18:和解、挽回、大全開
翌日。
新たに『トクセン』にスカウトされた6人は、一同に会した。
「あははぁ。
おひさぁ」
「1ヶ月
元気そうで何よりだわ、
「ご無沙汰してます、
いつも、弟がお世話になってます」
「いえいえぇ。
こちらこそぉ」
「はーっはっはっはぁっ!!
こうも
「そうね。
でも、
程無くして、少し離れた場所に
「シナリオ担当の、
そっちのフワフニャが、スイーツ部門の
こっちのノッポが、アトラクの
そして、ここにおわすのが、
「ご、ご丁寧に、ありがとうございますっ!
主に料理を受け持たせて頂きますっ!!」
「同じく、
長年、サービス業を営んで来た。
顔馴染みには、『オカミさん』で通ってる。
「自己紹介、痛み入ります。
話は、簡単に聞いてます。
以後、お見知りおきを。
特に、
既婚者同士、
「は、はいっ!!
喜んでっ!!」
顔合わせ会の前から、
その
「ごめーん。
お待たせしましたぁ」
さも遅刻した
「
お初に、お目に掛かります。
こんな
8年間、東映に身を置いてはいましたが、特撮についてはズブの素人です。
なので、互いのポストとか年齢とか気にせず、ご指導ご鞭撻の
取り繕わずに自白しつつ、お辞儀する
あまりのオープンさに一同、面食らってしまう。
「……
「ちょっと色々、
嘘
だって、馬鹿らしいし、疲れるだけだし。
っても、極力だけど」
「面白い女ね。
気に入ったわ。
これから
この
ちゃぁんと使い
「……
その……
「はーっはっはっはぁっ!!
改めて、
「
「
浮浪だった所を拾って頂き感謝します、店長さん!!
不束者ですが何卒、
精一杯、『トクセン』と皆さんに尽くしますっ!!」
「同じく、
金銭的にも、知識的にも、家族の為になるチャンスだから、来た。
これから世話になるよ、店長」
「おうっ!!」
手応え、
紆余曲折を経て、今度こそ快調な滑り出しを、
これから、大荒れになるのだが。
「そだ。
お近付きの印に、良かったら、是非。
皆のイメージに合わせて、カラーリングもして来たから」
言い
トケータイに酷似した、
「『アクセル』。
人類に
ソーラーだし、バッテリー長持ちするし、軽いし、頑丈だし、防水だし、排熱バッチリだし、映像を映し出せるし、色んな機器のリモコンにもなるし、バーコード読むだけで買った本やDVDを電子で持ち運べるし、ルーターとしても機能してるからギガ知らず。
今の内に、試遊しとくと
それ自体が、『トクセン』のカード・キーになってるし。
近々、『トクセン』で大々的に発表、販売する予定だから」
「す、
こんなハイテクな物を、タダで頂けるなんて……!!」
「いや。
そんなレベルじゃないでしょ。
スマート◯ォッチすら凌駕してるじゃない。
これを、一般向けに販売する?」
「うん」
「何回払いで?」
「一括」
「……
「一諭吉
「スマホ会社、経営破綻させられるわよ!?
それも、同業他社でもない、ぽっと出によって!!
こんなん、誰だって乗り換えるに決まってるじゃない!!
てか、そんな凄腕の発明家が、
あと、その鍵みたいなの、
「アクセです。
ストラップみたいな物です。
ボタン押すと、フィットするから」
「やっぱり、
リアル変身ベルトみたいになってるじゃない!!」
「壊れてるのかい?」
「違う!!
あ、こら、
爆発でもしたら、どうするのよ!?
「過保護だよ、リオ
「あんたが保護対象ばりに尊いからよ!!」
「平気だよ、リオ様。
ほら。
「店長のだけ特別製かもしれないじゃない!?
怪しい鍵も付いてないし!!
あと、妙に馴れ馴れしいわね!?」
「はーっはっはっはぁっ!!
そういう
「あんたは、かっとビングばっかしてないで、もっと自分を
いしのまき観光大使じゃないんだから!!
いのち、だいじに!!」
「
「お
と、こんな調子で騒がしくなったが。
数分後、どうにか全員、着用に至るのだった。
6人のセーブ・データを、引き継ぎする
「あぁ……お
不出来な娘を、どうかお許しくだ
……あれ?
店長さん?」
「ここ、は……。
ボスの家の、前……?」
「あれぇ?
シィナわぁ。
どぉして、ここにぃ?」
「自分達は……今まで、
確か、宴の席の、真っ最中だった
「記憶が……
「一体、
教えておくれよ、店長」
その場に
感極まり、
しかし、どうにか耐え、平静を装って振る舞う。
「いきなり、ごめん。
ううん。今回だけじゃない。
でも、謝罪の場は、別に設けて
涙腺が限界だったので、
「付いて来て。
全部、ちゃんと説明、釈明するから。
これまでと、これからの
今度こそ、包み隠さずに」
※
先日、
現実離れし過ぎた内容に一同、困惑した。
「以上が、今までの真実。
そして、これからの現実」
アクセルをパワー・ポイントの
疲労を隠せない彼女に、
ありがたくはあったものの今は、とてもではないが、そんな気分でも空気でもなかった。
「これを踏まえた上で。
改めて、
あの時も、それまでも。
迷惑、かけ
裏切って、傷付けて。
挙げ句の果てに、性懲りも無く、
「そ、そんな
そのまま
「そうね。
やって
ボスの暴走も、
結局の所、ボスのメンタルが起因してるんだから。
目先の目標を失い、店長としての役目も奪われ、意気消沈していた背景を考慮したとしても、
まぁ、かくいう
自嘲し、
「で?
これから、どうする
お聞かせ願おうかしら?
今、この場で」
壁から離れ、自分の足で立ち、真意を問う
一方、
立ち返ってみれば。
これまで
ただ、姉の
全員が、固唾を呑んで、
リンクを解除していても、察せられたのだ。
こればっかりは
「……知っての通り。
一同が注目する中、
しかし、
そこに
ネガってるだけの人間ではない
「家事は何一つ
カリスマも、知識も、品性も
メンヘラで
こんなん、
……でも。
エイトも、ケーも、
そんな
リンクの切れたエイトにはもう、
新しいテキスターを見付ける
……こんな、ダメダメで最低な、
だからこそ
信頼とか、期待とか、優しさとかに。
ちゃんと、応えたいんだ。
こんな恥ずかしい
そういうのに打算
握り拳を正面に掲げ、
「今度こそ
自分の、皆の希望を叶える、輝ける
そんな『星屑』に、
来てくれた人も、冷やかしの人も、遊びや暇つぶし目的の人も。
働いてくれるスタッフも、オンラインのみ利用する購買層にも、『特トーク』だけ楽しんでるリスナーにも。
特撮に、『トクセン』に関わった全員の夢を、リクエストを。
手を戻し、
「無理難題吹っ掛けてるのも、虫が良過ぎるのも、百も承知です。
その上で、お願いします。
根性にだけは、自信と定評の
欲張りで、意地っ張りで、見栄っ張りな
どうか、助けてやってください。
もう一度だけ、
もう一度……
誠意なんて言葉を、語る
そもそも、振り翳せるだけ持ち合わせているかも、
それでも、
なけなしの誠意を、振り絞って。
「まだ、足りないんじゃなくって?」
腕組みをしつつ、彼女は続ける。
「
それだと、誰かが悲しむ、納得しないかもしれないわ。
だから、
あんたも悔いてるなら、歓迎されても
多少、困らされても、ちゃんと謝罪が
待遇も、そんなに変えない。
明るくアット・ホームでフレンドリーでクリーンでオール・グリーンな職場環境を、新たに構築したって
あとは、あんたの態度次第。
そうじゃなくって?」
意味深に微笑む
憎まれ役を買ったのだ。
これで
いつぞやの、意趣返しに乗せて。
器用なのか不器用なのか、分からないが。
「
ゼロワ◯的な意味で、シンギュラリティに達したばかりとはいえ。
あんた、一端の男だし。
それ以前に、あんたはボスのトコシエで、同居人で、元心の翻訳者で、妄想の相手で、相棒でしょうが。
後方、西馬◯コ面気取って、いつまでも黙秘権行使しおってからに。
大事な相手が、ここまで一方的に叩かれて、恥ずかしくも悔しくもないの?
それとも、
この場には
そうまでして、意図的にゼツメライズされないと、意見すら
中々に酷い言葉で、焚き付ける
悪意こそ
ここまで
「……違うよ。
ちゃんと、口出しもする。
確かに、俺は所詮、ロボットだけど。
ちゃんと……ジリツ
並び立ち、皆を一望しながら、
命令でも、願望でもなく。
あくまでも、自分の心で。
「……テーブルぶつけて、ごめん。
……笑顔を絶やさせて、ごめん。
……思い切り蹴らせて、ごめん。
……嫌われ役やらせて、ごめん。
こんな、俺で
……友達になって、くれませんか?」
頭を下げ、タイルを見詰める
気付けば、そこに、
「……馬鹿は休み休み言って
ここまで嫌がらせされて、怖がらされて、困らされて。
人間じゃないとまで、明かされて。
作り物、偽りの関係だって知らされて。
友達云々すら、プログラムだって
一度は、あそこまで徹底的に突き放されて。
……比喩でも大袈裟でも被害妄想でもなく、ガチのマジでリアルに殺されかけて。
今更、そんな関係に。
「……っ」
自分は、
おまけに、彼女と違って、物理的にも
どんなに取り繕っても、人間ではないのだ。
これでは、仲直りなんて、
などと思っていたら。
唐突に、
「……
これなら、二重の意味で、不倫にはならないもの。
こんなサービスめったにしないんだからね。
世界広しといえど、
この
あとは
まぁ結局の所、愛する
「
「鈍い男ねぇ。
心に気を取られ
少しは、ここも働かせなさいな。
こー、こー、も。
そんなんじゃ、女は
あーでも、その
「リオ様、
一旦、
涙を流しながら、
「……
あれだけの
今更、『友達』に後戻り、逆戻りなんて、
だって……そんなの、もう、『親友』でしかない。
でしょ?」
「……親、友?」
「知らないのね。
なら、仕方ないわね。
この
流れとか都合で、一緒に
プライベートで、予定を取り付けられて。
なるべく
ドタ参加やノー・プランで遊びに出掛けられて。
互いの趣味について、
特に用事も目的も業務連絡も
ピンチの時は、
嫌な部分が見えても、好きな部分で上書き
解釈違い、行き違いが生じても、互いに非を詫びれて、折衷案で折り合いを付けられる。
そんな、関係性の
「……
「そうよ。
それで?
この、世紀のイケビジョオー、
「
「
その殊勝な心掛けに免じて、今回だけは、不問に処するわ。
今後も再犯、再発防止に努めなさい」
「ん」
「てな
抱き心地が劣る、ちょっとゴツゴツしたパチモンは、
ほら、ボス、仕事なさい」
「
「酷い……。
重い……」
「
早く降りろやぁ、エイトォ!!」
「隙
「有り」
「
ケー!!
お前等やぁ!!」
いきなり離れ、かと思えば
どさくさに紛れて合法的に
同じく、
辺りは
「さて、と」
パン、パン、と手を叩き、
「てな
残念だけれど、
悪く思わないで
で、
「……もぉ。
リオ
そんなの……断る理由、
それと、エーくん相手とはいえ、ボクの許可無く男に触った以上。
後で、罰ゲームだからね」
「同じくです!!
微力ながら、私もお手伝い致しますっ!!
今度こそ、初期からお役に立ってみせます!!」
「
それに、
私も、残留するよ」
「はーっはっはっはぁっ!!
みすみす
ここで腹を決めねば、男じゃあねぇぇぇぇぇ!!」
「シィナもぉ。
「結構。
だそうよ、ボス。
それじゃあ早速、食事しながら再度、ブリーフィングでもしましょうか。
この、『
「その前に、助けろぉ!!」
男性陣や
※
「さて、と。
じゃあ早速、確認したいのだけれど」
「ライオン◯リーナーとか、アイちゃ◯とか、ハネジロ◯とか、人型セブンガ◯とか。
他にも、特撮の関連グッズや、そうでもない物まで。
ここら辺を、本気で造ると?」
「
「ええ、そうでしょうね。
あんたなら、現代の最新家電なんか用意に超越
なんたって、近未来のパラレル地球から来た、疲労知らずのロボットなんですから。
問題は、そこじゃないわ。
アクセルの件も、そうだったけど。
こんなチート商品が、最安価で叩き売られちゃ、他の会社は商売上がったりじゃない。
冗談でも
「ならば、もっと色々と考えれば
それは、現代の金融事情、ギャランティの問題。
一部の悪徳な富裕層が自壊、自戒すれば済む話」
「そんな簡単にはいかないから、未だにデフレ脱却
郷に入っては郷に従いさないよ。
ちょっと、ボス。
あんたからも、
話にならないので、
「
この世界は謂わば、
って、設定なんだよね」
「……だから?」
「
どう使おうが、
「
マスターこそが今、この世界のルール、
「あんた
一方、
「まぁ、この件は、もう
確かに、事情が事情だし、なりふり構ってられないものね。
じゃあ、次の件だけど。
この、『
「文字通り、今までに
「
それを、常駐させようと?」
「可能だ。
「そう。
私の親友、
それと、リオ様達が一緒に仕事してた、劇団員さん
丁度、まだ就活中でさ。
全員、オファーを受けてくれたよ」
「おぉ!!
それは、
「
っても、マツケ◯の頃はさておき。
1年前までの
他に追々、話せるにしても、
総勢50人弱と、大所帯でもあるしさ。
そっちについては当分、くれぐれもオフレコでね?
特に、
「はーっはっはっはぁっ!!
あい委細承知仕りましたぁ!!
「
「必要無いわ。
「は、恥ずかしいけど、そのぉ……。
……頑張り、ます」
「陰ながら、応援してる。
あと、遊園地の飲食店の人達も、来てくれるって。
こっちも、全員。
ちょっとした対価は、求められたけどね」
「対価?」
頬杖をつきつつ
「『
だってさ」
「っ……!!」
思わぬ展開に、にやけ面のまま、
隣に座る彼氏が、即座に舞い上がる。
「おぉ!!
皆、
「……うんっ……!!
うんっ……!!
シィナ、今、今ぁ……!!
マシマシ、バリカタに、スペシャリテ……!!」
いつも緩い
つまり、『
当然である。
ひとりぼっち、嫌われていると信じ込んでいたのに。
ここまで、求められていたのだから。
照れるから、
それを聞いた
それにしても。
改めて見ても、中々にお似合いのカップルだ。
どちらも、誰かの笑顔が見たくて、変わったのだから。
食べ過ぎる、作り過ぎるというだけではない。
二人が惹かれ合ったのは、そこに
「上々。
それで、ボス。
スーツは、
演出は、団長達が
脚本は?」
「『オリオン』に頼む予定。
っても、オファーはまだだけど」
オリオン。
その名前を出され、
そして、思った。
ボスはボスでも、ラスボス級だったと。
エリアボスみたいに、簡単には
「オリオン?
って、
「リオ様
っても、それ以上の情報は不明で、
「ミステリアスな方ですね。
……あれ?
でも
「これから、スカウトするって
元同僚で、同じ脚本家なら、連絡先
てな
リオ
手を合わせ、拒否権も
それは
「……ええ。
分かったわ。
交渉してみましょう」
「やりぃ!!」
「良かったぁ。
これで、安泰ですね、お義母様」
「そうだねぇ」
簡単な話し合いも終わり、どんちゃん騒ぎを始める一同。
賑やかな宴の席で、ただ一人。
※
これからの『トクセン』の照らし合わせが済んだ
なお、他のメンバーは、有志により、未だに豪邸でお祭り中らしい。
しかも、明日は遊園地メンバーも合流するらしい。
一体、何次会目なのやら。
そんな中、自分達だけが帰っては、水を差すのでは?
そう思い、
「色々、溜まってるでしょ?
二人は、特に」
と、
……分かっている。
色々の中に、『業務』以外の物も含まれている
それは、もう。
確かに自分達は、未挙式ながらも夫婦。
しかも、契約でも偽装でもなく、小学生の頃から両片思い、高校生からは晴れて相思相愛だった、幼馴染である。
そして、普段の言動や外見、自称はさておき、自分達は一組の男女。
そこに、セール&キャンペーン中の、数ヶ月分のお預け期間の記憶が上乗せされ。
気付けば無意識の内に、ベッドの上に体が引き寄せられていれば。
そういう
おまけに、あれだけ精神的に幼く、失礼ながらも、恋愛経験も浅い
これを恥と捉えず、
「……不覚だわ。
紛れも
穴が
これからは、そういう言動は控えよう。
ちゃんと、仕事しよう。
そう、今更ながらに、
「
お風呂、上がったよ」
「え、ええ!!
おかえりなさい!!」
「……?
どうしたの?
お風呂だって、別々だったし」
「な、
細く、引き締まった肉体美に、思わず喉を鳴らしかける
普段ならば、飽きもせず、その尊さ、愛しさ、可愛さについて、怪文書染みたレポートをアドリブで
ポスッと、彼女の肩に頭を載せ、目を閉じた。
「大丈夫。
いきなり、召し上がったりはしないよ」
「……」
天変地異を起こしていた
それが、一気に引き、雲が晴れた。
こういう時、染み染みと思う。
自分の男を見る目は、微塵も間違っちゃいなかったと。
「……そもそも、あんたの主食は、
だからといって、さほど不満も無いけれど」
「多少は、
「そりゃそうよ。
このリオ様とて所詮、一人の女。
枯渇とは無縁の、パトスは
けれどね、
紫苑の頭に自分のを乗せ、肩を抱き寄せ、
「だから、
あんたの
……常日頃、二言目には、惜しげも
男の子も、女の子も、孫も
無性愛者だろうと、関係無い。
その
そこら中の女子よりも可愛くなる
目覚めた同性が近付こうものならジオンになって、
そうまでして恋愛、老若男女を拒絶していた、あんたと釣り合う
「……うん。
ありがと」
「危うかったわね。
そこで『ごめん』なんて寝言ほざこうものなら、
「そしたら、また着火するんでしょ?」
「当たり前よ。
この
天下無敵の
「自分で言うかなぁ、全部」
「言わせたのは、あんたでしょうが」
「
まぁ……だからこそ、
角度を変え、上目遣いで
「こうしてると、思い出すね。
出会ったばかり、小学生の頃。
目を閉じさせられた僕の前で
「だって、ひたすら拒否られるのが我慢ならなかったんですもの。
だから、
「ホント……やっぱ酷い人だよ、
「そうよ。
こっ酷く、
「矛盾してるし、言いたいだけだよね?」
「そんな瑣末な
現に、そんな奮闘も
「そこまで尽くしてる
苦笑いした
「キャップから、頼まれた件。
どうする
この質問を予測していた
「決まってるわ。
オーダーには答える。
それが、
「ちゃんと、分かってる?
それってさ」
二つの意味で口封じを済ませ、同時に彼の注意を引き付ける。
「……心配には及ばないわ。
ちゃんと、分かってるもの。
ボスから任されたタスクを
今一度、
「……
「……逆じゃないかな?
立場も、体位も、カップリングも」
「『性別』について流したのは、賞賛に値するわ。
それはそうと、
「相変わらず強欲、強引、豪胆だね」
「当たり前よ。
これ
リードしなきゃ、気持ちを伝えなきゃ、あんたに逃げられるのが関の山だもの。
出会ったばかりの頃の
「もしかして一生、引き合いに出される?」
「恨むべきは、
黒歴史を粗製乱造していた、自分自身の方よ」
「……あの頃の
未だに根強く、根深く残った古傷を抉るのは、
「問題無いわ。
「マッチポンプって知ってる?」
「ええ。
つまり、あんたの
「もう、どうにも止まらないんだね」
「分かってるなら、早く」
「そうだね。
けど、その前に、最終確認」
その手を制し、自身の胸、心臓へと、
試す
「もう一度、二人で一人の脚本家、『オリオン』になる。
つまり、
そう解釈して、期待して。
「……不服?」
「服が不要になりつつあるのは、
っていうのは、冗談だけど。
脚本家として大成しつつあった
「脚本家?
それを言うなら、『便利屋』『掃除屋』でしょ?
大改造のあとしまつを押し付け、性懲りも無く駄ニメ、お遊戯会を粗製乱造し続ける、傍迷惑な、肩書だけの監督、プロデューサーにとっての。
お
その弊害で何度、
「一部では、『最後の良心、砦』とも呼ばれてたけどね。
ていうか、脱線してる所、悪いけど。
意図を取った
「
確かに、ストーリーは全部、
でも
おまけに数年前までは、表現力はさておきオリジナリティーすら微妙で、原作付きしかオファーされなかったし」
「あまつさえ、
「
そんなにアレってんでもないでしょうに」
「良く言えば独特、悪く言えば猛毒なだけだもんね。
「だって、普通に
そんなの」
「そうだね。
発展性が
「
滑り込ませた手で、
ギブ、ギブと言う
「もう
経緯や原因は定かじゃなかったけど。
アクション面なら、あんたがカバーしてくれるわ」
「任せて。
その為に、
「……改めて考えても、恐ろしいわね、あんた。
「元々、素質は
小学生の頃から、そこそこ動けたし」
「同級生のみならず、ロリコン教師にまで大立ち回り、無双してたのが、『そこそこ』?」
「もう
「
「マネージャーは?」
「強制」
「しょうがないなぁ、
「そうよ。
あんたが
具体的には、特に今」
「うん。
召し上がれ」
「違う」
グルッと一回転する、二人の体。
そのまま
「
「……一周して
今日も今日とて」
「お嫌い?」
「最愛」
「合格」
「知ってる」
彼女を、一糸纏わぬ状態にしようと、魔手を迫らせる。
「ところでさ、
「なぁに?
まだ、
てか、いつまで据え膳させる
「これから僕達は、オリオンとして、『トクセン』のヒーロー・ショーのシナリオと設定を用意しなきゃだよね?」
「そうね」
「でもそれって、常駐だよね?
年間通しての、大掛かりな仕様だよね?」
「そうよ。
本家にも劣らない、子供騙しにならない、老若男女に好かれる、新世代のシンボル。
それだけの物を、それだけのクオリティで、
だから今は、その
「確かに、それも大事だけどさ。
明日は、劇団員の人達、遊園地のスタッフさん達と初顔合わせでしょ?
なのに、
格好も示しも、付かないんじゃないかな?」
「……
「
哀れ、名折れなんじゃないかな?」
「待って?」
「付け足せば。
あれだけの規模で実現するには、一つだけじゃ足りないよね?
二つ、三つ……五つ
「いや、本気で待って?
あんた、まさか……」
物凄く悪い予感がして、縋る
対する
「
確かに僕達は、子供は作れないけどさ。
クリエイターとしてなら、話は別だよね。
作品なら、いつでも、幾つでも生み出せるよね。
明日でも、明後日でも、明々後日でも。
「あぁぁぁぁぁ!!」
頭を過ぎった最悪の流れが的中し、
彼女の体からもベッドからも降りた
爽やかかつ甘やかに、情け容赦の無い声をかける。
「前払いは、これ
さ。早く、こっちに来て」
「あ、あああああ、あんた!!
嘘でしょネタでしょタチの悪い冗談でしょぉ!?
普通、ここで流す!?
そんな簡単に、シフト出来る!?
やっとこさ、満たされそうだった、この状況下で!?
あんだけ言って、言わせといて!?」
「
でも、それじゃ
「
「見抜けなかった
ていうか、そういうの、
早く、ここに座って。
さもないと、
「鬼!!
悪魔!!
人でなしロクでなし甲斐性無し!!
最近は鳴りを潜めてた
この、『絶対零奴』!!」
「僕の小学生時代の二つ名呼び、しないでよ。
あのキャップに、あそこまでお膳立てされて」
「そうだけど!
それは、心の底から、そうだけどぉ!」
「じゃあ。
「
今だけは……今だけは、仕事なんて忘れたいぃ!!
「残念だけど、その提案は、没だよ。
きちんと、デザートは用意するから。
でも、
準備運動なら、済んだ
大丈夫。
「なら
「……色々、恥ずかしくない?
開き直りとか、発言とか」
「うっさい、バーカ!!」
「ほら、ほら。
ダダ捏ねてないで、やるよ」
「
こんな状況で、お姫様抱っことか、
嫌いっ!!」
「
「
「人を、怪しげ一家みたいに言わないで
「もうちょっとだったのに……!!
あとちょっとで、ご馳走に有り付けそうだったのにぃ!!」
「もうちょっと、頑張ろっか。
無銭飲食、
ちゃんと、対価を払わないと、ね」
「しゃんなろ〜!!」
「じゃあ、妥協案。
企画一つ完成する毎に、
で、どう?」
「やったら〜!!
それそれ、おりゃおりゃ、よぉっしゃぁぁぁぁぁ!!」
「決まりだね。
じゃあ、時間も無いし、ライブ感重視って
シナリオは、
設定は、同時進行で固めて、後で必要によって補填、ブラッシュ・アップしてこ」
「んっ!!」
ブラインドタッチによる高速タイピングにより早速、一つ目を仕上げる
思いっ切りヤケになっているが、
「……これ、劇団員時代に、宴会芸でやってたネタだよね?」
「リブート!!」
「……まぁ、
「肩!!」
「はいはい。
お好きにご覧ください。
でも、次からは新作ね」
「ケチ!!」
「文句言わないの。
あと、
ラブコ◯みたい」
「コスパ!!」
こんな調子で、次々にアイデアを出し、脱稿する
そうこうする間に、夜が明け。
文字通り精根尽き果てたので、PDFにして送信だけ済ませ結局、不参加となり。
そのまま、どちらからともなく、眠気に誘われ卒倒。
互いが目を覚ましてからは、違う意味で、今度こそ寝るのだった。
※
オープンまで、オリエンテーション、準備を行い。
同じく初心者の
同時並行で親睦会も開き、経歴や枠組みを超え、プライベートでも会う
そうして、1ヶ月を過ぎた、オープン前日。
これから大事な予定が有るというのに、時間になっても、
業を煮やした
案の
我らが『トクセン』の主は、机に突っ伏し、呑気に眠っていた。
いつもなら今頃、
悪戯、交渉材料に使うべく寝顔を盗撮し。
そして、膝の辺りを軽く蹴って、起こしている。
普段の
けれど、今回は違った。
状況も、状態も、まるで異なっていた。
日々、激務に追われているとか。
昨晩、特撮マラソンしていたからとか。
緊張の
彼女が今も寝ているの理由は、そういった、
それを、この一年で
またか。またしても、自分を捨てていたのか、と。
その
お
「ホント……しょうがないなぁ、
私が
なんて、冗談めいた
満更でもないのが、悔しくもあり勲章でもあり、複雑だった。
少し
そう
「司令。
そろそろ、起きてください。
「……んぅ……。
……もぉ、ちょっとぉ……」
「ていっ」
「あ痛ぁっ!?」
寝起きの悪さを発揮した
気分は
「
店長が、そんな体たらくじゃ困ります。
それを差し引いても、ルーズなのは悪印象でしかないですよ」
前屈みになり、人差し指を立て、コテコテのポーズで叱る
余談だが、このポーズには一体、どんな意味が
「いやぁ、面目無い。
ごめんね、
いつも、起こしに来させちゃって」
「気にしないでください。
私が、自主的にやっているだけなので」
「ありがと。
おまけに、落ちるまでの記憶まで飛んじゃっててさぁ。
「そうですよ。
少しは、セーブしてください」
我ながら殊勝な態度で臨んでいると、
「……も一つ、ごめん。
「え?」
「なんてーかさぁ。
今となっては、
もしそうなら、謝るよ」
……この女は、
普段、愚鈍な
やれ面倒だ億劫だと
まるで、誰も手を挙げない弊害で、空気を読み、興味もメリットも必要性も
……実際、学生時代は、モロにそういうタイプだったが。
確か、「前にやってた」とか「見た目も性格も学級委員ぽい」とかで。
「
私は、相手と気分によって、態度を切り替えられるんですよ?
今は、そういうモードってだけですよ」
「
「ええ。
「神に誓って?」
「ホビー神とカラー神とユイ神に誓って」
「最後、何!?
いや、やっぱ全部!」
ツッコんだ
これ以上は、管なり
別に勝負してた
しかし、それによって、話題が
それなら、さっさと合流すれば
どうやら、空気が悪くなっているのを、引き摺っている
しょうがないなぁと、
また矛盾してる、と自覚しながら。
「幸か不幸か、まだ時間は
最近、ゆっくりした時間は取れませんでしたし。
皆さんには、私から連絡を済ませときましたので」
「
てか、平気?
あと、
「『司令が、カビゴ◯も格やといった熟睡っ
「もうそれ一生、不眠で隔離されなきゃいけない人種じゃん!!」
「心配には及びません。
ここまで荒唐無稽なら、
「いいや、信じるね!
あの二人なら、
「……
しかも、私じゃないし」
「えー?
私これでも、
「
言わされた感ヤバいですし。
どうせなら、二目置いてくださいよ。
それはそうと」
じゃれるのに飽きた
「まだ、付けてたんですね。
ホンノウン攻略ノート。
今後の方針は、もうほぼ決まったも同然なのに」
「あー、うん。
相手が相手だし、
こうでもしないと、落ち着かないんだ。
少しでも、効率と勝率を上げなきゃだからさ。
大仰でも
それに
けれど、それだけ。
だから、
今の自分には、「分かる」だなんて、軽々しくは寄り添えない。
そんな、傷の舐め合いみたいな、軽いだけの存在にはなりたくない。
彼女の背負っている重責を熟知している以上。
けど、大人になった
「そんなだから、気絶しちゃうんですよ。
去年、私が
「うっ……」
当時を思い出し、バツが悪くなる
一方、彼女の鼻をちょこんと
「……それ引き合いに出すのは、
「
司令に落ち度さえ
「はーい……」
……まるで分かってないな、この女。
そう思いつつも表情には出さず、
と、今度は
「それ言ったら、
「私が、ですか?」
「そうだよ。
リペもそうだし、
「
他に首尾よく回せそうな適任、適合者が
「またまたぁ。
そうは言いつつ、ちやほやされるの、満更でもないんじゃないのぉ?」
……人の気も知らずに、あっけらかんとまぁ、好き放題、言ってくれおってからに。
「あはは。
何言ってるんですか。
そんな
あれも、業務の一環です。
立派なお仕事ですよ、し・ご・と」
「嫌いじゃない
「うるさいなぁ、ブチ◯しますよ」
「だよねぇ。
……ん、今、
「冗談ですよ」
てのが冗談だけど。
「待って!?
今サラッと、恐ろしい
「さーて、ぼちぼち行きましょうかー」
「
もう言わないから、あんまり茶化し
お願い、許して、このとーり!!」
こういうのに弱いのを知って、下手に出て来るのだから、
「もう
それより、そろそろ」
「なら、良かった。
そうだね、行こっか」
機嫌を直した
彼女に押され、
そうして、二人で起立し、
「……司令」
反応し、
「……心配ご無用です。
司令には、私が付いてますから。
司令が、どれだけ忘れっぽくても、お寝坊さんでも構いません。
私が、
思い出させるのも、起こして差し上げるのも、私が引き受けます。
私が必ず、何度だって、呼び起こしてみせます。
だから、ご安心ください。
司令は、今の司令のまま、突き進んでください」
活でも入れたかったのだろうか。
「ありがと。
「お任せを。
ただ、その代わりといっては
私からの提案を、無条件で呑んで
「提案?
どんな?」
「『手段は
それだけ、確約してください」
「はぁ」
しっくり来てなさそうな面持ちで暫し考え、
「分かった。
命に関わらなければ、
「……
てっきり、もっと長考なさるかと」
「
「まぁ、そうですけど。
分かられてるみたいで、ちょっと面白くないです。
それはそうとして、司令。
了承した以上、引っ込みはつきませんよ?
策なら、もう
「策?」
「『
「……つまり?」
「『ぶん殴る』」
「ドラえも◯、ダメ
「おや?
店長とも
「内容までは伏せてたじゃん!!
無効だ、無効!」
「
ちゃんと契約してなかった
「冗談だよね!?
ねぇ!?」
「さぁて。
どうでしょうね」
「
勘弁してよぉ〜……」
……分身みたいな物とはいえ、自分は
それに、勘弁して
一体、自分はいつまで、こんな嫌われ役を買わされなくてはならないのか。
全部、目の前の女の、自己犠牲精神が旺盛
こっちだって、心身共にノーダメではないし、四六時中も庇い切れるとは限らないのに。
まぁ。
とか
明日も、明後日も、その先も。
未来永劫、
「しっかしなぁ。
やっぱ妙案、
なんてーか、こう……もうちょっと盤石を期したいってーか……」
「
私としては、これだけのトラップを司令が、たった一人で講じられたという事実の方が、妙ですけどね」
「
クールでさえいれば、そこそこ閃けるのよ!
今は、エイトだって
「……私と二人っきりで
「
てか、エイトは相棒だし、
「まぁ、そうですけど。
私の恋人は、あくまでもホビーとカラーだけなので。
残念ながら司令は、そういう対象としては見られません、悪しからず」
「ねぇ
歩を進めつつ、談笑する二人。
片時だけとはいえ、特等席を独り占めし、得も言われぬ
ふと、横に並ぶ
そして、目を爛々と輝かせる。
また例の、いつもの奴だ、と。
「そうだ!
いっその
そこまで言った
そのまま、麻酔銃でも撃たれた
そのまま座り、膝に寝かせ。
眠らされた
思った通り、恨み深きデバイスは、
しかも、脈絡が
つまり最早、
それも、今度は
この件で、断トツで割りを食っている、彼女の眼前で。
「
そりゃあ色々、アレだけどさぁ……。
こんな
これでも、私さぁ……。
大して、強くないんだよ……。
リペと同じだよ……。
ただ、隠すのと直すのと組み合わせるのに長けてるだけ……。
割と、メンブレし
何十年も
言う程、器用ってんでもないんだよ……?
私だって、一人の人間……。
人の話に少しも耳を傾けない、筋金入りエゴイスト。
しょうもない、どうしようもない、
私みたいなサブ・ヒロイン枠には、決まって振り向かないハーレムの主。
運命なんてガンスルーして、ひたすら自分の為だけに生きれば
そしたら、こんな思い、しなくて済んだのに。
こんな、辛くて、悲しくて、寂しくて、やり切れなくて、割り切れなくて、申し訳
「お願いだからさぁ……。
これ以上、わがまま、言わないからさぁ……。
他は全部、黙ってて、
早く、自由になってよ……。
こんな戦い、とっとと終わらせてよ……。
責任取って、こんな私を、助けてよぉ……」
声を殺し、心を殺し、思いっ切り泣いた。
そして、数分経った頃。
こういう時だけは、自分のアレな精神面に、素直に感謝してやりたくなる。
「……
私、本気だから。
記憶を取り戻す
私が、強火に言って聞かせてやらなきゃってなった時は、必ず。
流れや印象だけじゃなく、有志で立候補する。
他の
ロジハラだろうと、江頭2:5◯だろうと、関係
私だけは
それが、私のロール、私のジョブだから。
どうせ切られまではしないって、知ってるから。
だから、せめて」
姉を通り越し母になった心持ちで、静かに涙しながら、
「今だけは。
どうか今だけは、ゆっくり休んで。
目覚めるまで、私が
起きてからも、上手い
万が一、また
私だけは
傍観者じゃなく、有事には助太刀に入る仲間として。
今度こそ、必ず」
※
数分後。
目覚めた
「さて。
それに差し当たって、これから大事な用が
当初の目算では、店長の
と思ってたんだけどさ。
ちょーっと、そうも言ってられなくなっちってさぁ。
「クオリティを意識した結果、本来の
恨むなら
「最初から二人構成の台本用意しといて、それはキツくない?
リオ
「……何言ってるの?
「え、
……そうだったっけ?
……ごめん。
全然、記憶に
「あー、いや、違うのよ、ボス。
いや、でも、違わなくもないというか、あー……」
少し言い淀んだ後、髪を掻き分け腕を組み、いつも通りになる
同時に、「分かってますよね?」と言わんばかりに横から
といっても理由は、
「失礼。
その方が盛り上がる、インパクトが
それに、何より。
騒いで、困らされて、ツッコんでツッコまれてなんぼ。
そもそも、そういう人種でしょ?
「……」
「言ってくれるねぇ。
間違っちゃいないのが悔しいけど」
「撮影を受け持つ
それに、新鮮かつ素直なガヤが
加えて、本人は生粋の初見好き。
この辺は
そんなこんなで、彼女にはツッコミ、聞き込みに徹して
「うん。
それについては、もう
で、そろそろ本題に入ろっか。
問題は、『誰が
「本番数分前に、それが議題に挙がる方が問題よね。
これ以上、
それに、進行確認もしなきゃだし」
「……槍玉に挙げられそうな
リオ
確かに、それが問題だった。
といった具合に、それぞれ異なる意味でメディア向けではない。
視界のお姉さんモードの
そもそも、
かといって、出会って日も浅い新メンバー
となれば、残る候補は二人に絞られる。
万人受けかつ万人向け、臨機応変な安牌ベテラン、オカミさんか。
どちらに頼むべきか
ひょっとして、
が、その希望は儚く潰された。
オカミさんの、
「実は、昨日の時点で
私としても、協力を惜しみたくないが」
と、オカミさんが話していると、不意に何者かが、彼女の足にしがみついた。
スタッフ特権により、開業前に特別に遊びに来、今は休憩室で待機中だった
確か、
どうやら、こうなる
「
いつの間に!?
すみません、
が、オカミさんが目で制し、
「バーバ、ニーナのー!
「とまぁ。
昨日、
ここで働く分には我慢
すまんが、堪忍しておくれよ、
この子は、私の宝。
やっと与えて
「ニーナのじゃないバーバ、やーなのぉ!」
「大丈夫だよ、
バーバは、
安心おし。
ね? だから、泣かないでおくれ?
ぐずっていた
一同、沈黙。
純朴な少女の、こんな健気な所を見せられてまで無理を押し通せる胆力は、この場の誰も持ち合わせていなかった。
「いえ。
こっちこそ、無茶を言おうとして、すみませんでした。
大事なオ……すみません、今だけ許してください。
バーバを、奪おうとして。
オカミさんに近付き、非を詫びる
飾らない気持ちが伝わったらしく、埋めていた顔を戻し、
「……ううん。
ニーナも、ごめんなさい。
おしごとの、おじゃま……」
「ぜーんぜん。
これ
平気、平気。
その方が、オ……すみません、やっぱりもう一度だけ、勘弁してください。
その方が、バーバもきっと、喜んでくれるよ」
「ああ。
それから、店長。一々、許可を取らんで
悪意も他意も
だからといって、連呼されるのは、面白くないけどねぇ」
「以後、気を付けます、程々にします、なるべく
「
ところで、店長。
もう一つ、頼みが
このまま、
この子もだが、私も少々、離れ
「ええ、
あと、
それなら、退屈も窮屈もしないでしょうし。
てか、最初から、そうすべきでしたね」
「恩に着るよ。
じゃあ、行こうか、
「おうちー?」
「それは、もう少し我慢してくれるかい?」
「ニーナ……がんばるっ!」
「
ありがとねぇ、
じゃあ、ご褒美をあげないとねぇ。
という
「シィナに、お任せぇ。
ニィナちゃん、やーい。
シィナ、
あまぁい、あまぁい、お菓子を、どぉぞぉ」
「わーい!
おねーちゃん、ありがとー!」
「どぉいたましてぇ。
こちらこそ、ごちそぉさまぁ」
「ほんじゃ
こうして一段落し。
「となると、まぁ。
残るは、私だけですね」
結果、
「必然ですよね。
アドリブ利く、軌道修正も可能、話も合わせられる、空気を読む、華も有る。
そりゃ、私が打って付けですよね」
「そういう
頼んだわよ、
「……台本の時点で、明らかに私寄りの口調、キャラ付けにしといて、よくもまぁ、いけしゃあしゃあと。
最初っから、オカミさんに断られる想定だった
てか私、ケーちゃんと司令、
ケルってる時以外は」
「あんたの偽装工作なんて、1年前からお見通しよ。
それに、
シナリオ、進行を任された以上、省エネなんて、
「
まぁ、本性バレしようと、外野は変わらないみたいですが。
正直、ちょっと興醒めだし、微妙です。
もっと、驚いたり蔑んだり、ハブにしたり。
みたいな、ドロドロ展開も期待していたんですけどね。
まぁ、されたらされたで、袖にしますけど」
「
全員、そこまで柔ちゃうわ」
「ですね。
本当は、このまま皆さんの困り顔を拝ませて頂きたいんですが。
ま……
今回は、これ
私にまで恥を掻かせないでくださいよ、司令」
「うん。
互いに憎まれ口を叩きつつも、硬い握手を交わす二人。
こうして、やっと役者は揃った。
「それじゃあ、司令。
景気付けかつ見返りとして、一言お願いします」
反撃とばかりに、無茶振りする
んにゃろぉ、と思いつつ、
「知っての通り。
だから、こういう時、どんな言葉で締めれば
まぁ
「さぞかし
「エイトお前、後で校舎裏な」
「分かった。
どこの?」
「
その場に居合わせなかった
自虐で空気を緩和し、
「とまぁ、そんな
その上で、今の
全員、心して乗っかるように。
仮にスベっても、賑やかせる
「わー、楽しみー。
一体どんな至高の極寒ギャグを披露してくれるんでしょうねー」
「
「わー。
暴行沙汰で炎上して経営不振、人間不信になって立ち行かなくなって私に一生、隷属されれば
「決めた。
たった今から、ここが店舗裏だ、ゴラァ!!」
「来いよぉ!!
ほら、来いよぉ、どうしたぁ!!
もっと熱くなろうぜ!!」
「やったらぁ!!」
暴論を振り翳し、暴力を振るわんとする
キャラ崩壊してまで誘う
砂糖仕立ての少女の祈りみたいな茶番を展開しつつ、スタッフ達に止められ、軽く折檻される二人。
咳払いし、再び気を取り直し、
「こん中に
いねぇよなぁ!?
サァクシャス、潰すぞぉ!!」
店長としても、女性としても、元ネタ的にも、色々とスレスレな振り。
しかし、
これを受け、大なり小なり呆れつつ、全員が手を上げ、同調する。
「1時間後が、決戦だ!
オカミさんと
エイト、ケー、リオ様は、裏方!
そして最後に、
以上!! 各自、行動開始!」
『おう!!』
そして、1時間後。
数分後、
「ところで、店長。
その、『サクシャス』ってのは、
「……あ」
団長も含め、まだ説明責任を果たしていなかった面々に、事情を話してから。
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