 本日は、『トクセン』の魅力をお伝えすべく、ライブ配信させて頂いております。

 なお、本公演が終了次第、こちらの模様はアーカイブとさせて頂きます。

 また、分割版も、同時に無料公開させて頂きます。

 ちなみに撮影は、今をときめく超人気配信者にして私の幼馴染。

 そして、この度、『トクセン』の広報、親善大使こと『トクセン伝大使』に任命されました、見先みさき 明夢あむさんに、快諾して頂きました。

 分割版も同時に、なんていう配信者泣かせの荒唐無稽な真似マネは、彼女の手腕が無ければ不可能でした。

 この場を借りて、改めて、御礼を申し上げます」

「ユヒッ!!

 似合わなっ!!」

うっさいっ!

 精一杯やってる時に、水を差すな!」


 

 仲の良さを窺い知れるコントを挟んだあと友灯ゆいは咳払いする。



「失礼しました。

 気を取り直しまして。

 本日、同じく司会進行、そしてツッコミなどを担当して頂くアシスタントをご紹介させて頂きます。

 破改造の動画が、SNSで瞬く間に話題を呼び。

 若くして『プレパン』にスカウトされ、その才能を遺憾無く発揮。

 来月からは『トクセン』にて共に働く、新進気鋭のリペア、リペイント担当。

 そんな、今年までギリ10代の、二人目の『トクセン伝大使』。

 と、先程、明夢あむからも指摘されましたが、こういう静粛ムードは嫌いでして。

 折角せっかくなので、ここで覚えたてのネタで、彼女の動画のホビーばりにっ壊させて頂きます。

 ご唱和ください、彼女の名を!!

 ほぉぉぉぉぉびぃぃぃぃぃ!!

 いぃぃぃぃぃろぉぉぉぉぉはぁぁぁぁぁ!!」



 いきなりキャラブレし、笑いを誘う友灯ゆい

 彼女に招かれ舞台袖から、ド派手な白衣とキブンガーを身に着けた彩葉いろはがやって来る。



「こんにちは。

 ご紹介に預かりました、保美ほび 彩葉いろはです。

 本日は、ライブ配信をご覧頂き、誠にありがとうございます。

 店長、『トクセン』共々、よろしお願い致します。

 とまぁ、挨拶もそこそこに、司令!

 なんですか!? 今の!」

いでしょぉ?

 エイトに教わったんだー。

 これからも適宜、履修予定ー」

「またしても!?

 またしても英翔えいしょうくんに、美味おいしい所をぉ!

 森円もりつぶ 英翔えいしょう!! ここでも、奴が主役か!!

 次からは、私からも習ってくださいね!?」

「程々にね。

 さて。私達の職場のアットホームさが見えた所で。

 これから皆さんには、『トクセン』についてのガイダンスさせて頂くわけですが。

 その前にしばし、私の話をさせてください。

 私は、今まで『京映きょうえい』に属してはいるものの、あくまでもアパレル専門でした。

 そんな私が、アバレル部門に来たわけですが。

 お恥ずかしい話、私は特撮に関して、ズブの素人、潜り以下です。

 ゆえに、常日頃からスタッフたちに教わってばかりです。

 なので皆さんも、この配信中にドシドシ、特撮についての知識を披露してください。

 常識と良識の範囲内で、お勉強させて頂きます。

 勿論もちろん、それ以外の、本配信のコメントなども、大歓迎です。

 但し、節度は遵守して頂くよう、お願い致します。

 悪質な物は、舞台袖に控えているメカニック担当の岸開きしかいが、アカウントとデバイスと人権ごと、削除させて頂きますので。

 あ。嘘でも誇張でも脅しでもないですよ?

 本当に可能だし、遠慮無しに破壊させて頂きます。

 なんせ、うち岸開きしかいは、未来出身なので。

 岸開きしかいの科学力は、世界一チイイイイ!!

 てな感じなので」

「ははっ! サンキュー。みーらい。

 よっ!! 世界一!!」



 一礼しつつ、恐ろしい発言をする友灯ゆいの、合いの手を入れる彩葉いろは

 肯定するかのように、演出担当の珠蛍みほとが、舞台袖から手だけを出し、サムズアップした。

 


 といっても、誰も鵜呑みになんてしない。

 大多数は、場を和ませるためのジョークだと信じている。



 もっとも、友灯ゆい彩葉いろは明夢あむは、知っているのだが。

 それが、真実だと。


 

「さて。

 今回、ご紹介するポイントは、大きく分けて四つ。

 ず一つ目に、アプリ。

 続いて二つ目に、ラインナップ。

 そして三つ目に、スポット。

 最後に四つ目に、ヒーロー・ショー。

 きっと、この配信をリアタイしてくださっているのは、熟練のファンの方々か、興味津々のご新規様かと存じます。

 となれば、もっとも気になるのはやはり、ヒーロー・ショーである事でしょう。

 新作か、はたまた既存か。

 ストーリーは? 設定は? 日程は?

 イケメンは? 顔出し女優は?

 と、期待に胸を膨らませて頂いていると思います。

 で、す、が。

 ヒーローは、遅れてやって来ると言いますし。

 そのセオリーにのっとり、お楽しみは最後に、大々的に発表させて頂きます」

「それまでは、他のコンテンツ、私達のカオスなコントなどを味わいつつ、ご歓談ください」

「『トクセン』、なんでもりだしっ!!

 ウケるっ!!」



 三人のやり取りで場を保ちつつ、友灯ゆいは司会を進行する。



「それでは早速、最初のトピック。

 当店で運営するアプリ、『特トーク』について、ご説明させて頂きます。

 こちらは、この配信終了後に、サービス開始予定。

 特撮専門の、顔出し自由のラジオ、動画配信アプリです。

 お陰様で、色んな企業様にご協賛頂き、無料で合法的に、実況動画なども挙げられる、超豪華、特別仕様になりました。

 他にもレジェンドのキャスト、スタッフのコメンタリーも導入予定。

 スパチャやコメントなども設けますが、無法地帯になるのを避けるべく。

 配信自体は、当店スタッフの他、選りすぐりの特トーカーによる、少数精鋭で行う予定です。

 また、特別なプランにご加入頂ければ、『京映きょうえい』以外の特撮や、特撮要素の無い作品も見放題となっており、超オススメです。

 しかも、会員様のリクエストを完全、徹底採用致します。

 今、複数のサブスクにご登録されている方も、これ一本、毎月1000円で全て賄えてしまいます。

 ドラマや映画、イベントは勿論、アニメや漫画、小説、音楽まで。

 往年の名作から、隠れた不朽作、話題の新作まで、存分にお楽しみ頂けます。

 また、半ば公式で二次創作にも注力していく予定です。

 なお、セキュリティーも万全ですので、マナーを守って楽しく、正しく、ご活用、ご活躍ください。

 我こそはと言う方は是非、この機会にダウンロードをお願い致します」

「以上、店長の相棒の丸パクリの、ありがたーい解説でした」

「丸パクリちゃうわ、加筆修正したわ!

 半分くらいは、あたしだわ!」

「なお、店長の相棒こと森円もりつぶ 英翔えいしょうくんは、男性で同居人ですが、変な関係ではありません。

 匂わせとかでは断じてないので、ご安心ください。

 もっとも、司令も司令で難ありなので、こんな人を貰ってくれるURな方が現れるかは、甚だ疑問ですが」

やかましいわっ!!

 そっちだって、大概じゃろがいっ!!」

「私は、ホビーとカラフルと友灯ゆいに、すでに身も心も捧げているので」

「おいぃぃぃぃぃ!!

 口の聞き方を慎め、貴様ぁぁぁぁぁ!!」

なんで、そのネタ知ってるの!?

 どこまで、英翔えいしょうくんに調教されたの!?」

「さ、れ、て、ねぇぇぇぇぇ!!

 むしろ、あたしが手懐けた側だぁぁぁぁぁ!!」

「それも、どうなの!?

 てか、ズルいっ!!

 保美ほびにも、しろぉ!!」

「あははっ!!

 超、マジ最高っ!!

 二人のバズーカのおかげで、めっちゃバズってる!!」



 中々に酷い有様のライブ配信。

 こうして、珠蛍みほとの気遣いにより、「ツッコミ不在でお送りしております」というテロップが、常に下に付けられるに至った。



「はっ!!

 失礼します!!」


 そんな無法地帯に突如、謎の男が参戦。



 ロボを模した、メタルヒーローっぽい、大柄なスーツ。

 腕に付けたチェンジャー。

 ロボにしては溌剌はつらつとしたオリキャラ。



 当初よりも早い段階での見切り発表。

 これにより、コメント欄が一斉に沸き立つ。



「いや、誰だし!?」

「はっ!!

 自分は、オーゴエ博士の開発した、ブログラム所有ヒロボット、『セーエンジン届炉機とどろき』と申します!!

 凄まじいコエナジー反応を感知し、現着致しました!!

 以後、お見知りおきを!!

 折角せっかくなので、ここで決め台詞を、失礼します!!

『その計画、フルアクセルでブレーキします!!』」

「いや、自由かっ!!

 カオスを情報量で止めに来んなしっ!!

 内、ネタバレ嫌いだから、ショーについては一切、聞いてなかったのに、台無しだしっ!!

 ウケるっ!!

 てか、どゆことっ!?」

あたしも、知らない!!

 ちょっと、ケー!!」

「多分、本格的に収拾がつかなくなったので、力づくで止めてくれたんですよ」

「だったら、ケーが自分から来るなり、なんかこう、遠隔攻撃出来るアイテム使えばいじゃん!!」

「『なんかこう、遠隔攻撃出来るアイテム』って、なにっ!?

 なんで、そんなの有るしっ!?

 ウケるっ!!」

「はっ!!

 エナキー反応をスキャン致しました!!

 どうやら、マシンジケートのホロボットが現れた様子で!!

 一旦、帰還します!!

 では、皆様!! これから自分、セーエンジン届炉機とどろきに熱い、厚いご声援の程、よろしくお願い致しますっ!!

 次は4月から、ステージでお会い致しましょう!!

 では、失敬っ!!」



 言うだけ言って、そそくさと掃けるセーエンジン。

 おかげで、すっかり場内は鎮まった。

 数分後、さきに我に帰った友灯ゆいが、場を執り成す。



「し、失礼致しました。

 いやー、格好かっこかったですねー。

 これは、ワクワクが止まりませんねー。

 でも、彼の紹介をする前に、次のトピック。

 当店『トクセン』で扱う、製品のラインナップについてです。

 ここでポイントなのは、『商品』ではなく、『製品』という所です。

 その理由については……こちらを、ご覧くださいっ!!」



 モニターの方へ手を伸ばしつつ、珠蛍みほとに合図する友灯ゆい

 


 Wi-Fiと充電器の要らない、本やDVDも電子として持ち運べる腕時計型スマホ、アクセル。

 たてがみサイクロンっぽい、ソーラー充電かつ、シミやシワまで一瞬、無傷で取れるスペシャル掃除機、サイクリーナー。

 光のレーンとバリアを作り、超高速かつ安全に空中走行出来できる優れ物、バイスケボー。

 見た目や性格、口調や声、カラーや服、細部の細部まで自分仕様に変えられる、連れ添い型の万能ロボット、トコシエ(無論むろん、暴走はしない)。

 相手との相性、親密度、信頼度、好感度などを調べてくれるエンムスナイパー。



 などなど、スクリーンに映し出されるは、これまたっ飛んだ。

 既存の技術力を凌駕した性能と、それに価格が釣り合っていない物ばかりだった。



「……」



 製品内容に関しても何も聞いていない明夢あむは、あんぐりと口を開け、絶句。

 そんな彼女に、友灯ゆいは強気に微笑ほほえむ。



「言ったっしょ?

『内お抱えの天才発明家は、未来出身』だって。

 これで、信じてもらえた?」

「とまぁ。

 市販の商品の他、こういったユニークな物も各種、取り揃えておりますので。

 是非、『トクセン』に足をお運びください。

 ホビーのみならず、家電量販点としても、『トクセン』はトップを独占するもりですので」

「あ。

 オンラインもやる予定なので、そちらもご利用ください。

 むしろ、私の前職、ホーム・グラウンドは、そっちなので。

 転売ヤーなんかには絶対ぜったい、断固として抗うので」

「ただ『トクセン』では毎日、クーポンなどがもらえる、閉店セールさながらのキャンペーンを行うので。

 ご飯も美味しく、お安くなるので、そっちの方が、お得かもしれません」

「なので、我こそは持ってるという方は是非、『トクセン』へ!」

うちの店長のパニクリっりも拝めるので!」

うちのリペ担当の発狂、絶叫も合わせて、お楽しみください」



 互いにジャブをしつつ、頬を抓る友灯ゆい彩葉いろは

 それを見て抱腹絶倒の明夢あむ

 またしてもグダグダになりつつある、その時。



「あのぉ、すみませーん」


 

 と、舞台袖から、しがないサラリーマン風の男が現れた。

 先程のセーエンジンとは打って変わった、変身後でもない、地味なゲスト。

 というか、どう見ても迷い込んだようにしか捉えられない。

 意味不明な事態に、コメント欄が「?」で満たされる。



「え?

 誰?」

「は、初めまして。

 私、これでも一応、ヒーローをさせて戴いている者でしてぇ。

 なにかお仕事を頂ければと思い、馳せ参じた次第でしてぇ」

「ヒーローって、そんな、営業職みたいな感じだったし!?」

「というわけで、『マッサラリーマン、ロスタイム』のご紹介でした〜。

 詳しい説明は、また後程ー」

「さては、まだ設定そんな決まってないし!?

 セーエンジンにリソース割きぎだしっ!

 ウケる!!」

「ほらぁ!

 だから言ったじゃん!

 これはまだ、早いって!

 速攻で看破されたじゃんかよぉ!!

 もう、恥ずかしいから帰ってよぉ!!」

「し、失礼しまーす」



 友灯ゆいに背中を押され、退場するマッサラリーマンとやら。

 あまりにフリーダムなノリに、視聴者数が伸び悩み知らずである。



「てか、なんだし?

 もしかして、一種類じゃないし?」

あるいは、この場限りの一発ネタ、フェイクかもねぇ」

「焦らすぅ!」

「その真偽はさておき、司令。

 次のトピックを」

「そうだね、彩葉いろは

 では、次は『トクセン』の設備について、ご説明致します。

 再度、スクリーンをご参照ください」



 友灯ゆいの振りを受け、岸開きしかいが遠隔操作で画像を変更し、『トクセン』のマップを映し出す。


 

「物販、ビュッフェ、ステージ、フォト、ミトヒ、ゲーム、カラオケ、ライブラリーなど、様々なスペースをご用意しております。

 私の推し場所は、キッズ・エリアです。

 ファミリー層の為に設けられたスペースで、本館の直ぐ横に建造されている、体育館のような場所です。

 壊れ辛く怪我も少ない簡略な仕様にカスタムされた玩具が置いてある他、特撮以外にも人気のサブスクや絵本、漫画なども流しており、シアターやトイレも設置される予定です。

 また、バスケット・ゴールや、安全面に配慮した、未来製の遊具などもり毎日、うち岸開きしかいが定期チェックをしてくれます。

 また、保護者様に与えられたカードキーが無いと、お子様が出られないシステムになっており、はぐれるといったトラブルも未然に防げます。

 交代制でスーアクもる他、岸開きしかいのお姉さんもセットの変身、ダンス講座、インタビューなども開催する見込みです。

 お絵描きを元にしたオリジナルの玩具やスーツなども作成可能で、隣のフォトエリアで一緒に撮影も出来ます。

 といった具合に、お子様を惹き付ける要素が盛り込まれております。

 迷子の防止となっている他、お客様も保護者様も、静かに、安全に、快適にショッピングを楽しめる仕様となっております」

「補足させて頂きます。 

 先程、『カード・キー』と有りましたが。

 こちらは、ご家族で『トクセン』をご利用頂く際に、入場者特典として無料で差し上げるアクセルに、データとして入っております。

 お子様、保護者様の分だけご提供致します他、数に限りはございません。

 是非、お気軽に、計画的にも無計画にもご利用ください。

 また、店内の至る所にソファー、ベンチなども備え付けて有りますので、そちらも合わせて、ご活用ください」

すごいし、『トクセン』!!

 これはうちも、プライベートでも結愛ゆめとヘビロテするしっ!!」

「一名様、ご来店でーす」

「今後とも、ご贔屓にー」



 明夢あむに合わせ、ホストみたいな即興コントを開始する友灯ゆい彩葉いろは

 


「いやぁ。

 確かに、楽しそうだなぁ。

 俺のハートにも、ビビッ!! と来たぜ」

「なーに言ってんだ。

 俺のハートはさっきから、可愛かわいちゃん達に吹きまくりだぜ」



 ここで、またしても謎の乱入者。

 それも、物凄く溶け込んだ状態で、二人。



 前者は、モノトーンでシックな割に、胸の赤い炎が目を惹き、急に弾けるバンドマン。

 後者は、腰に二本の刀を差す、緑を基調とした、風っぽいデザインのチャラ男。

 再びコメント欄が、感想で満たされていく。



「お初っす。

 俺は、『ヴィート』ってんだ。

 死神として生まれ変わった父親シフトを相棒に、魂の叫び『炎心エンジン』を燃やして、悪しき死神バグリム達と戦うぜ。

 本業のロック・バンドも含めて、応援ズガンッ!! とよろしくなぁ」

「俺は風から生まれた風来坊、『サイクローン・ジン』だ。

 環境破壊を憂いる地球の命で遣わされたサイクローン達から、麗しきレディー、ついでに男も守ってやるぜ。

 以後、しくよろちゃん」



 コルナを決めるヴィート。

 彩葉いろはの肩に手を置きつつ、大文字ポーズを決めるジン。



 先程のマッサラリーマンとはイメージが逆転した、セーエンジンばりの設定とスーツ。

 おかげで、明夢あむや視聴者は、期待より先に安心を覚えてしまった。

 


 もっとも、数分後にジンは、彩葉いろはに腹パン、友灯ゆいにキックをお見舞いされ。

 無事なヴィートを引き連れ一旦、去るのだが。



「失礼な人ですね。

 私に触れたいなら、せめてオレンジ色に染め上げてからにしてください」

むしろ、そこまでしたら、いのかよっ!?」

「クオリティとオレンジ愛、ホビー愛、ユイユイ度にも寄りますが」

「最後、なに!?」

「全部、謎だしっ!!

 てか、どゆことっ!?

 これで、四つ!?

 え!? 一体、幾つショーやるもりだし!?」

「さぁ、どうでしょう?

 コメント数によるランキング形式で決まるかもですね」

「逆に全部、フェイクだったりしてぇ」

「いや、マッサラリーマン以外は、素人目に見ても、えげつないレベルだったし!?」



 明夢あむのストレートな物言いに、舞台袖から情けない悲鳴が聞こえた。

 どうやら、スタンバイ済みらしい。



「さて。

 前置きは、これくらいにして。

 そろそろ、いですよね?

 司令」

「そうだね、彩葉いろは

 それでは、ヒーローっぽい皆様、こちらにお越しください」



 友灯ゆいの指示により、ステージに戻る四人。

 しかも、マッサラリーマンは、髪以外が白に侵食されていた。

 それは、さながらカーネイ◯のコスプレをしたベテラン歌舞伎役者の様ようだった。

 というか、先程の浮きっりが嘘のよう一番いちばん、スーツに力が入っていた。

 まるで、最初からアトラク用ではない風に。



 メタル◯ーロー枠の、セーエンジン。

 アメコミ風の、マッサラリーマン。

 深夜特撮を彷彿とさせる、ヴィート。

 初代ライダー感を押し出した、サイクローン。

 どの世代にも刺さりそうな、中々の布陣である。


 

「もう、意味分かんなさぎるし、『トクセン』!!

 めっちゃ好き!!

 あと、マッサラリーマン!!

 ディスって、ごめん!!」

「あんがと、明夢あむ

 それでは、皆々様。

 大変長らくお待たせ致しました。

 これより、ついに、『トクセン』の目玉を発表させて頂きます。

 名付けて、常仲じょうちゅうヒーローですっ!!

 一体、この中の誰が、選ばれるのかっ!?

 張り切って、その目に焼き付けちゃってください、どぞ!!」



 固唾を呑みつつ、モニターを見上げる一同。  

 そこに映し出されたのは。


「クラブトーカ!!

 昼は、部活を掛け持ちするお嬢様にして女子高生。

 夜は、弱気を助け、強気に挫く、神出鬼没、天下御免、不殺のマジカル義賊、ミス・テリアス。

 そんな彼女の唯一の弱点は、勉強が苦手な事。

 故に、懐盗かいとうである為に、部活に尽力しなくてはならないのだ。

 よって、昼に指令が入った場合、部活もこなしつつ、自作の懐盗かいとうグッズで何とかする必要がる。

 おまけに、本命の相手は、義賊制に反対する、飛び級で潜入捜査官になった、ロボも作れちゃう天才発明家のクラスメイト!?

 きわめつけに、同い年で幼馴染の執事まで混ざって来て、バッチバチの三角関係!?

 そんなミステリアス・ガールが今宵、盗むのは、悪党の財宝か、あなたのハートか。

 新番組、クラブトーカ!!

 4月より、『トクセン』にて独占配信!!

 ようは、ダイマ!!」  



 まさかの、こっちこそがフェイクだったというオチ。

 たまらず、ズッコケるスーアク達。

 まだショーの開演前からの豪快な扱いに、歓声と嘆きが入り交じる。



なんなんだし!?

 ホントに!!」

「すみませーん。

 ちょっと、間違えちゃいましたー」

「いや今、思いっ切り台本、読んでたし!?

 あと、盛大なネタにしては、偉い気合入ってたし!!」

「細かいことは、気にしなーい。

 うちの脚本家、形からこだわるタイプなんだって。

 それより、ケー。今度こそ、行けるー?」



 友灯ゆいが確認すると、舞台袖から飛び出した手が、オッケーのマークを作った。



「では、今度こそ、ご確認ください、どぞ!!」



 再び、スクリーンを見る一同。



「セイトーカ。

 質実剛健なる生徒会長にして、全ての答えを瞬時に導き出せる、迷走無しの高校生探偵、電句でんく 清誠きよまこ

 今日、彼が正当化するのは、どんな」

「ストーップ!!」



 あまりに限り限りギリギリなネタだったので、流石さすがに止める明夢あむ

 友灯ゆいは、不満気な顔で腕を組む。



なにか?」

「『なにか?』。

 じゃないし!!

 どう考えても、金色こんじきだったし!!

 しかも、金髪だったし!!

 てか、許可は!?」

なんことか知りませんなぁ」

「著作権守れし、プロデューサー!!」 

「てか、邪魔すんなよ、明夢あむ

 こけ芸が、違う今でスベっちゃったじゃんかよぉ」

うちは悪くないしぃぃぃ!!

 あと、そのバナナ式みたいなの、なんだしぃぃぃぃぃ!!」



 マイクを投げそうなまでに、みずからの正当性を主張する明夢あむ

 言うまでもないが、正しいのは勿論もちろん明夢あむである。



「ごめんなさい。

 今度こそ、大丈夫そうです」

「三度目の正直、頼むしぃ!!」

「『二度あることは三度ある』、とも言いますよね?」

「日本語って、便利で不便っ!!」

「それはそうとして、どぞー」

「最早、振りすら雑だしっ!!」



 明夢あむのツッコミを無視し三度、投射されるロゴ。

 その名も。



「ヤトガミトー」

「アァウトォォォォォ!!

 3アウト、チェンジィィィィィ!!」



 名前すら最後まで言わせられないまま、強制的に終わらされる発表。

 今回は、設定すら明かされなかった。

 そもそも、用意してるかさえ疑わしい。



「てか、なんだし!?

 さっきからの、無駄な『トーカ』推しはぁ!」

「というわけで、五番目にして最後のヒーロー、『ラブトーカ』シリーズのデビュー作、『ふたりでラブトーカ』でーす」

「皆さん、拍手でお迎えくださーい」



 すごくドンブラった流れの後、晴れて正式に紹介される、ラブトーカ。

 その実体は。



「あ……アニメェ!?

 てか、プリキュ◯ァ!?」

「とぉ、見せ掛けてぇ」

御前ごぜん、失礼します」



 スクリーンに映し出される、二人の可愛かわいらしい少女。

 かと思いきや、アイ・コンタクトを取り、次の瞬間。 

 


「よいしょぉ!」

「無事、着地完了。

 シークエンス変更。

 これより、自己紹介に移ります」



 なんと、実にシームレスに、ステージのセンターに立った。



 滑らかさだけなら、Myd◯のスカイフィッシ◯の非ではなかった。

 完全に、ハリウッド級。

 明らかに、田舎の一ショップが毎日、展開するヒーロー・ショーでお出ししてい範疇を超えていた。

 


 そもそも、ラブトーカはキグルミですらない。

 アニメ世界での手書きの姿から一転。

 さながらボーカロイドみたいな、生けるCGとなった。

 なにからなにまで、バグっている。



「初めまして!

 私は、『唸るアキレス、レス・キュート』、だよっ!」

「お初にお目に掛かります。

 同じくわたくしは、『穿つマジレス、レス・クール』、と申します。

 以後、よろしくお願い致します」

「私達は、二人で一人の、ラブトーカ!

 自称、龍の精霊神こと『シエンロン』なハブ、『ファイア』に導かれ、『友情』を『フュージョン』、=『ユージョン』して変身!!

 女の子だけど、諸々の法則とかガン無視して、蹴ったり殴ったり壊したり、空を飛んだりもして、縦横無尽に暴れ倒しちゃうよぉ!!」 

「我々が戦うのは、人々の縁『ユーエン』を世界から無くさんと欲する『フリエンド』。

 及び、その一派の怪獣、『タチキリー』です」

「そう!

 タチキリーにユーエンを切られた人は、『コドクーカン』の『ドクロボー』に閉じ込められちゃうの!

 しかも、その間、自分の記憶を吸い取られ、大切なみんなからも、どんどん忘れられちゃう!

 やがて、誰とも知り合いじゃない、誰とも仲良くなれない、『ソロンリー』になっちゃうの!!」

「普段の、高校生の我々は、スーツと大差無いキグルミで動きます。

 しかし、コドクーカンは、生身では長居出来ない、特殊空間。

 なので、コドクーカンに入る時はアニメ、現実世界ではバーチャルとして。

 というように、三つの姿で、皆様の前に現出します。

 そして、ドクロボーから人々を救えるのは、我々だけ」

「私は見習いの脚本家で、クールは未来の大女優にして、お嬢様!

 喧嘩けんかも擦れ違いも、知らない事も多い!

 おまけに、二人が心と友情を合わせなきゃ、変身すら出来できない!

 しかも、一度共有した気持ちでは、二度と変身出来できないの!」

「それでもわたくしは、我々は、みんなを助けたい。

 大切な人とのユーエンを、思い出を、守りたいのです」

「うん!

 だからみんな、応援してね!!

 私達、ラブトーカと、色とりどりの、『トクセン』の仲間達!

 えーっとぉ……なんだっけぇ? クール」

「『常仲じょうちゅう戦隊トクセンジャーズ』です、キュート」

「それ、それぇ!

 これから『トクセンジャーズ』の応援、よろしくねぇ!」

「我々は、年中無休で、皆様をお守り致します。

 平日は、当番制で。

 休日は、総動員。交代制で、我々とお会い出来できます。

 皆様のお越しを、スタッフ一同、心よりお待ちしております」

「他にも、無料配信もしてるから、そっちも観て観て観てねー!

 あーでも、ショーではアドリブ盛り沢山らしいから、私的にはそっちがオススメだよー!

 特に、一日に全員のショーを観覧出来できる土日は、ありパな〜いくらい、面白いよぉ!

 でも、おうちでもゆっくりじっくり見返したいー!

 クールゥ! どぉしよー!?」

「解答。

 両方、楽しめばよろしいかと」

「それだ!

 さっすが、クール!」

「それ程ではありません」

「というわけで以上、ラブトーカ、そして『トクバン』でしたぁ!

 バイバーイ!!」

「またお会いしましょう」


 

 キュートが元気に手を振り、クールが丁寧に手を組みお辞儀する。

 それに続け、他のヒーローたち友灯ゆい彩葉いろはも、全員で手を繋ぎ、一礼する。

 最後に、明夢あむも続く。



 こうして、カーテン・コールは終わり。

 友灯ゆいたちの逆転劇『URユーレア計画』は、始動したのだった。





 薄明。別名、マジック・アワー。 

 日の出前や日の入り後の、薄く明るく美しい、幻想的な空が見られる時間帯のこと



 保美ほび 彩葉いろはには、そんな薄明の空を眺めるという、少し変わったルーティーンがる。

 夕刻には休憩を取り、早朝には早起きして、自宅兼職場である、『トクセン』の屋上にて。

 それは単に、「オレンジと水色を始めとしたグラデーション、コントラストが美しいから」という、趣味全開な理由。



 だけではなく。



岸開きしかいをプラスする」



 音楽も流さず、スマホも弄らず、ホビーさえ持ち込まず。

 屋上に備え付けたロッカーから、枕とシートだけ引っ張り出し、横になり。

 せせらぎ、風の音に身を任せ眺めていたら、相方が現れた。



「……呼んでない」

「理由、許可が必要とも定められていない」

「そうだけど。

 てか、勝手に寝ないでよ、クッションも無しに」

「心配には及ばない。

 岸開きしかいはメタル製だ」

「そういうことじゃない。

 人目がうるさそうって話。

 私の心象が悪くなるじゃない」



 起き上がり、用意していた他のクッションも持って来て、珠蛍みほとに手渡す彩葉いろは

 こういう、分かり辛い気遣いが、彩葉いろはが子猫被りと呼ばれる所以ゆえんであると、珠蛍みほとは思った。



「で? なんの用?」

「少しは休憩、睡眠時間をプラスしろ」

「案のじょうか」



 再び仰向けになった彩葉いろはは、珠蛍みほとに一瞥もくれないまま、いつにく穏やか、おしとやかな、見た目通りの表情を見せる。

 発狂もせず、小悪魔にもならず、子猫被りに悪態もかず。



「……お生憎あいにく様。

 これが私のメンタルにとって、一番いちばんの睡眠、カンフル剤。

 人生でようやく拝めた、最初で最高の、真面まともな景色なんだから」

「おかげで絶賛、店内は修羅場だがな」

友灯ゆいが、あんなアピールするから。

 それに、ケーちゃんの発明品がご都合主義過ぎるから。

 よって、私にはなんの非もいし。

 私のお楽しみの阻害要因としては、不採用だね。

 そもそも、スタッフ増員したんだし、一通り研修もしてるし、何だかんだで、どうにかなるよ。

 むしろ、消去法とはいえ、アシをドタ参でやらされたんだ。

 これ位の見返りは、支給されてしかるべきでしょ。

 まぁ、そういう意味でなら、終わらないピーク・タイムに無情に取り残されると知った時の友灯ゆいのパニクり顔は、悦に入ったけどね」



 速攻でエンジンが掛かった。



「悪趣味な女だ」

「そんな女をパートナーに選んだケーちゃんも、同じ穴のむじなだよ」

岸開きしかいは、後悔していない」

「私も」

「では何故なぜ、溜飲がマイナスされない?」

「……」



 ただでさえズケズケ言う上に、鋭感さまで身に付けて来たらしい。

 面倒だけど、不思議と悪い気はしないまま、彩葉いろはは答える。



「結局の所さ。

 友灯ゆいって、根本的には変わってないよね。

 傍若無人の、ギャンブラーっりはさ」



 それに関しては、珠蛍みほとはフォローが出来できなかった。



 確かに、新しい『トクセン』は、博打もい所である。

 (パラレルな上に、別の世界で資源は確保済みとはいえ)未来仕込みの発明品で薄利多売し。

 なんなら親子には、無償で次世代型デバイスを渡し。

 公認様や、名だたるミュージカルさえも上回る制度のショーを毎日、無料、安全に、違う内容と作品で提供し。

 難易度設定こそおかしいが、休日でもないのに、下手ヘタすれば商品や食事代がタダになり兼ねないクーポンを配り。

 関係各社の全面協力を受け、アプリの方も尽力し、その対応にも追われ。

 ネット販売も充実させようとした結果、ダウンに次ぐダウンにより、サーバー増強にさえ苦労し。

 こういったハイ・ペースを維持すべく、田舎の一店舗としては異例の、従業員50人近くという、アレな布陣。



 なんというか……改めて直視する度に、頭が痛くなって来る。

 よくもまぁ、たった数ヶ月で、ここまで様変わりした物だと。

  


「……そうかもしれんな」

「『かも』じゃなくて、『絶対そう』なんだって。

 ホント……やるかやらないかの2択ってか、両極端ってか。

 普段はうだつ上がらないくせして、どんだけ破天荒なアイデアでも、決めたらきちんと実行する、させるんだから、複雑。

 巻き込まれる身にもなってしい。

 今回の件だって、そう。

 あんな回りくどいことしてないで、ストレートに私にオーダーしとけば、それで済んだのに。

 なのに、璃央りおさんに転嫁したり、オカミさんや新凪にいなちゃんまで使ってさ。

 どうせ、はなから私に回す腹だったくせに。

 そういう、『要領悪いから泣き付くしかい無能上司』みたいに装ってるのが、かえって逆撫でされるってーか、ムズムズ、モヤモヤするってーか。

 おまけに、いざ始まったら始まったで、ケーちゃんにまでアドリブ入れさせ始めるし。

 あーもう、ホント……空でも見なきゃ、やってられない」



 アル中みたいなことを言いつつ、頭を掻く。

 そのさまは、珠蛍みほとには、まるで。



「……素直になりたいのに、なれずに悩んでいる、戸惑っていると?」

  


 珠蛍みほとの総括を受け、彩葉いろははギリッと彼女を睨み、あからさまに臍を曲げた。


 

「……はいはい、そうです、その通りでごぜぇますよーだ。

 わー、まさかケーちゃんに、ここまで簡単に論破されるとは思いませんでしたぁ。

 さっすがー、しらなかった、すごーい、せんすいいー、そうなんだー。

 てか、すみませんねぇ、がらにもい気を遣わせちゃってぇ。

 いかんせん、こっちが面倒な性分なもんでねぇ」

「問題無い。

 そういう所も、岸開きしかいは嫌いではない」

なにそれ。

 ただでさえ、そっちだのなんだのって騒がれそうな関係性なのに。

 いや、断じて違うけど。

 私の対象は、ホビーとカラーだけだけど。

 友灯ゆいは、良く分からないけど。

 かく、唐突に重いこと言わないで。

 せめて、日時も明確、正確に予告しといて」

「そこで、『気持ち悪い』とはプラスしない辺りが、彩葉いろはだな。

 そして、ディエン◯みたいな発言だな」

「『自分が言われていやことは、人には言わない』。

 小学生ですら知ってる教訓でしょ。

 もっとも、そんな常識すら忘れた哀れな現代人の、多いこと多いこと」

「その割には結構、愚痴ってるがな」

「私、メンタルっ壊れてるからさぁ。

 私基準じゃセーフでも、皆にとっては、そうじゃなかったりするのかもねー」



 彩葉いろはが自嘲したタイミングで、話が止まる。

 このまま、休憩が終わるまで静けさを保っていそうな空気が流れ始めた頃。

 珠蛍みほとが、唐突に打破する。



「……彩葉いろは

 お前は、『空』みたいだな」



 それは、考えもしなかった、けれど妙にスゥッと理解出来る感想だった。



 ある時は、夏空の如く燦々と照り付け。

 ある時は、晴れ渡る青空のように、他者を宥め。

 ある時は、黒い夜空に一筋の光を覚えさせ。

 ある時は、雲に覆われたみたいに、素面を隠し。

 ある時は、今みたいに、明るさと暗さをブレンドする。



 確かに自分は、まるで空のようだ。

 空みたいに移り気で、分かり易く、なにより。

 空みたいに、空っぽだ。



「……」


 

 思い返してみれば。

 こんな時間は無益かもしれない。

 スマホも触らず、動画や音楽も流さず、ホビーを改造したりもしない。

 なんのメリットも成果もい、ただの空費なのかもしれない。



 けど。

 時には、こういう時間も必要ではないか。

 ただでさえ自分は善悪、オンとオフ、ギャップが激しいのだ。

 特に意識せずとも、キャラが変わってしまう都合上、精神的の疲労も激しい。

 おまけに、すべて本心なので今更、変えようがい。

 こういうダブスタ、スタイル、スタンスしか、自分は取れないのである。

 


 ……そう。

 決して、なにかを得られるわけではない。

 けど、構わない。

 再び仕事が捗るなら、それこそがメリットだ。



 とは言うものの。

 流石さすがに、そろそろ和やかな時間も終わりらしい。

 早々に、戻らなくては。

 ただでさえ自分は、決まった時間に休んでいるわけではないのだから。

 


「あぁ〜……。

 戻るの、鬱い〜……。

 どうせ、まだ混んでるんだろうなぁ……。

 分身したい……他の自分に任せて、ずーっと休んでたい……」

「案ずるな。

 岸開きしかいも、プラスする」

「なら、まぁ、っか。

 岸開きしかいのお姉さんが協力してくれるんなら。

 一緒に怒られてもくれるわけだし」

「それは、彩葉いろはが一人で、甘んじてプラスされるべきだ」

「ケチ」

「知らなんだのか?」



 八つ当たりなのを承知で、軽く珠蛍みほとの脛を蹴る。

 表情を変えずに背中を向けた珠蛍みほとに、彩葉いろはげる。



「……ケーちゃん。

 勝とうね。

 私達が絶対ぜったい友灯ゆいを勝たせよう。

 今度こそ、必ず」



 振り向こうとして、珠蛍みほとは止めた。

 こんな時でも友灯ゆい贔屓なのが、なにやら少し面白くなかった。

 なにより、その言葉を喜んでいる自分が、悔しく、情けなかった。



 岸開きしかいは、なにも答えない。

 代わりに、握り拳を作り、右腕を掲げた。

 賛成だと、アピールするように。



 相方の不器用さに、思わず綻んだ後。

 伸びをし、肩と首をグルグル回し、気合を入れ直し。

 彩葉いろはは再び、戦場へと舞い戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る